OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第36話

中央暦1639年 11月3日

-日本国 首相官邸-

 

 紅葉の季節が過ぎ、乾燥した風が吹き荒れる東京都内。今日も今日とて“至急”という案件が内閣府に舞い込み、閣僚全員が会議を開いていた。

 

「ーー加藤大臣。それで至急報告が必要な案件とは何かありましたか?」

「えぇまぁ。また厄介な案件が舞い込んだのです」

 

 加藤は水を一口飲むと、報告書を開いた。

 

「本日早朝。在ガハラ神国大使館よりかなり緊急の要請がありました」

 

『ガハラ神国から緊急要請

 

 11月2日 神託の儀を啓き、授かった予言はフィルアデス大陸及び周辺に重大な内容であるため、ここに内容を記す。以て、貴国に緊急の要請を乞う。

 

1‐魔王『ノスグーラ』が今冬に出現する可能性大。

2‐トーパ王国の『世界の扉』が破壊される。

3‐確実にトーパ王国に甚大な被害が生じる。

4‐魔王を放置すればフィルアデス大陸中に災禍が降り注ぐ。

5‐可能な限りトーパ王国に軍を参集すること。 』

 

 加藤以外の閣僚は総じて首を傾げた。

 

「加藤大臣。ざっくり言うとこれは援軍要請ということか?」

「いえ、我が国から北西の大陸……正式名フィルアデス大陸の北東に『トーパ王国』という国があり、その国に対する派遣要請です。現段階で我が国と国交はありません」

「聞いたことがない国名だからそういう事か」

「はい」

「失礼だが、ガハラのこの要請に他の国はどう動いているのだ?」

「現地にて収集していますが、どれも深刻に受け止めているようです」

「予言にかね?」

「何でも、ガハラ神国の予言は精度が高いそうです」

「しかし、予言で軍を派遣することに世論は納得しないぞ?」

「はい。それは既にガハラ側に通達しております。なので、ガハラは我が国とトーパ王国の国交開設に協力すると伝えてきました」

 

 加藤の言葉に田澤が苦言を呈した。

 

「加藤大臣。我が国がクワ・トイネに軍を派遣したのは国家安全保障上必要なことであり、フェンに対してもパーパルディアに対する備えのためです。それを軍の現状を知らない状態で外国に派遣せよと要求されても困るというものだ」

 

 田澤は加藤に対して強い言葉で反応した。その様子を見た枢木が口を開いた。

 

「田澤大臣。まだ派遣を決めたわけではない。加藤大臣。ガハラがトーパ王国との仲介をしてくれるのだ。まずは国交開設を成してから軍の派遣を決めても遅くはないのではないか?」

「……わかりました。在ガハラ大使にはそのように伝えます」

「……田澤大臣。確かに派遣自体は決定ではないが、この予言が真実になっては対応が後手に回る。軍の整理縮小を命じた身だが、派遣戦力の選定を進めてくれ」

「統合軍参謀部に命じておきます」

 

 この後、一旦閣僚たちは解散したが、NSCのメンバーは再度枢木の元に集った。

 

「--さて。戻って仕事があると思うが、最低限共有しないといけない情報が入った」

 

 枢木は部下に目配せすると、資料を2人に配布した。

 

「この資料は?」

 

 渡された側の松河は枢木に質問した。しかし、返答したのは加藤だった。

 

「それは私から。3週間ほど前。パーパルディアの第3外務局局長のオルダー・カイオス氏より提供していただいた情報です」

 

 10月の中ごろ。カイオスが秘密裏に渡した魔導通信符号によって日パの間に緊急通信ラインが設置された。しかし、定期的に送られる情報の真贋がわからないため、ある種の不毛なやり取りが続いた。

 そんな最中。NSCを集める事態になったのはカイオスが国家監察軍の動きを伝えてきたからだ。

 

“国家監察軍艦隊はロウリア王国北の港に対し、出撃”

 

 この情報が在クワ・トイネ大使館に届き、本省である外務省に届いたのはつい1時間前のことだった。

 メンバー全員。いつか来るであろうという意識こそあったが、実際聞くと寝耳に水以上に不快だった。

 

「--敵の現在位置はわかっているのか?」

「残念ながら、カイオス氏が出港を把握してから2日が経過しており、エストシラントから500km以上離れた海域と思われます」

「北の港に展開している戦力はどうなっている?」

「第22任務旅団とフリゲートが1隻待機しています。後、沖縄総監部から緊急出撃を命じています」

「クワ・トイネとロウリア国境沿いの戦力配置は?」

「第21任務師団他。空軍の航空隊が展開しています」

 

