OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第48話

中央暦1640年 5月3日

-クイラ王国 鉱山都市ルーモス-

 

 クイラ王国の大地は砂と荒れ地でできている。そんな過酷な環境は経済面で不利に働いていたが、それを一変させたのは日本の存在だ。

 今までクイラ国民にとって価値を見出せなかった石油(燃える汚泥)希少金属(鉄に似た何か)希少土類(畑に使えない砂)の大量埋蔵が確認されると、クイラはクワ・トイネ以上に経済発展が大きかった。

 

 首都バーダットの近郊には日本政府の号令によって石油コンビナートや精錬施設が次々と建設されていった。

 もちろん日本人だけでは建設速度に限界があったということもあり、各企業は現地住民を大量に雇用した。これはクイラ経済の大躍進に繋がった。

 元々クイラ国内の内需は国土面積に対して貧弱であり、体力に覚えがある者はクワ・トイネなど周辺国に出稼ぎするのが当たり前だった。

 だが、日本がクイラ国内で多くの油田鉱山精錬設備を開発することによって現地雇用が拡大。出稼ぎしていた者が政府命令で次々と帰国していた。

 

 それでも人手不足は続いており、政府は交流がある国家に出稼ぎ(外国人労働者)を求めるようになっているほどだ。

 

 クワ・トイネとの国境付近の山にクイラ最大の鉱山都市『ルーモス』がある。その開祖は加工業に明るいドワーフ族だ。

 人口は首都バーダットに次ぐ40万人(クイラ王国の10分の1)を抱えており、日本が企業進出した今でもクイラ経済の源泉と言える都市として機能していた。

 さらに、山に沿って小さな鉱山も多数存在しており、『ルーモス』はその周辺の資源集積も担っている。

 

 『ルーモス』周辺の鉱山は良質な鉄鉱石が算出されており、さらに腕のいい鍛冶師も揃っていることからクイラの獣人はここでよく武具や防具を購入していく。

 ただ、首都『バーダット』が海沿いにあるのに対して、『ルーモス』が北限側にあるため、流通上の問題が付きまとっていた。

 日本が来るまでは山沿いに隊商馬車で荷物を運び、海岸に着くと『ラバ・スー』という沿岸都市で積み替えるというなかなかに非効率な状態が続いた。

 

 日本は油田や鉱山の開発と並行して、内陸には鉄道の敷設と大型船舶向けの港湾開発に乗り出した。

 最初こそ測量から浚渫。護岸や突堤の造成に苦労した。だが、その港が完成してからの拡張工事は速かった。

 最初は日防軍のホバークッション艇で重機を搬入していたが、岸壁が完成したことにより資材や重機を大量に運び込めるようになったからだ。

 そこから『ルーモス』と『ラバ・スー』の間に貨物線が敷かれると、日本への鉱物輸送は日を追う毎に増加していった。

 クイラ国民から見ると、輸送の非効率から鉱物生産は需要を少し上回る程度だったのだが、日本という超大口顧客によって生産量は増加。さらに鉱物の先払いという形で日本から旧式から新型まで多くの掘削機が提供された。提供された掘削機は今までピッケルや(たがね)で掘っていたのが馬鹿らしくなるほど掘削作業の効率化につながった。

 

 クイラ経済はまさに黄金の経済循環が整えられ、もはや“ロデニウス大陸の貧国”という二つ名は過去の物へと変わった。

 

 山麓の中央に『ルーモス』の市庁舎が佇んでいる。しかし、今まで見たいな木造ではなく、鉱山から採掘される砕石を用いた重厚な建物だ。

 市庁舎の執務室では税務担当と産業担当が市長の元に訪れていた。

 

「ーーということもあり、主要産業である鉱業の増産は日本の掘削機の導入もあり昨年のほぼ5倍もの量を算出しております」

「そうかそうか。しかも掘ったら掘っただけ日本が買ってくれるから帳簿の記録を見るだけで興奮が止まらん♪」

「市長。生産量もそうですが、労働者の流入もあり我が都市の人口は増加傾向にあります。それに比例して税収も増加傾向にあり、今期の税収は恐らく昨年の3倍に達すると見込まれます」

