中央暦1640年 1月4日
-OCU日本 首相官邸-
冷たい風が吹き荒れる日本の東京では、今だ物資統制下にあり転移前の賑わいは殆どない。
内閣でもその影響は続いており、特に顕著なのは電力であった。必要な照明以外は消えており、どの部屋も薄っすらと暗かった。
そんな状態でも職務が減ることはなく。閣僚一同。新年の挨拶と現状把握のため参集した。
全員が集まると枢木が第一声を放った。
「ーー諸君。新年あけましておめでとう」
「「「あけましておめでとうございます……」」」
枢木を始め、閣僚や秘書。上級官僚達の誰もが程度の差はあれ昨年に比べて
「各員苦しい状況だと思うが、報告を頼む。まず財務省から」
「では報告します。まず昨年の歳出は300兆円を超えました。民需がほぼ停滞したことにより大企業から零細企業。果ては自営業に対する公共事業と配給に対する資金確保によるものです」
「歳入はどうなっているんだ?」
「昨年の歳入は20兆になる見積です。更に付け加えますと、今年度はさらに低下する見込みです」
「民間経済がほぼ停止しているからな」
「もし現状の物資統制が継続された場合。早くて5年。遅くとも15年後に財政破綻が確定します」
「しかし、特災時関連法の停止はできない。止めると間違いなく自殺者と餓死者が大量発生する」
「そうは言うが、関連法があろうがなかろうが終末論を掲げる阿呆が行動に移す」
「国家公安委員会でも、昨年において終末思想に溺れた者や弱者救済を謳って非合法な活動を起こす輩が多数報告されております」
「……一体何人の人間相手に死刑判決と射殺命令を出したことか……」
「政府の統制を”弾圧目的の陰謀だ”なんて国会議事堂前で叫ぶ輩もいましたな」
「あれは正直どうでも良い。勝手に被害妄想に陥った挙句。自作の爆弾で自滅したんだ。救う気にもなれんよ」
「過激な政治活動家もいたな。今は国内で懲役という名の畑仕事をしてもらっているがね」
「今まで豊かだったんだ。誰とてそれに戻れるなら動くだろうよ」
「現状に対して認識が未だ追いつきませんな」
「我々はまだマシだよ。権力者として最低限生存と安全を確保してくれるからね。さて、暗い話ばかりでは身が持たないかもしれないが報告を続けてもらおう。次は経済産業省」
「わかりました。まず経済状況ですが、国内において第一次産業を拡大するよう尽力しましたが、転移前の国内での生産量は種類問わず合計2000万tありましたが、転移後は500万tにまで落ち込んでいます」
「国内の配給状態に問題は?」
「国交省と防衛省。農水省に厚労省による協力のおかげで餓死者の報告は今のところありません。ただ、時間と共に栄養失調者が増え続けています」
「クワ・トイネからの輸入は進んでいるのか?」
「進んでいます。昨年11月までに輸入しただけでも700万t以上です」
「国内での生産量は増やせないんだな?」
「既に法人向け科学肥料の在庫は払底しており、各種堆肥も国内の田畑面積に対して十分量とは言えない状態です。今年の生産量も昨年より下回る見積もりです」
「いくら水が豊富でも土地が肥沃ではない。輸入肥料が転移で途切れたのも大きいな」
「国内での生産ではどう足掻いても限界があります。対してクワ・トイネ開拓団のほうは順調です。各種作物及び畜産の生産は加速度的に増加しつつあり、国内の食料供給に一役買っています。量にして500万tです」
「まだまだ足りないな」
「確かに足りませんが、肥沃なおかげで連作障害や不作に悩まずに済んでいます。増産ベース次第では今年中に2000万tに達する見積もりです」
「苦しい状況だが、絶望するほど行き詰っていないわけだ……」
「ただ、耕作及び牧畜面積拡大に伴い、現在構築が完了している陸海物流網の規模では来年中頃に輸送限界に達する可能性が出てきました」
「国内で稼働可能な化石同然のディーゼル機関車をかき集めたとて台数に限りがある。メーカーに新規製造させるか」
「お願いします。また、クワ・トイネは我が国より平坦な土地が多いので軌道敷の耐久荷重強化と線路幅の拡幅。さらに標準軌仕様の機関車とコンテナ車の設計を要請しました」
「メーカーは要請に応えてくれたのか?」
「むしろ転移してから久々に本業に着手できると社長や設計陣は喜んでいましたよ?」
「喜んでくれてるなら、まぁいいか。次の報告は?」