『クワ・トイネ遠征派遣群』  

 ↓→『マイハーク基地隊』※マイハーク基地常駐

 ↓  ↓→第6師団第61後方通信中隊

 ↓  ↓→第6師団第61防空大隊/補給中隊

 ↓  ↓→航空陸戦群/第201連隊/第2大隊

 ↓  ↓ ↓→第1中隊

 ↓  ↓ ↓→第2中隊

 ↓  ↓ ↓→第3中隊

 ↓  ↓ →→整備中隊

 ↓  ↓→第4師団/第41重工兵大隊

 ↓  ↓ ↓→第1中隊

 ↓  ↓ ↓→第2中隊

 ↓  ↓ ↓→機動中隊

 ↓  ↓ →→補給中隊

 ↓  →→警備大隊

 ↓  →→基地設営隊※民間企業含む

 ↓  

『第21任務師団』※所掌戦力が拡大したため師団扱い

 ↓→第6師団/第61機動連隊※ギムに展開

 ↓ ↓→前線指揮中隊

 ↓ ↓→第1機動大隊

 ↓ ↓ ↓→第1中隊

 ↓ ↓ ↓→第2中隊

 ↓ ↓ ↓→砲兵中隊

 ↓ ↓ →→防空中隊

 ↓ ↓→第2機動大隊※上記の機動大隊と同じ 

 ↓ ↓→第3機動大隊※上記の機動大隊と同じ 

 ↓ ↓→機動砲兵大隊

 ↓ ↓  ↓→第1砲兵中隊

 ↓ ↓  ↓→第2砲兵中隊

 ↓ ↓  ↓→中距離誘導弾中隊

 ↓ ↓  →→防空中隊

 ↓ →→整備中隊

 ↓

 ↓→第4師団/第41機動連隊※上記機動連隊と同じ

 ↓

 ↓→第4師団/第41機械化大隊

 ↓ ↓→第1中隊

 ↓ ↓→第2中隊

 ↓ ↓→第3中隊

 ↓ →→WAP中隊

 ↓→第1師団/第11戦術機甲大隊

 ↓ ↓→第1WAP中隊

 ↓ ↓→第2WAP中隊

 ↓ ↓→戦車中隊

 ↓ →→中距離誘導弾中隊

 ↓→第10師団/第101重工兵大隊※上記重工兵大隊と同じ

 ↓→第4師団/第43機動連隊/整備中隊

 ↓→第3師団/第31機動連隊/第3大隊防空中隊

 ↓→第7師団/第72機動連隊/第2大隊防空中隊

 ↓→第8師団/第81機動連隊/第1大隊防空中隊

 ↓

『マイハーク派遣航空団』

 ↓→第6航空団

  ↓→第2飛行隊『ルビー』

  →→整備隊

 

「田澤大臣。ロウリアがパーパルディアの動きに呼応する可能性はあるか?」

「不明です。そもそもロウリアとパーパルディアの関係性が不明なので、ロデニウス大陸北方海域上空を定期的に哨戒機を飛ばしています。パーパルディア艦隊の捕捉は時間の問題かと」

「ならいい。前線には確実に伝えてくれ」

「わかりました」

 

 NSCが解散すると。各メンバーはそれぞれ本省へと戻った。

 

 

中央暦1639年 11月6日

-ロデニウス大陸 北方海域-

 

 日が上がってから数刻。水平線に薄っすらと黒い点が浮かんでいた。1つ2つという数ではなく、百にも届きそうな点がゆっくりと近づいてきている。

 艦長の霜川は艦橋から水平線を眺めていた。

 

「--艦長。報告にあったパーパルディア艦隊です」

「報告の通りか--総員戦闘配置。後、ラーベル氏を艦橋にお呼びしろ」

「了解。総員戦闘配置。繰り返す。総員戦闘配置」

 

 フリゲート『櫛田(くしだ)』は北の港を見張るためにローテーションで配備された艦だ。そして運悪く、パーパルディア艦隊が襲ってきたのだ。

 

「艦長。ラーベル氏が艦橋に上がります」

「わかった」

 

 この異世界では魔導通信が発達した。しかし、日本で発達したのは電気を利用した電波通信だ。現状日本の官民問わず船舶の通信装置が無線装置のため、異世界の船とほとんど交信できないのだ。

 クワ・トイネ側の商社に対して据え置き式の魔導通信器の購入を打診しているが、生産速度の都合で官公庁や大使館にしか導入されていない。 そこで、次善の策として魔導通信士を独自に雇用したのだ。まだ人数が部隊の数に対して少ないため、任務に就いている艦艇や部隊を中心に配置されている。

