OCU日本国召喚   作:Bu3og

51 / 80
第51話

中央暦1640年 6月24日

-ロウリア王国 王都ジン・ハーク-

 

 雨が降り続けるロウリア王国首都ジン・ハーク。

 この日、もはや月末の恒例となりつつある『3か国講和会談(日本。クワ・トイネ。ロウリア)』が行われた。

 そして、その日の夜。交渉団代表のスマークが会談の結果を伝えるため、王の執務室を訪れていた。

 

「ーーということもあり、日本とクワ・トイネは今回も我が方の講和内容を受け入れる気はなく停戦は継続。来月改めて会談の再度実施という形に落ち着きました」

「そうか」

 

 ハーク王の素っ気ない返答に反して、スマークの肝は冷えていた。

 

 交渉において、クワ・トイネの強硬な要求をのらりくらりとスマークは躱しているが、かといって要求をほとんど出してこない日本の静かなる反応に恐怖を感じているからだ。

 

「陛下。口答えするようで恐縮なのですが、来月で停戦1年となります。次の会談で締結とならなかった場合。日本がどのような動きをするか予想できません。何とか条件を緩和するよう尽力します。講和条約の締結を御決断していただけないでしょうか?」

「1年……そうか。1年か……スマークよ。いくら日本がいるとはいえ、余が亜人共に土を付けられることを受け入れると思うか?」

「……癇に触れたのであればお許しください。しかし、今回日本という格上国家が控えております。軍の現状では北の港奪還はおろか、国境線の突破もできません。さらに、日本が本格的に侵攻してきたら、我が軍は大損害を出した上で敗北するのが現実なのです」

「……」

「陛下。クワ・トイネは我が国内での亜人の市民権こそ求めておりますが、廃位や廃絶は条件に含めておりません。条件全てを受け入れても、後から十分挽回は可能です」

「……スマーク。貴様はどこの国の将官だね?」

「陛下。それは愚問というものです。小官はロウリア王国と陛下に忠義を尽くす者です。しかし、現実を受け入れずにこの国を焼かれるのをただ座して待つ気は毛頭ありません。それだけはご理解ください」

「……」

 

 ハーク王はスマークの言葉を“お前が頑迷であり続けると、国が終わる”と遠回しに伝えていることを理解した。いつもならそんな不遜な言葉を吐くような相手に対して雷光のごとく処罰するのだが、そこまで情勢を読めないほど暗愚ではないため、スマークの言葉を沈黙を以て受け入れるしかなかった。

 

「スマーク。貴様の言いたいことはよくわかった。余も考えたいことがある。下がってよろしい」

 

 スマークはお辞儀をすると、静かに執務室を後にした。

 ハーク王はスマークを見送ると、天井を仰いで考え始めた。

 

 しばらく考えたハーク王は鐘を鳴らしてメイドを呼び出した。

 

「失礼します陛下。何か御用でしょうか?」

「魔導師ヤミレイを呼べ」

「わかりました。少々お待ちください」

 

 数分すると、ヤミレイがメイドと共に戻ってきた。

 

「陛下。お召しに上がり参上いたしました」

「よく来たヤミレイ……。早速だが、例の大魔法の進捗状況を聞きたい」

「残念ながら、完成の目途は遠いと言わざるを得ません」

「そうか……」

 

 ヤミレイもハーク王もこのやり取りに諦観していた。

 

「……ヤミレイよ。交渉団のスマークより講和会談は今回も不発に終わった。そして、来月には停戦1年になる」

「次に講和が不成立となれば、何かしてくる可能性はありますな」

「そうだ。そこでだヤミレイ。完璧なものは求めぬ。せめて日本軍の攻勢を阻止できる魔法や魔導はないか?」

「……1ヵ月以内に用意できて、強力な物ですか……」

「無茶を言っていることは余もわかる。だがせめて痛み分け出来ぬ現状では降伏しかできんのだ」

 

 ヤミレイは一瞬。“この堅物な御仁の首でも差し出せば緩めの降伏ならいけるのでは?”という邪な考えが思い浮かんだ。しかし、そのような不敬な考えはすぐに捨て去った。

 

「……あまりお勧めはできませんが、防御向けの魔法なら当てはあります」

「あるのか?」

「単純です。ありったけの魔力を一度練り固めて、わざと暴発させるのです。私が本気で取り組めばこの城を吹き飛ばす威力は叩き出せるでしょうな」

「……まさか、自壊破裂魔法(別名:魔法に失敗しました)の一種か?」

「そうです。術は簡単で未熟な魔法使いでも発現出来ます。ただ、威力は術者の魔力量に左右されます。それに、普通なら魔結晶や魔石を遠くから爆発させるのが一般的です」

「……ヤミレイよ。仮にクワ・トイネ国境と北の港にその自壊破裂魔法を使おうと思ったら、どれだけ必要だ?」

「それだけ広範囲となると、とても我が国で保管されている魔石では足りません。かき集めようにも1ヵ月ではとても必要量に届くことはないでしょう」

「ふぅむ……」

 

