OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第31話

中央暦1639年 9月2日

-フェン王国 首都アマノキ-

 

 日本から見て西に勾玉のような形の島が2つある。その内西側に位置しているのがフェン王国である。

 

 フェン王国の首都アマノキの港に、巨大な船が投錨していた。

 

「大きい船だねぇ~」

「東から来ただって? あの荒れた海を進むとはすげぇな」

 

 市内を移動する日本使節団は多くのフェン国民の注目の的となっていた。

 

 日本はロウリアとの戦争が停戦している最中。内閣は外務省に新たな任務を与えた。

 ロデニウス大陸及びフィルアデス大陸(パーパルディア皇国)以外での国交締結交渉だ。

 そして、真っ先に向かった先は日本から比較的に近いガハラ神国とフェン王国だった。

 まずガハラ神国に向かい国交締結に赴いた日本だったが、その流れは他の国に比べとてつもない早さで進められた。

 日本使節団はガハラ側に軽く質問すると“巫女の予言に従っただけにございます”という風に返されてしまった。

 使節団側も流石に予言だけでことが進むとは思えなかったので、暗に『国交がある国で日本のことを調べ、組めば有益になる』という風に考えたのだろうと解釈した。

 使節団は繰り上げられた予定とガハラ神国の仲介でフェン王国へと向かい。そのまま国交締結の交渉へ入る運びとなった。

 フェン王国民からすれば、日本の異国情緒な佇まいは好奇心を刺激した。さらに、既に話を通していた在フェン王国ガハラ神国大使である神官(在外大使)が付き添うという破格の対応も驚愕していた。

 そんなフェン王国民の意識など知らず、使節団の梅谷たちは天ノ樹城へと歩を進めた。

 

「……まるで時代劇に放り込まれたような気分です」

「ははは。200年前はこの光景が普通だったんだから、文明の進歩ってのは恐ろしいな」

 

 案内される日本使節団も、テレビでしか見た事がないような風情を残しているフェン王国の生きている街の姿に懐かしさと新鮮さを感じていた。

 

「ニホンの皆様。こちらが我が剣王陛下の居城である天ノ樹城であります」

 

 使節団の面々は、まるで日本の城郭を思わせる『天ノ樹城』に到着した。

 交渉団は謁見の間(一の間風)に案内されると、上座に『剣王シハン』が腰を下ろした。

 シン…と静まり返った部屋で、シハンはゆっくり口を開いた。

 

「そなたたちが、日本国の使者か」

 

 梅谷は特に武道の心得はなかったが、シハンが発する独特の凄み……昔流行っていた海賊漫画(ワ〇ピース)に出てくる『覇気』のようなものを感じていた。

 

「お初にお目にかかります。私。日本国外務省に努める梅谷と申します。本日は貴国と我が国との国交締結のために訪れた次第です」

「ふむ……失礼ながら、私を含め我が国の殆どは貴国のことをよくわからないでいる」

「お察しいたします」

「そこでなのだが、近々我が国で『軍祭』が執り行われる。可能なら貴国の軍にも参加していただきたいのだが、どうだろうか?」

「それは、我が国が貴国に見合う軍事力を見たいということでしょうか?」

「それもあるが、我が国は魔導に明るくないゆえ、国民には剣や弓の教練を始め、『武』を極めることを重んじておる」

「……不躾な物言いで申し訳ありませんが、我が国には『ペン()は剣より強し』という言葉があります」

「……『ペンは剣より強し』……どのような意図で言われた言葉かは問わぬが、筆も剣も道具の一つでしかない。正しい使い方をすれば、誠多くの人々に幸をもたらすであろうが、悪意ある者が使えば不幸な者を生み出すだろうと思う。違うかね?」

「これは失礼いたしました。確かに陛下の言う通りです」

「よいよい。その程度のことなど失礼だとは思わんよ。それで、貴国は軍祭に来てくれるのかね?」

「確約はできませんが、派遣できるよう上申してみましょう」

「うむ。良い返事を期待しておるぞ。梅谷殿♪」

 

