中央暦1640年 7月30日
-クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ-
強い日差しが降り注ぐ中、公都クワ・トイネ市内はいつもと違う喧騒に包まれていた。それは、粗忽者の反乱軍が豪華絢爛な貴族の邸宅を襲って金品を強奪したり、歓楽街で酒池肉林に励んでいるからだ。
事態をあまり知らなかった商人貴族は反乱軍と知らず抗議すると、反乱軍によって有無を言わさず切り捨てられた。
反乱軍は市民に対する見せしめとして商人貴族の首を槍で高々と掲げ、“我ら憂国騎士団に逆らえばこうなるぞっ!!”と吹聴し回った。
真っ当な市民の多くは恐怖で体が竦み、わが身を守るため外へとほとんど出ることはなくなった。
軍務局では
「ーー将軍。市内の官公庁舎及び騎士団駐屯地を完全掌握しました。武具と食料は
「うむ。『クワ・トイネ中央駅』の方はどうなっている?」
「制圧は完了しました。しかし、軍用貨物列車はなく、日本軍の物資を奪うことは失敗しました」
「そうか。なら副次目標である軍用輸送列車と軌道敷の破壊はどうなっている?」
「そちらは成功しました。戻ってきた実行部隊の報告では“まるで古代竜が火炎咆哮を空へ吐いている”ように見えたとのことです」
「ふむ。それなら国境付近とマイハークの日本軍分断は成功したと見ていいだろう」
「将軍。我々『憂国騎士団』は次にどのように動きますか?」
「少なくとも、公国軍のほとんどは
「しかし、そうなると
「貴官の言うことは理解している。ただ、我々の目的はあくまで『日本との片務的関係改善』だ。戦場で日本軍を打ち倒す必要はないのだよ。参謀」
シュタグロフはノウのように現場からの叩き上げで成りあがった将官ではなく、どちらかといえば机と書類で戦争に貢献するタイプの将官である。
シュタグロフは日本の情報を“味方として”少しづつ収集していくと、その恐ろしい実力を肌で実感した。
ただ、本人としてはノウほど日本に敵愾心はないものの、かといって現状のクワ・トイネが時間と共に日本の属国のようになっていくことに思うところがあって秘かに結成された『憂国騎士団』に参加した。
もし日本が本気を出せば、今残っているロウリア軍すら鎧袖一触で蹴散らすほどの実力だ。ただ、だからこそ日本軍の弱点……いや、OCU日本国の弱点が見えてきた。
強大な国家を動かすために必要な資源の種類と量が多いのだ。
そして、現状そのほとんどをクワ・トイネとクイラから輸入している。
日本とクワ・トイネの国力差はかなりのものだ。しかし、食料の最大輸出国であるクワ・トイネの要求を無下にできないことをシュタグロフは把握した。だからこそ、なし崩し的に締結してしまった日本とクワ・トイネの
ただ、交渉するには
それが、シュタグロフの知らぬ内に、ノウの短絡的な行動によってカナタをはじめとする権力者やその取り巻き勢がほとんど亡くなってしまったのだ。
間接的若しくは穏健な手段による解決はできない状態となっており、シュタグロフは頭を抱えていた。
執務室の扉がノックされた。
「シュタグロフ将軍。ハンキ将軍をお連れしました」
「お通ししろ」
扉が開かれると、そこには兵士2人に連れられたハンキだった。
ハンキは政府公館が吹き飛んだことを知るやいなや 直ちに隷下騎士団に戦闘準備を命じた。しかし、時すでに反乱軍は他の主要施設制圧に動いており、軍務局は五月雨的に戦力を投入。結果反乱軍に敗退し、抵抗空しくハンキ自身も捕縛されたのだ。
「ハンキ将軍と2人にしてくれ」
「わかりました」
兵士と参謀が部屋から退室した。
「手荒な真似をお許しください。ハンキ将軍」
「シュタグロフ将軍。まさか国家に尽くすべき軍人が反乱など。恥を知れっ!!」
「将軍の言葉はごもっともです。なので、こちらも事態を穏便に終わらせるためにお聞きしたいことがあるのです」