「ホッホッホッ!! 嬉しすぎて何と言えばよいかわからんっ!!」

 

 市長が興奮しながら報告書を読み進めていくと、ドタドタッという音を立てながら職員が入ってきた。

 

「市長っ!! また落盤事故ですっ!!」

「何だとっ!? 所定の手順に基づき採掘作業は順次中止。人員が集まり次第救助作業を始めよ。後、日本の共済病院に負傷者の受け入れ準備を伝えるのだ」

「わかりました」

 

 職員が大急ぎで出ていくと、市長は椅子に座り直した。

 その光景に産業担当が静かに口を開いた。

 

「……これで何件目でしょうか?」

「確か今年で7件目だ。掘削機を導入してから落盤事故の頻度は手掘りの時代より多い。悲しいことだ」

 

 落盤事故は鉱山では“起きるのが当たり前の事故”だ。無くそうと思って簡単に無くせる類ではない。

 

「掘削機の導入によって採掘量が激増しています。対して新人の教育が追い付かず。掘削技能は以前より低下しております」

「それは分かっておる。だが、事故の予防や対策。さらに被災者に対する保証は以前より手厚くなっておる。日本人は金だけで物事は見ておらん」

 

 鉱業に産業革命が到来すると、掘削量に比例して事故が生じた際の被害もかなりの規模になっていった。

 手掘りの時代であれば、熟練のドワーフが地層や岩盤の状態を見て事故を回避したり被害を最小限にしていたが、掘削機の導入によって長年の勘というやつは機能しにくくなっていた。

 日本もさすがに労働災害をクイラに全て押し付けるのは不味いと考え、地質調査と並行して断層や水脈を調査を進めている。しかし、地球と違い、未知の鉱物(魔石など)でできている地層があるため、日本人採掘チームの知識と情報だけでは限界があった。

 

 ただ、市長をはじめとした街の重鎮たちは、日本人と商売することが都市発展の源であること理解しているため、抗議の声を挙げるのではなく、購入する鉱物代金とは別の補填策を求めた。

 それに対して日本が提供したのは共済病院と鉱山救助隊。さらに公害管理局だ。

 

 市長も元鉱山労働者のため、大なり小なり落盤事故や有毒ガス中毒事故は経験して……というより、事故をきっかけに一線を引いて公僕になったのが現市長なのだ。

 事故によって足に後遺症を患っていたが、共済病院の後遺症治療によって回復した。

 流石に現場復帰は果たさなかったが、健康な体を取り戻せたことにとても満足していた。

 

 鉱山救助隊はもちろん事故が起きた場合の保険だ。

 設置されてたった半年だが、彼らの存在によって事故発生時の生還率が設置前に比べ非常に高くなったのだ。

 鉱山業を管理する側にとって職場の負の部分が少しでも緩和されることは喜ばしいことだった。

 

 最後に公害管理局だが、局員曰く“過去日本において鉱山から流出した有害物質によって従業員や河川下流域に住民が中毒になった経験があるから”と話してくれた。

 現市長もいままで、長く鉱山にいた者が肺を患った者や咳がひどい者。手足のしびれ等々。日本が痛みを伴って経験した各種対策は鉱山という過酷な環境に従事する者にとって福音となった。

 重度な者はさすがに無理だったが、中程度以下の者は症状が緩和され、新参で健康なものはほとんど健康を害さずに作業に従事できるようになった。

 

「ーーまったく。日本という国家は我々の遥か先を進んでいるな」

「市長の仰る通りです」

「さて、現場の状態を確認せねばな」

 

 市長は椅子から立ち上がり、コートと帽子を手に取ると事故現場へと向かった。

 

中央暦1640年 5月15日

-シオス王国 首都マルテナ-

 

 シオス王国の首都マルテナ。港町を見下ろせる小高い丘に小さいながらも立派な王宮が佇んでいる。

 いつものように書斎で執務に励む国王の元に宰相が入ってきた。

 