 梅谷達は『天ノ樹城』からカーフェリーに戻ると、内閣に事の次第を報告した。

 枢木は報告を読んだ直後、軍にフェン王国への派遣を命じた。

 

 

中央暦1639年 9月8日

-クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ-

 

 公都(首都)クワ・トイネの北西。そこにはクワ・トイネでは一般的なレンガ造りの建物ではなく、薄灰色の建造物が佇んでいた。

 

「いや~やっとできましたね」

「需要はあっても、トラックだけだと輸送効率が悪いからな」

「軍への輸送効率も少しは改善できる。停戦は維持されているが、講和はまだまだ先だからな」

 

 『クワ・トイネシティ中央駅』。それがこの建物の名称だ。

 この建物は日本がクワ・トイネに対して行ったインフラ整備計画の一つである鉄道路線敷設計画に基づいたものだ。

 現段階でマイハークからクワ・トイネの間だけだが、他の主要都市。沿岸線も既に敷設を開始している。

 両都市間の線路自体は既に完了していたものの、ほぼほぼ貨物専用駅と化していたのだ。

 そこで、より多くのクワ・トイネの人々に鉄道に対する恩恵を与えるため、旅客目的の駅舎を建設したのである。

 ターミナルでは始発列車が待機しており、記念式典に参列する政財界の要人が駅構内で談笑に浸っていた。

 

「はぁ~。これが日本から送られてきた鉄道というものですか。トラックとやらも馬車に比べて大きかったですが、こいつはそれよりかなり大きさですなぁ」

 

 始発列車の最初の乗客として招待されたクワ・トイネ市長は驚きの声を上げていた。その横には、路線敷設計画の日本人が市長に応対していた。

 

「今回用意させていただいた車両は電気式ディーゼルで動く独立起動型列車となります」

「すまないが、ディーゼルとは何かね?」

「ディーゼルとは内燃機関の一種であり、比較的低速でも燃費が良く牽引力を発揮できる機関です」

「うぅむ。君の言っていることの半分もわからないが、荷馬車何台分の荷物をこの列車で運べのかね?」

「この編成は旅客用ですので、大規模な荷物輸送はできません。しかし、この列車でなら一度に最大で700人の人を運ぶことができます」

「700人っ!? 公都には多くの馬車が出入りするが、!? それなのにこの列車というのは一度にそれだけ運搬できるのか!?」

「そうです。現在4編成分の準備が完了しているので、1日で数万人の人々をマイハークとクワ・トイネに運ぶことができます」

「ほほぅ。ということは、日本ではこの鉄道が主流なのかね?」

「いえ、我が国では多くの国民が自動車を有しているので、一概に鉄道輸送が主流ということはありません」

「確かに私に寄贈された“ジドウシャ”は今まで使っていた馬車に比べて早いし乗り心地も良かった」

「それはうれしい話です」

「ただまぁ。“ガソリン”とやらが少し高くてなぁ。ニホンでもあれだけ高いのかね?」

「価格差はあっても高くはありません。何分我が国では需要もさることながら、それを精製。供給する態勢が整っていますので、適正価格で販売されています」

「そうだな。今まで馬の餌代で済んでいたことが“ガソリン”なるもので従者が溜息をついておったよ。ただ、あの乗り心地を経験してしまっては馬車に戻れないがね」

「貨物便が増えれば、もう少しガソリン価格は落ち着くかと思われます」

「そうだといいのだがなぁ」

 

≪本日はクワ・トイネシティ中央駅開館記念にご来訪していただき誠にありがとうございます。ご乗車の皆様にお伝えします。本日1300発。『ハルイブキ』出発まで10分を切りました。ご乗車される際、お忘れ物の無いようお願いいたします≫

 

「おおっと! そろそろそんな時間だったか、では兼近君。よろしく頼むよ♪」

「わかりました。ご案内いたします」

 

