OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第55話

中央暦1640年 7月26日

-クワ・トイネ公国 マイハーク日防軍基地-

 

 公都クワ・トイネで戦いが繰り広げられていることも知らず、昨日のロウリア軍越境攻撃に対応するためマイハーク日防軍基地は忙しなく動いていた。

 特に、昨日のロウリア軍越境から今後の対応をどうするか志麻たちは寝ずに統合軍参謀部や内閣と会議や調整を繰り返していた。

 

「……参謀。基地内の航空戦力の状態はどうなっている?」

「はい。航空陸戦群から37機。空軍の戦闘機隊は13機が出撃可能です」

 

 駐機場にはATー41とF-4Cの全稼働機が出撃できる準備が整えられつつあった。そして、航空機の周りでは整備員が駆け回っている。

 一方。車両待機場では基地の防衛用に残されている装甲車両が鎮座していた。こちらに至ってはマイハークが戦場になることが現状ありえない状況だったため、日常的な整備や点検が行われている程度だった。

 唯一動かされるのは、正門横の警衛詰所に横付けされているAPC(装輪式兵員輸送車)位だ。

 基地内に緊張感は漂っている。しかし、そこの戦力は基地を守備するための戦力分しか置かれていない。ただ、それは日防軍の戦力に限った話である。

 車両待機場の一角には、日防軍でほぼ使われない小型装軌車(LT-9)が100台以上鎮座していた。

 言わずもがな、これはクワ・トイネ公国第1機兵隊の装備である。

 数が少ないうちはマイハーク防衛騎士団の駐屯地に置かれていたが、保有台数が増えてくると用意していた待機場だけでは足りず、馬車置き場や練兵場など比較的広い空間を次々と占領してしまい、億劫しい物になっていたのだ。

 対して、マイハーク日防軍基地は元々軍団規模(3個師団)を想定して基地の造成を進めており(未だ未完成)、主力部隊の大半が基地の外で活動しているということも相まって、車両待機場は常駐戦力に対してかなりの余剰空間が存在した。

 クワ・トイネ軍の窮状を理解した志麻は快く車両待機場を無償貸与した。

 ただ、動かす乗員全員分の空き部屋はなかったので、第1機兵隊の人員のほとんどは基地の外で生活している。

 

 正門の警衛詰所では、常に基地内の出入りやカメラの監視を記録している。

 時間帯が昼となれば出入りは閑散だ。だが、門の外に延びる街道や畑道に多数の荷馬車が進んでいるのを監視カメラを見ていた日防軍兵士が確認している。

 

「班長。今日物資を搬入する予定なんてありましたっけ?」

「いや、そんな大規模な搬入予定はないぞ? 何だあの馬車の列は? 何台あるんだ?」

 

 マイハーク日防軍基地に大規模な荷馬車が訪れることは週に1回か2回は存在する。

 弾薬や燃料など危険性や機密性が必要な物資なら軍の輸送隊が請け負っている。ただ、こと食料に関してはクワ・トイネ内で直接なり間接的に購入しており、予算の都合と輸送力を吟味して現地の隊商馬車に運搬を委託しているのだ。しかも、近くには地元の農道が幾つもあり、基地の近くを荷馬車が通らない方が珍しい。しかし、単独だろうが隊商を組んでいようが、マイハーク日防軍基地に用事がなければ視界外へと通り過ぎていくだけだ。用があれば警衛詰所に申し出ればいいし、中途半端な距離を取って隊列を止める理由が見当たらないのだ。

 

 そして、その荷馬車の隊列から出てきた人々に日防軍兵士達に目は釘付けになった。誰も彼も程度の差はあれ武装している。

 そして、馬車の(ほろ)が外されると荷台にバリスタが据え付けられていた。しかも、こちらを狙っている。

 武装していた人々はそれぞれ集団を作って基地の外柵へ迫ってきた。

 

センター(戦域管制センター)に報告しろ。警備班は順次戦闘用意っ!!」

「「「はいっ!!」」」

 

 警備班班長が部下に指示を出すと、数人が小銃と弾倉を装備して正門の閉鎖に向かった。また、APCのエンジンも起動させ、正門内側で封鎖線を構築した。

 

≪こちら戦域管制センター。どうぞ≫

「こちら正門警備班。正門付近に武装集団が出現。ゲート封鎖と武器使用許可を求む」

≪司令に報告する。待機せよ≫

「了解。急いでくれ」

 

 警衛班の戦闘態勢はものの数分で整ったが、武装集団は正門から50m以内の草むらに身を潜めて動かなくなった。

 

 拡声器を持った警備班班長が武装集団に問いかける。

 

「こちらは日防軍マイハーク基地警備班である。基地周辺に潜む武装集団に告げる。そちらの所属と責任者。さらに行動目的を提示せよ。繰り返すーー」

 