 そして、今回配置されたベック・ラーベルは魔導士としては未熟な部類だ。しかし、戦争の足音が近づいてきた頃、魔導兵団の予備役として軍に招集された。

 ラーベルは結果的に戦場に呼ばれることはなかったが、代わりに日防軍の魔導通信士として『櫛田』に乗っていた。

 

「霜川艦長。魔導通信士ラーベル。参上しました」

「ラーベル魔導通信士。早速だが本艦から北約20kmの位置にパーパルディア艦隊が現れた。彼らはまっすぐこっちに進んでいるらしい。迅速に通信回線を確保してほしいのだが? できるかね?」

「わかりました。少々お待ちください」

 

 ラーベルは日本人にはわからない魔法言語を喋り始めた。

 この世界は不可思議なことに、言語上違うはずの言葉が自動で理解できる言語に翻訳されるのだ。

 しかし、こと魔導士が魔法を発動させる呪文に関しては、艦橋にいた誰もが理解できない言葉だった。

 

「--振え振え風の精よ。流せ流せ風の精よ。届くは彼方の相手成り。我が声を先へと結び給え!!」

 

 ラーベルの魔法はしっかりとパーパルディア側の魔導通信士へと繋がった。

 

≪…~-私はパーパルディア皇国のピンクル・アッターである。私に魔導通信を繋げた者は誰か?≫

 

 知らない相手からの魔導通信を感知したパーパルディア側はもちろん相手を問いただした。

 

 ラーベルは霜川に魔導通信が繋がったと伝えた。そして、事前に取り決めていた話を相手に始めた。

 

「こちらは日本国防軍海上部隊である。そちらの国籍及び航行目的を提示されたし」

≪……こちらはパーパルディア皇国である。我が国はロウリア王国の借款回収のため北の港に向かっている≫

「現在我が国とロウリア王国は戦争状態にあり、北の港は我が軍が占領しており入港不可能である。別の港へ進路変更することをお勧めする」

 

 この日本側の回答にパーパルディア側は驚愕した。

 第3文明圏やその周辺でパーパルディアの名を出せば、大抵の無茶は通すことができるからだ。

 

≪……当方は蛮族間の戦いとは無関係である。日本がこちらの航行を妨害するなら容赦しない!≫

 

 パーパルディア側はいつも通り文明圏外国の感覚で相手を威圧した。しかし、日本は威圧した程度で引くような国家ではなかった。

 

「……警告する。ロウリア王国北の港は我が軍の占領下である。入港及び敵対的(・・・)な接近は認めない」

≪……よろしい。こちらは諸君らを敵として今後対応する≫

 

 パーパルディア側が吐き捨てるように返事をすると、魔導通信は切れた。

 ラーベルは少し青ざめた顔で霜川や艦橋要員を見渡すが、まるで何もなかったかのように作業を続けていた。

 

「霜川艦長。パーパルディア皇国が怖くないのですか?」

「怖がる理由がない」

 

 そういって霜川は総員配置を命じた。

 

 

 パーパルディア皇国国家監察軍西方南方連合艦隊及び皇国陸軍で臨時編成された『ロウリア懲罰軍』を率いているのは国家監察軍南方艦隊司令であるジャン・ベルンバレイだ。

 ポクトアール率いる東方艦隊がフェン相手に半壊して戻ってきたのはほんの1か月前。ベルンバレイは残った先任者の報告書こそ読んだが、戦死したポクトアールを“蛮族に敗れた愚か者”と酷評していた。

 艦橋から単眼鏡で灰色の船(櫛田)を観察していた。

 

「ベルンバレイ提督。敵艦が増速しました」

「わかった。『コルトール艦隊』(監察軍西方艦隊)『ベルン艦隊』(監察軍南方艦隊)各艦は戦闘配置。『フューザー軍団』(皇国軍揚陸部隊)は速力を下げて指示あるまで待機。伝えろ」

「わかりました」

 

 ロウリア懲罰軍の総戦力は戦列艦39隻。竜母5隻。輸送船50隻に陸戦兵3000人。そしてワイバーン50騎。文明圏外国家なら十二分に勝利できる戦力だ。

 さらに、今回はただ懲罰するだけでなくロデニウス大陸全体の掌握も含まれているため、監察軍上層部は皇国軍に陸上戦力の追加派遣を要請している。

 ベルンバレイは従兵から茶を貰うと、砂糖を入れてゆっくり味わうように飲み干した。

 カップに残る芳醇な香りの余韻を楽しんでいると、轟音と共に水柱が生まれた。

 

