OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第53話

中央暦1640年 7月25日

-クワ・トイネ〜ロウリア国境-

 

 日本に講和会談の結果が届く少し前、クワ・トイネ軍と対峙するロウリア軍側の野営地では多くの兵士たちが交代で警戒を続けていた。

 

「今日で停戦から1年か……亜人の奴ら、何もしてこなけりゃいいが……」

「俺たちなんてまだいい方さ、日本軍を監視してる奴らなんて生きた心地がしないだろうよ」

「そうだな。俺たちは運がいい方だっ!!」

 

 実戦経験が浅い兵士たちの間でも、日本の真の怖さを理解している者はそれなりにいた。しかし、長い停戦期間によって緩慢な空気が熟成されていった。

 

 そんな空気とは対照的に、1人の兵士がキョロキョロと辺りを見回しながら野営テントの裏に回った。

 

「ヤーナ。ビト。そしてサラ。これでやっと4人で幸せに暮らせるっ!!」

 

 この兵士について簡単に説明しよう。

 兵士の名前はカミロ・ベンター。ロウリア王国ではなくパーパルディア皇国の属領出身だ。

 彼は数年前、運悪く臣民統治機構に目を付けられ家族諸共奴隷となった。

 ここまでは“まだまし”な方だ。皇国の農家に馬車馬のごとく働かされる日々を送るが、幸か不幸か家族4人で過ごせていた。

 ここで皇国のとある局員(国家戦略局の局員)が農家のもとに訪れた。

 奴隷の中から成人男性を相場より高値で買いたいと農家に持ち掛けたのだ。

 農家は最初その言葉にカミロを売ることを渋った(同情ではなく、労働効率低下を嫌った)。さらに、カミロは“家族と離れ離れになるなら道中で死んでやるっ!!”と局員を脅した。

 生殺与奪を奪われている奴隷がこんなことを言っても意味はないのだが、極端な反抗は奴隷の価値を低下させるので、局員はある程度話を聞いた。そして、激昂したカミロに対してこう告げた。

“もし我々の仕事を引き受けてくれるなら、仕事終わりに家族共々解放奴隷にしてやろう”と……。

 農家は流石に局員の言葉に聞くと、さらに売ることを躊躇った(労働力が減るじゃないかっ!!)。しかし、カミロがしばし考えた後、局員に買われることを同意した。

 『解放奴隷』とは、現所有者が奴隷の拘束魔装具を取り外し、労苦から奴隷を解放。以後奴隷として売買されることがなくなった存在だ。ただ、解放奴隷はそう簡単に成れるモノではない。奴隷が奴隷でなくなるのは、労働力として機能しなくなる時が殆どだからだ。

 稀に所有者の気まぐれで解放奴隷になった者もいるが、そういう時はほぼほぼ身体的(外見含む)。若しくは知能魔力面で他より優れている場合の時だ。

 そして、カミロは他の奴隷と比べ卓越した能力は持ち合わせていない。そうなると、この家族の待つ未来は“奴隷として酷使され死別する未来“しかないのだ。

 どのような苦難が待っているかも知らず、カミロは局員の言葉を信じて買われることに同意(農家はこの後、別の奴隷を購入)した。

 

 局員が言う仕事は『ロウリア王国における期限付き兵役(終戦までのが頭に付く)』だった。

 早速ロウリア王国の外国人兵士として派兵(限りなく奴隷寄りの傭兵)され、数年の時を経てクワ・トイネに侵攻したカミロだったが、日本の反撃によって運よく後退できた。

 その後、1年近く国境付近で野営する生活を送っていたカミロの元に、国家戦略局の局員がこっそり訪れた。

 局員は手に魔導具を持ちながら“こいつが震えたら他の兵士にわからないよう作動させろ。そうすればお前の役目は終わる”と伝えられ、カミロはそれを受け取った。

 

 カミロは魔法に詳しくない。そして、数年にも及ぶ兵役で精神を擦り減らされ、正常な判断ができなくなっていた。さらに、局員の言葉を聞いた彼の心はまるで雪解けの季節が訪れるように晴れやかとなった。

 

(約束通り、家族みんな解放奴隷になって幸せに暮らせるっ!!)

