OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第56話

中央暦1640年 7月27日

-クワ・トイネ公国 マイハーク日防軍基地-

 

 温まった空気で急速に積み上げられた雲に覆われるマイハーク日防軍基地。そこの戦域管制センターに志麻達派遣軍司令部とランドレイ参謀などクワ・トイネ軍の将校数名が集まった。

 

 センター室モニターにはクワ・トイネ内に展開する大隊ないし連隊の隊長が軒を揃えている。

 

 揃ったどの顔も横にいる者と話をしている。そして、内容は一様に『公都クワ・トイネ。叛乱軍に占拠される』という確証不明の情報(発信元は日本大使館)についてだ。誰も彼も(いぶか)し気に首を傾げている。

 

「全員静かにしてくれ。ブリーフィングを開始する」

 

 志麻の言葉に参列者一同は口を閉じた。次いで、部屋は暗くなり、中央の大型スクリーンにロデニウス大陸全土を写した。

 

「まずは現状を伝えねばならん。事態を知っている者も知らない者もいるだろうが……昨日。公都クワ・トイネは反乱軍によって占拠された」

「「「!?」」」

 

 参列者の多くは志麻の言葉に驚愕した。そして、一人のクワ・トイネ軍将校が質問した。

 

「志麻少将。公都が反乱軍によって占拠されたというのは確かなのですか?」

「公都に置かれた我が国の大使館と航空偵察の結果、そう判断している」

「志麻将軍。反乱軍の規模は解りますか?」

「最低でも3000。多くても5000と思われる」

「それなら、公都に急ぎ部隊を展開させましょう。ここマイハークだけでも3000の兵力があります。それに、第1機兵隊も全力発揮可能です。直ちに公都奪還のために進発しましょうっ!!」

「もちろん我が軍も公都奪還のために計画を練っています。しかし、我々の真なる敵は入念に我々の行動を妨害している」

「それは、昨日この基地を襲撃したことですか?」

「それも含みますが、他にもマイハーク-クワ・トイネ間及びクワ・トイネ-エジェイ間の鉄道で脱線事故と2次被害が生じている」

「脱線事故ですか? それがどうしたというのです」

「その脱線事故を起こしたのが、軍需物資(燃料と弾薬)を運搬していた貨物列車だったのです。真の敵は意図的に脱線事故を誘発させたと考えられる」

「失礼ですが、それはどの程度の影響があるのですか?」

「現在国境付近に展開している第21任務師団を1ヵ月動かせるだけの量です」

「「「???」」」

 

 イーネをはじめ、クワ・トイネ軍将校や士官達は移動というのは“食料(飼料含む)こそ消費するが、(燃料)を使うものではない”という認識があった。だが、日防軍では逆なのだ。

 国境付近に展開している第21任務師団は900両を超える車両を装備している。

 全ての車両がタンクを空にするほど使うことはないが、軽く動くだけでも大型タンクローリー(液量20kリットル)が数台必要なのは想像できるだろう。さらに、車両の中には車載発電車も多数含まれており、この車両に至ってはレーダーや通信装置の電力を一手に賄っているため、常にエンジンを動かし続けている。

 

 なお、現代“陸軍”の基準で『兵士1人の補給日量は100kg程。内60%が燃料』と言われている。第21任務師団の総人員数は4400人弱だ。単純計算で440tもの物資を1日で補給しており、燃料が占める量は264tにもなる。

 短距離ならタンクローリーでもいいだろうが、マイハークからエジェイとなると、陸送で700kmとなる。タンクローリーより鉄道を使った方が迅速かつ効率的なのだ。

 ただ、荷物が食料のような一般的なものであれば、コンテナの色は民間で使うものと同じだ。ただ、これが弾薬や燃料となると話が変わってくる。

 燃料はコンテナの形が円筒形なので、通常の四角コンテナと比べて遠目でも非常に判別しやすい。さらに、弾薬に至っては事故発生時に被害を極力最小限にするため、コンテナが通常より少ない積載状態で運行される。しかも、物によっては細長いため幌を被せた貨物車の場合もある。

 早い話、民間貨物と軍用貨物は判別が容易だったのだ。

 

 ロウリアとパーパルディアの諜報員(以下:敵諜報員)は鉄道を妨害するため盗賊を(けしか)けたこともあった。しかし、荷馬車を襲うのとは訳が違い、一つも成功しなかった。

 目の前で餌を眺めるだけの日々が続いた。そして、とある日監察する鉄道で脱線事故(脱輪事故)が起きた。

 線路を複線で敷いていたため、遅延こそ発生したものの運行停止はなかった。

 だがここで、敵諜報員は運行に関わっている日本人から信じられない話を聞くことができた。

 『鳥が石か何かを線路上に置いたため、脱線した』という話だ。

 そんな馬鹿なという話があるかも知れないが、カラスなどが実際置き石したことによって脱線事故を起こした事例が実在するのだ。

 日本国内ではカラスの置石対策がされているので、そのような事案はない。しかし、CROの置石対策は十分どころか理解されていなかったため、結果的に発生してしまったのだ。