 ヤミレイはハーク王がこの後いつものように「わかった。下がれ」という言葉を待った。しかし、実際に発せられた言葉は予想とは違った。

 

「ーーヤミレイよ。その自壊破裂魔法は未熟な魔法使いでもできるのだな?」

「えぇまぁ。そうですが……」

「未熟でも可能ということは、魔力が少しでもあれば使えるわけだな?」

「左様です」

「……仮にだが、何かしらの魔装具でその自壊破裂魔法を発現させることはできるのか?」

「……容易です」

 

 ハーク王の言葉に、ヤミレイはかなり嫌な予感を感じた。

 

「軍の中には破落戸や前科者が多い。緩んだ綱紀粛正のために策が必要だと余は考える。然り、その者たちに自壊破裂魔法を付与した魔装具を持たせてはどうか?」

「陛下っ!? それは流石に非道か邪道であります」

「非道に邪道か……ヤミレイよ。日本が使う爆轟魔法(魔法に非ず)が外道でないと誰が説明できる? アレのどこが王道に即しているのだ?」

「それは確かにそうですが……」

 

 この戦争はハーク王が始めたことをしっかり認識しているヤミレイとしては、“筋が通らないんだよなぁ”と思った。

 

「ヤミレイ。偉大なる魔導師として信念を持つのはわかる。しかし、貴様はこの国に仕える魔導師なのだ。この国のため。余の頼みを聞いてはくれぬか?」

「……」

 

 この御仁。予想外のことには如何せん弱いところはあるが、さりとて暗愚は部類ではない。だからこそロウリア王国を大陸最大の国家にまで引き上げたのだ。

 惜しむらくは、ここに日本という予想外と規格外の存在が現れてしまったことだろう。

 それがなければ、今頃クワ・トイネもクイラも降伏していたはずだ。

 

「……わかりました。自壊破裂魔法の準備をパタジン将軍と共に進めます。しかし、あくまで自壊破裂魔法は防衛のみ(・・・・)の限定使用でよろしいでしょうか?」

「防衛のみ……仕方がない。それで進めよ」

「ありがとうございます。早速準備に取り掛かります」

「うむ」

 

 ヤミレイが執務室を後にすると、横の居室から黒いフードの男(パ皇のパトロン)が静かにハーク王に近づいた。

 ハーク王はフードの男を横目に話し始めた。

 

「……もはや我が王国はクワ・トイネに勝てぬぞ。それでもなお皇国は我が国の手形回収に拘るのか?」

「それはもちろん。そのために金も道具も与えたのです。このままでは赤字になってしまいますので」

「我が国に対する借款が回収できずとも、皇国の経済なら十分別のもので埋め合わせくらいできろう?」

「それを決めるのは我々の方です。ハーク王には最後まで務めを果たしてもらわなければいけません」

「判っておる。ところで、そちらの仕込みとやらはどうなっているのかね?」

「万事順調といったところです。ハーク王が気にするところではありません」

「ならよいがな」

 

 薄暗い空模様と共に執務室も暗さが増していき、フードの顔は陰で見えなくなっていった。

 

 

中央暦1640年 7月13日

-パーパルディア皇国 皇都エストシラント-

 

 熱気を含む陽気な光が降り注ぐ中、皇都防衛軍陸将であるアツィード・メイガは工廠長の案内で兵器試験場を視察していた。

 

「ホシュヴァー工廠長。新しい武器ができたと聞いているのですが、物はどちらにあるのですか?」

「射撃演習場で準備している頃合いだよ。焦んなくても試作品は逃げないさ」

 

 工廠長はお気に入りの葉巻を吹かしながらメイガたちを案内した。

 

 兵器試験場に着くと、試作品と思われる銃器と黄金色で円筒状の物が幾つも置かれていた。

 

「ではホシュヴァー工廠長。説明していただいても」

「まぁ待ちなメイガ陸将。まず我が皇軍で多く使われているPh30(30年式ホシュヴァー小銃の略)の要目は覚えているかい?」

「確か、銃口から魔石火薬を込める方式としか……」

「将軍様ならそんなものか……大体有効射程が100m。最大射程250m。前装弾込め魔石火薬発火陣方式……少なくとも第3文明圏とその周辺でこれ以上の物はなかった。日本が出てくるまではねぇ」

