OCU日本国召喚   作:Bu3og

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 新年明けましておめでとうございます。
 そして昨年最後の投稿から3か月近く経ってしまい申し訳ありません。

 今年も週一投稿目指して(するとは言ってない)頑張っていきます。


第39話

中央暦1639年 12月5日

-トーパ王国 世界の壁-

 

 フィルアデス大陸の北東にトーパ王国という国家がある。そして、その国の北東には幅数百mの細長い地峡とそれを隔てる巨大な城壁が存在する。

 『世界の扉』。それが城壁の名である。

 遥か昔。魔帝は自らの遣いをグラメウス大陸に置いた……。

ーーーー名は魔王『ノスグーラ』

 

 『ノスグーラ』はフィルアデス大陸中の種族を絶滅するために進軍。フィルアデス大陸の人々はそれぞれの種を超え『種族間連合』を結成し対抗した。しかし、『ノスグーラ』の前に奮戦虚しくフィルアデス大陸全土から追い落とされた。

 その後、ロデニウス大陸まで追い詰められた彼等のもとに太陽神の遣いが現れた。『種族間連合』は遣いと協力し『ノスグーラ』と対峙。フィルアデス大陸を奪還し、グラメウス大陸へ撃退できたのだ。

 フィルアデス大陸に平穏が訪れた。しかし、太陽神の遣いも去り。『種族関連合』はグラメウス大陸からまた魔獣がやって来ても撃退できるよう『世界の扉』を築いた。

 

 そこから何千年と経過し、今日も今日とてトーパ王国軍兵士や傭兵達が『世界の扉』に近づく魔獣を監視。時には撃退する日々を過ごしていた。

 

「ふわぁ~……退屈だなぁ」

「おいガイ。サボると報酬が減るぞ?」

「モア。そうは言っても、何の変化もないのにずっとグラメウス大陸を見続けるのは気が滅入るぜ」

「確かに最近は平和そのものだけど、ここ100年でオークやゴブリンがやってくることは珍しくないんだ」

「オークはともかく。ゴブリンが10匹や20匹来た程度じゃこの城壁は落ちねぇよ」

「何を呑気なことを言っているんだ。これが突破されるようなことになったらフィルアデス大陸に住む人々が困るんだ」

「わかってわかってる。耳に胼胝ができるっての……」

 

 フェルモア・スヴァーンとガイア・ヴェイン。職業こそ違えど2人は幼馴染である。モアは王国の騎士を務め、ガイは傭兵を生業としている。

 今回2人が組んでいるのは、騎士であるモアはともかく傭兵であるガイを幼馴染と組ませて仕事をしやすくするために隊長が配慮したからだ。

 

「そういえばガイ。こっちに来る前、エレイにまた付き合ってくれって言ったのか?」

「あぁ。そうだけど。結局また振られちまった」

「……お互い。まだまだ青いなぁ」

「何だモア。年寄り臭いこと言いやがって」

「いやなに。俺なんて騎士団に入って訓練や任務はしてきたけど、まだまだ若輩だからな。好きな娘を作る余裕がないんだよ」

「ふん。宮務めの辛いところだぜ。俺はそんな縛りはごめんだから傭兵を選んだけど……」

 

 2人が茶を嗜んでいるとガシャガシャと他の騎士が走っている音が廊下から響いた。

 ただ事ではないと思った2人は他の兵士に続くと『世界の扉』の上階へと上がった。

 

 上階へ上がると、何人かの騎士がグラメウス大陸の方を指さし何かを話している。

 

「何かあったのかね?」

「隊長。あれをご覧ください」

 

 一人の騎士が指を指すと、隊長は単眼鏡を持ち出してグラメウス大陸の方を観察した。

 グラメウス大陸はフィルアデス大陸と違い、大陸全体が雪で覆われている。

 そんな銀世界に、何百何千と蠢く黒い群集が見えたからだ。

 