「何があった!?」

 

 ベルンバレイは驚きこそすれ、手に持ったカップを落とすことなく従兵に手渡した。

 周りを見張っていた甲板長が報告した。

 

「正面500mの位置に水柱。あの灰色の船が魔導砲を撃ったようです!」

「艦長。相手との距離は?」

「未だ15km近く離れています」

「近くに他の敵艦は?」

「確認できません」

 

 ベルンバレイはしばし考えた後、新たな命令を発した。

 

「近づかねばどうにもならん。艦隊はこのまま前進!! 竜母からワイバーンを発艦させろ」

「わかりました」

 

 

 警告射撃を行った『櫛田』艦橋では、霜川がパーパルディア艦隊を観察していた。

 

「艦長。パーパルディア艦隊。針路速力変化なし」

「まぁ引くわけないか」

≪CICから艦橋。パーパルディア艦隊より航空機……ワイバーンを多数探知≫

 

 ワイバーンの出現に霜川は通信士に確認した。

 

「濱田。空軍の戦闘機はいつごろ到着しそうだ?」

「スクランブル機は既に離陸。到着まで45分。第2陣は1時間後です」

「CIC。ワイバーンの数はどうだ?」

≪CICから艦橋。現在30を確認。尚も増加中≫

「艦橋からCIC。対空戦闘用意」

 

 フリゲートである『櫛田』は駆逐艦や巡洋艦に比べ、対空能力は相対的(・・・)に高くない。しかし、艦隊構成艦の1つとして設計されたその実力は、艦隊全体は無理でも僚艦や護衛対象に対する防空力を十分に提供できるくらいには充実している。

 ただ、この任務(北の港哨戒任務)についている艦は、ワイバーン対策でSeeRAM2基の代わりに35mm連装機関砲(87式自走対空砲風の砲塔)を2基装備している。

 相手がミサイルや航空機なら心許ないが、大した速度(日本基準)を出さないワイバーンなら十分だと判断して換装されている。

 

≪CICから艦橋。敵ワイバーン。数50。本艦に接近中≫

「艦橋からCIC。対空戦闘はじめ」

≪CIC了解。撃ちぃ方ぁはじめっ!!≫

 

 

 竜母『グロウネ』より飛び立った竜騎士ネロメラ・ドッツェルは9騎の部下と共に編隊を組んで10km以上先の灰色の船へと進んだ。

 ドッツェルは狭き門である竜騎士の中で数少ない女性竜騎士だった。

 他の竜騎士と比べて特段優れているわけではなかった。しかし、鞍を跨ぐワイバーンは彼女が竜騎士になってから何年と共にした相棒だ。

 竜騎士の標準装備であるゴーグルから灰色の船を眺めていると、灰色の艦前部がいきなり火を噴いた。

 部下たちが何事かと騒ぎ始める。

 

≪なんだ!?≫

≪上に魔導砲を撃っているのか?≫

≪コケ脅しか?≫

 

 50騎のワイバーンは編隊を崩さず進んだ。しかし、何の対処もしないツケはものの十数秒後に回収された。

 

≪前方。矢のy--≫

 

 ドンッと編隊の先頭を進んでいた最先任が黒煙に包まれて煙を吐きながら堕ちていった。それに続いて彼女より前を進んでいたワイバーンが次々と墜とされていった。

 

「これは敵の攻撃だっ!! 全騎散開。散開っ!!」

 

 ドッツェルは先任が墜とされたわずかな時間で部下に指示を出した。この時降下という選択をしたドッツェルや他の竜騎士はミサイルから何とか回避できた。しかし、上昇や旋回を選んだ別の部下やほかの竜騎士は次々と灰色の船によって無慈悲に刈り取られていった。

 

(バルメー隊もリューカン隊もやられたっ!!)

 

 ドッツェルは海面近くまで降下すると灰色の船に対して様子を窺うように飛行した。さらに、ドッツェルと共に緊急降下した部下2騎もドッツェルに続いて低空飛行を始めた。

 接近して攻撃しようかと悩んだが、とんでもない対空戦闘力を発揮する(日防軍では並以下)櫛田を前に、突撃は愚策と考え、一度離れて残った味方騎と集合することを選んだ。

 

 

 30騎以上のワイバーンを5分もしない内に撃墜した櫛田はパーパルディア艦隊の動きに合わせて針路を逐次変更していた

 艦橋のレーダースコープでは、数が減ったワイバーンと敵艦隊の位置はしっかり捕捉していた。

 

「……艦橋からCIC。速射砲用意」

「艦長。まだ敵ワイバーンが残っていますが?」

「半分以上削ってこっちの様子を見ているんだ。相手の考えに付き合う理由はない」

 