「次に食料以外の各資源ですが、木材はある程度自国内で確保できているので省略。鉄鋼資源と石油資源ですが、昨年11月までに輸入できたのは転移前の5%程になります」
「先が思いやられる量だな」
「現在クイラ国内の鉱山油田の開発は順調。コンビナートの建設も続けられており、今年末までに15%まで増産。輸入できる見込みです」
「まだまだ一息つくこともできないか……次に国交省」
「わかりました。まず国内の状態ですが、転移直後の各種統制によって犯罪率が一時上昇しましたが、9月頃から国民も落ち着いてきたようで、緩やかにですが治安は回復基調にあります。ただ、先程ありましたように公安監視対象によるテロが複数発生しました」
「最終的な被害と監視対象の現状は?」
「二次被害を含め300人以上の犠牲者を出しています。しかし、即応した日防軍によって組織は壊滅しました。仮に次のテロを起こすにしても人員物資が枯渇した状態なので、数年は実行不可能と思われます」
「少なくとも、夜道を一人で歩かなければ大丈夫なわけだ」
「むしろ、特災時統制を解いたあとが危ないかと読んでいます」
「物資が潤沢なら武器も潤沢になるか? だが、特災時関連法の解除はいずれ訪れることだ。次に陸海空の旅客。物流会社の現状は?」
「現在特災時各法によって物を問わず私有の車や船舶利用に制限を課しています。また航空機に至っては日防軍以外の航空機は運行停止状態です」
「燃料を喰う航空機は仕方ないな」
「そもそも需要があっても飛行場を持つ国がない」
「なお、現在国内で消費している石油の内。60%が民間。残りを日防軍に供給しています」
「……日防軍に回す量を減らすことはできないか?」
「防衛省としましては、無思慮な対外支援を減らしてもらえるとありがたいのですが?」
「わかっている。減らせないどころかもっと必要なことは重々承知している。原油の増産に併せて供給量も増やすようにする」
「お願いします」
「さて、次は外務省」
「はい。現在我が国と国交を締結している国は8ヵ国。国交は締結していませんが接触した国家が15ヵ国です。他に未接触の国家が17ほどあります。外務省としてはより広い範囲に対して接触及び国交締結に向けて活動していく予定です」
「現段階で軍事同盟を締結しているのは?」
「現段階でクワ・トイネ公国。クイラ王国。フェン王国の3カ国だけです。現在トーパ王国に派兵していますが、駐留させる予定はありません」
(してくれって頼まれそうだなぁ……)
「ただ、フェン王国の軍祭に参加していたいくつかの国から同盟の提案や軍事支援の要請がありました」
「……少し前に報告を受けたが、そこまで喫緊に軍事的な問題を抱えているのか?」
「どの国もパーパルディア皇国から割譲や租借の提案をされたそうです」
「フェンはまだ我が国から近いから同盟を受け入れたが、他の国はなぁ……」
「それに、パーパルディアは我が国と条約を結んだんだ。そんな過激な行動に移ると思えないのだが?」
「だが、ここから西にあるアルタラス王国という国家が12月頃にパーパルディアによって併呑されたという未確認情報が上がっている。彼の国の野望がまた我が国に牙を向けないとは限らないのでは?」
「全く。厄介な国が近くにあるものだ。仮にパーパルディアが侵攻してきた場合。防衛省は阻止できるのかね?」
「阻止自体は問題なくできます。しかし、国内の資源。特に燃料事情によってまずい状況になる可能性があります」
「まずい状況? 軍はパーパルディア軍と対決して圧倒的勝利を積んでいると認識しているのだが?」
「確かに技術差で勝利は容易です。しかし、仮に複数方面から同時侵攻された場合。本土上陸を許し内陸に進軍される可能性があります」
「待ってくれ。いくら派兵しているからと言って国内戦力は相応の規模が残っていただろう?」
「国内に残留する陸海空の総戦力は8割ほどになります。ただ、前線部隊へ燃料を供出しているので、残留部隊の燃料保管量が少なくなっています」
「部隊を移動させるだけで枯渇する可能性があるのか」
「それに燃料は有機物です。古い燃料では稼働不良や故障する可能性が時間とともに高くなります」
「だが、経産省が報告したように劇的に石油が増えることは期待できない」
「理解しております。なので、軍としては現状より対外派遣を増やさないよう切望します」
「……善処しようーー最後に防衛省から現状の報告を」
