OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第38話

中央暦1639年 11月15日

-パーパルディア皇国 エストシラント沖-

 

 この日、哨戒に出ていたパーパルディア皇国海軍の80門級戦列艦『ガニッシュ』の船内は尋常ではない緊張感に包まれていた。

 さもありなん。自身が乗る戦列艦の何倍もの図体で構成される大艦隊が目の前にいるのだ。

 もし艦隊の国籍が西の神聖ミリシアル帝国なら外務局をはじめ、皇国の要人がすっ飛んで対応するだろう。しかし、現在目の前にいるのは日本国の艦隊だ。

 なぜこれだけの艦隊がエストシラント沖に現れたか、それはパーパルディアが北の港を襲撃したからだ。

 現在に至っても、日本とパーパルディアの間に正式な国交(非正規はある)はない。

 ならばということで、日本は意趣返しと抗議という意味を最大限表すため臨時の大艦隊を編成。パーパルディア皇国の首都に送り込んだのだ。

 ちなみに、この艦隊を送ることは外務省経由でカイオスに通達済みである。

 

『臨時艦隊』編成

司令部兼特使護衛班

 ↓

 ↓→第1艦隊

 ↓ ↓→空母『剛鳳』

 ↓ ↓→巡洋艦『愛鷹』

 ↓ ↓→駆逐艦『朝日』

 ↓ ↓→フリゲート『六角』

 ↓

 ↓→第2艦隊

 ↓ ↓→戦艦『磐城』

 ↓ ↓→駆逐艦『黒潮』

 ↓ ↓→フリゲート『馬淵』

 ↓

 ↓→第3艦隊

   ↓→巡洋艦『針淵』『茶臼』

   ↓→駆逐艦『曙』『荒潮』

   ↓→フリゲート『巴波』

   ↓→攻撃原潜『頬白』※潜水待機

 

 パーパルディアは事態が尋常じゃないことを把握すると、外務局は大急ぎで日本特使との会談の場を用意した。

 なお、行動こそ容赦ないが日本はパーパルディアと戦端を開く気は露ほども考えていなかった。ただし、交渉自体を円滑に進めるため、外務副大臣である西城 樹を特使として派遣した。

 

 西城と外務省職員はエストシラント城近くの豪華絢爛な館の一室に案内された。

 会談の場には美熟女であるユステーナ・エルトが部下と共に整然とニホン特使が来るのを出迎えた。

 

「パーパルディア皇国へようこそ。特使の皆様。私はこの国の外務局第1局長に勤めているユステーナ・エルトと申します」

「御親切にありがとうございます。今回特使として派遣された西城 (たつる)と申します。以後お見知りおきを」

「わかりました西城特使」

 

 両者が席に座ると、早速話を切り出したのは西城だった。

 

「さて、今回はお互いの不幸な行き違いに対して話し合うために足を運んだ次第ですが、ミス・ユステーナは話を聞いておらりますか?」

「はい。聞いております。ロウリア王国北の港に駐留していた貴国軍に対し、我が軍が警告を無視して攻撃したことですか?」

「さらに言うなら、結果として貴国の軍は壊滅した。捕虜も200人以上確保している」

「そうですか……」

 

 若干の沈黙が室内を支配したが、エルトが口を開いた。

 

「ニホンから我が国に対して何を要求しますか?」

「ほぅ。受け入れてくれるのかね? 以前貴国と国交を締結しようと奮闘した部下からの報告はかなりの内容だった……それなりの覚悟があるということでよろしいかな?」

「それは……内容次第です」

「だが。非があるのは間違いなく貴国の方だ。それは分かっているだろう?」

「重々承知しております」

 

 西城は少し意地悪しすぎたかなと思いつつ、言葉を発した。

 

「まぁいい。今回不幸中の幸いなのは我が国の国土に被害はなし、ついでに我が軍から戦死者(・・・・・・・)を1人も出していない」

「……」

「--そこで我が国が貴国に要求するのは、無条件かつ対等な国交締結。次に攻撃許可を出した責任者の処罰。さらにこの行動における説明及び再発防止だ」

「……責任者である軍の指揮官は戦死しました」

「失礼だが、現場指揮官が独断で軍事行動を策定し、行動するのが貴国の軍政なのか?」

「いえそれは、我が皇軍はそのような破綻した軍組織ではありません」

「であるなら、言っている意味が分かるだろう? 現場指揮官に命じた上官がいるのが普通ではないか?」

「……」

「--今後、貴国が我が国の周辺で軍事行動を続ければ偶発的な軍事衝突が続く。そして、犠牲になるのは無思慮で盲目的な軍令に従うパーパルディア軍兵士だ。それは理解しておられるかな?」