 

 そのころ、基地司令の志麻は執務室で報告書を捌いていた。昨日のロウリア軍越境の対応に大量の書類がわいてきたのだ。

 

 机の電話が鳴ると、戦域管制センターに詰める士官が報告してきた。

 

「志麻だ。どうした?」

≪司令。正門警備班より報告があり、正門付近に武装集団が現れたとのことです≫

「待て。一体どういうことだ!?」

≪カメラ映像から武装集団の数は軽く数百人おり。武器使用。全出入口の閉鎖。あとドラムカン(・・・・・)と遠隔機銃の使用許可をお願いします≫

「……わかった。許可する。後、警報を流せ」

 

 志麻が受話器を置くと正門が見える廊下側に向かった。執務室の窓から正門は見えないからだ。

 窓から見える光景には、正門でAPCを中心に防御隊形を取る基地警備班と多数の武装集団が対峙する場面だった。

 

 防御態勢を整えた警備班に対して、武装集団は行動をもって応じた。

 

 荷馬車に据えられたバリスタの矢(短槍程度の大きさ)が飛んできた。しかも、よく見たら火を纏っている。

 

「奴らっ!! 撃ってきたぞっ!!」

「退避っ!! 退避っ!!」

 

 警備班員達は事前に組まれた土嚢の壁やAPCの陰に隠れて身を守った。

 バリスタの火矢は射程こそ拳銃や散弾銃程度だ。しかし、質量があるため装甲車並みの装甲があるなら防げるが、暴動鎮圧用の盾やボディアーマーでは耐えられない。

 何本もの火矢が、土がむき出しのところに刺さり込む。幸い負傷者は出ていない。

 ただ、警備班は重火器を備えているが未だに使用の許可が下りておらず、必然的に隠れるしか選択肢がなかった。

 

「内村っ!! 武器の使用許可はまだかっ!?」

「班長っ!! たった今許可が降りました!!」

「よしっ!! 総員武器使用自由。各自の判断で武装集団を攻撃せよっ!! うわっ!!」

 

 警備班班長はAPCの陰から武装集団を狙おうとするが、弓矢が飛んできて身を隠した。

 基地内にウ~という警報が鳴り響くが、お互い気付かない。

 

「交代で日本兵に向けて矢を放てっ!! 奴等に(小銃)を構えさせる時間を与えるなっ!!」

「油壷抱えてる奴は柵に取り付いて火元に投げ入れろっ!! 奴らを動けなくするんだっ!!」

 

 警備班の数はたった1個分隊(8人)だ。数で優位な武装集団は反撃の隙を与えないよう弓矢で断続的に攻撃している。

 その隙に油壷を抱えてる賊が柵まで近づき、突き刺さった火矢目掛けて油壷を投げつけた。

 基地を囲む鉄柵は有刺鉄線で昇りにくくしているが、所詮鉄柵であるため反対側を見ることは容易なのだ。

 

 火矢付近で割れた油壷は盛大に燃え上がり、警備班達の視界を徐々に奪っていった。

 

「斧持ちはこの鉄柵を切り分けろっ!!」

「おう任せろっ!! 日本兵共の牽制は頼んだぞっ!!」

 

 大きな斧を持った大柄な賊が何か所もの柵に取り付き、有刺鉄線や鉄柵を叩き割り始めた。

 対人侵入を想定していた有刺鉄線や鉄柵が斧によって容易く切られていく。

 人が通れそうなほど柵が切り分けられると、武装集団が次々と侵入し始める。

 

「班長。基地に武装集団が侵入しましたっ!!」

「応戦しろっ!! 建物に入らせるなっ!!」

 

 警備班の5.56mmライフルやAPCの12.7mm機銃が火を噴く毎に武装集団を撃ち倒していくが、複数個所から一気に侵入されているため対応が追いついていない。

 

「行け。行くんだっ!!」

「建物の陰まで走るんだっ!! そうすれば奴らは撃てないっ!!」

 

 既に何十という賊が銃火で骸を晒すが、それ以上の数が建物に張り付き、次の行動に出ようとする。

 

「おい。ここまで来たら次はどうするんだ!?」

「まぁ待て、見た限り敵は少ない。まず制圧すべき建物をーー」

 

 タンッタンッタンッという乾いた音が響くと、隊を率いていたリーダー格の胴体に数発の穴が開き、そこから鮮血が流れ出した。

 何が起こったのか理解できず、リーダー格はそのまま崩れ落ちた。

 

「なっ!!」

「どこかに日本兵が潜んでいるのか!?」

「いやっ!! あれだっ!!」

 