 霜川の指示に従い、艦首の127mm砲がパーパルディア艦隊の先頭艦に指向。停止した瞬間に火を噴いた。

 

 

「敵艦発砲っ!?」

「全艦回避運動--この距離で届くのか?」

 

 ベルンバレイは東方艦隊の報告書を思い出したが、眉唾物だと一蹴した。しかし、艦隊先頭を進んでいた30門級戦列艦が吹き飛ぶと、報告書の内容ですら甘かったのではと考え始めた。

 

「……コルトール艦隊は南西に変針。我が艦隊は南東に変針だ」

「はい提督」

 

 パーパルディア艦隊の戦列艦は帆船ではあるものの、『風人の涙』という魔石によって人工の風を帆に送って進む。地球基準の帆船より圧倒的に機動力は高いのだ。

 さりとて、所詮帆船の速度である。櫛田では何の苦もなく対応した。

 

 

「--艦長。敵艦隊3つに分離。2つの分艦隊は本艦を包囲するように動いています」

「突っ込んでくるほど馬鹿ではないか……残りの1つ(フューザー軍団)は?」

「分艦隊後方で待機しています」

「小出しでこちらの実力を図るつもりか? まぁいい。取り舵60度。敵右翼艦隊(コルトール艦隊)をまず撃破する」

 

 櫛田は速力を挙げ、比例して艦首波が大きくなった。

 定針すると艦首の127mm砲は最も近い戦列艦に照準を向けた。

 

「主砲。撃ちぃ方ぁはじめっ!!」

 

 

 ゴリティア・コルトール提督が率いる『監察軍西方艦隊』はベルンバレイの指示に従って進んでいた。

 コルトールはベルンバレイに比べて司令職が長くないため、『ロウリア懲罰軍』の総指揮がベルンバレイが執ることに不満も不安もなかった。さらに、コルトールはパーパルディア軍将兵の標準的な指揮官だった。

 彼にとって日本についてこれといった注意を割くような相手だと考えていなかった。

 目の前の櫛田に関しても、実際に目にするまで戦列艦より大きい船くらいの認識しかしていない。

 それが一瞬で覆ったのは、隊列の一番前の戦列艦が轟音と魔石火薬の爆発によって一瞬で火達磨になるまでだった。

 

「提督!! 先頭を進む『ドゥーメン』轟沈!!」

「--馬鹿なっ!! 相手との距離はっ!?」

「まだ9kmあります!!」

「クソッ! 臆病者の戯言だと思ったが、それすら見積もりが甘かったかっ……艦隊はこのまま前進!! 射程に入り次第砲撃できるように準備せよ!!」

 

 コルトールは敢闘精神を発揮して櫛田を捉えようとした。しかし、それは不可能な事だった。

 指示を出してから10秒が経ったとき、『ドゥーメン』に代わって先頭を進んでいた『ヴァルーチャス』が一撃で轟沈した。

 敵艦の砲戦能力に驚愕したコルトールはベルンバレイの指示に反して独自に行動を始めた。

 

「ヌゥ~~……各艦最大船速で敵艦へ突撃!!」

「しかし提督。それではベルンバレイ提督の指示に反しますっ!?」

「このまま戦わずに死ねるかっ!!」

 

 『コルトール艦隊』は8km以上先の櫛田目掛けて突撃を始めた。

 

「提督。コルトール艦隊が敵艦へ突撃しています!」

 

 ベルンバレイは通信士の報告に“命令に従え!”と喉元から出かかったが、少し考えると自らの艦隊に対してそのまま進むよう指示を出した。

 

 霜川は敵右翼艦隊を一方的に沈めている間。敵左翼艦隊(ベルン艦隊)が港へ接近する動きに対して対応した。

 

「艦橋からCIC。砲撃止め。取り舵。方位140度」

≪CICから艦橋。砲撃止め了解≫

 

 櫛田は敵右翼艦隊に背を向けると、敵左翼艦隊の頭を押さえる針路をとった。

 

 ベルンバレイは単眼鏡で櫛田の動きをつぶさに読み取った。

 

「……こちらの頭を抑えに来たか--全艦このまま前進っ!! 最大戦速で突っ走れっ!!」

 

 18隻の戦列艦は帆に目一杯の風魔法を送り込んで速度を上げる。しかし、櫛田の半分程度の速度では否応もなく頭を押さえられ、砲撃を食らうことになる。

 

 ベルン艦隊の先頭艦が一瞬で火達磨になり、それを見た参謀が慌てふためいて報告した。

 