「……わかりました。現在陸軍は3個旅団相当の戦力を派遣しています。殆どがロデニウス大陸に展開。トーパとフェンにも展開していますが、主に重工兵部隊と軽歩兵となっております。次に空軍ですが、マイハーク基地に1個飛行隊が駐留。後は国内で待機中です。そして海軍ですが、フリゲートないし駆逐艦を合計4隻ロデニウス大陸に展開。輸送艦1隻が北の港とトーパ。フェンの3箇所に物資輸送を実施。クワ・トイネ派遣軍の補給の一部は民間の海運会社に委託しています。最後に以前提案されたクワ・トイネ軍近代化計画ですが、陸上装備は来月から供給を開始。また除籍したコルベットの装備を取り外して順次クワ・トイネ及びクイラに有償供与という形で提供していきます」
「教官の派遣もしているな?」
「はい。既に供与したコルベットに関しては、公試運転も兼ねて慣熟訓練を進めています」
「現在展開している地域の現況はどうなっている」
「クワ・トイネ派遣軍主力は国境沿いにロウリア軍の再侵攻に備えています。また北の港でも奪還に備えて防衛体制が整えています。フェンに於いては港と駐屯地の造成を継続。トーパでも小規模の飛行場と港の造成が進めています。なおトーパ戦線の方ですが、敵主力を撃退できたこともあり戦線は膠着状態です」
「トーパとフェンは置いておくとして、問題はロウリアの方か……講話交渉はどうなっている?」
「暖簾に腕押し状態です。外務省としては、交渉打開の為に何かしらの軍事的成果が必要だと考えています」
「……日防軍はロウリアの首都攻略が可能なのか?」
「可能不可能で言うなら可能です。ただ実施する上で懸念すべき点がいくつか……」
「その懸念点とは?」
「第一に敵首都攻略後の占領施策です。北の港ではほぼすべての市民が退避したので、銃後の占領活動は非常に容易でした。しかし、ジン・ハークの占領となると多くの敵国市民が戦闘後に残留すると思われます。ですので都市制圧に1個師団。占領維持に1個旅団の戦力を現派遣軍と別に用意する必要があります」
「増強すれば……と言いたいところだが、ここで燃料問題が出てくるのか」
「はい。さらに、現状のクワ・トイネ国内の輸送力ではあと1個連隊分しか補給できる余力がありません」
「そもそも増強しても補給切れで戦闘力がなくなるわけだ」
「しかし総理。ロウリアは国王に全権を有する封建体制です。捕縛できれば戦争終結の可能性が高いのでは?」
「……防衛省は首都に特殊部隊を送り込んで国王を捕縛できるかね」
「勿論計画はしたのですが、国王捕縛案も懸念事項があります」
「だが、大軍を送るよりずっと少ない戦力で実施可能ではないか?」
「……国王捕縛案において、厄介なのは城の内部構造です。恐らく逃走経路がいくつもあると見積もられます。迅速に特殊部隊を送り込んでも少数の護衛を引き連れて城外へ脱出を図る可能性が高く。追撃も阻止も困難です」
「……いっそ国王ごと居城を爆撃するか?」
「いや、それこそ悪手だ。現状国王が権力を保持しているから他の諸侯も従っている状態だ。国王が死んだとなればロウリア王国全体が混乱の坩堝になりかねん。戦争全体の動きが予測できなくなるぞ」
「今は大人しいですが、前線も相当荒れると思われます」
「……ことを進めようにも手詰まり感がありますな」
「少なくとも、時間は我々の味方です。今少し交渉を継続しましょう」
「相手が何もしてこなければ良いがな……」
その後、残った省庁の細々とした報告が続き、今年最初の長い長い会議は静かに幕を閉じた。
中央暦1640年 1月4日
-パーパルディア皇国 エストシラント-
「ーールディアス皇帝陛下。新年明けましておめでとうございますっ!!」
「「「おめでとうございますっ!!」」」
パーパルディア皇国首都エストシラントでは緩やかながら寒風が吹いていた。
元日に新年の儀が執り行われて早数日。ルディアス皇帝の居城で新年の会席が執り行われていた。
参列しているのは皇族本家や分家。各局局長に有力貴族や属国の王侯等、皇国内の要人という要人が集まっており、錚々たる顔ぶれである。
「諸君等の会席参加に余は感極まる想いである。皇国繁栄に勤しもうぞ。乾杯っ!!」
「「「乾杯っ!!」」」
ルディアスの挨拶が終わると、方々に分かれて閥や族毎に挨拶を始める。さらに、各々政略的な利益を共有する相手達と屯し始める。
「あけましておめでとうございます皇帝陛下」