 一人の賊が剣で指した方向には、緑色のピクセルパターン(デジタル迷彩)が施された壺状の物体に6本の脚が生えたような“ナニカ”が6体あった。

 これは日防軍が基地警備用で利用する『Defense ReAction Multiple Combat Action Module』。通称“ドラムカン”と呼ばれる遠隔無人兵器群だ。

 高さは1mほどで装甲はなく、装備しているのは9mm自動銃(180発/分)だけと戦闘力はあまり高くなく威圧感にも欠ける。しかし、ドラムカンは常に複数で運用されており、さらに重さ100kgというサイズの割に足回りを重点的に設計され、最高速度は整地で20km/hを発揮する。

 

 そんな間抜けな見た目にリーダー格を殺られ、頭に血が上った数人がドラムカンを破壊しようと突っ込んでいく。

 

「ふざけた見た目しやがってっ!!」

 

 生き残った賊がドラムカンに切りかかろうとするが、ドラムカンが装備する9mm自動銃によって攻撃を受け、肉薄することはできなかった。

 ただ、弓持ちの賊がドラムカンを射抜いた。

 

「はっ!! ざまぁ見やがれっ!!」

 

 ドラムカンの外板は耐熱樹脂と炭素繊維でできているため矢を防げるほどの防御力はない。ただし、身はしっかり詰まっているため殴っても骨の方が逝かれるが……。

 

 弓使いが別のドラムカンに狙いを定めるが、それより早くドラムカンが9mm自動銃を発砲した。

 

「グフッ……」

 

 鉄柵から建物まで突破した武装集団は次々とドラムカンに狙われ、物言わぬ死体へと変わり果てていった。では、基地の外が安全かというと、そんなことはなかった。

 

≪バリスタを乗せた荷馬車。そいつを狙え≫

 

 5.56mm遠隔操作式機銃塔が基地の四隅や正門両側。さらに死角を減らすよう各所に物見櫓代わりで多数置かれている。そのうち6基が荷馬車の列を射角に収めており、猛烈な銃火で荷馬車を木の残骸へと変えていった。

 そして、荷馬車近くで待機していた賊は銃弾を諸に喰らい、亡骸を草原に晒している。

 数少ない生き残りは荷馬車の残骸に身を潜めながら、次の行動を考えている。

 

「おいメルナットっ!! お前、基地の戦力は大したことないって言ってただろうがっ!!」

「うるせぇっ!! まさかあんなよくわからん物(無人兵器・遠隔機銃等)で武装してるなんて予想できるかっ!!」

 

 荷馬車だった(・・・)物の近くで残っているのはほんの数十人。

 荷馬車と鉄柵の間にある草むらには武装集団の生き残りがそれなりに潜んでいるが、遠隔機銃塔で頭を上げることができない。

 基地に侵入できた百人あまりは、基地内の防衛戦力によって徐々に追い詰められている。

 

「くっそ……!! ヴァーラン。何かないかっ!? 何かっ!?」

「そんな便利なもんがあったらとっくに使ってるっつーのっ!!」

 

 日防軍基地を襲撃した賊の隊長格は打開策を考えた。しかし、そうは問屋が卸さなかった。

 

 賊の隊長は、銃火の音が止んだことに気がつくと、頭を少し揚げて辺りを観察した。

 

「……攻撃が止んだ?」

「おいメルナット。後ろを見ろっ!!」

「後ろだと……? クソッ!! そういう事かっ!!」

 

 基地とは反対方向。つまり賊の背中側にクワ・トイネ軍の軍旗を掲げた戦列が整えられていた。

 

≪遠隔機銃は射撃中止。繰り返す。射撃中止≫

 

 クワ・トイネ軍の戦列に気付いた日防軍兵士が遠隔機銃による射撃を中断したのだ。続けてしまっては彼らが近づけない。

 

 戦列にはLT-9が3台含まれており、中央の車両にはマイハーク防衛騎士団のパウリナ・イーネ団長が立っている。

 

「我らが友の危機であるっ!! 歩兵は前進っ!! 騎兵は賊が逃げぬよう取り囲めっ!!」

 

 賊の隊長格は、射撃が止んでいるうちに基地内へ侵入しようかと考えた。しかし、基地内ではさらに深刻な事態が進んでいた。

 

「隊列を組めっ!! 侵入者どもを排除するんだっ!!」

「武器を捨てた賊は捕縛しろっ!!」

 

 基地内にもLT-9を先頭にクワ・トイネ軍の小隊が進んでいた。しかも、日防軍兵士と違うライフル(M1カービン風)を装備している。

 彼らは基地内に常駐している基地警備隊と第1機兵隊の宿泊組(・・・)だ。

 基地内に第1機兵隊の装軌車両のほとんどを保管しているが、流石に車両だけ保管というのも居心地が悪かったので、基地の保安と整備の実習も兼ねて500名程度のクワ・トイネ軍将兵が常駐していた。