 市長は秘書と共に兼近の案内で客車へと入っていった。

 

 時間になると甲高い笛の音が駅構内に響き、記念列車の『ハルイブキ』はゆっくりと加速し始めた。

 クワ・トイネは、日本の手によって更なる近代化の恩恵を受けることとなった。

 

 

中央暦1639年 9月15日

-クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ-

 

「ーー兵器購入ですか?」

「端的に言うと、そうなります」

 

 午前の執務を終えた仲嶋は、気晴らしに外のレストランで部下1人と共に昼食を取っていた。

 ロウリアとの戦争は停戦状態だが、開戦前後に比べて市井は落ち着きを取り戻していた。

 そんな中、食後のコーヒーを楽しんでいた仲嶋に外務卿と軍務郷の名代が揃って訪れたのである。

 

「現状ロウリアは停戦を堅守しています。それに我が軍も国境沿いの町に駐留しています。現状でも戦力という点で十分だと思うのですが……」

「確かに現状はそうですが、かといって国防を貴国に依存しすぎるのはよろしくないという意見が出ております。それに、講和が成立した後、短期的にはまだしも長期的に見た場合。また軍備を整えて侵攻してくる可能性があるのです」

「参謀官の言う通りです。昔から我が国とロウリアは種族上の問題で度々紛争が起きています。それに備えるという点でも必要な措置なのです」

「ご理解は致しますが、ここでは何ですので大使館の方に席を移しましょう」

 

 仲嶋は手早く代金を店員に支払うと、3人を引き連れて大使館へと戻った。

 

「お疲れ様です仲嶋大使。そちらのお二人はクワ・トイネの方ですか?」

「そうだ。申し訳ないが、松倉中佐を応接室に呼んでくれないか?」

「わかりました。手配します」

 

 4人は応接室に入ると、事務員が5人分のお茶をテーブルに配膳した。

 配膳が終わる瞬間。大使館付武官である松倉が部屋に入ってきた。

 

「どうも仲嶋大使。急な要件だとお伺いしたのですが? そちらはクワ・トイネの方々のようですね?」

「ええそうです」

「これは失礼しました。大使館付武官を拝命しております。松倉良二と申します。以後お見知りおきを」

「お初にお目にかかります。私は外務局のアシュレイ・カッター。彼は軍務局のギン・ランドレイです」

「今後ともよろしくお願いします」

 

 松倉が仲嶋の横に座ると、カッターが話を始めた。

 

「実は、政治部会にて貴国の兵器が購入できないか伺いたいという話が出まして……」

「ほぅ。我が国の兵器ですか?」

「はい。元々我々とロウリアは歴史的に幾度となく紛争をしています。しかし、これまでは今回ほど兵力差がなかったので撃退できていましたが、今後同様なことが起きないと楽観するのは危険と判断したのです」

「確かに、我が国の装備を貴国に導入できれば、数倍のロウリア軍相手でも返り討ちにすることは容易になります」

「それに、国防を支援してもらうなら兎も角。依存するのは独立国として如何なものかという話も一部の議員から出たのです」

「そうですね。仮に立場が逆でも、その議員と似たような意見は我が国でも出てくるでしょう」

「では、我が国に貴国の兵器を導入することはできるということでしょうか?」

「正直何とも言えません」

 

 仲嶋は歯切れの悪い回答をカッターに返した。

 

「それは何故ですか?」

「そうですね。まず我が国が兵器輸出をする相手は国家共同体か国防上のリスクが極めて低い相手に限って兵器の輸出を許可しています」

「我が国に貴国の兵器を導入すると、貴国の国防上のリスクを増やす可能性があるということですか?」

「もちろんすぐに影響が出ることは稀です。しかし、我々が元居た世界では、かつて支援していた相手国が時間と共に関係性の悪化によって兵器類が闇市に流れるということが度々発生しております。最悪なのは、兵器類が犯罪集団に流れ、我が国や他の国々において無関係な市民に向けられることも十分にあり得るのです。我々は常にそうならない相手にしか兵器の導入を勧めておりません」

