OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第40話

中央暦1639年 12月17日

-クイラ王国 バーダット-

 

 国土のほとんどが乾燥した土地で覆われているクイラ王国。今まで貧困の代表ではあったが、日本による新資源開発投資によって様変わりし、今では最も経済が発展しているといっていい。

 そんな発展の旨味を逃すまいと、情報に聡い商社の多くがクイラに船を出した。

 シオス王国の商船『デ・ハロ・セーカ』もまた、クイラに商売のために訪れた船の一つだ。いつもなら交易品を運ぶ彼の船だったが、今回はひと際特殊な荷物を運んできた。

 船が停泊している岸壁には荷馬車とは別に日本がクイラに送った救急車が横付けされているからだ。

 

「船でまた病人が出たのか?」

「だろうな。しかも日本の白荷馬車が来てるってことは相当重病なんじゃないか?」

「ほーん……」

「おいそこっ!! 手ぇ止めてないで作業続けろっ!!」

「すみません親方」

「すぐ行きますっ!!」

 

 野次馬達は親方の怒声で蜘蛛の子が散るように作業場へと戻っていった。

 

 救急車の中では、救急隊員が2人(・・)の傷病人を診ている。

 

「……毒自体は対して強くなさそうですが、栄養失調と脱水症状も重なっており、放置するのは危険な状態です」

「姫様はっ、姫様は治るんでしょうかっ!?」

「おっ。落ち着いてくださいリルセイドさん。あなたも骨折しているんですから。安静にしていてください」

 

 声を荒げたのはラウラ・リルセイド。アルタラス王国騎士団に属する女性騎士である。彼女もまた救急隊員に介抱されていた。

 

「すっ。すみません」

 

 救急隊員はリルセイドを宥めると、同伴している魔導士に話しかけた。

 

「精密検査が必要なのでクイラ共済病院へ搬送します。ヴェンハムさん。よろしいですか?」

「問題ありません。お願いします」

 

 ケリー・ヴェンハムは師匠のランドルフより2人の付き添いを命じられた魔導士だ。

 本人としては厳格な師匠から少し離れて異国の地を観光できることに不謹慎ながら楽しみにしている。

 

 岸壁から救急車が動き出し、病院へと向かった。

 

「あれは自動車か? まさか第3文明圏外にあるとは……本国に報告しないと」

 

 とある商人に扮した情報局局員は、宿に着くと手早く日本の救急車について報告をまとめ始めた。

 

 

中央暦1639年 12月25日

-日本国 三陸沖-

 

 日本では慎ましながらクリスマスと年末年始の準備が進められる中。それを謳歌できない者たちがいた。

 北関東三陸沖。その海域に1隻のコルベットが航行していた。

 

≪敵味方不明機接近。方位300。距離750(75km)。高度3500。数10。速度200km/hで接近中≫

《そーいんせんとうようい。繰り返す。そういんせんとうよぅいっ!!》

 

 艦内マイクと共に警報が流されると、各区画で待機していた乗員が慌ただしく動き出した。

 

「遅い。遅いぞっ!!」

「敵は既に準備万端で近づいているんだぞ。このままだと攻撃されてこの軍艦はお陀仏だっ!!」

 

 乗員に檄を飛ばすのは日本人乗員だ。それに対して檄を飛ばされている乗員の中に日本人は一人もいなかった。

 彼らはクワ・トイネ軍の兵士だ。人間もいるが、それと同じくらいエルフやドワーフなど異世界人が艦内を走り回っている。

 何故このコルベットでこのような光景が広がっているのか?

 

 この艦は元々。哨戒艦『楓』という名の日本国防軍籍のコルベットだったのだが、現在では(・・・・)クワ・トイネ海軍コルベット『ウルタノ』という名に変わっている。

 

 日本はクワ・トイネの軍事支援に前向きながら、陸上兵器や航空兵器と比べ製造に時間がかかる軍艦を1から設計建造する余裕が諸般の事情で一切なかった。そこで、比較的短時間で戦力を提供するため除籍させた哨戒艦を改修してクワ・トイネに送り出すことにしたのだ。ただ、いきなりクワ・トイネ側に大型軍艦(クワ・トイネ基準)を提供されても運用が難しいと考えられ、元乗員を教官としてクワ・トイネ人達の乗員育成と運用試験を同時並行で行っているのだ。

 

楠型哨戒艦『楓』(※鋼鉄の咆哮3より)

 

【挿絵表示】

 

全長:80m

全幅:10m

排水量:約2000t

主機:AGL(全ガスタービン発電・モーター駆動式All Gus turbine generator)

速力:23kt(約42km/h)

武装

1:35mm重機関砲  1基

2:20mmCIWS  2基

3:3連装短魚雷発射管 4基

 