「……まずいな。ガハラの予言通りか」

「あの、ガハラの予言とは何ですか?」

「君は……モア騎士補の友人か。ここに来る前に聞いていないのか?」

「すっ--すみません。多分聞いてたとおもんですけど、聞き流しちゃったかと」

「まぁよい。もはやそれを咎める意味はないからな。モア騎士補。ガイ君。城塞都市トルメスに向かい“ガハラの予言が今日。的中した”と伝えてくれないか?」

 

 隊長の言葉にモアが反応した。

 

「しかし隊長。私も騎士団の一員です。伝令だけならガイだけでもっ!!」

「命令に従えっ! 予言が正しいならフィルアデス大陸に災厄が降り注ぐ、それをいち早く伝えなければならんっ!!」

 

 壮年でいつも温厚な隊長が今まで見せたこともない鋭い目つきでモアを睨みつけた。

 

「……。わかりました。直ちにトルメスへ向かいます」

「よろしい」

「ガイ。いくぞっ!!」

「あっ? あぁ……」

 

 2人は走って馬小屋へと向かった。

 城壁に残った中年の副隊長が隊長に話しかけた。

 

「良かったんですか? 伝令なら彼が言うようにあの傭兵だけでも……」

「副隊長。わかっていないな……予言が本当なら1人増えたところで結果は変わらんよ。それに、死地に若者を残すような真似はできん」

「それはそうですな」

 

 城壁の騎士たちは、各自防衛準備を整え始めた。黒く蠢く集団は城壁から1km近くまで迫る。

 

 

中央暦1639年 同日

-トーパ王国 防衛都市トルメス-

 

「--そうか。とうとう現れたか……」

 

 『世界の扉』からモアとガイは馬を駆って30分。トルメスに到着した2人は防衛騎士団団長のオッツォ・ストングレイに魔物の軍団が現れたことを報告した。

 もちろんストングレイはガハラの予言を知っており、そのため迎撃準備は整えている。

 

「直ちに騎士団総員を招集。首都への連絡と市民の避難を始めるのだっ!!」

「「「はいっ!!」」」

 

 ストングレイの言葉にそれぞれ所定の行動を始めた。

 

「副団長。各国の将軍をここに集めてくれ」

「わかりました」

 

 副団長が部屋を後にしてから1時間後、会議室に救援に駆け付けた各国指揮官が揃った。

 

「各国部隊の皆様。我が王国救援の為に参集していただき、トーパ王国軍騎士の一人として感謝申し上げます」

 

 ストングレイは深々と頭を下げた。

 頭を挙げると、本題を話し始めた。

 

「当方の部下より聞き及んでいると思いますが、『世界の扉』に多数の魔獣の群れが現れました。既に『世界の扉』では交戦していると思われる」

 

 ストングレイの言葉に参戦国の指揮官が質問した。

 

「予言では魔王『ノスグーラ』が復活するとありましたが、実際確認できたのですか?」

「残念だが確認できていない」

「しかし、相手は何万もの魔獣の群れ。それを統率するとなると生半可な魔導士でも不可能です。確認できなくともノスグーラかそれに準じた存在がいるとみていいでしょう」

 

 質問した指揮官の言葉に各国の指揮官も賛同した。

 

「では。ノスグーラが居るという前提で話を進めますが--」

 

 バタンッと扉が開かれると、頭から血を流した兵士が入ってきた。

 

「はぁはぁ……ストングレイ団長……報告します。『世界の扉』が……突破されました。隊長以下若干名が今も『世界の扉』内で抵抗していますが、多勢に無勢のため、陥落は時間の問題と思われます」

 

 兵士の言葉に、参列していた指揮官たちが動揺し始める。

 

「馬鹿なっ!! 早すぎる」

「攻めてきてまだ一刻程度しか経っていないぞっ!?」

「部隊の集結はおろか、トルメス市民の避難も始まったばかりだっ!?」

 

 指揮官たちの言葉に兵士は報告を続けた。

 

「さらに、魔獣軍団の先頭にレッドオーガとブルーオーガ。中央に強力な魔導攻撃を仕掛けてくる4つ角の大型魔人を確認しました。その4つ角が『ノスグーラ』と思われます」

 

 兵士の言葉に指揮官たちの動揺はさらに広がった。ストングレイは場を鎮めようとする。

 

