OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第29話

中央暦1639年 7月27日

-ロウリア王国 北の港・日防軍臨時司令部-

 

 天気は快晴。昼を過ぎたころ。日本が占拠している旧ロウリア海軍司令部に日本。クワ・トイネ。ロウリアの交渉団が集結した。

 辺り一帯には、厳粛な空気が漂っていた。

 

 旧海軍司令部の会議室には日本側から参謀部の真部少将。外務省の河上特使。内閣から杉林特命大臣が参加。クワ・トイネからは外務卿の部下であるファルマン男爵。公国軍リトフ将軍が参加した。

 ロウリア側からは、前会談における代表であるスマーク将軍が今回も全権特使代表として参加している。

 

 部屋の机を挟む形で座っており、各々緊張した面持ちで開始の合図を待っていた。

 

「それでは、クワ・トイネ‐ロウリア戦争の講和会談を開始します。まずはクワ・トイネ側からお願いします」

「ご指名していただきありがとうございます。まずクワ・トイネとしては、ロウリア王国に次の事を要求します。第1に我が国領土からの総撤兵。第2に我が国に与えた損害賠償。第3に軍備制限。第4に捕虜の返還。第5にロウリア王国における人間以外の人権保障を要求する」

 

 ファルマンが席に着くと、変わってスマークが立ち上がって口を開いた。

 

「我が国はクワ・トイネの要求に対し、全ての要求を検討する用意がある」

 

 スマークが席に座ると、クワ・トイネ側から各条件のより詳細が読み上げられ、終わるとロウリア側が応答した。長い長い交渉が始まったのである。

 室内では3ヶ国の交渉団がそれぞれ話し合っている。それと同時に、会議室から離れた部屋では多くの記録・通信機器が稼働していた。この部屋では交渉のやり取りが内閣に直接中継される形で記録されていた。

 記録室では作業に勤しむ日防軍将兵の姿があった。

 

「始まりましたな」

「ああ」

 

 部屋の主である連隊長は記録されていく交渉内容を眺めつつ、コーヒーを片手に部下たちの仕事を監督していく。

 

 

 会談が開かれてから1時間。会議室ではクワ・トイネとロウリアの舌戦が繰り広げられていた。

 

「ーーであるから、既にクワ・トイネ公国の領土に我が軍は一兵もいません」

「しかし、国境付近ではロウリア軍と思われる騎兵が活動しているようですが?」

「休戦協定において自国領内における活動は制限しておりません。あくまで国境警備の一環です」

「……いいでしょう。ただ、我が国の国防と貴国の誠意ある証明として、軍備の制限はさせていただきます」

「……いいでしょう。ただし、我が国にも国防の義務があります。一定の戦力保持は保証していただきたい」

 

 ロウリア側とクワ・トイネ側の会話に河上は危機感を覚えていた。

 

(判っていたことだが、交渉は順調とは言えないか……)

 

 クワ・トイネはロウリアに対し、受けた損害賠償と将来的な侵攻防止が目的だ。現実として単に賠償だけで講和しても、元の国力を削がない限り、将来再軍備されても対応できないのだ。

 現在日本と軍事同盟を締結しているので、それを背景に要求を押し通す考えだ。

 対して、ロウリアの目的は日本の軍事行動を抑えつつ、可能ならクワ・トイネの要求を可能な限り跳ね除けることだ。しかし、侵攻を始めたのはロウリアであり、日本はその点でクワ・トイネ側を全面的に擁護している。下手な発言は最悪日本の軍事介入を招く危険があり、交渉団はクワ・トイネより日本の顔色を伺いながら交渉することとなった。

 最後に、日本の意思としてはこの戦争が早期終結するよう調整する事だ。純粋な軍事面では、寡兵ですらロウリア程度なら十分返り討ちにできる。しかし、戦闘力の源泉たる銃砲弾の消費は無視できる範疇を超えていた。

 クイラから多くの資源を輸入しているとはいえ、前線が望む補給量に対して国内の生産量はまだ追いついていない。少なく見積もって、数年は供給不足の見通しなのだ。つまり、日本にとって最悪のシナリオは戦争が惰性的に継続され、散発的な戦闘が重なり補給が追い付かなくなることだ。

 優れた戦力を持っているからこそ、しっかりした補給がなされないと戦闘力が維持できないのだ。

 既に市ヶ谷の日本国防軍統合軍参謀部では軍縮染みた軍備再編計画が進んでいるのだ。

 改めて、日本はクワ・トイネとロウリアの言葉にはならない両国の心意を見極めようと考えていた。

 

「ーーロウリアは我が国のギム及び周辺村落において破壊及び略奪行為を多数行いました。我が国との和解のために復興と遺族に対する賠償金を払う義務がある」

「……判りました。ロウリア王国はクワ・トイネに賠償金を支払います」

「わかりました。まず額の方ですがーー」

「失礼ですが、確かに我が国は貴国へと侵攻し、軍は乱暴狼藉を働きました。しかし、我が軍と日本が戦ったことによって生じた被害もあるのではないのですか? 日本軍の攻撃は大魔導師ですら足下に及ばないほどの攻撃を繰り出したと生き残った兵士から聞いておりますが?」