ウルタノ型コルベット『ウルタノ』(※鋼鉄の咆哮3より)

 

【挿絵表示】

 

全長:80m

全幅:10m

排水量:約1950t

主機:AGL(全ガスタービン発電・モーター駆動式)

速力:23kt(約42km/h)

武装

1:127mm砲    1基(手動装填式)

2:20mmバルカン  2基(有人砲塔式)

 

「艦長。そういんはいち完了」

 

 『ウルタノ』副長の言葉に日本人指導官はストップウォッチを止めた。

 クワ・トイネ人たちは日本人指導官の言葉を静かに待った。

 

「最初の艦内マイクから配置完了まで8分36秒……まだまだですね」

 

 艦橋に詰めていたクワ・トイネ人は指導官の言葉に落胆してしまう。

 

「……やはり、なかなか慣れませんな」

 

 初代『ウルタノ』艦長となったマクスウェル・ジローは軽く落胆した。彼は元々軍船船長を務めており、日本製コルベットの導入が決まるとそのまま艦長に就任した。

 

「初めて使う艦ですからね。慣れないのなら慣れるまで訓練をするのみです」

「優れた装備なら少しは楽だと思ったのですがね……」

「いくら装備が優れていても、使いこなせないと唯の鉄くずと変わりません」

「耳が痛いですな」

 

 ジローは指導官の言葉に頭を掻きながら艦内マイクを入れた。

 

「そういんはいちようぐおさめ。繰り返す。そういんはいちようぐおさめ」

 

 ジロー達クワ・トイネ人の訓練は1日中続いた。多くの乗員は疲労こそしていたが、クワ・トイネ海軍の新たな1ページを作っているという自負を胸に慣熟訓練を受けるのだった。

 

 

中央暦1640年 1月1日

-クワ・トイネ公国 城塞都市エジェイ-

 

 この日、クワ・トイネの各地で新年を祝う宴が開かれていた。

 ある者は親しいものと親睦を深め。ある者は新年の儀を執り行い。ある者は盛大な新年の催し物を楽しんでいた。

 そんな中、とある酒場の個室では一人の男が沈鬱な雰囲気で晩酌していた。

 

 その男の名はエリオット・ノウ将軍。この都市では名前を知らない人はいない有名人であり、“ロウリア軍を撃退した名将”である。しかし、その二つ名は本人にとって甚だ不名誉なものだった。なぜなら、本人を含め防衛騎士団の参謀や他の将官は政治的プロバガンダであることを知っているからだ。

 5月中ごろ。ロウリア軍の先遣隊が都市に迫る中、数的劣勢でも十分に防戦できる体制を整えていた。だが、軍上層部の意向により日本軍が参戦すると、瞬く間にロウリア軍は国境まで撃退。結果的にクワ・トイネ軍は苦もなくお零れ(・・・)の勝利を得ることになったのだ。

 政治次元。戦略次元で見れば想定よりかなり少ない被害でロウリア軍を撃退できたのは幸運か奇跡の類であり、喜ばしいことだった。しかし、現場で軍歴と実績を積んだノウから見ると、自らの手で決していない戦いで得た勝利を素直に喜べなかった。

 ギムを奪還してしばらくした後。軍上層部はノウに対して叙勲と軍本部への栄転の話を持ち込んだ。だが、またしてもノウは素直に喜べずにいた。

 最終的にノウは異動の話を引き受けた。エジェイ防衛騎士団の後任は既に決まっており、引継ぎが終われば晴れて公都へ出発する予定だ。

 そんな喜ぶべき証と喜べない感情を抱いた状態の中、新年を迎えたこの時にとある人物と会うため、一足先に晩酌しているというわけである。

 

「……はぁ……」

 

 ノウがショットグラスをカラカラと鳴らしていると、この酒場を紹介したとある人物がやってきた。

 

「遅れて申し訳ありません。ノウ閣下」

「待ってはいないよ。それで、ファンブルトン商会の頭取が私に話とはなんなのかね?」

 

 頭取ヨナサン・ファンブルトン(本名パステル・バトラー)はウェイターに食事を用意するよう伝えると、多種多様な料理が運ばれてきた。

 

「事はとても長い話になります。ひと先ず食事を採りながらゆっくり話しましょう」

 

 ウェイターに室外で待つよう促すと、パストルは軽く話し始めた。

 

「実は、我が商会は日本との取引でなかなかに好調な業績を上げていまして……」

「その手の景気がいい話はよく聞くな」

 

 ノウはヨナサンの言葉に少しムッとした。その手の『日本のおかげで儲かっている』という話は市井で多く聞くからだ。

 日本の存在に複雑な感情を持つノウにとって面白くない話だったからだ。

 