「指揮官の皆様。どうかご静粛に」

「そうですな。ここで慌てても事態は良くならんでしょう」

 

 ストングレイに助け舟を出したのは、パーパルディアからやってきたリューク・フレンツマン軍団長だ。

 

「お聞きしたいのだが、魔獣の群れはどのような構成だったかわかるか?」

「申し訳ありません。目視しただけでもゴブリン数万体。ゴブリンロードやオークも数千体はいました。正確な数は……」

「ふむ。そうか……」

「あの--失礼ですが、ゴブリンやらオークはどういったやつなんですか? 魔獣に関して当方は全くわからないので……」

 

 場の緊張感からズレた質問をしたのは、日本から派遣された山川 淳一大佐だ。

 ストングレイは山川の言葉に呆れつつ、簡単な解説を始めた。

 

「ゴブリンというのは体長1m。肌が濃い緑で頭でっかちな体形ながら、すばしっこく武器を使うくらいに知能がある。ゴブリンロードはゴブリンがある程度成長した姿で、体長は人と同じくらい。オークは体長が2m以上あり、こちらも武器を使うくらい知能はある。こちらは鈍重な代わりに膂力(筋力)に優れており、下手な兵士だと10人いても対処できないくらい厄介なのだ」

「レッドオーガとブルーオーガに関してはどうでしょうか?」

「こちらは軽く3mもの体躯を誇り膂力も強力だ。さらに人語を理解し武器だけでなく幾つか魔導にも通じている厄介な存在だ」

「失礼だが、その話を聞くと話し合いができるように聞こえるのですけど……」

「……そう叫ぶ奴はどの時代にもいるようだ。だが、それを試した愚か者は等しく嬲られて奴らの餌よ。そんな獣を貴官らは話し合いができると本気で思っているのかね?」

「いえ。当方を含め部下一堂に通達しておきます。ストングレイ団長」

 

 ストングレイが額に手を抑えつつ、手元にある茶を啜った。

 

 従兵が手早く周辺地図とコマを配置すると、解説を始めた。

 

「さて、まず我が軍(トーパ王国軍)の配置だが、トルメスに5000人。首都ベルンゲンより15000の兵がこちらへ救援に来る手筈となっている。到着は早くて3週間後。何か聞きたいことは?」

「失礼だが、トーパ王国軍だけでも魔獣軍団の撃退は可能なのですか?」

「上手く事を運んでも難しいでしょう。ゴブリン数万ならともかく。相手は魔王ノスグーラをはじめ、オークにオーガもいる。時間稼ぎはできても撃退は困難でしょう」

「……」

「まず皆様にお聞きしたいのですが、各国の部隊集結にかかる時間を知りたい」

 

 ストングレイの言葉にフレンツマンが反応した。

 

「まず我が皇国軍は2000しか到着していない。最終兵力は50000の予定であるが、集結には早くとも2ヶ月はかかる。さらに、部隊の移動においても同じ時間がかかると思われる」

 

 他の国々もパーパルディアに比べ小規模ではあるものの、集結にはどんなに早くても1ヶ月以上掛かるということだった。

 最後に山川の番が回ってきたが、大いに悩んでいた。

 

「……どうしたのかね。山川隊長」

「そうですね。陸上部隊は3ヶ月ほどですが、航空戦力なら1日2日あれば投入可能です」

「たった2日? 本当なのかっ!?」

「二言はありません。統合軍参謀部よりそのように伝えられています。ただ、厄介な条件があります」

 

 日本はガハラの話が来た後、ガハラを通してトーパ王国に向かった。だが、首都ベルンゲンに到着した派遣隊司令部は愕然とした。

 トーパ王国は北方にあるため、時期も考えれば雪で閉ざされているだろうという想定はしていた。だが、港を除く沿岸の多くが切り立った断崖だったため、揚陸艦とホバークッション艇による重装備の搬入がほぼ不可能だった。

 さらに、首都ベルンゲンの岸壁水深は日防軍の輸送艦が入るには浅く、浚渫船(しゅんせつせん)を引っ張ってくるところから始めなければいけなかった。しかし、そこは他国の港。トーパ王国の海運を止めてまで港を閉鎖することはできなかった。