「……」

「それを穏便に済ませるための条件なのだ。飲まないという選択はあるが、遠くない未来に訪れるのは我が国との全面戦争だ。貴国が敗北するのに一年と掛からない」

 

 西城の言葉にエルトの横に控えていた職員が憤慨した。

 

「何と無礼なっ!! 列強の我が国が敗北など!!」

「試すかね?」

「ドニ。控えなさいっ……。失礼しました西城特使」

「今までそれで外交を進めたのだろうが、我が国はそこまで甘くないぞ」

「西城特使。数日でよいのでお時間をいただけますか? 何分。このような状況は上層部も想定外のため、混乱が生じていますので……」

「いいでしょう」

 

 エルトの言葉に同意した西城は局員に案内され部屋を後にした。

 

「ドニ。セリカ。急いで皇帝陛下にご報告します。西城特使の要求を取りまとめてください」

「わかりました」

「しかし局長。これでは我が国の威信がっ!!」

「ドニ。一時の感情でこの国に戦禍を齎す気ですかっ!? 状況をよく確認しなさいっ!!」

「はっ……失礼しました局長」

 

 ここでの会談のやり取りは、議事録と共に職員が大急ぎで取りまとめ始めた。

 

 その日の晩。皇帝ルディアスやエルト達国家の重鎮たちは夕食を取った後。城の会議室に集まった。

 議題はもちろん日本に関することだ。

 

「それでは、緊急帝前会議を始めます」

 

 進行役の外務局員が音頭を取った。最初に口火を切ったのは、日本との外交において蚊帳の外である『臣民統治機構』のマリオノート・パーラス長官だ。

 

「まずお聞きしたいのだが、現在港外で投錨している“ニホンコク”なる無礼な国家について把握している限りの情報をお聞きしたい」

 

 パーラスが席に座ると、エルトが代わりに口を開いた。

 

「長官の質問についてお答えします。まず彼らの言い分では今年の初めあたりに国全体がこことは違う世界より転移した……とのことです。そして我が国に初めて訪れたのは1月末頃です」

 

 エルトが座ると、続いて『国家戦略局』のアンヴォフ局長が続きを話し始めた。

 

「『国家戦略局』より報告します。4月頃、南方のロデニウス大陸においてロウリア王国が近隣諸国へ侵攻。事前の情報収集の結果、ロウリア王国が大陸を統一すると考えられていました。しかし、開戦から一ヶ月ほど経過して日本国がクワ・トイネ公国に対して軍事支援を開始。以降ロウリア王国を国境線まで押し返し、さらに北の港を制圧した状態で停戦しております」

「……アンヴォフ局長に質問したいのだが、開戦する数年前からロウリア王国に多くの援助をしていると聞いているのだが、真か?」

「真です。詳細は省きますが、その借款もしくは手形をロウリア王国が大陸を統一した後に回収する予定だったため、計画が完全に頓挫しております」

「失礼だが、ロウリアに対する借款はどれくらいの額になるのだ?」

「『国家戦略局』の年間予算約10分の1です」

「額面だけなら大したことはないな」

「……我が皇国の損失がそれだけならばいいですがね」

 

 カイオスは不機嫌な表情を一切隠さずアンヴォフに目配せした。

 

「……カイオス局長の仰る通り、ロウリアに対する支援とは別にフェン王国に対する懲罰と北の港に対する制圧作戦を実施。そして日本国の存在により失敗しました。そして、『国家監察軍』の海上。航空戦力は日本と交戦したことによりほぼ消滅しました」

「そんな馬鹿なっ!?」

「二線級の戦力とて、文明圏外の国家には脅威ではなかったのか!?」

 

 日本をあまり知らない人々の間でどよめきが広がった。

 会議室内の喧騒が広がる中、皇軍最高司令官のグロスチェク・アルデが立ち上がり、ルディアスに質問した。

 

「陛下。彼の無礼な蛮族に対して鉄槌を降せというなら。このアルデ。最大限準備いたします」

 

 アルデの言葉に他の参加者は「そうだそうだっ!!」や「所詮蛮族だ!!」といって囃し立てた。その光景にカイオスは更に不機嫌になっていた。

 

