OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第32話

中央暦1639年 9月17日

-パーパルディア皇国 パラディス城-

 

 曇った天気が覆うパーパルディア皇国首都エストシラント。

 第3文明圏の象徴であるパラディス城の謁見の間では、空模様を圧縮したような空気が支配していた。

 

「…………つまり、良かれと思って動いた結果。ニホンの介入によって計画が破綻したということか?」

「ははぁ。真ながら……」

 

 ルディアスの覇気に気圧されているのは『国家戦略局』で南方方面を担当するファラーブ・イノスである。

 イノス程度の職員だと、ルディアスに謁見することはほぼないのだが、ロウリア王国に対する計画がとん挫し、剰えそれを隠ぺいしようとしたため、局長であるドーミトリオ・アンヴォフと共に不名誉ながらルディアスのもとへ謁見という名の尋問を受ける事態となったのだ。

 

(国盗りの計画は聞いていたが、まさかロウリア王国だったか。いくら文明圏外の国相手でも1国相手に調略だけでは荷が重かろうに……)

 

 ルディアスはロウリアの名がどこにあったかを思い出しつつ、話を切り出した。

 

「それで、国家戦略局としてどう失敗の責を取るのだ?」

「はい。監督不行きをした私を含め、計画を担当した者たちの給与を一部返納という形で処罰とすることを検討しております」

 

 国家戦略局は外務局より立場は低いながらも、その内訳はある種の独立国に匹敵する組織構成だった。故に、失策を挽回する為に無茶な命令を受け入れるだろうと考えた。よって、『国家戦略局』をニホンの当て馬にすることを思いついた。

 

(我が国とロデニウス大陸では相応の経済格差がある。局員の給与でも1年あれば取り戻せるだろう。しかし、彼の国。ニホンの力を見てみたい。今なら汚名返上を賭けて動くであろう)

 

「……アンヴォフ。貴様、何か勘違いしておらぬか?」

「……申し訳ありません。給与返納以外にも資産の一部を国庫に」

「違う。貴様。たかが金を返せば此度の失敗を帳消しにできると思うとるのか?」

「しっ、しかし。このような失策における規定では給与や資産の返納が通常の手順ーー」

「阿呆めっ!! 貴様らの失策は我が皇国の“未来”の繁栄に傷を付けたのだっ!! ましてや失敗を隠ぺいしようなど言語道断っ!! 給与の返納程度で埋め合わせなど到底出来ぬわっ!!」

「も、申し訳ありませんっ!!」

「だが、失敗に対する贖罪の意思は認めよう。然るに、ロウリア王国に対する調略計画を完遂するのだ……」

「陛下。お言葉ですが、周辺にはニホンの軍勢が居ります。皇国監察軍だけでは荷が重いかと……」

「ほぅ……貴様皇国監察軍は高々文明圏外の軍勢に負けると申すのか?」

「わ……っ。わかりました。軍を派遣し、可及的速やかにロウリア王国……いえ、ロデニウス大陸全土を手中に収めて見せます」

「そうだ。それでよいーー下がれ」

 

 アンヴォフとイノスは滝汗を流しながら謁見の間を早足で後にした。

 

(これでレミールが正しい(ニホンは蛮族)ラキーネアが正しい(ニホンはヤベー奴ら)か知れよう)

 

 ルディアスはニホンを皇国の糧にする未来を思いながら執務室へと戻っていった。

 

 

中央暦1639年 9月25日

-フェン王国 首都アマノキ-

 

 尚武で時代劇の世界を思わせるフェン王国。首都であるアマノキは今まさに熱気に包まれていた。

 

「この感じ。なかなかに久しい感覚だ」

「そうですね。転移してからどの基地も駐屯地も一般公開をする余裕がないですからね」

 

 今日はフェン王国が5年に一度開催している『軍祭』の開催日だ。

 天ノ樹城から延びる中央街道には軍際の参加国軍の戦列が勇ましい音楽と共に歩を鳴らしている。

 