「提督っ!! 『アレシア』沈没っ!!」

「わかっていたことだっ!! このまま前進っ!!」

 

 ベルンバレイは『コルトール艦隊』の悲劇が再現された。

 ベルン艦隊は櫛田と距離を詰めるが、1km近づく毎に3隻の戦列艦が櫛田の砲撃によって盛大な松明へと変わった。それなのに、『ベルン艦隊』は未だに櫛田を射程範囲に収めていない。

 

 櫛田は『ベルン艦隊』を一方的に沈め続けた。敵左翼艦隊の半数を沈めると、新たな報告が入ってきた。

 

≪CICから艦橋。敵ワイバーン。北の港に向かって飛行中≫

「艦橋からCIC。敵ワイバーンを攻撃せよ」

≪CIC了解。対空戦闘。撃ちぃ方ぁはじめ!≫

 

 対艦攻撃が続く中。VLSのハッチが開き、火を噴くと同時に対空ミサイルが発射された。

 

 灰色の船から10km以上離れた上空からドッツェル含め残存18騎のワイバーンは北の港目掛けて進んでいた。

 最初の対空戦闘から生き残った竜騎士達は、一度それぞれの母艦へ戻ろうとした。しかし、“一度飛び立てば一国の軍団を撃退せしめる”と云わしめた飛竜隊はおめおめ引き下がるわけにもいかず、櫛田から離れた位置で再集結した。そして、本来の目標である北の港へ向かったのである。しかし、櫛田のレーダーは飛竜隊の動きを捕捉していた。

 

≪ドッツェル隊長っ!! 敵船から火が噴き上がり(・・・・・・・)ましたっ!!≫

「よろしい。全騎散開しながら急降下!! 生き残った者は北の港を目指せっ!!」

 

 ドッツェルはおそらく最後になるであろう命令を発すると、相棒の飛竜に降下するよう指示を出した。

 

≪敵の矢が接近っ!? だめだ逃げrーー≫

≪くそっ!! 折角生きnーー≫

≪来るな来るな来るnーー≫

 

 ワイバーンは降下しているとはいえ300kmが速度限界であり、音速の3倍(約3700km/h)に達する近SAMを避けるのは至難の業だった。

 

「スプラッシュ。更にスプラッシュ……」

 

 1騎1騎とワイバーンは撃ち落されていった。しかし、ドッツェルと部下1人は運よく海面近くまで降下できた。だが、2騎のワイバーンはそれぞれ1基のミサイルに追われていた。

 

「クソッ!! 目にもの見せてやる!!」

 

 部下の一人がミサイルに向かって火炎放射を放った。火炎放射は導力火炎弾と比べて射程は短く、威力もイマイチだ。しかし、導力火炎弾のように首を真っすぐにする必要がなく、溜める時間も比較的短い。

 ばら撒かれた炎にミサイルが焼け落ちることを期待したが、残念なことにフレア対策を施された近SAMは炎を発射源であるワイバーンの口元に向かい、爆ぜた。

 首元を吹き飛ばされたワイバーンは竜騎士共々海へ落ちていった。

 ドッツェルが跨るワイバーンにもミサイルが迫った。彼女は部下と違い、導力火炎弾を前方に発射できるように準備していた。そして、導力が溜まり次第目の前に発射した。

 導力火炎弾が当たった海面ではワイバーンを包めるほどの水柱が生じた。

 ドッツェルはワイバーンとミサイルで水柱を挟むよう相棒を誘導した。

 猛烈な速度で突っ込んできたミサイルはドッツェルを捕捉していたが、信管が水柱に反応してしまい、ドッツェルに届く前に爆発した。

 

「--やったっ!!」

 

 先任や仲間をすべて叩き落とした魔弾から逃れたのだ。喜ばずにはいられない。しかし、そんな奇跡は続かなかった。

 ドッツェルが墜とせていないことを確認した櫛田から追加のミサイルが2発(・・)発射されたからだ。

 ドッツェルは先ほどと同じように回避を試みようとしたが、2発の内1発は正確にワイバーンを追いかけ、炸裂した。

 爆発をもろに受けたドッツェルの意識は一瞬で焼かれ、永遠に戻ることはなかった。

 

 

 戦闘海域の後方で様子を見ていた揚陸船団指揮官シトーレ・フューザーラントは無様を晒す監察軍に苛立ちを覚えていた。

 