権力の頂点であるルディアスの元には序列の高い皇族が集まり始めた。
「おめでとうヴァンカート卿。属国の運営はどうだ?」
「上手く行ってますよ。所で、よくお側にいる銀の君が居られないようですが。なにかありましたか?」
「レミールか? 冬の風で体を悪くしたようでな。自宅で静かに療養している」
「体を悪く? 良ければ腕の良い治癒魔導師をお送りしましょうか?」
「気持ちだけ受け取っておこう。彼奴はここ最近働きすぎなのだ。丁度よい休みになる」
「そうですか。では陛下。私はこれにて失礼します」
「うむ。春の贈り物に期待しておるよ。ヴァンカート卿」
会席でよく見る御仁や令嬢が参列しているが、今回ルディアスの近くにいることが多いレミールが参列していなかった。
ルディアスはレミールの名誉のため体調不良と伝えるが、実際は違っていた。
(戦略局や監察軍に泥を付けてしまったからな。後ろ指を指されたくないから皇族の多いところに顔を出すことができないとは言えんな……)
時の皇帝であるルディアスにとって、レミールに関して将来皇后に迎える
要約すると、監査室所属という立場を利用して外交だけでなく軍事。果ては属領の統治方法に都市開発計画にまで横槍を入れていることがわかった。
早い話。レミールは職権乱用の常習犯だったのだ。
今までその手の噂がなかったのは、皇族という立場ゆえ悪しき外聞を広めないためと、監査室所属ということで法務局にも口利きが可能だったからだ。それが今回わかり易い失策による担当交替という事態になり、一気にレミールに対する不満が噴出しているのだ。
レミールにこれ以上責任追及の手を伸ばさせないための措置だったが、結果的に逆効果になってしまった。
ルディアスがレミールの今後について逡巡していると壮年男性が近づいてきた。
「皇帝陛下。あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう……あぁすまない。卿は誰かね?」
「卿などとはとんでもない。ベケット・レクマイアと申します。爵位は男爵。普通なら陛下のもとに謁見するだけで栄誉となるしがない地方貴族です」
「ほぅ。だがレクマイア男爵。君の言う地方貴族が今回参列しているわけだが、誰かの名代か?」
「いえ、今回はラキーネア殿下に誘われまして。後日、在日本大使として赴任する予定です」
「そういえば昨年その名を見たな。忘れていたようだ」
「いえいえ。何分ニホンという未知の国家に赴任するのです。列強国の大使赴任でない限り、陛下と謁見する慣例はありませんから」
「確かにそうだが、今回赴任する日本はどう見積もっても我が国より強大な国家だ。心して任に就いてほしい」
「肝に銘じておきます」
「陛下。明けましておめでとうございます」
2人で話していると、ラキーネアがやってきた。
「ラキーネアか? 明けましておめでとう」
「陛下。男爵からお話は聞きましたか?」
「日本への大使赴任のことか?」
「ええそうです。実のところ、私がその任に就きたかったのですが、父や外務局に猛反対されてお流れに」
「皇族が要職に就くことは多々あれど、在外大使は前例がないな。致し方ないことだ」
「ええ」
「まぁ。そういうのは次の機会に残しておけ」
「陛下がそう仰るなら、そうしましょう」
ルディアス達が陽気に談話に勤しんでいる最中、別の一団が皇帝達に陰ながら視線を向けていた。
「ーー全く。陛下も陛下ながら、あの赤毛皇女め。日本に靡きおって……」
「閣下。流石に要人が集まる場でそのような発言をされては誰の耳に入るかわかりませんぞ」
「チッ。忌々しい」
彼は若干自棄を含んだ態度で会席の酒を煽った。
彼らはアルデを中心とする皇国の主流派であると同時に強硬派の派閥だ。特にルディアスが実権を得てからその手足として重用されている者達だ。
だが、こと日本相手に皇帝を始め、外務局を中心に融和という形の腰砕けな対応に皇国のプライドに傷を付けられたと感じているのだ。
なお、アルデは日本の実力をミリシアルより劣ると考えており、皇軍の全力を持って当たれば戦えると思っている。
「ところで閣下。仮に日本と対峙した場合。我が方に敗北はあり得るのでしょうか?」
「負けるとは思っとらんが、監察軍の報告と損害を無下にはできん。魔導技師ギルドから聞いた話では、日本に対抗できるような装備は向こう百年では造れんらしい」