(馬鹿共がっ!! 当の日本がすぐそこに居るというのに、どいつも此奴も目暗しか居ないのか……)

 

 周りは徐々にヒートアップしているが、とうのルディアスは沈黙を保っていた。

 

(日本の力は本物だったか……。下手な決断は我が国が戦禍に包まれる。それだけは回避せねばなるまい)

「エルトよ。日本は我が皇国と和解するにあたり、広大な領土や法外な賠償金は求められてないのだな?」

「はい。強く求められたのは襲撃に対する責任者の処罰です」

「……責任者の処罰か……それ以外に具体的な内容は聞いていないのか?」

「特にありません。処罰の裁量も特に要求はなく。ある程度我が国に一任しているかと思われます」

「ふぅむ……なかなか難しいな。此度の責任は複数に跨るだろう。さらに、下手な処罰では日本の逆鱗に触れかねん」

 

 アンヴォフは血の気がさっと引いた。直接的でも間接的でも日本に対する行動は、すべて『国家戦略局』と『国家監察軍』が進めた事だからだ。流石に全責任を被せられるわけにはいかなかったので反論を試みた。

 

「陛下。お言葉ですが、ロウリアに対する調略を進めるよう仰ったのは陛下自身です。そうなれば責任の所在において--」

「アンヴォフ。貴様何か勘違いしておらぬか?」

「勘違いとはいったい?」

「余はロウリア王国に対する調略を完遂せよと言ったが、日本を排除せよと一言も言った覚えはないぞ?」

 

 ここにきてアンヴォフは以前報告に上がった段階で逃げ道がなくなっていたことに初めて気づいた。そして、間抜け顔を会議室の参加者に晒す羽目になった。

 ルディアスは自身の責任をアンヴォフに押しつけると。他が喋り出す前に話し続けた。

 

「さて、まずアンヴォフを『国家戦略局』局長を辞任させる。あと、ここにいないものでロウリア王国調略を計画した者も今後責任を追及する。異論はないか?」

「「「異論はありませんっ!!」」」

 

 ルディアスはちらっとレミールに目配せすると、また正面に視線を戻した。

 レミールは少なからず背中に冷たいものを感じたからだ。

 

「次に、日本担当だが……現担当のレミールからラキーネアに交代させる。よいな?」

「--っ……陛下のご命令とあらば。命に従い身を引きます」

 

 レミールは何か言いたそうな顔をしたが、皇国の要職が集まったこの場で反論するのは恥を塗るだけだと諦めた。

 あまり関りがなさそうな部署の要人から何か言いたそうな雰囲気を出していたが、陛下の前ということもあり口を噤んだ。

 

「こんなところか。エルト。ラキーネアと協力して日本との和解案を早急に作成せよ」

「わかりました」

「此度の会議はこれで終了とする。カイオスとアルデは残れ」

 

 会議参加者たちは、ルディアスに敬礼を送るとぞろぞろと退室し始めた。

 会議室にルディアスをはじめ、アルデとカイオスだけになると。まずカイオスが口を開いた。

 

「陛下。以前報告させていただいたガハラからの件についてですが、如何いたしますか?」

「魔王ノスグーラの件か。アルデ。皇軍は出せるか?」

「陛下の命が下れば。すぐにでもトーパ王国へ派遣できます」

「よろしい。カイオスよ。アルタラスの方はどうなっておる?」

「こちらの予想通り要求を突っぱねて来ました。さらに、我が国との国交断絶と資産凍結もしております」

「アルタラスは愚かな国家だな。だが、大義としては十分であるな。アルデ。我が国の本気を見せつけてやれ」

「仰せのままに」

「トーパとアルタラスの2正面となる。心して懸かれ」

「肝に銘じておきます」

 

 ルディアスは確かに日本に対する行動は失敗だと確信した。しかし、皇国繁栄のため拡張政策を止める気はさらさらなく。日本の影響外を狙っていく方向で行動することを考えていた。

 

 

 2日後。日本とパーパルディアはラキーネア草案をベースに正式に国交締結と和解条約を組んだ。

 

『日本国(以下甲)‐パーパルディア皇国(以下乙)和親条約

 