「ふん。虜囚の身である私に少しは価値があるようだな」
「えぇまぁ……政府施設を制圧したところ、政府高官が数名行方不明であることがわかりました。将軍はその政府高官の所在を知っているのではないですか?」
「貴様らが公都を制圧したのは4日前だ。すでに脱出しているのではないかな?」
「もちろん。この反乱が偶発性のある物なら公都から逃げることは可能でしょう。しかし、残念ながらこの反乱計画はかなり前から計画しています。公都に出入りできる街道や鉄道駅。さらには水路も常時監視しています。鼠一匹入ることはおろか、出ることもできません」
ノウが政府公館を爆破してしまったとき、政府上層部や議員の大半は政治部会に出席していた。ただ、少数の貴族議員が個人的な理由によって政治部会に出席しておらず、運よく犠牲にならなかった。
生き残った貴族議員は何とか公都から脱出しよう試みたが、反乱軍の動きは緻密に組まれており、さらに貴族議員の私兵は反乱軍との戦いですでに犠牲になっていた。結果、公都脱出を果たすことができずにいたのだ。
その貴族議員は公都内を逃走し続けており、反乱軍は未だその尻尾すら掴めていない。
「それで、私に何を聞きたいんだ?」
「私も軍務局に勤めてそれなりに長いですが、貴族議員とあまり反りが合わないので交流が少ないのですよ。ハンキ将軍なら貴族議員が隠れそうな私邸や別荘に心当たりがないものかと思いましてね」
「それを教えて貴族議員を捕縛するつもりかね?」
「もちろんです。このままでは交渉のテーブルに着くことができず、遠からず我々は日本軍と公国軍に捻り潰されると見ています」
「敗北を悟っているのか? それなら私が交渉役を買ってやろうか?」
「まさかっ!! 敗北が確定しているからと言って、その間にどのような戦いが起きるか想像できないのですかな? 将軍ともあろうお方が?」
「戦争は結果が良ければその道程がいかに杜撰でも容認されるものだ。だからこそ
「そうですな。ロウリアとの戦争を迅速に終わらせれれば、我々も動くことはなかったのですが……」
「10倍もの戦力を相手に単独でか? ぜひ頭脳明晰な参謀の意見を聞いてみたいものだ」
「……既に否決されたものですが、軍務局の資料室に残っています。興味が御有りなら、探してみてください」
「いいだろう」
「さて。話が脱線したので本題に戻りたいのですが、ハンキ将軍は貴族の別荘や私邸に心当たりは?」
「まず確認したいのだが、その貴族議員に手を出すことは?」
「無い……と言えればよいのですが確約はできません。相手もおそらく武装しているので反撃される可能性が高い」
「……」
ハンキはシュタグロフの反応に違和感を覚えつつ、降伏させれないか説得することにした。
「シュタグロフ将軍。いずれ来るであろう公国軍と対決して敗北を確信しているなら、降伏するしかないのではないか? 貴官の貴官の部下も、減刑するよう私も尽力しよう。どうだろうか?」
「ハンキ将軍。お気持ちはうれしいですが、もはや後戻りできないところまで来てしまった。それに、この反乱は
「待て。そうなると公都に住む多くの国民が戦禍に巻き込むぞっ!! 軍人は戦えぬ民を守るためにあるのだ。民を盾にするような戦いは断じて許容できんっ!!」
「確かに。この反乱が本当に愛国者が行ったものならまだ救いようがあったでしょうな」
「……どういうことだ?」
「私が『憂国騎士団』に参加し、組織の内情を調べていくと。この計画は
「お膳立て? 君たちの反乱にパトロンが存在するのかっ!?」
「えぇまぁ。反乱を実行するための見せ札が我々『憂国騎士団』であり、実際の利益はそのパトロンが得るというのが正しいかと……」
「ではシュタグロフ将軍。それを知りながら貴官は反乱に加担し、実行したということか!?」
「ハンキ将軍。貴方も計画のパトロンが誰なのかを知れば、反乱を止めることに躊躇するはずだ」