「私も幾つか戦闘詳報に目を通していますが、そこまで凄いのですか? 私としては実感が……」

「あんた。公都で缶詰だから目が曇ったんじゃないかい? アルデ長官は結構こっちに来て「新兵器を作れっ!!」って檄を飛ばしに来てるよ」

 

 メイガはアルデとは直属の関係ではないし、ライバル関係でもなかった。しかし、何か当て擦りで比較されたことに不快なものを感じた。

 

「それなら、アルデ長官を呼べば良いでしょう?」

「私は皇軍上層部に「試作兵器ができたので見せたい」っていっただけだよ? そして今回呼ばれたのはあんただ。メイガ陸将」

「……」

 

 メイガはこの“金槌の魔女”と言われる工廠長と言い争うのは諦めた。

 伊達に100年以上この工廠を取り仕切っていないし、この工廠で生み出された兵器が皇軍の戦闘力の高さを証明している。しかも、話はできるし熱心な部下もいるので悪い人間ではないのだ。だが、この魔女と言われる工廠長は口が悪く。さらに権威というものにとんと意味をなさない。

 対して、そんな陰険なものなどそよ風のように受け流す工廠長は部下が用意した試作銃の最終点検を行った。

 

「少し前。ト―パ王国に派遣されていた参謀の一人が面白いものを持って帰ってきてね。それを参考にして作った小銃だ」

 

 工廠長は試作小銃をメイガに渡し、軽く説明を始めた。

 

「Ph30との違いは、今まで魔石火薬を粉塵のまま銃口から装填していたやり方を円筒金属缶……確かカートリッジとやらに魔石火薬を詰めて、薬室側から装填できるようにしてある」

「……これなら、今までより迅速に火力展開が可能ですな」

「そうなんだけど、日本の武器を前にしたら焼け石に水だろうね」

「では、その日本に対抗できるようなーー」

「アルデ長官もそう言うけど、この工廠の設備だけじゃ無理だね。できれば日本が持っている物を直接見てみたいけど、現状無理そうだし……」

 

 皇国軍上層部は日本と相対した戦闘記録とト―パ王国での戦いから帰還した将兵から証言を纏めた。

 最初こそ日本に対する認識は重要視されていなかった。しかし、2月に魔王を撃退できたという報告が届くと、日本の実力を軽視してきた者たちの意識を変えた。

 

 工廠長はメイガに金色の円筒を差し出した

 

「工廠長。その持っている物はなんですか?」

「フレンツマンの部下がくれたお土産でね……日本が使っていたカートリッジらしい」

 

 工廠長の手には、試作小銃に込めたカートリッジより精巧で緻密なカートリッジが摘まみ上げられていた。そして、同じように何十もの“それ”が箱に入っていた。

 

「いくら真似て作っても、この形(リムレス薬莢)を大量に安定して作るのは骨だね」

「そんなに?」

「仮にこの薬莢式の銃を士官分用意して、その分の弾を揃えるだけで纏まった時間がかかる。ここに陸軍の将兵分まで勘案したら、この薬莢を何億個単位で作らないといけない。考えただけで背筋が凍るね」

「そうなると、これを使っている日本は……」

「たくさん製造できる術を既に持っているってことだろうね。(おぞ)ましい工業力だ」

 

 メイガは工廠長の人柄はともかく能力は評価している。その工廠長から「悍ましい」なんて言葉を聞いて、背筋に冷たいものを感じた。

 

「工廠長。射撃してみても?」

「あぁどうぞ」

 

 メイガは試作小銃の薬室を開き。カートリッジを込め。薬室を閉じ。50m先の的を狙い。引き金を引いた。

 ジーッという音が一瞬響くと、白煙と共に轟音が辺りに響いた。

 

 煙が晴れ、的を見てみると、一つの穴が当ていた。

 

「ふーむ。悪くはないのだが……」

「なんかねぇ。日本のように引き金を引いてすぐ弾が出る理屈が分からないよ」

「やはり難しいですか?」

「こうなると、発火陣方式から考えた直した方がいいかねぇ」

 

 工廠長は現状に不満を抱きながら工房の方へと歩いて行った。

 

 取り残されたメイガ達は視察を終えると、帰路へと着いた。

 

「メイガ陸将。工廠長が言うような脅威が日本にあるとは私は思わないのですが……」

「……」

 

 参謀の言葉に、メイガは反応しなかった。

 工廠長の言葉通り、皇都で缶詰だったメイガの見識は広めることが難しい立場だった。だが、伊達に皇都防衛軍指揮官を務めていない。

 日本との戦闘やト―パ王国での報告を参考に、皇都防衛軍の装備更新や新装備の開発。更に軍の運用改革等も考えているのだ。

 皇都防衛軍指揮官として、エストシラントや国土が戦場になったのことに備え考えるのだった。




解説はありません
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。