「おお。あれはパーレン公国の重槍歩兵か? いつ見てもよくあんな槍を持てるな。俺じゃぁ無理だ」

「その後ろに続いているのはクラーヴ共和国の弩弓兵だな」

「あそこを進んでいるのはセリャオカーナの虹羽騎兵ね。戦場だと相当見栄えがいい格好だわ」

 

 フェンの人々は進む参加国の兵士達を見物していた。

 どの国も他国に派遣され、大衆の耳目を集めるという意義を考え、武器も装備も汚れや傷一つ着いていない物で整えられていた。

 

「あれ? あの後列の兵隊。見たことない武器と服装だな?」

「鎧も着けてないし、武器も槍?にしては短いな」

「服装は他の国に比べて地味な色合いだな。何処の国だ?」

「白地に赤い丸。確かニホンコクとかいう初めて参加した国だ」

 

 各国の戦列の最後尾。そこには白い服(セーラー服)短槍(銃剣付き小銃)を携える集団が進んでいた。

 言わずもがなこの集団は日防軍海上部隊の儀仗隊である。

 国旗である日章旗と軍旗である十六条旭日旗を先頭に掲げて進んでいる。

 

「ニホンコク? 聞いたことがないな」

「何でも、ここから東の方から来たらしいぞ?」

「東? 確か小さな島々があるだけじゃなかったっけ?」

「だが、港の沖合に止まっている灰色の船はニホンコクの船らしいぞ」

「ああ。そういえば同じ旗だな」

「あんな船。今まで一度も見たことねぇな」

 

 軍際に参加しているのはフェンと友好関係がある国家ばかりだ。そして、技術水準という点では殆ど大差がない。

 港に係留されている各国の軍船は大きさや構造こそ違えど、木造帆船という点は共通していた。

 その中で圧倒的な存在感を放っているのは、日防軍の駆逐艦『朝日』と練習巡洋艦『九頭竜』だ。

 『朝日』は曙型駆逐艦の3番艦であり、かなり艦齢が若い艦である。

 『九頭竜』は天龍型練習巡洋艦の2番艦であり、排水量は15,000tを超えるそこそこの巨大艦だ。両艦とも修理点検が終わったものの、戦争に参加することなく訓練に励む日々が続いた。そんな中、最初の任務として与えられたのがフェン王国の軍祭参加である。

 海上部隊以外の参加も検討されたが、仮称ロウリア戦争が未だ停戦状態ということもあり陸上部隊は断念。航空部隊は飛行場がないということが分かっていたので検討すらされなかった。

 

 日防軍が天ノ樹城正面広場に入り、参列した各国軍の横に整列した。その後、広場中場に置かれている演台に剣王シハンが上がった。

 

「此度集まってもらった各国将兵の皆様に心より感謝申し上げる。これよりフェン王国伝統の『軍祭』の開会をここに宣言する!!」

 

 シハンの宣言の後。信号花火が打ち上がり、多くの観衆が盛大な拍手を送った。

 

 フェン王国の『軍祭』とは我が国風に言うのであれば『国際観閲式』といえる代物だ。

 自国民に対して外国軍を派遣し、その武威を観てもらうということは、一部例外こそあるが自国と外国との外交関係が良好であることを意味している。また、軍祭に参加した各国将兵は、同業との交流を図り、相互の信頼関係の構築と情報収集をするのだ。

 新参である日本側としては、国交がない相手との非公式な関係や情報交換を行う場となり、参加国の将兵や士官に対して積極的に交流に勤しんでいある。

 アマノキ港では参列国それぞれの展示会を催されていた。

 ある国では騎兵装備一式を展示し、またある国は製造した武器を並べて宣伝に精を出した。つまり、この軍祭を別の点として各国で製造される武具や装備品の展示会も兼ねているのだ。

 

 港の沖合に4隻の帆船が浮かんでいた。

 軍祭においてデモンストレーションを行うのだが、その中で日本に託された任務がある。それは“廃船4隻を華麗に沈める”ことだった。

 

 沖合で待機している『朝日』の艦橋では、艦長の愛嶋静留中佐が攻撃許可を今か今かと首を長くして待っていた。

 