「……すみません。何か不快な事でも?」

「いや、どこも日本のこととなると喜ぶからな。胸焼けしているだけだ」

「そうでしたか、ではこのような話は聞いたことがありますか?」

「どんな話かね?」

「日本によって多くの者に富が舞い込んでいます。しかし、それとは別に職を失った者達がいること」

「職を失った? そんな話は聞かないな」

「そうでしょう。しかし、事実なのです」

「……なぜ職を失ったのだ?」

「--公都とマイハークの間でテツドウというものが敷かれてから、その2都市間で商売をしていた多くの隊商が解散したのです」

「テツドウか。エジェイもあと少しで開通する話だったな。それが隊商の解散と何が関係があるんだ?」

「今まで公都とマイハークの間では、数百台もの荷馬車が行きかっていたのです。しかし、テツドウが完成すると荷馬車の輸送がほぼすべてテツドウに流れてしまったのです」

「……そんなにすごいのか?」

「それはもう。公都とマイハークの間を走る貨物列車は重さにして700tもの荷物をたった1回で半日も掛からず運べます。荷馬車で同じ量を運ぼうと思ったら、2000もの荷馬車を用意しても1週間はかかります。こうなっては隊商による商売は成り立ちません」

「……まさか必死にかき集めた軍の輜重隊(補給部隊)が日本だとその程度になってしまうのか」

「しかも。話はそれだけではありません。テツドウは荷馬車に比べてとても襲いにくく、隊商護衛が必要ありません」

「そうなのか? それだけ荷物があるならテツドウでも護衛が沢山必要だと思うのだが?」

「テツドウが敷かれたあと、風の噂で強盗に遇ったようですが、テツドウは矢や剣を通さないほど堅牢でしかも全速の騎馬より早いのです」

「……荷物が奪われないのはいいことではないか?」

「事が単純であればそうなのですが、それ以降。賊はまだ荷馬車を使う地方や辺境向けの隊商を襲うようになったのです。さらに、大規模隊商に雇われていた隊商護衛も何百人という数が失職する結果となっており、公都やマイハークでその手の失業者が多くなっているのです」

「ふぅむ。まさかそんなことが起きているとは……」

 

 ヨナサンが言うように、鉄道をはじめとする日本によって支援された交通設備によって既存の商会では赤字転落や解散が多く生まれ、失業した労働者は発生した。しかし、その話は多分に誇張が含まれている。

 

「……政府上層部は何か対策を採っているのかね?」

「これといって具体的な策は……」

 

 確かにクワ・トイネ政府は大がかりな失業者対策は採っていない。といのも、日本はクワ・トイネに鉄道を敷設する計画を進めるとともに『クワ・トイネ国営鉄道機構《Cuwa・Toine Railway Organization》』という組織を発足させた。目的は鉄道運行に関わる車両整備や運行能力を時間とともにクワ・トイネ人に学習させ、日本人の数を減らすためだ。

 現段階でも纏まったクワ・トイネ人がCROの職員として雇用されており、ここからさらに拡充することが決まっている。さらに現状でも人手不足で追加募集を図っているのだ。さらに、日本の支援で商機を察した商会は積極的に日本の事業に参加しているというのが現実だ。よって、ヨナサンが言うような失業者は生まれたものの、大体が再就職に成功している。

 ただ、ノウは軍人ゆえ経済に関して疎く、ヨナサンの話をある程度信じてしまった。

 

「上層部め。一体何を考えているのやら」

「恐らくですが、日本との交易による利潤で目が曇っているのかもしれません」

「フンッ!! 賄賂を贈って便宜を図ったか。よくある話だな」

 

 政府上層部に対して日本は賄賂を渡しているとノウは予想した。クワ・トイネという国家は平穏な部類だが、かと言ってすべてが全て清廉潔白な国家ではないからだ。しかし、ノウが予想するような日本から政府上層部に対する賄賂は払っていない。

 日本はクワ・トイネ政府の信頼を得ることと同じくらい、クワ・トイネ市民に不信を持たれないようにしているからだ。

 

 ある程度クワ・トイネに対する支援が進んだころ、経済産業省のとある物流に明るい官僚から意見が出たのだ。

 

「我が国から多くの車両や鉄道を導入したら、荷馬車を用いるクワ・トイネの商会は倒産するのではないか?」

 

 官僚の意見に枢木内閣は一様に首を傾げた。というのも、その時(現段階でも)の至上命題である『日本国民に必要な食糧を生産輸入できる態勢をクワ・トイネに構築する』ことを目指しており、クワ・トイネの産業構造を考慮できる状態ではなかったからだ。

 しかし、貧富の格差による治安悪化で真っ先に標的にされそうなのは、新参者である自分たちだと日本政府は判断した。

 日本政府はクワ・トイネ政府と実務者協議を開き、福利厚生の支援や職業訓練に市民レベルでの文化交流など、民心を得る施策を細々と始めている。

 