 

 そんな踊る心を抑えながら、カミロは魔導具が震えるのを待ちわびた。

 そして、講和会議が終わってから少し経った頃。その魔導具が震えた。

 

 カミロは家族で団らんする光景を思い描きなら、魔導具を作動させた。

 作動させた魔導具から強い光が放たれたかと思った瞬間、カミロの幸せな未来は爆炎と共に焼き払われた。

 

 野営地で爆発が起きると、さらに数か所で同じように爆発が起きた。

 

「なんだっ!? どうしたっ!?」

「何が起きたんだ!?」

「この爆発……まさか、日本軍の爆轟魔法かっ!?」

「待て。今停戦中のはずだろっ!?」

「狼狽えるなっ!! 総員。装備を整えて敵の攻撃に備えるのだっ!!」

 

 野営する軍団長は先ほどの爆発と自軍の狼狽える様を見て、以前やってきた伝令が言っていたことを思い出していた。

 

“クワ・トイネは長きに渡る停戦にしびれを切らし、我が軍を壊滅させる準備を進めています。どのような計画かわかりませんが、クワ・トイネに我らと和解する意思はありません。お気を付けください”

 

 この軍団長はクワ・トイネ軍の卑劣な手段に憤慨し、滾らせた戦意を兵士に伝えた。

 

「ロウリア軍将兵諸君。敵は卑劣にも和解の儀を蔑ろにし、剰え停戦を順守する我々に鉄火をぶつけてきたっ!! 断じてこのような愚劣を行う亜人共を許してはならんっ!!」

「そうだそうだっ!!」

「軍団長の言う通りだっ!!」

「兵士各位は戦闘用意。準備でき次第停戦を破ったクワ・トイネ軍へ攻撃を敢行するっ!!」

「「「おおぉぉ~」」」

 

 先ほどまで緩み切っていた士気は爆発によって一気に噴き上げられ、ロウリア軍兵士の雄たけびが野営地中に響き渡った。

 

 

中央暦1640年 7月25日

-クワ・トイネ公国 マイハーク日防軍基地-

 

 国境で問題が発生したほぼ同時刻。クワ・トイネ遠征派遣軍司令兼マイハーク日防軍基地司令の志麻 郷太郎少将は基地内の私室で休んでいた。

 

「ーー講和は成らず。か……」

 

 志麻は実家から送ってもらった日本酒をちびちびと(あお)った。

 

 つい30分前、第22任務旅団(北の港に展開)から講和会議の結果報告を受けていた。

 ロウリア側は講和条件に同意しなかったものの、停戦を維持する意思はあったため、再度の会談を行う方向で同意した。

 

 クワ・トイネ派遣軍の全権を持つ立場として、隷下部隊の状態をよく把握していた。

 戦えば勝てる。確かに戦場を現戦線に限定すれば日防軍の勝利は揺るがない。しかし、敵首都ジン・ハークを制圧し、更に大陸西方への進撃でロウリアを降伏させれるかというと、不可能というのが現実だった。

 

 停戦から1年ということもあり、統合軍参謀部では『何かしてくるかもしれない。警戒は厳とせよ』と指示を受けている。

 展開している第21任務師団からも特に報告はなく。この基地から飛び立った無人機の光学映像情報(OPTINT)でもロウリア軍が活発化していないことは確認済みである。

 

「せめて物資の量……燃料だけでも今の3倍くらいないと安心できないな」

 

 今後の戦略を思い描きつつ日本酒を一口呷った。その時、緊急連絡用の電話からブザーが鳴り響いた。

 志麻は反射的に受話器を取ると、当直参謀が慌てた口調で報告してきた。

 

≪お休みのところ申し訳ありません。HQ21より“ロウリア軍陣地にて謎の爆発あり。ロウリア軍の越境及びクワ・トイネ公国第4国境騎士団に対する接近を確認”との報告です≫

 

 志麻の頭の中で当直参謀の報告が一巡した。そして、次にすべき行動を命令した。

 

「ーーHQ21に誤認がないか再度確認しろ。あと、無人偵察機を準備でき次第離陸。クワ・トイネ公国第4国境騎士団周辺地域を偵察せよ」

≪わかりました≫

 

 通信が切れると志麻は急いで軍服に着替え、司令庁舎戦域管制センターへと向かった。

 

 付き士官も付けずセンターに入ってきた志麻に気付くことなく通信担当や情報解析担当が駆け回っていた。

 

「参謀。状況はどうなっているっ!?」

「はっ!? 失礼しました。志麻司令」

 

 志麻は自分の席に着くと、当直参謀がデータパッドを渡しながら今集まっている情報を報告した。

 

「志麻司令。本日夕暮れ直後にロウリア軍野営地にて爆発が複数発生。その後ロウリア軍が越境。そのままクワ・トイネ軍陣地へ進軍。近傍に展開していた21師団の一部が越境してきたロウリア軍へ阻止攻撃を始めました。現在交戦中との事です」