「……」

「艦長。転移してからフェンへの派遣まで港で缶詰状態ですから、ストレスが溜まるのもわかりますそう不快感を示されては部下に対してよろしくありません」

「あら? ごめんなさい。最近まっとうな航海がなかったからついね」

 

 艦橋で雑談に勤しんでいると、CICから通信が入った。

 

≪CICから艦橋。攻撃許可届きました≫

「よろしい。艦橋からCIC。砲撃用意っ!! 目標。本艦に最も近い帆船」

≪CICから艦橋。砲撃用意了解。目標。本艦に最も近い帆船≫

 

 愛嶋の命令は迅速に伝達され、艦首の127mm砲がものの数秒で廃船にピタリと砲身を向けた。

 

≪CICから艦橋。砲撃準備よしっ!≫

「よろしい。砲撃始め!!」

≪了解。主砲。撃ちぃ方ぁ始め!!≫

 

 『朝日』の艦首に装備されている127mmが爆ぜた。

 廃船との距離はたったの3km。初速800mを超える近接榴弾はたった4秒ほどで着弾。1発で廃船を爆炎で包み込み、叩き潰した。

 

「おぉ!!」

「ニホンにも魔導砲があるのかっ!」

「パーパルディアの物より優れているようだな」

 

 港から眺める観衆は異次元ともいえる光景に驚愕の声を挙げた。

 

≪CICから艦橋。照準ヨシ≫

「続けて発砲」

 

 最初の発砲からものの10秒で次の準備が整い、砲口から発射炎が輝いた。

 これも寸分違わず着弾し、黒煙を揚げながら沈んでいった。

 続けて第3射を発射した後、愛嶋はCICに指示を出した。

 

「艦橋からCIC。砲撃止め」

「艦長。標的はまだ1隻残っています」

「すべて主砲で沈めるのは味気が無いわ。距離を1000mまで詰めて、20mmで沈めます。両舷前進半速」

「わかりました。両舷前進半速」

 

 『朝日』がゆっくり動くと、廃船から1km辺りで停船した。

 その動きに水夫や水兵たちが感心した。

 

「あんな大きな船が、あんな動きができるのか?」

「帆船だとあれだけスムーズに動くのは不可能だ」

 

 観衆がざわついている間、『朝日』は艦橋前部に載せている20mm機関砲が廃船の方へグインと動いた。

 直後、竜の咆哮のような音が響き、大量の火矢(20mm弾)がまるで一つの生き物みたいに最後の廃船へと注がれた。

 廃船に何十もの20mm弾が降り注ぎ、穴だらけとなった廃船はゆっくり傾き、海の下へと消えていった。

 

「目標。すべて撃破しました」

「よろしい。用具納め」

 

 『朝日』の戦い方に観衆は拍手喝采となった。また、その光景を天ノ樹城の天守閣からシハンとお付きの武官が眺めていた。

 

「ほぅ。日本の実力は巫女様の言ったとおりかのぅ」

「ハッ。仰る通りかと」

「よしよし。可能なら日本との軍事同盟を視野に付き合っていきたいのう」

「陛下のお心が日本へ伝わればよいのですが……」

「まぁ何じゃ、いきなりは難しかろう。彼の国と付き合いつつ交渉していけばよかろうてーーン?」

 

 シハンが顎に手を擦りながら考えていると、視界の隅に幾つかの黒い点が見えた。

 それと同時に、鎧が擦れる音を立てながら伝令がシハンの元に急行した。

 

「陛下。至急にございます」

「何があったのだ?」

「パーパルディア皇国のワイバーンが西方より接近。このアマノキにまっすぐ向かっているとのことです。さらに、ニシノミヤコ沖合を航行している軍船から“パーパルディア皇国の軍艦が接近しつつあり”と報告が届いています」

「何っ!? それで、相手の数は?」

「はい。ワイバーンが20。軍艦は22とのことです」

「まったく、交渉で土地を得られなかったから実力で奪いに来たか……。巡察番はどうなっておるか?」

「既に準備を整えております。後は陛下の指示次第です」

「……相手の目的は推測できるが、目標が分からん。民を頑丈な建物に退避するよう誘導せよ」

「御意っ!」

 