 今回。賊による基地襲撃に運悪く遭遇した宿泊組は、日防軍の武器庫で仮保管していた装備を受領し、攻め時を狙って建物の陰に集まっていたのだ。そこに、マイハーク防衛騎士団が救援に駆け付けたことを確認すると、警備大隊は一気に動き出した。

 

「第1分隊。第2分隊前進。武装集団を囲めっ!!」

「クソッ!! 亜人共がいい装備(・・・・)してやがる!!」

 

 基地に侵入を果たした集団はドラムカン4セット(計23台)第1機兵隊1個小隊(4台24人)。さらに戦闘準備を整えた日防軍のAPCやMCVが複数の歩兵と共に包囲しつつあった。

 

 初戦は奇襲と人数差で何とか押し込んだ武装集団だったが、既に人数差は逆転しており、生き残りも少しずつ銃火の前に倒れていった。

 

「ーー残念だが、俺たちはここまでのようだ」

「まぁ何だ。本命(・・)はこっちじゃないしな……当分牢屋の中だろうが……」

 

 散発的な射撃音が鳴り響く中、武装集団のリーダーは腰の剣をさやごと両手で持ち上げて降伏する意思を示した。

 

「俺たちの負けだっ!! 投降するから撃たないでくれっ!!」

 

 言葉を聞いた他の賊も次々とリーダーに倣って武器を両手で高く掲げたり、負傷している者は武器を地面に捨てた。

 

「センター。武装集団が投降し始めた。送れ」

≪懐に武器を仕込んでいるかもしれない。他に隠していないか念入りに確認させろ。送れ≫

「了解。オーバー……。収容作業を行う。投降者は武器を持ってこちらに集合せよっ!!」

 

 武装集団はゆっくりと開けたところに集まり、日防軍将兵によって武器の集約。さらに身体確認に入った。

 

 クワ・トイネ軍兵士は武装集団の亡骸を注意深く確認しながら、装備の回収と遺体の収容作業に入った。

 

「副団長。ここは任せます」

「わかりました」

 

 イーネはLT-9に乗ったまま、司令庁舎の正面出入口へと移動した。

 その光景を遠目で見ていた志麻と参謀がイーネを出迎えた。

 

「お久しぶりですっ!! 志麻少将」

「これはイーネ団長。マイハーク防衛騎士団の救援に感謝します」

「感謝は無用です。この基地が襲撃されていると報告を受け、戦友の危機に馳せ参じた次第です」

「そうでしたか……しかし、これだけの武装集団が現れたことを鑑みるに、マイハーク市内に仲間が潜んでいるかもしれません。当方も可能な限り警戒監視を実施しますが、より地場に詳しいイーネ団長にお願いをーー」

「志麻司令。失礼します」

 

 志麻とイーネが話していると、後ろから通信士官が志麻に耳打ちした。

 

「……確かか?」

「松倉中佐からの情報です。信頼してよいかと……」

 

 公都クワ・トイネの日本大使館にいる松倉から“公都にて大規模な武装集団が出現。公国軍と交戦中”という報告に志麻の目はカッと開かれた。

 

「公都内の様子を確認する必要がある。無人偵察機を飛ばせ」

「手配します。後、脱線事故の方も確認が必要です。無人偵察機の飛行ルートに加える必要があるかと……」

「そうだな。航空陸戦群司令に指示を頼む」

「わかりました」

 

 参謀と通信士官が各々庁舎に戻ると、志麻はイーネに事を伝えた。

 

「志麻少将。何か重大なことでも?」

「はい。先ほど大使館付武官より報告が入り、公都クワ・トイネで大規模な戦闘が起きているようです。さらに、公国軍は劣勢にあると……」

「そんなっ!? 公都には防衛騎士団が駐留しています。負けるとは……」

「しかし、少し前ランドレイ参謀より公都の戦力が各地の治安維持に駆り出されたと聞いています」

「それは確かにそうですが……しかし、こうも戦力が抜けた後に武装集団が現れるなんて……」

「どうも、こうなると武装集団による襲撃はかなり前から練られたもののようですな」

「志麻少将はどうお考えですか?」

「判断するには情報が足りません。我々は国境防衛と公都の情報収集に努めます。イーネ団長はマイハークの巡回警備をお願いします。武装集団の仲間が活動しているかもしれません」

「わかりました。城砦に戻るのでこれにて失礼します」

「道中お気をつけて」

 

 イーネはLT-9に揺られて一部の兵と共に防衛騎士団の駐屯地へ帰っていった。

 

「さて、これはまずいことになったぞ……」

 

 志麻は帽子をかぶり直すと、戦域管制センターへと向かった。




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