1:甲と乙はこの条約締結を以て国交の締結とする。

2:甲が確保している捕虜はこの条約締結を以て速やかに乙に返還する。

3:甲大使館は乙のエストシラント。乙大使館はクワ・トイネ公国マイハークに暫定として設置する。

4:甲は乙に対して交通設備を乙に対して友好価格で提供する。

5:乙は甲に対して、食品。希土砂鉄類。燃料類を甲に対して友好価格で提供する。

6:上記4及び5を除く物品の交易に関しては、両国商人の自由意思を尊重する。

7:上記4及び5の交易に際し、関税は甲乙両国の経済。市場規模に応じて可能なかぎり自由に設定できるものとする。

8:条約締結前に甲及び乙の軍事衝突で生じた損害賠償は相互で請求しない。

9:甲乙間で領事裁判権を有しない。

10:他……

 

 最初。日パ条約草案の内容に皇帝を始め、国の重鎮はよい顔を示さなかった。というのも、衝突による損害は圧倒的にパーパルディア側が多いからだ。もし相手が並以下の国なら、戦端を開いて併呑を選ぶのだろうが、ほぼ一方的に敗北している日本相手に同じ手段は不可能であると判断した。さらに、日本がパーパルディアに法外な賠償金を要求しない事も判断を狂わせた。

 立場が逆なら、以前要求したレミール草案を更に不平等化させたものになっただろうし、するのがパーパルディアという国家だ。

 今回。交渉するほど時間的余裕がないということも考慮され、ある種屈辱的な内容で締結することをパーパルディアは決断することとなった。

 

 条約締結後、西城たちを乗せた日本艦隊は何事もなかったようにエストシラントを後にした。そして、日本とパーパルディアの新たな関係がまさに生まれたときでもあった。しかし、この動きに対して暗い影を落としたことも、また現実だった。

 

 

中央暦1639年 11月23日

-クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ-

 

 薄っすらと雪が積もり始めた公都クワ・トイネ。

 今日も今日とて仕事で疲れた労働者たちは、ご褒美のアルコールを流し込むため、多くが酒場に集まっていた。

 

「「「今日という一日に。乾杯っ♪」」」

 

 男たちは並々に注がれた日本製ビールを一気飲みした。

 

「プハッ♪ やっぱ1杯目は日本のビールで決まりだな」

「確かに。このキレと炭酸の刺激がいい仕事してるぜ」

 

 クワ・トイネ中央駅が完成してから、人の往来が馬車だけだった時代と比べ、市井の交流も増加し更なる商売の拡大へとつながった。

 このように、日本が齎した交通革命とでもいうものは多くのクワ・トイネ国民に好循環を与えていた。ただ、その中で少数ながら喜べない者たちもいた。

 

「ん? ベックじゃねぇか。どうした。そんな湿気た顔して」

「あん? あぁ。ランドの旦那か」

「仕事でヘマでもしたか? おいマスター。日本ビール2つ。追加で頼む」

「あいよっ!!」

 

 ゴトッと置かれたビールをランドは一気飲みした。対して、ベックはちびちび勿体なさそうに飲んだ。

 少し酔いが回ってきたベックは静かに話し始めた。

 

「……実はな。俺を贔屓してくれてた隊商から解雇通告されてな」

「あぁそうか。そりゃクビにされたら湿気た面にもなるな」

「少し前。商会がトラックを導入しても俺たち(隊商護衛)はまだ必要だったんだ。ただ、テツドーとやらが通ってから山賊の手出しはほぼほぼなくなってな。とうとうお役御免ってわけなんだ」

「隊商が賊に襲われない事はいいことなんだがなぁ。お前さんみたいに隊商護衛にとっちゃあ。飯の種がなくなっちまったわけだ」

「若い奴はいいさ。日本のおかげで新しい職にありつける。ただ、俺みたいにそれなりの年まで働いていた側にとっちゃ。転職はつらくてな。今更軍に入隊するのもつらい」

「だが、これからどうするんだ? 今うちの職場も追加職員を募集してるから来るか? 隊商護衛ほど金にはならないが……」

「いや、鉄道が通ってない隊商の護衛には在り付けてな。ひと先ずそっちもお役御免になったら考えるよ」

「そうかい。自棄になって乞食になる前に家に来いよ?」

「あぁ。その時は頼むよ」

 

 こうして酔っ払い共の夜は過ぎ去っていた。

 

 

中央暦1639年 12月2日

-ロウリア王国 とある西の砂浜-

 