 仕方なく。日本はガハラ仲介の下、トーパより許可をもらって断崖の一部を自前で使う港建設を始めた。だが、港づくりは重労働だ。年内どころか翌年末まで使える状態に持っていけるかわからない。

 そんな悠長なことも言っていられないと判断した統合軍参謀部は、足の長い攻撃機や哨戒機を投入することを決めたのだ。

 

「その条件とは?」

「……都市に大なり小なり被害がでます。其れをどの程度許容できるかどうかという点で」

「もしトルメスで敵を退けられるなら安い被害だと思うのだが……」

「では、貴国の5000の兵力をすべて失う覚悟はありますか?」

 

 地上部隊の早期導入は不可能だが、さりとて航空部隊投入でも問題がないわけではない。というのも、現段階で日本は一切の衛星。正確に言うなら誘導兵器の目印となるGPS衛星を打ち上げていないのだ。

 JAXA(日本航空宇宙局)は電力の問題さえ解決すれば、衛星打ち上げができると報告している。しかし、必要な電力を回そうにも、現状では原子力や核融合(総発電量の約5割)だけで国内の電力需要(転移後は8割超)を賄っている。緊急性という点でJAXAに電力が回ってくるのは当分先の話なのだ。

 

「……いや、今後の防衛も考えると流石に困る」

「そういうことです。当方が航空戦力を派遣する場合。せめて敵味方の距離が数百m。理想でいえば1kmは離れていることが前提です。敵と一緒に味方を攻撃したくありませんので……」

「しかし、貴官の話が本当なら航空戦力は魅力的だ。どうにかできないのかね?」

「残念ながら、今後予想されるであろう数万もの敵味方入り混じった状態で航空戦力の投入は味方を間違いなく巻き込みます」

「ううむ。どうしたものか……」

 

 山川は今後の行動を考えつつ、戦力を再確認した。

 

『第23任務旅団/トーパ王国緊急派遣軍』

第2師団/第21機械化連隊

前線指揮中隊※トルメス近郊に展開

 ↓    ※重装備類なし

 ↓

 ↓→第21機械化連隊/第1機械化大隊※日本本土で輸送待機中

 ↓  ↓→第1中隊

 ↓  ↓→第2中隊

 ↓  ↓→第3中隊

 ↓  →→WAP中隊

 ↓

 ↓→第21機甲連隊/第1戦車大隊※日本本土で輸送待機中

 ↓  ↓→第1中隊

 ↓  ↓→第2中隊

 ↓  ↓→第3中隊

 ↓  ↓→機甲工兵中隊

 ↓

 ↓→第21自走砲兵大隊※日本本土で輸送待機中

 ↓  ↓→第1中隊

 ↓  ↓→第2中隊

 ↓  ↓→第3中隊

 ↓  ↓→補給中隊

 ↓

 ↓→第5師団/第51重工兵大隊/第1中隊※順次トーパへ輸送中

 

「はぁ……」

 

 山川は現状に溜息をつくしかなかった。なんせ、ほとんどの部隊が本土で輸送待機中。しかも岸壁もしくは海岸が作られてから輸送開始となる。何ヶ月先になるかわかったものではない。そして、『世界の壁』からトルメスまで歩いて半日程度の距離だ。

 先ほどの兵士の報告が本当なら、早ければ2時間程度で敵はやってくる。

 山川はトルメス防衛に参加したいというのは嘘偽らざる本音だ。だが、戦力が一切(小火器はある)ない現状で戦う選択は流石になかった。

 

「指揮官の皆様。ここトルメスに敵が来るのも時間の問題となった。今後のことを考えれば貴官らがトルメスに居続けるのは好ましくない。よってここからまず南にある『アリーヨウル』に向かってもらう。よろしいかな?」

 

 山川を含む各国の指揮官はストングレイの言葉に同意した。しかし、フレンツマンだけは違った。

 