「統合軍参謀部と内閣への報告は?」

「既に連絡済みです」

「講和会議は流会したが停戦は維持された。ロウリアは元から停戦を破る気が合ったのか?」

「しかし、もし背後からの一突きを狙うなら、講和後に我が軍の戦力が減った後を狙った方が効果的ではないかと。それに、爆発の原因が不明です」

「そうなると動きと目的がチグハグだな。他のロウリア軍に動きはあるか?」

「北の港で待機しているHQ22からの報告では、対峙するロウリア軍に動きなしとのことです」

「無人偵察機の状態は?」

「まだ離陸できておりません。また、離陸してもここから戦線まで1時間以上かかります」

「22旅団はそのまま待機継続。21師団各隊に残燃料に留意せよと伝達してくれ」

「わかりました」

 

 室内の中央モニターには、戦況図としてロデニウス大陸中央が映し出されており、日防軍。クワ・トイネ軍。ロウリア軍の最新の配置がマッピングされている。

 

『日防軍。クワ・トイネ公国軍展開戦力

 

クワ・トイネ公国国境防衛戦力

  ↓→第1国境騎士団(CT1BA)※ギムに展開

  ↓→第2国境騎士団(CT2BA)※沿岸街道沿いの国境に展開

  ↓→第3国境騎士団(CT3BA)※ギムから南200kmに展開

  →→第4国境騎士団(CT4BA)※第1と第2の間に展開

 

 日防軍

マイハーク日防軍基地

 ↓→第61後方通信中隊

 ↓→第61防空大隊/補給中隊

 ↓→第201連隊/第2大隊

 ↓→第41重工兵大隊

 ↓→警備大隊※クワ・トイネ公国軍を含む増強大隊級戦力

 

第21任務師団※前線指揮中隊はギムに展開

 ↓→第61機動連隊※CT4BAとCT2BAの間に展開

 ↓→第41機動連隊※CT1BAとCT3BAの間に展開

 ↓→第41機械化大隊※CT1BAとCT4BAの間に展開

 ↓→第11戦術機甲大隊※ギム近郊に展開

 ↓→第101重工兵大隊※ギム近郊に展開

 ↓→第43機動連隊/整備中隊※ギム近郊に展開

 ↓→第31機動連隊/第3大隊防空中隊※CT2BAに随伴

 ↓→第72機動連隊/第2大隊防空中隊※CT3BAに随伴

 →→第81機動連隊/第1大隊防空中隊※CT4BAに随伴

 

第22任務旅団※北の港で待機

 ↓→第111機械化連隊

 →→第111重工兵連隊※1個大隊欠

 

展開図

 

【挿絵表示】

 

 

「ロウリア軍は何を狙っているんだ?」

 

 志麻は戦況図をじっと眺めるが、突破できそうな地点はない。

 クワ・トイネ軍を狙う理由はわかる。昨年春に開戦してから、ロウリア軍の戦力が半分近くまで減ったからだ。しかし、その残存戦力だけでもクワ・トイネ軍だけなら十分優位に戦闘はできる。だが、そのクワ・トイネ軍の数km圏内には日防軍部隊が展開しており、仮にクワ・トイネ軍だけ狙って奇襲しても、接近するだけで日防軍部隊に捕捉されるのだ。

 現に、越境してクワ・トイネ軍に狙いを定めて動いたロウリア軍は近傍で待機していた複数の日防軍中隊が対応している。

 

「志麻司令。警報を出した部隊と越境しているロウリア軍の速報分が纏まりました」

「ロウリア軍の規模は?」

「数はそれぞれ約1万人規模。第1国境騎士団と第4国境騎士団に狙いを定めて動いています」

「他のロウリア軍の動きは?」

「沿岸寄りのロウリア軍は今のところ動きなし。リーンの森付近に関しては無人偵察機の観測待ちです」

「ますます以てわからん。停戦1年を機に再侵攻してくるなら足並みを揃えてくるか、より大規模な戦力を投入するはず……」

「相手の目的がはっきりしないなら、今一度偵察と遅滞戦闘を命じた方がよいかと思います」

「そうだな。HQ21に再度の偵察と遅滞戦闘を命じてくれ」

「わかりました」

 

 志麻は戦況図を眺めつつ、計画されていたロウリア領進攻作戦のデータを引っ張り出し、戦略全体の見直しを考えるのだった。




解説はありません

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