 それを知った敵諜報員は鉄道の弱点を把握した。

 『線路の上に石か何か置けば、破壊は無理でも妨害はできるのでは?』という事を。

 

 もちろん。実行するにあたり前々からどのような物がいいか試していた。

 人間の頭ほどの大きさの石だったり、時には拳大の石。レンガ。木の枝等々。容易に手に入り不自然でないものを選定した上でだ。

 

 敵諜報員の運行妨害は結果的に公都クワ・トイネを結ぶ上下線に甚大な打撃を与える結果を誘発させた。

 鉄道に対する防護措置という点において、日防軍側は完全に無警戒だったと言わざるを得なかった。

 

「志麻少将。輜重隊の護衛や兵站の維持は軍事作戦において基本中の基本です。なぜその貨物列車に護衛を同伴させていなかったのですか?」

「……正直。油断していたと言わざるを得ません。国境線付近を除き、我が軍はクワ・トイネ領内を安全な戦略後方と考えていたのです」

「……」

 

 イーネをはじめ、クワ・トイネ軍将官は一様に黙ってしまった。

 クワ・トイネとしては日本の軍事力を把握すると、ロウリア軍の撃退を日本に任せ、代わりに領土内の保全や保安。補給物資の無償供与(主に食料)等、地場の力を存分に発揮できるように動いている。

 ただ、今回公都の陥落やマイハーク基地襲撃等。公国にとって緊急事態となる案件が領土内で一斉に起きてしまったのだ。

 クワ・トイネの事情を知っている者にとって、日本の不手際をとやかく言える者はいないのだ。

 

 沈黙が支配するセンター内で現在クワ・トイネ軍の最高指揮官となってしまったリビオ・デュラム将軍が口を開いた。

 

「志麻少将。我がクワ・トイネ軍は国境以外の全戦力を迅速に集結させ、公都奪還に動くつもりです。日防軍は今後どうするおつもりですか?」

「……今後の動きにつきましては、統合軍参謀部と内閣の間で現在協議しております。残念ですが、クワ・トイネ国内に展開する戦力を公都奪還に動かすと、今度はロウリア軍への対応が困難になります。それに、脱線事故によって纏まった量の補給物資が喪失しました。我が軍が動くには今しばらく時間が必要です」

「……志麻少将のお立場は理解しました。国境周辺での守りは日防軍にお任せしてもよろしいでしょうか?」

「それだけであればなんとかなるでしょう」

「わかりました。日本の方は補給線回復に力を注いでください。領土内の反徒はこちらで対処いたします」

 

 デュラムが志麻に伝えると、集まった将官達は解散した。

 その後、クワ・トイネ軍はマイハークを起点に公都奪還の為に戦力を集結させるべく、各地に散っている部隊に集結命令を発する。

 対して、日防軍は補給状態を勘案して公都奪還には即参加せず、まず国境付近の部隊の補給線再構築。さらに本土で待機している部隊から増援の派遣と集結を待つ事となる。

 

 

中央歴1640年 7月27日

-OCU日本国 霞ヶ関-

 

 マイハーク日防軍基地でクワ・トイネ軍将官との連絡会議が行われている中、内閣でもNSCが開かれていた。

 

 枢木は防衛省から上がってきた報告書を読み進めていくと、時間と共に眉間に皺が深くなっていった。

 

「ーーそれで、現段階で分かっているのは反乱軍による『公都制圧』に『人為的脱線事故』。『マイハーク日防軍基地襲撃』だけなのか?」

「不明です。日防軍は公都を含む主要都市3つ(クワ・トイネ。マイハーク。エジェイ)と国境周辺の町や村にしか情報収集をしておりません。3都市路線間やそれ以外の地域に関する情報はクワ・トイネから伝えられた以上の物はありません」

「……統合軍参謀部は反乱の予兆を把握できていなかったのか?」

「我が国に敵愾心を持つ人物に対する素行調査は進めていました。その対象(ノウ将軍)が反乱を決起したのは講和会議の後と思われます」

「クワ・トイネにその要監視人物の情報は提供していたのか?」

「提供しましたが、明確に反乱を企てているという情報を得たのは5日前です」

「5日前か……クワ・トイネは情報提供において何と?」

「驚きと共に憂愁の声を上げていたと松倉中佐より報告を受けています。軍務局でノウ将軍は国粋軍人の模範でしたので……」

「まさか、纏まった規模の戦力が反乱軍に参加していないだろうな?」

「クワ・トイネ派遣軍の志麻少将の報告では、指揮官クラスは兎も角。下士官や兵士はほとんどいないようです」

「それは確かか?」

「現在クワ・トイネ軍の総指揮を代行するデュラム将軍の話では、“公都内の騎士団を除く全部隊に対して魔信による確認はできており、どう多く見積もっても1個隊(大隊規模)以上の規模で反乱に参加していない”とのことです」