「その言い分ですと、貴国は兵器に関して我が国の管理を杜撰という風に認識しておられるということですか?」

「島国である我が国でも少なからず流出は発生しております。貴国の管理体制が杜撰かどうかは別として、最低でも国境と港湾の税関による監視体制は強化して頂く必要があります」

「……それらを実施し、成果が出るまで貴国の兵器を導入できないということですか……」

「確かに我が軍と同じものであればそうでしょう。しかし、悲観することはありません」

「はぁ。松倉中佐。言っている意味がよく分からないのですが……」

「先ほども申した通り。我が国と“同じ性能の兵器を導入”するとなれば必要な準備は膨大なものになります。しかし、その点別の案を内閣が提案しています」

「……詳しく聞かせていただいても?」

「わかりました。じつは停戦が決まった少し後から、“クワ・トイネ公国軍防衛力研究報告”というレポートが提出されました」

「研究報告ですか?」

「主な内容ですが、講和成立後のロウリア王国の動き。クワ・トイネとロウリアの国力比較。クワ・トイネに必要な我が軍の常駐戦力に関してです」

「どのような研究結果となったのですか?」

「申し訳ありません。わたしも詳しい詳細については存じませんので……」

「では、その研究結果を見せていただくことはできますか?」

「手元にはありませんが、本国の方に提供できるよう手配しましょう」

「ありがとうございます」

 

 カッターとランドレイは礼を言うと、大使館を後にした。

 2人はそれを見送ると仲嶋の執務室に戻った。

 

「ーー中佐の言う研究結果について、私は存じていないのですが……」

「その研究結果は防衛省と経済産業省のみが関わったものです。外務省が知らないのも仕方ありません」

「それで、内容の方は?」

「簡潔に申し上げると、“1個師団以上をクワ・トイネに常駐させることで状況が安定する”という結果となっています」

「……それの何が問題になるのですか?」

「……現状我が国の経済状態は未だ下降気味です。そのため国防予算を圧縮するために内閣から軍縮の指示が下りました。そうなるともっとも影響を受けやすいのは人員の多い陸軍です。転移前で14万もの常備戦力があったのに、転移で2万人を超える戦力(重装備含む)を損失しているのです。全ての師団は1個連隊規模が欠となっている状態なのに、クワ・トイネに1個師団以上を常駐させるては大規模災害が起きた場合対応が困難になる可能性があると統合軍参謀部は試算しています」

「軍の見解は理解しました。しかし、クワ・トイネは我が国にとって食料の最大輸入国です。見捨てるという選択はできません」

「外務省の意見は理解しております。よって、内閣は軍の常駐とは別にクワ・トイネに対する装備提供による軍備増強を検討しています」

「それなら、直ぐにでも保管予定の装備を無償提供しても問題ないのではないですか?」

「確かに最初は軍として問題ないだろうという見解でしたが、クワ・トイネの軍備体制を再精査した結果。かなり早い段階で提供した装備がスクラップになるか、横流しされる可能性が高いという予測結果が出ました」

「それは流石にクワ・トイネを馬鹿にし過ぎではないですか?」

「いえ、現実としてクワ・トイネの市民意識とは別に根幹の技術力は魔法を別として地球基準における1400年代程度と見積もられています。いきなり21世紀の装備を提供しても、運用できる下地を造る前に提供した装備の殆どが鉄屑同然のものに変わります」

「戦力の派遣は難しいし、かといって装備を提供しても宝の持ち腐れというわけか」

「仕方ありません」

「ーー何にしても、クワ・トイネからそういう要請(兵器輸入)があったことを報告しないと……」

 

 2人はクワ・トイネと日本の現状に憂鬱を感じながらそれぞれの執務室へと戻っていった。




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