「--ストングレイ団長。一時敵を退ける策があると言ったら、乗りますかね?」

「……何か妙案でも思いつきましたか?」

「うまく事を運べば、敵を一網打尽にできるかもしれません」

 

 そういってフレンツマンは自信ありげにストングレイに答えた。

 

 

中央暦1639年 12月7日

-日本国 千歳空港-

 

「--HQ23より支援要請。内容は対地爆撃要請!!」

「よろしい。待機中の『オルガン』隊を出撃させろっ!!」

 

 異世界に転移してから久しく静寂が増した空港では早朝から慌ただしく何機もの航空機がエンジンを起動させている。

 

「オルガン1。滑走路進入を許可する。準備でき次第離陸せよ」

≪オルガン1了解。滑走路へ進入。離陸する≫

 

 全長30mを超える紺碧の巨鳥が滑るように滑走路端で止まると、ジェットブラストが猛烈に吐き出された。

 飛び立とうとする巨鳥の名はAー3B攻撃機。

 日防軍を含むOCU向けに開発された大型攻撃機だ。

 OCUは他勢力と比べ多くの島嶼で構成されている。そのような地形で有機的に航空戦力を運用するにはマルチロール機では限界があったのだ。特に、重量級空対艦ミサイルの運用できる機種を保有していたのは日本とオーストラリアだけだった。

 時代が進みOCU全体で艦隊型空母の保有が進んでも、大型攻撃機の需要は廃れることはなかった。

 現在日防軍は攻撃機を2種類保有している。

 その内最も新しく、かつ多く保有しているのが上記の機種である。

 機体形状はマッハ1.5の超音速を叩き出せる構造となっており、見る人が見れば“B-1B爆撃機の可変翼をデルタ翼に変更した機体”と評する人も居る。

 なお、空対艦ミサイル運用を前提としており、機内機外両方にステーションが設置され、汎用ASMであれば12発。重量級超音速ASMであれば8発搭載できる能力を有している。

 閑話休題

 

 今回オルガン隊は1機につき250kg級無誘導爆弾を機外含め48発搭載している。

 飛び立った4機の巨鳥は一路魔王と対峙する仲間の元へ馳せ参じるため、北へと機首を向けた。

 

 

中央暦1639年 同日

-トーパ王国 防衛都市トルメス-

 

「弓兵隊っ!! 狙え!! 放てっ!!」

 

 何十本の弓矢が街道を進むゴブリンやオークに殺到した。

 

「ギギャッ!!」

「グゲェェッ!!」

 

 軽装な魔獣十数体が矢の餌食になる。しかし、運よく当たらなかった魔獣が街道を全速で突き進む。

 

「来るぞっ!! 亀甲隊形!!」

 

 大盾持ちが最前列に並び、その後ろに長槍兵が3列配置されている。

 

「グアアァァ!!」

「クゴッ!!」

 

 無闇に突っ込んだゴブリンに何本もの槍が突き刺さる。

 

「ウガァァ!!」

 

 オークが大盾に突っ込もうとする。いくら複数で戦列を敷いても、人間にとってオークはたった1体でも脅威だ。

だが、オークが戦列に迫るとタタタッという炸裂音が響く。そしてオークの頭に風穴が空いたと思ったら血潮や脳漿が撒かれ、崩れ落ちる。

 近くにある建物の窓から白い煙を吐き出す鉄製の細い筒が伸びていた。

 

「シエラ4からCP。オークダウン。送れ」

≪CPからシエラ4了解。引き続きオークを優先的に対処せよ。送れ≫

「シエラ4からCP。了解。オーバー」

 

 魔獣軍団が『世界の扉』を落とし、トルメスへ侵攻を始めてから2日。トーパ王国軍はトルメス市内に入れる街道という街道に布陣。魔獣軍団に出血を強いながら市内に入らないよう防衛戦を続けていた。それを支えるため、魔獣軍団の中で脅威となるオークは日防軍がライフルマンを回せるだけ回し、突破しそうになったら射殺している。

 おかげで、戦力的に劣勢ながらトルメス市内の防衛線は維持されていた。

 

「よし。敵は居なくなったな。第37小隊。50歩前進」

 