「ソッケール陛下。失礼いたします」

「宰相か。どうしたそんな深刻な顔をして」

「先ほど在パーパルディア皇国神聖ミリシアル帝国大使より親書という形で要請書が届きました」

「彼の神聖ミリシアル帝国から我が国にだと? 何かの間違いではないか?」

「いえ、間違いなく我が国に宛てられたものです。お読みください」

 

 宰相は恭しく親書を手渡すと、国王は慎重に内容を読み解いた。

 

「陛下。親書には何と?」

「ほぅ……。まさか彼の帝国が日本に興味があるようだ」

「日本? 確か、クワ・トイネの北東に現れたという新興国家ですな」

「新興だが、その国力は底が知れぬほど深いようだ。あのパーパルディアを軍事的に退けているからな」

「パーパルディアをですかっ!? それは確かにミリシアルも気にするでしょうな」

「未だ日本と国交を結んでいないが、これを機に我が国も日本に特使団を派遣しよう。宰相。ミリシアル外交団用の船と共に便乗できるよう用意してくれ」

「わかりました陛下」

 

 宰相が執務室を後にすると、入れ替わるように豪華絢爛で装飾がゴテゴテな中年男性が王の断りもなく入ってきた。

 

「失礼するよソッケール」

「……何の用ですかな、クレシェン領事官殿」

「私にそんな態度が許されていると思うのかね? あなたの王座は我が皇帝陛下の一言でいつでも廃絶できるのだからな」

「これは失礼しました。お茶を用意しますので少々お待ちください」

 

 ソッケール王は侍従に2人分のお茶と菓子を用意させた。

 並の常識を持っていれば、一国の王にそのような不遜な態度は許されないのだが、ことこの領事官は皇国の厚顔無恥が人の形をしたような御仁である。まぁ、(おだ)てれば機嫌を直す性質なので扱いやすい部類だが……。

 

 ここでシオス王国の内部事情を話そう。王国は数代前にパーパルディア皇国の保護国となった。

 もちろん当時のシオス国王は独立国として矜持を持っていたが、流石に国力差から対峙するより、要求された条件を飲むことで宗主国と保護国という関係に落ち着いた。

 ただ、パーパルディアが現皇帝になってから国内の優越思想が顕著になり、保護国は属国に。属国は属領に。属領は植民地へと徐々に変貌している。

 さらに、今まで相手にしていなかった国家相手にも侵略の手を伸ばしており、その野心の強さが強力な隣国を滅ぼした。

 

「それでクレシェン領事官殿。本日はどのようなご用件でこちらに?」

「フンッ。この私がわざわざ足を運んできたんだ。その意味が分かるだろう」

「重々承知しております」

 

 クレシェンは一枚の羊皮紙を引き出すと、ソッケール王に投げ渡した。

 

「……使えない武器に防具? このような廃品をなぜ集めるのですか?」

「まぁ一国の王だからな、教えてやろう。昨年11月。我が国は“ニホン”とかいう蛮族と国交を締結した」

「ニホン……あぁ。聞き及んでいます。確か皇国の南東に突如現れたとかなんとか……」

「そんな蛮族相手に、我が主(ルディアス)は胡麻を擦るようになってな。そこに書かれている品を日本へ売るために集めている」

「理由はわかりましたが、何故日本は使えない防具を集めたがるのでしょう」

「蛮族の心などわかるモノかっ!! とりあえず、南方と文明圏外の商人が集まるその品々を集めろ。いいな」

「ーー商会ギルドに伝えておきましょう」

「任せたからな? その品々の量で貴様の進退が決まると言っても過言ではないからな!」

 

 クレシェンは残った茶を一気飲みすると、ソッケール王に挨拶もせず執務室から出ていった。

 

「……まったく、商売の仕方というのをわかっていないな。あの若造は……」

 

 ソッケール王は温くなったお茶の余韻を楽しみ、仕事に戻った。

 




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