「つまり、我が国が提示する賠償に不服があるということですかな?」

「そうは言っておりません。ただ、日本が壊したものまで我が国に請求されては困るという話です」

「詭弁ですな。そもそもロウリアが我が国に侵略しなければ無駄に兵士を失うことも我が国の国民に被害が及ぶこともなかったのですっ!!」

「それは理解します。しかし、日本は盛大に我が軍を吹き飛ばしたのも事実なのですが?」

 

 ロウリア側の言葉に仲嶋が反応した。

 

「ロウリア側は、侵略の責を負う気がないのですかな?」

「いえ、そんなことは露ほども思っておりません。正確な額であればしっかり払うことを約束いたしましょう」

「……それならよいのですが……」

 

 仲嶋は交渉が停滞したと判断して、休憩を挟む提案をした。

 

「少し煮詰まってきたようですし、ここは30分ほど休憩しましょう」

「そうですな。このままでは無駄な口論が続くだけです」

「同感です。この場は憎悪をぶつける場ではなく、より有意義なモノにしないといけませんからな」

 

 両国は一度会談を切り上げると、ロウリア王国交渉団は用意された別室へと向かった。

 

 ロウリア側の退室を確認すると、仲嶋はファルマンに話しかけた。

 

「どうですか? 手応えの方は」

「正直痛し痒しですな。彼の国が見ているのは我が国ではなく貴国ですから」

「やはり、我が国がより前面に出て交渉した方がよいのではないですか?」

「合理的に見ればそうですが、流石に(いくさ)から交渉全てを任せるわけにはいきません。我が国の沽券に関わります」

「沽券ですか……。今後もサポートしますが、交渉が決裂しそうなら躊躇なく介入します」

「よろしくお願いします」

 

 別室ではロウリアの交渉団は頭を抱えていた。

 

「ーーやはり、日本の存在は脅威です」

「そう言うな。日本がいるからこそこの会談があるのだ」

「将軍。それは理解しますが、クワ・トイネの要求を跳ね除けるような交渉材料がありません」

「それに、陛下から“可能な限り要求を押し下げよ”という命もあります。このままでは降伏も同然です。」

「……」

 

 スマークはクワ・トイネより、ニホンの顔色を考えた。

 交戦したいくつかの記録を見るに、本気を出せばジン・ハークを墜とす事も容易いではないかとスマークは結論付けていた。

 その割りに、戦争自体に前向きではないような動きが腑に落ちなかった。

 

「ニホンは戦争を辞めたがっているのか?」

 

 スマークの読みは日本の動きのある種核心といえるものだった。

 ロウリアにおいて経済に疎い者の間では“富とは奪い取るものであり、そして強者である”という考えが存在する。故にハーク王は開戦に踏み切ったのだ。しかし、これを日本の視点で見たら野蛮人の発想でしかない。

 日本ではOCU加盟後、国家共同体の大黒柱として技術や健軍に勤しんだが、かといって日本という国家が戦争を選ぶことは極力回避するよう努めていたのだ。

 第1次。第2次ハフマン紛争を経てUSNとは冷戦状態に陥ったが、元々の関係から外交筋による緊張緩和に務めている。

 また、経済産業上の観点でも必要でない限り戦争は好ましい選択ではなかった。

 2090年代において、日防軍を維持するための予算は国家予算の10%に相当する費用なのだ。そこへさらに別枠でOCU国防軍向けの予算もあるため、財務省は常に防衛省の散財に陰口を吐いていたのだ。

 さらに最悪なのは、日本が異世界に転移してしまったことだ。

 日本という国を崩壊させないため、たった7か月だが財政出動や国債発行はかなりの額にまで膨らんでいる。

 現状でも足りないのに、戦時国債まで発行してしまっては日本の財政が破綻してしまうのだ。

 そういうこともあり、日本の政財界は戦争の早期終戦を望んでいるのだ。

 

 日本の国内事情を知らないスマークではあったが、打開策自体は思いついた。

 

「団員諸君。クワ・トイネとニホンの要求を丸飲みするのは敗北を意味する。しかし、我々が強硬な態度を続ければニホンは間違いなく我が国を降すために行動を始めるだろう」

「それは、我が国の敗北どころか亡国となってしまいますっ!!」

「そうだ。よって、交渉は逆に合意しないよう立ち回る」

「それはどういうことでしょうか?」

「単純だ。クワ・トイネの要求には応える用意があると言いつつ、詳細が不明なので合意できないと繰り返すのだ」

「時間稼ぎですか? ニホンが黙っていないと思うのですが……」

「ニホンが交渉の前面に出てきたときはこう伝えるのだ。“条件を陛下に伝えるために停戦の延長を希望する”と」

「それも時間稼ぎの詭弁と言われる可能性はありませんか?」

「少なくとも今回の停戦が切れることだけは回避できる。そうなったら次の会談までに時間ができる」

「……」

 

 スマークの言葉に他の交渉団員は反論できず黙りこくった。

 

 そうこうしているうちに、交渉団は再度会談を再開するために会議室へと戻った。

 

 交渉が再開され、結果的にロウリア側を利する形で終了してしまった。

 クワ・トイネ側が交渉決裂をチラつかせると、日本側が仲裁に入り、スマークの読み通り停戦延長を提案。両国は1か月後に再度会談することとなり、第1回講和会談は終了した。




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