 ロデニウス大陸の南西地方。ここでは戦争の騒々しさはなく、潮を含んだ風が吹く日々が続いていた。そして、生活の糧を得ようと漁師が海に出る準備を進めていた。

 

「おい。あれ……」

 

 朝日が辺り一帯を照らすと、漁師たちは浜辺に難破船があることに気付いた。

 

「おい。船だすべ。人呼んで来い」

「合点」

「後、詰所と領主様に事を伝えてこい」

「わかりやした」

「それにしても、海賊にでも襲われたのか? 所々焼け焦げてるが……」

 

 時間が進むと、ロウリア王国西方諸侯の兵士たちが集まり、漁師と共に難破船やその周辺を調べ始めた。

 

 難破船はほぼ横倒しになっており、中に入るのにかなり苦労している。

 先行して難破船の中を調べ始める兵士たちは、真っ暗な船内に生存者がいないか確認している。

 

「お~い。誰か居るかぁ……」

「ぅぅ……」

 

 兵士が船内を探索していると、かすかにうめき声のようなものが聞こえた部屋に入った。

 そこには、気品溢れる女性と凛々しい近衛兵の2人が横たわっていた。

 兵士は手早く首筋に手を当てると、弱かったが脈と呼吸を確認した。

 

「おい大丈夫か。生存者がいたぞ。手を貸してくれ!!」

「わかった。ちょっと待ってろ」

 

 大きな声を出した兵士にピクッと近衛兵が反応した。

 

「ん? 大丈夫か?」

「……ここはぁ?」

「ここ? ここはロウリア王国の西だ」

「ロウリア王国?」

「待ってな。すぐ運び出してやるから」

 

 難破船の外では、漁師や兵士が他の漂流物がないか探していた。中には、物欲を発揮して金目のものが無いか探している者もいるが、派遣された百人隊長がそういう不届き者や不道徳者に対して目を光らせている。

 捜索が続く中、彼の主に当たる領主が治療魔導士達を引き連れて、進捗確認に訪れた。

 

「お疲れ様です。シェートヴァン伯爵」

「ご苦労ビッカム隊長。捜索の方はどうかね?」

「船外に生存者はありません。船内は捜索中です」

「ふむ。しかし、大きな船だな。どこの国の船かわかったか?」

「恐らく、北西のアルタラス王国の商船ではないかと思われます」

「アルタラス王国か……」

 

 シェートヴァンが船を眺めていると、船を捜索している兵士たちが慌ただしく船内へと向かった。

 

「何か見つけたようですな」

「災厄でないといいがな」

 

 その後、兵士たちによって2人の負傷者が伯爵の馬車へと運ばれた。

 負傷者を運んだ兵士はまた船内の探索へと戻った。対して、馬車では壮年の治癒魔導士が2人の容体を見ていた。

 

「ランドルフ。どうだね?」

「……こちらの女性騎士に関しては何とかなるでしょう。外傷こそ多いですが、深い傷はありません。癒しの湯(回復液の風呂)に入れば時間とともに回復するでしょう。問題はこちらの御令嬢ですな。傷自体は腕にかすり傷があるだけですが、顔色や呼吸の見るに毒矢を受けたと思われます」

「助かりそうか?」

「毒の種類を特定するところから始めねばなりません。それまでこの御令嬢の体力が持てばよいのですが……」

「ふぅむ。どうにか助けられぬかね?」

「尽力はしますが……伯爵。何かお考えでも?」

「まぁなんだ。見目麗しい者の命が儚く消えてしまうのに哀愁を感じてな」

「……そういえばまだ奥方が居りませんでしたな。伯爵」

「おっと。今の言葉は不敬罪に当たるぞ」

「これは失礼しました。下心が丸見えだったのでご容赦を」

「まぁよい。私とお前の仲だからな。しかし、ホントにどうにかできないのかね?」

「先ほど申したように、毒の種類を特定できないことには解毒薬も術も意味がありませぬ」

「……そうだ。クイラにこの御令嬢を運ぼう」

「いきなりどうされたのです。伯爵」

「最近。シオス王国との交易で面白い話があってな。何でもここ最近。クワ・トイネとクイラがとてつもなく発展しているらしい」

「はぁ。とてつもなく発展とは?」

「わからん。とりあえず運ぶ準備は整えておく。ランドルフは全力でこの御令嬢を延命させるのだ」

「わかりました伯爵」

 

 患者2人を乗せた馬車はゆっくりと走り出した。




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