「……参謀。北の港に最も近い海岸はどこだ?」

「地図では東側に広い砂浜があります」

「よろしい。船団全艦に東の海岸へ向かうよう指示を出せ」

「しかし将軍。この軍団の総指揮は監察軍のベルンバレイ提督です。まだ上陸命令はでておりません」

「たった1隻の敵艦に翻弄されて提督の指揮能力に問題ないと貴様は思うのか?」

「それはそうですが……」

「それに、皇軍が監察軍の指揮下で働くのは気持ちいい物じゃない」

「将軍の意見もわかりますが、この作戦は皇帝陛下の勅令。下手に失点になるようなことがあれば軍歴に傷が付くだけでは済まされません」

「だからだよ。所属が違っても蛮族に振り回されるような指揮官は実力者とは言えんだろう? それなら皇軍である我々(・・・・・・・)が範を示そうではないか」

「……わかりました。船団全てに伝えます」

 

 

 櫛田と戦列艦による戦闘はなお続いていたが、レーダーは後方の主力をきっちり捕捉していた。

 

≪CICから艦橋。敵主力艦隊が行動開始。針路165度。速力12kt≫

「艦橋了解」

 

 霜川は海図とレーダーを相互に見て行動を決めた。

 

「敵主力を叩く。取り舵。針路040度」

 

 櫛田は4隻まで減った敵左翼艦隊を牽制しつつ、敵主力の進路を塞ぐように動いた。

 

 

「敵艦。我が船団の戦闘を抑えるように動いています」

「ふむ。予想通りだな。船団各艦は僚艦と距離を取り、目標を目指すよう指示を出せ」

「了解」

 

 密集隊形を取っていた50隻の船団は徐々に間隔を広げるように航行し始めた。

 もちろん。櫛田の標的になった船は轟音と共に波間に消えた。

 フューザーラントは被害こそ覚悟しているが、上陸自体はできると踏んでいた。

 

 櫛田が揚陸船団に引き付けられている間、ベルンバレイは残った戦列艦に指示を出した。

 

「奴らは港を守るのが目的だ。全艦。北の港に向かえっ!!」

 

 櫛田は4隻目を吹き飛ばすと砲撃を止めた。敵左翼艦隊と右翼艦隊が櫛田ではなく港に向かい始めたのを確認したからだ。

 

≪CICから艦橋。敵分艦隊変針。北の港へ向かう≫

「……敵分艦隊の撃破を優先する。取り舵。針路190度」

 

 霜川は敵分艦隊を港に近づけまいと櫛田を反転させ、追撃に移った。しかし、それは罠だった。

 

「奴め。こっちに来たぞっ!! 取り舵いっぱいっ!! 左舷全門発射用意!!」

 

 櫛田に最も近い戦列艦はベルンバレイが乗る『アドミラル・ラーディン』だ。彼我の距離は約3km。

 パーパルディアが運用する魔導砲は最大で約2kmしか届かない。つまり普通の運用ではまず届かない距離である。しかし、魔導砲に充填する魔石火薬の量を通常の数倍に増やすよう厳命した。

 ベルンバレイは寡兵と侮った敵に味方が次々と沈められる様を見て、戦死したポクトアールを愚か者と嘲笑うことを後悔した。しかし、本流から逸れたとはいえベルンバレイはパーパルディア皇国軍人なのだ。

 圧倒的な敵を前にただ膝を屈するのだけは自身のプライドが許さなかった。

 

「提督。全門発射準備完了」

「よろしいっ!! 全門斉射!!」

 

 『アドミラル・ラーディン』の左舷に備わっている40門の魔導砲が盛大に火を噴いた。

 発射したほとんどの魔導砲は発射と同時に発射圧に耐え切れず破損した。さらに、破損した魔導砲の残骸は近くにいた砲員や船体に損害を与えた。しかし、ベルンバレイの捨て身の攻撃は初めて櫛田に届いた。

 

「敵弾。来る!!」

「迎撃っ!! 衝撃に備え!!」

 

 櫛田に魔導砲弾が降り注いだ。そして装備する合成開口レーダーは櫛田に脅威を与える魔導砲弾を捕捉していた。

 35mm対空機関砲もCIWSも有効射程に入り次第射撃を開始した。

 猛烈な弾雨が吐き出される。1発。2発。3発と破壊するが、思ったように迎撃ができない。発射される35mm弾と20mm弾はミサイルやワイバーンに有効な徹甲弾(・・・)と曳光弾だったからだ。いくら魔導砲弾が亜音速程度で飛んでくるからと言って、魔導砲弾の大きさはボウリングの玉くらいの大きさだ。直撃以外で破壊できない。