 伝令は急ぎ足で巡察番処へと向かった。

 遠くに見えるワイバーンの姿にシハンは冷や汗を流しながらも慌てることなく次のことを考えていた。

 

「さてさて、大火にならなければよいが……」

 

 

 フェンの港は『朝日』の戦いっぷりに熱気が高まっていたが、それとは別にフェンの兵士が大急ぎでバリスタの用意を始めていた。

 『朝日』より港に近いところで錨泊している『九頭竜』からも、何かあったのではないかという雰囲気が艦橋を包もうとしていた。

 

「何かあったのでしょうか?」

「演習?という風には見えんな。大使館の方に何か情報が入っていないか確認してくれ」

 

 『九頭竜』艦長兼練習艦隊司令の古宮逸斗少将が事態における情報収集を始めた。

 

 フェン王国の空をを20騎のワイバーンが進んでいた。そして、このワイバーンはフェン王国の物ではない。

 パーパルディア皇国国家監察軍に属しているワイバーン部隊だ。

 ワイバーン隊を率いる竜騎士シャロー・レクマイアは眼下に広がるアマノキ市街を眺めた。

 

「今日の軍祭で標的はいるかな?」

 

 レクマイアは出撃前に艦隊司令のヴェルゼン・ポクトアールより指示を受けていた。

“もし軍祭に参加した船の中に、白地に赤い丸を描いた国旗を掲げた船を見つけたら、それを最優先で攻撃するように”という言葉を覚えていた。

 高度1000mの高さからアマノキ一帯を眺めた。竜騎士は総じて視力に優れている。レクマイアも例外ではない。

 

「白地に赤い丸……あれかっ!!」

 

 レクマイアは岸壁から1km離れた位置にいる『九頭竜』が目に留まった。しかし、すぐ攻撃するかどうかを戸惑い、艦隊の方に魔導通信を繋げた。

 

「レクマイアよりオルヴェン(乗艦の艦名)。対象の船を確認。しかし、まるで城みたいな軍船だ。それでも攻撃するのか?」

≪オルヴェンよりレクマイア。所定通り、攻撃を開始せよ≫

「了解」

 

 レクマイアは胸騒ぎを抱きつつも、部下たちに命令を伝えた。

 

「ワイバーン隊。目標。灰色の巨大船。我に続けぇ!!」

 

 20騎のワイバーンは『九頭竜』に向かって一気に降下を開始した。

 

 『九頭竜』の艦橋からワイバーンの列が接近してくる様子が見て取れた。

 

「艦長。ワイバーン20騎。本艦に対して急速に接近しつつあります」

「何だ? デモンストレーションか何かか? そのような予定は聞いていないぞ!」

 

 古宮は事前に手渡された軍祭のスケジュール表を確認しているが、ワイバーンが『九頭竜』を近くを通過するような予定はない。

 暢気に構えていたら、ワイバーンの口が赤く光り始めた。

 

「おい。まさかやつら、こっちを攻撃しようとしていないか?」

「そんな馬鹿な話があるかっ! 無線で呼びかけるんだ!!」

「しかし、本艦に魔導通信士は乗艦していません!!」

「ええいっ!! 両舷最大戦速!! 面舵いっぱい!!」

 

 『九頭竜』の原子炉から電力が一気にスクリューへと伝わり、気泡を吐きながら15,000tもの艦体が一気に加速した。

 

「あの巨体でなんて加速力だっ!! しかし、この数を避けることは不可能だ!!」

 

 20騎のワイバーンからそれぞれ火球が放たれた。『九頭竜』の急加速と投錨状態からの急旋回で次々と回避していくが、最後に3発が飛行甲板と格納庫に着弾した。

 近くにいた乗員は急いで艦橋の方に報告を上げた。

 

「格納庫及び飛行甲板に被弾。火災発生っ!!」

「くそっ!! よくもやってくれたな。応急班を向かわせろ。総員戦闘配置!!」

 