 一時的に魔獣軍団が減ると、空いた分だけトーパ軍歩兵が前進した。

 ほぼ2日間戦い通しだったが、トーパ王国軍兵士の消耗は今のところ戦死者約100人。戦傷者は300人を下回る程度に抑えている。

 対して、魔獣軍団はトルメス防衛部隊の縦深防御に苦戦し、オーク十数体を含む300体以上が無残に亡骸を晒している。

 

「各隊。次の突撃に備えよっ!!」

 

 苦しい戦いを強いられながらも、トーパ兵の士気は高かった。

 

「ーーストングレイ団長。本土の空軍基地から航空隊出撃の報告が入りました。トルメス上空到着まで約2時間後です」

「わかりました山川隊長ーーハール。マッシュ。手筈通り。前衛に仕掛けを作動させろ」

「「わかりましたっ!!」」

 

 トーパ軍部隊は北から市街に入れる街道全てに兵を配置していた。

 その内、市街の端に配置された部隊に伝令兵が駆け寄る。

 

「隊長。団長より命令。”渡り鳥は来たれり。街灯を灯せ“とのことです」

「時は来たか……第62小隊は緩やかに後退。弓兵隊は戦列後退を援護。工兵は仕掛けの準備をせよっ!!」

 

 対峙する魔獣軍団もトーパ軍歩兵の後退を見ると、突破を図ろうとする。しかし、雨の如く降り注ぐ矢の前に進めずにいる。

 

「どんどん放てっ!! ここのやつを使い切っても予備は十分にある」

 

 歩兵が十分に後退すると、工兵が街道を塞ぐように住民が置いていった家具や薪。油を吸わせた衣類で即席のバリケードを構築した。

 

「隊長。街道の封鎖完了。建物の中も準備万端です」

「よろしい。火を点けろっ!!」

 

 隊長は松明を持った兵士に指示を出すと、兵士は導火線代わりに垂らした油に火を点けた。

 油を伝って凄まじい勢いで火が回り。バリケードと建物があっという間に火に包まれた。

 

「ゲゲッ!?」

「ウガガ?」

 

 攻める魔獣軍団は困惑した。守るべき街を自ら破壊する行動に理解できなかったからだ。また、その光景は一箇所ではなく他の街道でも起きていた。

 最終的に市街に入れる道という道は炎で塞がれ、魔獣軍団は攻撃の手を止める羽目になった。

 先方部隊を率いるレッドオーガはノスグーラに現状を報告した。

 

「魔王様。人間共が自分達の手で街に火を放ちました」

《ふむ。人間共は街の防衛が不可能と判断して焦土作戦を始めたのだろう。無理強いする必要はない。火勢が落ち着くまで待て》

「わかりました」

 

 ノスグーラは過去の戦いを覚えていた。太陽神の遣いとの戦いは熾烈の極みだったが、『種族間連合』の戦い方は魔法はあれど、所詮槍や弓を中心とした戦いだ。脅威度で言えばその程度でしかない。

 そんな物思いに耽ていると、トルメスから流れてくる煙が本陣にも届き始めた。

 

 

「ーーストングレイ団長。予定通り、街に侵入できる道という道に火を放ち、封鎖が完了しました。魔獣数匹が入り込みましたが、すでに対処済みです」

「よろしい。ここまでは予定通りだ。山川隊長。後は貴国の航空部隊が仕上げるのみだ」

「お任せください」

 

 山川は到着と同時に持ち込んだ大型鳥類サイズのUAVを飛ばして魔獣軍団の配置を確認させた。

 UAVはかなりの低空で飛行しており、晴れた空ならすぐに存在を露呈しただろう。しかし、夥しい量の煙が空を覆っており、さらに延焼防止も兼ねて魔導士による風魔法を用いて煙を魔獣軍団へ流れるよう誘導している。

 煙の間隙からUAVに気づく魔獣もいたが、一瞬で煙に巻かれるため、報告どころか詳細を把握することもできなかった。

 