「その話もどこまで信用していいかどうか……。軍は今後どう動くつもりだ?」

「残念ですが、軍需物資を満載した列車の事故で大規模な部隊移動に支障が出ています。国境線防衛も考えると『第21任務師団』から大規模な戦力を抽出することはできません。国内在留戦力から『第23任務旅団』と『第24任務旅団』を編制。クワ・トイネに投入して反乱軍撃滅を計画しています」

 

『第23任務旅団編制

第1師団/第11機械化連隊

前線指揮中隊

 ↓ ↓→第1機械化大隊

 ↓ ↓ ↓→第1中隊

 ↓ ↓ ↓→第2中隊

 ↓ ↓ ↓→第3中隊

 ↓ ↓ →→WAP中隊

 ↓ ↓

 ↓ ↓→第2機械化大隊※上記機械化大隊と同じ

 ↓ ↓

 ↓ ↓→戦車大隊

 ↓ ↓ ↓→第1中隊

 ↓ ↓ ↓→第2中隊

 ↓ ↓ ↓→第3中隊

 ↓ ↓ →→機甲工兵中隊

 ↓ ↓

 ↓ ↓→整備大隊

 ↓ ↓ ↓→第1中隊

 ↓ ↓ ↓→第2中隊

 ↓ ↓ ↓→第3中隊

 ↓ ↓ →→輸送中隊

 ↓ ↓

 ↓ →→WAP中隊

 ↓

 ↓→第22機甲連隊

 ↓ ↓→前線指揮中隊※転移で全損

 ↓ ↓→第1戦車大隊※転移で全損

 ↓ ↓→第2戦車大隊※上記戦車大隊と同じ

 ↓ ↓

 ↓ ↓→自走砲兵大隊

 ↓ ↓ ↓→第1中隊

 ↓ ↓ ↓→第2中隊

 ↓ ↓ ↓→第3中隊

 ↓ ↓ →→補給中隊

 ↓ ↓

 ↓ ↓→整備大隊※上記整備大隊と同じ

 ↓ ↓

 ↓ →→WAP中隊

 ↓

 ↓→第131機動砲兵大隊

   ↓→第1中隊※転移で全損

   ↓→第2中隊

   ↓→中距離誘導弾中隊

   →→機動防空中隊

『第24任務旅団編制

第9師団/第91通信中隊

後方通信中隊

 ↓

 ↓→第61空中機動大隊

 ↓ ↓→第1中隊

 ↓ ↓→第2中隊

 ↓ ↓→第3中隊

 ↓ →→航空偵察中隊

 ↓

 ↓→第71空中機動大隊※上記空中機動大隊と同じ

 ↓

 ↓→第21航空打撃大隊

 ↓ ↓→第1中隊

 ↓ ↓→第2中隊

 ↓ ↓→第3中隊

 ↓ →→航空偵察中隊

 ↓

 ↓→第91航空打撃大隊

 ↓ ↓→第1中隊

 ↓ ↓→第2中隊

 ↓ ↓→第3中隊※転移で全損

 ↓ →→航空偵察中隊

 ↓

 ↓→特殊作戦群/空中機動大隊※上記空中機動大隊と同じ

 ↓

 ↓→航空陸戦群/第202戦術通信大隊

   ↓→第1無人機中隊

   ↓→第2無人機中隊

   ↓→第1整備中隊

   →→第2整備中隊

 

「三垣統合軍参謀長。『第23任務旅団』が必要なのはわかるが、『第24任務旅団』も必要なのかね?」

「総理。今回の反乱に関する情報を精査した結果、『パーパルディア皇国』の諜報機関がかなり深い所に関わっています。無人偵察機を用いてクワ・トイネ領内全域の偵察を実施していますが、反乱軍に加担している勢力が他に隠れている可能性がいまだに拭い切れません。それに、我々の敵はピンポイントで軍用貨物列車の破壊を実行しています。公都や前線に意識を向けている間に他の箇所でも破壊工作を行う可能性があります。クワ・トイネ国内の反乱鎮定を迅速に成すには、機動力に富んだ部隊がどうしても必要になります」

「……軍に回せる燃料は今より増やせないぞ」

「承知しております」

 

 こうしてNSCは閉会し、日本は『英雄の反乱』に対して対応を始めた。ただ、この内乱の先がどうなるのか、誰も予測することはできなかった。




解説

・兵士1人の補給日量は100kg程。内60%が燃料の件ですが、これは主に米国陸軍師団を基に算定されています。なので、自衛隊や他国軍隊では総重量と内容は自ずと変化します。また、この補給総重量ですが、(たぶん)兵士個人に対するものではなく、師団向け物資の総重量を兵員数で割ったらそうなった。というニュアンスで受け取るのがいいかもしれません。
また、出展に関しては次の書籍より引用しています。

出典
‐現代ミリタリー・ロジスティクス入門 軍事作戦を支える人・モノ・仕事
著者
井上 孝司
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