 『九頭竜』の艦内でけたたましく警報が鳴り、乗員が配置に就こうと動き出した。

 『朝日』の艦橋でも、『九頭竜』の被弾を確認した後、解除した戦闘部署を大急ぎで再配置し、すぐにでも攻撃できる準備が整った。

 

「CIC。相手は狙える?」

≪CICから艦橋。目標ワイバーン群。こちらへ急速に近づきつつあり≫

 

 レクマイアは『九頭竜』に一撃決めた後、再攻撃に移ろうとしたが、『朝日』の方に狙いを変えた。

 

≪CICから艦橋。SAMでは安全距離内につき照準不能≫

「艦橋からCIC。主砲とCIWS。あとSeeRAMの使用を許可!!」

≪CICから艦橋。了解。撃ちぃ方ぁ始め≫

 

 防空システムに基づく自動脅威割り当てが行われ、艦首の主砲に左舷に指向可能な2基のCIWSとSeeRAM1基がワイバーン群へと向き、攻撃を始めた。

 まず最初に主砲が火を噴いた。4秒に1発の割合で発射される対空榴弾は正確にワイバーンを穿ち、竜騎士共々海へと没せしめた。

 主砲の間隙を埋めるようにSeeRAMからもミサイルが発射された。

 

 『朝日』の攻撃に竜騎士たちは驚いた。何せ、まるでワイバーンが羽虫のごとく次々と叩き落されるからだ。

 

「各騎。散開しろっ!! 散開っ!!」

 

 レクマイアの指示は正確に他の戦友に伝わった。しかし、まるで無駄な足掻きだというように1騎。また1騎と続けざまに落とされていく。

 

「くそっ!! こんなところで落ちてたまるかっ!!」

 

 落とされていく同僚を尻目にレクマイアは『朝日』から遠ざかるように進路を取った。しかし、その進路の先には『九頭竜』が待ち構えていた。

 

「艦長。ワイバーンが1騎こちらに接近してきます」

「船に傷を付けたお礼だ。攻撃許可!!」

≪CICから艦橋。主砲。撃ちぃ方ぁ始め!!≫

 

 『九頭竜』は起動させた127mm砲をレクマイアが駆るワイバーンに発砲した。

 レクマイアは爆音に包まれると自らの非業を悲しんだ。

 

(畜生っ!! たかが文明圏外の祭りで落ちるなんて。運が悪い……!!)

 

 レクマイアは幸運な方だった。対空榴弾の爆炎はワイバーンの下方で生まれ、その爆炎と衝撃のほとんどをワイバーンの体が吸収したのだ。そして、余った衝撃を鞍と共に吹き飛ばされたレクマイアは海面へと叩きつけられた。

 

(あぁ……くそいてぇ……。一体何と戦ったんだ。俺は……)

 

 レクマイアは海面に叩きつけられた衝撃で気を失った。

 

 『朝日』と『九頭竜』のレーダー画面から全てのワイバーンが消えていた。

 ワイバーンの残骸が漂う海面を『朝日』は慎重に進んだ。

 

「艦長。次は如何しますか?」

「作業艇を降ろしたら生存者の救出。あと可能な限り残骸を回収して。こんなテロ行為を行う相手を調べる必要があるわ」

「わかりました」

 

 『朝日』から2隻の作業艇が降ろされると、作業艇員が首尾よく作業を開始した。

 対して、『九頭竜』では未だに火災が収まっておらず消火作業が続いていた。

 

「まだ火災は収まらないのか?」

「現場からの報告では、粘性のある可燃物が消火を困難にしているとのことです」

「まるで白リン弾だな。負傷者の方は?」

「全て安全な前部区画に収容しました。重傷者2名。軽傷者7名です」

「わかった」

 

 古宮は『九頭竜』の直ぐにでも帰り支度を進めるかどうか考えあぐねていた。

 頭を抱えいた所に、通信士が話しかけた。

 

「艦長。『朝日』の愛嶋艦長より通信が入っています」

「繋いでくれ」

 

 古宮が受話器を取ると、愛嶋の声が伝わってきた。

 

≪『朝日』の愛嶋です。そちらはどうですか?≫

「火災が収まらないが、自艦で対処可能だ。そちらはどうだ?」

≪生存者と残骸の収容を指示しました≫

「わかった。そのまま作業を続けろ」

 