《オルガン1からHQ23。通信テスト。繰り返す。通信テスト》

「HQ23からオルガン1。通信良好。繰り返す。通信良好」

《オルガン1からHQ23。上空到達まで後10分。魔獣共に大量のかやく飯を持ってきたがピンポイントで届けることができない。配達場所を指示してくれ》

「HQ23からオルガン1。IRニードルを使う。IRニードルが落ちているところに配達してくれ」

《オルガン1からHQ23。IRニードルを目標にする》

 

 4機の攻撃機が近づいてきた。山川はUAVドライバーに指示を出してIRニードルを魔獣軍団の周辺に投下させた。

 IRニードルは赤外線信号発信装置を内封した大型のフレシェット弾だ。

 直径3cm。長さ20cm。重さは300g程度だ。UAVやボウガン。擲弾筒から発射することを想定している。

 作動時間は3分と短いが、敵中で使い捨てするものなので何ら問題はない。

 快晴であれば夜間でもレーザーによる指示ができるのだが、火災煙によってレーザーの通りは悪い。

 赤外線なら壁や火の中でない限り、煙程度なら信号を通すことができるのだ。

 

 何も気づかない魔獣軍団は火の手が収まるまで休息を取っていた。

 

「アガッ!?」

 

 頭に見たことがない大きな針(IRニードル)が落ちてきたことに驚く魔獣は不思議そうに空を眺めた。そして、それがまさか死を呼び寄せる呼び笛だと気付くことはなかった。

 

《オルガン1からHQ23。目標補足。爆撃開始。繰り返す。爆撃開始》

 

 煙より遥か高い空に4機の巨鳥が飛んでいた。そして、巨鳥が抱えている合計48tもの爆弾が投下され始めた。

 192発もの爆弾から独特な風切り音が奏でられ、魔獣軍団の頭上に降り注いだ。

 近接信管が作動すると、近くにいた何十という魔獣達が爆轟に飲まれていく。

 爆弾の炸裂にレッドオーガは恐れ慄いた。

 

「これはまさか。太陽神nーー」

 

 レッドオーガは古い古い記憶に刻まれた傷痕を思い出す。しかし、痛みを感じる間もなく250kg無誘導爆弾に跡形もなく消し飛ばされた。

 

 前線の魔獣軍団に起きている惨劇はノスグーラの居城と化した『世界の扉』からでも見ることができた。

 

「この魔力を感じない爆発。あの憎き使い共が?」

「魔王様。戦列を率いるレッドオーガの信号が途絶えました」

「わかっている……ブルーオーガよ。このままでは総崩れに成りかねん。仕込みを施すゆえ時を稼ぐのだ」

「わかりました。どれくらい稼げば宜しいですか?」

「……1ヶ月だ」

 

 爆発が収まると、雪を被る針葉樹が広がる森は一変していた。

 

《オルガン1からHQ23。爆撃完了。帰投する》

「HQ23からオルガン隊。爆撃感謝する」

 

 自らの役目を果たした4機の巨鳥はゆっくりとその翼を南へと向けて飛び去っていった。

 爆撃完了後の戦果を確認するため、山川達は改めてUAVを飛ばした。

 

「山川隊長。魔獣軍団に多数の損害を確認。残存は街への攻撃を断念して敗走しつつあります」

「よろしいーーストングレイ団長。当方の攻撃は完了しました。しかし、少なくない魔獣が生き残ったようです」

「……あぁそのようだな、追撃の用意をーー」

 

 ストングレイが新たな指示を出そうとするが、それより早く伝令兵が報告にやってきた。

 

「ストングレイ団長。報告します。爆風で多くの建物に火の粉が飛び散り、市内各所で火災が発生。さらに、市内の建物が複数倒壊。また、爆発で仕掛け付近の建物及び防衛設備が多数崩壊しました。死傷者も多数出たとのことです」

 

 ストングレイをはじめ、部屋に詰めていた者は一様に頭を抑えた。

 

「ーー追撃どころではないようですな」

「そのようだ」

 

 締めの悪い終わりだったものの一先ずトルメス防衛はトーパ王国側に軍配が上がった。しかし、戦いが落ち着いてトルメス市街を見回ると、空爆による余波は市街各所に多くの爪痕を残していた。