「そうなると、監察軍の殉職者にこういう言い方は悪いでしょうが、
「フューザーラントの死は手痛いがな」
アルデは自分が持っている空の盃とメイドが配っている盃を交換し一息で飲み干した。
彼にとって、皇国より優位な国家の出現に頭を悩ましている。というのも、皇国から西の超大国『神聖ミリシアル帝国』とは政治的緊張はしていないものの、軍事的には微妙に険悪な関係にあるからだ。
最近。ミリシアル製兵器を密輸したことに関して少なからず外交筋から連絡が来ており、その密輸を指示した大元はアルデだからだ。
密輸の件はルディアスも「皇国の利益になる」と認識しており、物自体はミリシアルの目が届かない場所に移動させたためそれ以上の追求はない。
この後も、ルディアスやアルデ達は皇国の未来を思い描きつつ、その鍵になるであろう参列者と雑談という名の情報交換に勤しんだ。
「……陛下。そろそろ締めのお時間となりました」
「そうか。もうそんな時間か」
ルディアスが外を見ると、窓の外では星々の淡い光が煌めいていた。
ルディアスが玉座の前に立つと、参列者全員の視線を集めた。
「……諸君。今宵の宴もここまでのようだ。皇国の将来に希望を抱き、閉会としよう。パーパルディア皇国万歳」
「「「パーパルディア皇国万歳!! ルディアス皇帝陛下万歳!!」」」
宴がお開きとなり、ルディアスを始め他の参列者も続々と会場を後にし、帰路についた。
中央暦1640年 1月15日
-クワ・トイネ公国 マイハーク近郊-
冷たい風が吹き抜ける中。港町マイハークから北西に20kmほど離れた所に砂丘がある。
そこは潮風が流れ込み、農作放牧に向かず今まで放置されていた土地だ。だが、クワ・トイネはこの不毛な土地を柵で囲い。『軍用地 立入禁止』の看板を立てた。
今その柵内では、鎖をグルグル巻くような音と乾燥した破裂音が響いていた。
その正体はクワ・トイネ軍が日本から導入した装備を用いて訓練も兼ねた試験をしているのだ。
この装備試験隊の現場指揮官であるジェフ・コーフハルトは演習場を一望できる物見櫓から部隊の動きを観察していた。
「ーーやはり日本軍のように上手くいかんな」
彼の視線の先では10台のLTー9が轍に沿って進んでいた。ただ、操縦に不慣れな兵士が多く、直進したと思いきや轍から外れて立ち往生したり、酷いものだとエンジンストライクを起こして急停止する車両すらあった。
「……どうです。貴国の目から見て」
「車両を受領してまだ1ヶ月です。運用はおろか、基本訓練や戦闘訓練の方法も確立していない中で訓練している最中です。そう気を落とすことはないかと」
コーフハルトと一緒に訓練を見ているのは日防軍からクワ・トイネに訓練教官として派遣された大橋 奏汰少佐だ。教導団機甲班に属しており、まさに機甲部隊育成にはうってつけの人材と言える。
昨年12月。兵器輸入打診によって開発。製造された兵器の初期ロット分がクワ・トイネに届いた。
操縦や整備に関するマニュアルは一通り揃っているが、いざ運用しようとしたら、クワ・トイネ軍上層部は頭を抱えた。
「これ。どうやって運用すればいいんだ?」
クワ・トイネ軍上層部は日防軍の戦果に目を奪われていたことを素直に認め、日本へ運用の手解きを打診すると数日程度で訓練教導隊を派遣した。
既に1ヶ月経過したが、全く新しい次元の装備ということもあり、ほぼ毎日基本的な操縦と整備。運用訓練に終始している。
今も擱座した車両の復帰と別車両による回収の仕方を日防軍の教官が多数のクワ・トイネ軍兵士に説明している。
操縦訓練に明け暮れているのと同じ頃。射撃訓練場では50人ものクワ・トイネ軍兵士が案山子を標的に射撃訓練を行っている。
乾いた音が響くといくつかの案山子が弾け飛んだ。
彼らの後ろでは操縦訓練と同じように日防軍の射撃教官がクワ・トイネ兵に対して射撃のコツや改善点を指導している。
クワ・トイネにとって銃火器は未知の武器に等しいものだ。 大半の兵士は
なお、クワ・トイネ軍は以前提案された銃火器を全種類導入しており。初期生産分ながらライフル級は10丁ずつ。それ以外は3丁ずつ導入して試験を行っている。
軍の近代化はとても長いことを日本もクワ・トイネも認識していたが、そう遠くない未来に訪れるであろうロウリア再侵攻を見据えた施策に軍上層部も現場も一丸となって軍備増強に臨むのだった。
解説はありません