 古宮は受話器を戻すとスポンソン(張り出し部)から火災場所を観察した。応急隊の消火はいまだ予断を許さない状態だった。

 

 アマノキでは、ワイバーンを容易に撃墜する日本の軍船に多くの人々が目を点にしていた。

 

「ワイバーンをあんなあっさり?」

「ニホンの軍船は大きさもだが戦闘力は桁外れなのか……」

 

 ワイバーンは空を飛んでいる。野生でも厄介なのに軍用となれば千の兵士を導入しても勝てないのが彼らの常識だった。

 

 剣王の命で配置に就いたフェン王国軍兵士は、そのことを上官へと報告し、そのまた報告が最終的にシハンへと纏められた。

 

(ニホンの実力。もしやパーパルディアを遥か凌駕するものなのか?)

 

 シハンは立派な髭を撫でながら、陽が沈みつつありながらも薄っすらとした灯火で存在を誇示する『朝日』と『九頭竜』を眺めた。

 

 

中央暦1639年 同日

-フェン王国 南西沿岸沖-

 

「提督。魔導受信機で補足していたワイバーン隊の信号が途切れたとオルヴェンから報告が届きました」

「信号が切れた? 何かの間違いではないか?」

 

 フェン王国の南西沿岸を進むパーパルディア皇国国家監察軍艦隊。

その艦隊司令であるポクトアールはワイバーンからの通信途絶を聞いた瞬間、報告する部下を怪訝な顔を向けた。

 パーパルディア皇国は第三文明圏において高いレベルで魔導技術を保有している。ちなみに、第三文明圏において最も高い技術を有しているのは、属国のパンドーラ大魔法公国である。

 閑話休題。

 ワイバーン隊には魔導通信とは別にビーコンの役割を果たす魔導発振器を装備している。それは竜騎士の動きを地上や船上から把握するためだ。そして、概ねその信号が切れるということは、ワイバーンが墜とされた時だ。

 ポクトアールの事前情報では、フェンの軍祭でワイバーンを墜とせるほどの存在はガハラ神国の風竜だけだ。しかし、ワイバーンを向かわせたタイミングでは、ガハラ本国へ引き上げているのを対空魔振器(対空レーダー)で確認している。

 それなのに、ワイバーン20騎全ての通信が途切れた。今までで一度も経験したことがない事である。

 

「ワイバーン隊からの最後の通信は?」

「はい。“ニホン軍艦を確認。攻撃するかどうかの可否を求む”という報告に対して、オルヴェン航空管制より攻撃許可を出したのが最後です」

「つまり、アマノキにニホン軍船がいて、返り討ちにあったということか?」

「わかりません。攻撃許可を出したのは10分前です。20騎全てと通信が切れたので確認しようがありません」

 

 ポクトアールは悩んだ。ニホン軍船の実力を。いや、正確にはこの任務の前に伝えられた情報だ。

 曰く“ニホンは魔導を知らぬ蛮族である”という風に伝えてきた国家監察軍上層部。

 それとは別に“ニホンは優れた科学技術文明国家である”ということを教えてくれた外務局。

 そこへさらに外務局監査室が“貴官の目でニホンの実力をしっかり確認してくること”という抽象的な指示を受ける。

 この任務。最初はフェンに対する威圧行為を目的としていたというのがポクトアールの認識だ。それが、裏で何かしらの権力闘争が進んでおり、巻き込まれたのではないかと改めて感じ取った。しかし、所詮格下の国家相手に遣われるのが国家監察軍だ。

 それ以上踏み込んだ事は考えられない。そして現場責任者であるポクトアールは任務を完遂する義務があった。

 ニホン軍船が持つであろう未知の戦闘力を頭の片隅に置き、ポクトアールは伝令に伝えた。

 

「艦隊はこのままアマノキへ向かい、天ノ樹城へと砲撃を行う。各艦に伝えたまえ」

「了解しました」

 

 ポクトアールは一抹の不安を抱えながらも職務に対して忠実であらんと決めた。




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