 確認できているだけでも、魔獣軍団の約7割が空爆だけで消し飛んだ。だが、それと同時にトーパ王国軍兵士が建物の崩落や火災に巻き込まれる形で500人以上の死傷者を出すことになり、またトルメス市街全域の建物1割。防衛施設に至っては4割に損壊が生じた。

 魔獣軍団は後退したものの、トーパ王国軍は市街復旧に追われる羽目になる。

 

 魔獣軍団が撤退してから3日。市内の火災もほとんど落ち着くと、現状を把握するためストングレイや山川達が市街を視察していた。

 

「ーーいやはや。貴国の攻撃は凄まじいものですな。山川隊長」

「えぇまぁ。そうでしょうな。ハハハ……」

 

 山川はストングレイの言葉に応えるが、内心その称賛をそのまま受け入れることはできなかった。

 トーパ王国兵の多くは日本軍がトルメス防衛の立役者であることはを理解している。ただ、市街に生じた損害の多くが日本軍の空爆によるものであることも知っているため、彼らは山川達を全面的に好意を持って迎え入れずにいた。

 山川達もトーパ王国兵の心情を理解しているため、トーパ王国兵とともに市街復旧に手を貸している。

 そんな居心地の悪さを感じている山川に対して、フレンツマンは純粋に称賛の声を送った。

 

「山川隊長。トルメス市街を被害は確かにありますが、数万の魔獣をものの見事に撃退できたのは貴国の存在のおかげだです。そこまで卑屈になる必要はありません」

 

 フレンツマンの言葉にストングレイの続いた。

 

「左様。フレンツマン殿の言う通り。我軍だけで防衛したら被害はもっと大きいものになった可能性が高い。部下には貴国の評判が良くなるよう私からも説得しよう」

「よろしくいお願いします」

 

 ストングレイ達が防衛隊司令部に戻ると、他の国の指揮官たちが集まっていた。

 

「……各国指揮官の皆様。現在の戦況について報告いたします」

 

 ストングレイは机にトルメス周辺の地図と駒を配置した。

 

「まずこのトルメスに攻め入った魔獣軍団は大きく削がれ、生き残りは『世界の扉』まで後退。籠城の構えを見せている」

「失礼ですが、敵の残存はどの程度ですか?」

「斥候を放ち調べさせているが、最低でも1000体は確実にいると思われる」

「その程度であれば、増援のトーパ王国軍と合流すれば奪還は容易ではないですか?」

「事がそう単純であればよいのですが、我が軍は防御を重点的に軍備を整えているため、攻城装備の類が一切ない。さらに、恥ずかしいことながら我が軍のなかで攻城戦を得意とする指揮官もいないのだ」

「しかし、彼我の戦力差は大きい。攻城装備がなくとも『世界の扉』奪還は可能ではないか?」

「相手がなんの策もなく籠城しているならよいのだが、気になる報告が斥候隊に同伴した魔導士から上がっている」

 

 ストングレイは魔導士の報告書を掲げた。

 

「報告書には”ブルーオーガの反応はあれど、ノスグーラの反応が確認できず”と記されている」

「あまりの被害に逃げたのでは?」

「いや、魔導遮断の結界を張って待ち伏せしているやもしれぬ」

「しかし、魔導が使えない素人ならまだしも、あれだけの魔導を持つ怪物の魔力を完全に遮断する術などあるのだろうか?」

あれ(・・)を生み出したのは古の魔帝だ。失われた古代魔法の中にそういう魔術があっても不思議じゃない」

「そうなると、攻めるには不確定要素が多いですな」

「左様。参謀とも話し合ったが、大規模な動きがない限り現状監視に留めるつもりである」

「しかし、『世界の扉』をずっと放置するわけにもいきますまい。下手をしたら魔獣共が増援を待っている可能性もある」

「では、各国の戦力が整い次第。『世界の扉』奪還作戦を進める方向で宜しいかな?」

「「「異議なしっ!!」」」

 

 大まかな方針が決まると山川達は各々の野営地へと解散した。




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