 閑話休題

 

 ノウはヨナサンの言葉により日本に対して憤りを感じるようになった。

 

「それでファンブルトン頭取。私はどうすれば良いかね?」

 

 パストルはノウの言葉にしめしめと感じながら、話を進めた。

 

「当商会は国内のこの状況に心を痛めており、失業者を可能な限り雇用しております。しかし、経済発展と共に我が商会もいつまで経営できるかどうか……ですので、“エジェイの英雄”である貴方から“日本から支援を受けすぎるのはよくない”とお伝えしていただけませんか?」

「……そのような迂遠な言い方でいいのか?」

「軍人であれば直接的な言い方でもよいでしょうが、相手は大臣や役人。軍人の言い方は刺激が強すぎます」

「まぁ。わからんわけでもない」

 

 パストルはノウが話に乗り気なようで胸を撫でおろした。

 

「そのような事情が進んでいるなら、まぁ進言しておこう。丁度軍中央に異動が決まったのでね」

「それは栄転ということですか? おめでとうございます。公都にも当商会がありますので、後日祝杯の準備を」

「よいのか? それなら今後贔屓にさせてもらおう」

「ありがとうございます」

「--飲みすぎたな。そろそろ失礼させてもらおうか」

「お送りましょう」

 

 2人は酒場を後にすると、ノウを邸宅まで送り届けた。

 ヨナサンはその足でエジェイのファンブルトン商会に戻った。

 

 商会はエジェイ住民から見て特段変わったものではなく、1階には商品が並べられている。

 

 パストルが上の階にある部屋に入ると。減光処理を施した蝋燭を焚いて書類を読む局員が2人待っていた。

 

「お疲れ様です頭取(・・)。エジェイの英雄との話はどうでしたか?」

「案外慎重だよ。伊達に防衛騎士団団長はやっていない」

「そうですか」

 

 別の局員が口を開いた。

 

「班長。しかし本国から“日本を刺激しないよう慎重に活動せよ”と指示が来ています」

「わかっているよ。しかし、あくまで活動を停止せよとも撤収せよとも指示は来ていない」

「それはそうですが。これ、バレたら責任問題ですよ」

「バレそうになったら辞めるさ」

 

 パストルは果実酒を3人分用意し、余った椅子に座った。

 

「頭取。失礼ですが、なぜこのようなことを?」

「なぜかって? 私は母国の没落を阻止したいのさ」

「……没落するとは思えませんけど?」

「そうだ。今までなら没落しなかっただろう。だが、第3文明圏の影響力は間違いなく日本に移ると私は見ている」

「それは、由々しき事態ですね」

「指示の内容からわかるとおり、本国と日本は今後対決ではなく和解する方向に進んでいくだろう」

「国家監察軍とはいえ、戦死者を出したのに和解とは……栄えある皇国が屈辱です」

「……」

「班長。それで、ノウ将軍を焚きつけて何をするんですか?」

「何。ちょっとした日本に対する嫌がらせと報復だよ」

「頭取。それは意味があると思えませんけど」

「たしかに今はそうだが、ノウ将軍の働き次第では面白いことになると見ている」

「頭取はホント。嫌らしい性格してますね。あと、これが新しい報告書です」

「褒め言葉と受け取っておこう」

 

 パストルは果実酒を味わいながら報告書に目を通し、来たるべき時に恋い焦がれた。

 だが、彼らが暗闘するようにそれ以外の者も暗闘に心血を注いでいた。

 

「……ハンドラー。先週分の音声データ纏まりました」

「わかった。そのまま音声収集と目標の動きを監視してくれ」

「わかりました」

 

 パストルの動きに対して日本の動きは早かった。

 ある意味迂闊な事であったが、ヨナサンがカイオスを日本大使館に連れてきたその直後からファンブルトン商会について調べ始めた。

 既に商会に所属する役員級の個人情報は集まっており、その全員がクワ・トイネ生まれでないことを把握している。

 まだまだ情報不足は多いが、判明しているだけで”商会はパーパルディア皇国の諜報機関に属している可能性が高い”ということだった。

 日本がエジェイ近郊に築いた野戦基地の一角が彼らの職場だ。日防軍の軍籍こそあるが、正式な所属は情報機関の職員だ。日防軍と協力することが多々あるため、仮の軍籍と職場を分けてもらっているのだ。

 

「さて、本国にどう伝えようか……」

「企てがクーデターなら政府から伝えてもらうのが楽なんですけどね」

「少なくとも、確たる物は今のところはない。地道に収集するだけだ」

「そうですね。ハンドラー」

 

 彼らの暗闘はこれからも続く。

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