 魔導砲弾が残り500mを切った瞬間。最後の迎撃兵装が作動した。コンパクトドローン用の10kw級レーザーターレットだ。

 破壊力こそ20mm弾はおろか、5.56mmライフル弾にも劣る。だが、その精度は群を抜いており、左舷側に設置された2基のターレットが魔導砲弾を正確に1発ずつ破壊した。

 しかし、櫛田の迎撃はここまでだった。1発が艦中央部に当たり、櫛田を軽く揺らした。

 

「被害報告っ!!」

≪応急班から艦橋。艦中央部に被弾。火災なし。排煙が有人区画に流入。衝撃で負傷者発生!!≫

≪CICから艦橋。2番主機排煙路の温度上昇≫

「艦橋からCIC。2番主機停止後に出しうる速力は?」

≪CICから艦橋。出しうる速力15kt≫

 

 霜川は迷った。まだ敵は残っている。しかも北の港まで10kmを切っている。追撃を下そうとしたが次の報告を聞いて改めた。

 

≪給弾室から艦橋。即応弾欠乏。弾薬補充を開始する≫

 

 霜川は歯を食いしばって指示を出した。

 

「……一旦離隔する。面舵。針路300度。HQ22に“敵艦隊。港ニ向カウ”と連絡しろ」

「了解」

 

 霜川は憤怒の思いを抱きながら敵艦と距離を取り始めた。

 

 櫛田が離脱する光景をベルンバレイは見ていた。

 

「パーパルディア軍人の意地を見せてやったぞっ!!」

 

 ベルンバレイの気持ちが昂ったが、それもほんの数秒でった。

 左舷の砲甲板が崩れた『アドミラル・ラーディン』の安定は大きく崩れ、そのまま右へと盛大に傾いた。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

 無事だったベルンバレイや他の乗員は飛び込む暇さえなく。『アドミラル・ラーディン』と共に海底へと引きずり込まれていった。

 

「ベルンバレイ提督。どうか安らかに--作戦を達成するぞ」

 

 『アドミラル・ラーディン』の沈没と櫛田が離れていく光景を見た監察軍残存艦は当初の作戦通り、北の港砲撃に向かった。

 

 

「……まさか沈めきれないとは思わなかったが……まぁいい。準備は整っている」

 

 北の港の岸壁に防御態勢を敷いている第22任務旅団団長の荒谷は、櫛田からの連絡に少し驚きを持っていた。

 戦力差はあれど、それを性能差でひっくり返すと考えていたからだ。現実には、ベルンバレイが上手く事を運んで櫛田に一撃を加え、戦線を離脱させられる結果となったが。

 海を眺める荒谷に一人の参謀が報告した。

 

「旅団長。砲兵隊の攻撃準備。整いました」

「よろしい。砲兵隊に攻撃を許可するよう伝えろ」

「了解」

 

 参謀は隷下の砲兵中隊に指示を出した。

 北の港に展開しているのはたった5門のSPGV(装輪式自走砲)だけだが、戦列艦相手なら十分に対応できる。さらに、中型の観測用UAVが常時敵艦隊を捕捉している。

 

「中隊集中。目標。敵戦列艦。撃てっ!!」

 

 5門の155mm砲はほぼ同時に火を噴いた。

 発射された砲弾は観測用UAVから照射されるレーザーを基に誘導されるビームライディング方式(ヘルファイアと同じシステム)の誘導砲弾で、本来ならバンカーや火点相手に使う砲弾だ。今回の相手は動目標なので、全ての砲弾を同一目標に誘導させた。

 

 時間にして20秒も経たないうちに1隻の戦列艦が吹き飛んだ。

 

「何だっ!?」

「船長。陸上からの砲撃です!!」

「馬鹿なっ!? ニホンは軍艦どころか陸上にすらそんなものがあるのか!!」

「船長。このままでは敵に狙われてしまいますっ!!」

「バカモンっ!! ここまで来て引き下がれるかっ!!」

 

 船長は保身に走らず、パーパルディア軍人として矜持を示そうとした。しかし、指揮官クラスは既に戦死し、残った先任船長の経験では有効策が生まれるわけもなく。全ての戦列艦は射点に着くことができないまま沈められた。

 

 監察軍の戦列艦が戦って(一方的に攻撃されて)いる最中。海岸に到達したフューザーラントは港から5km以上離れた位置に上陸した。

 とてつもない射程の魔導砲の存在を警戒したからだ。

 砂浜で進撃準備を整えていると、ドシンドシンと音を立てながら動く6つ足の生き物が4体歩いていた。

 

「将軍。全部隊。上陸作業完了しました」

「よろしい。進軍を開始する……戦いはここからだ。ニホン」

 

 北の港の戦いはまだ終わらない。




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