「そのパトロンは誰なんだ!?」
「……パーパルディア皇国の、おそらく『国家戦略局』です。名前くらいは聞いたことがあるでしょう?」
「名前どころか、国内で活動しているという報告は聞いている。しかし、皇国程の実力なら正面からでも我が国を降すことは十分可能なはず。なぜそのような反乱などという回りくどい行動を取ったのだ?」
「そうですな。どこから話せばよいか……」
シュタグロフは机から分厚い書類を取り出した。
「ハンキ将軍はなぜロウリア軍が50万の大軍勢を用意できたかご存じですかな?」
「ロウリアの人口は膨大だ。用意するだけなら十分に可能だろう?」
「確かに人口だけなら十分可能ですが、そこに武器や防具。騎馬にワイバーン。さらにそれらを支える食料や給金を考えるとロウリアの国力では不可能なのです」
「だが、現にロウリアは揃えて……!! そこでパーパルディア皇国の支援が入ったということか!!」
「はい。昨年日本と皇国の間で起きた『ジン・ハーク北の港防衛戦』で皇国側が“ロウリア王国に対する借款の回収”という風に通達しています。十中八九ロウリアにパーパルディアの支援が入っているでしょうな」
「そうか。ロウリアが我が国とクイラを下した後、借款の回収を名目に横から利益を得るように仕向けたということかっ!」
「おそらくですが、そういう風に筋書きをしていたでしょうな」
「だが、我が国が日本と軍事同盟を締結し、その筋書きが破綻したということか」
「そうです」
「しかし、パーパルディアは日本と和親条約を結んでいる。日本に害を与える行為は危険ではないか?」
「ここからは幾分か私の推測を含みますが、パーパルディア内で日本に復讐を目論む勢力がいるのではないかと考えています」
「日本に復讐? それがなぜ我が国での反乱計画に繋がるのだ?」
「日本の国力は恐ろしいものです。パーパルディアもそれを身をもって思い知ったことでしょう。しかし、日本はその強大な国力を維持するために必要な資源が大量です。現に食料に関しては我が国の余剰生産分ですら足りず。我が国の土地を借りて農林畜産業に勤しんでいます。さらに、鉄資源や石油?という物をクイラからかなりの量を輸入しています」
「巨体を維持するのに必要なエサが多くなるのと同じか……」
「そうです。だからこそ、パーパルディアは我が国の食糧輸出を妨害するためノウ将軍を
「ふむ。なるほど……そうなると、如何せん解せんことがある」
「解せないこととは?」
「貴官の動きだ。そこまでこの事態に精通しているなら、このような破壊的なやり方でなくとも状況を改善できたのではないか?」
「先ほども申したように、この反乱の詳細が判明したころには妨害できる段階はとうに過ぎていました。それに、下手に妨害しようものなら私や私の部下を排除するでしょうな。それだけパーパルディアの諜報網の根は深い」
「……だからこそ、保身のために反乱に乗ったと? 対価は金か? 地位か? 名誉か?」
「……」
シュタグロフはハンキの質問に答えず、ただ不敵な笑みだけを浮かべた。
「ハンキ将軍。最初の質問に戻るのですが、貴族議員の私邸や別荘に心当たりは?」
「……知らん」
「そうですか。貴官には事態が落ち着くまで地下牢に拘束させていただきます。おいっ!!」
廊下で控えていた兵士2名が部屋に入り、ハンキを歩かせようとした。
ハンキも諦めて退室するが、立ち止まり振り返った。
「シュタグロフ将軍。先程の質問の回答は結局何なのかね?」
「名誉や金か……ですか? おそらく、後世歴史家が語るでしょうな」
「そうか。精々自らの選択に殉じたまえ」
ハンキは不機嫌な態度を隠さず兵士と共に退室した。
シュタグロフは席に戻ると、お気に入りの葉巻に火を着けて軽く紫煙を吐き出した。
「反乱の片棒を担いだ参謀か……今はそれでいい」
公都で唯一機能している軍務局は、日が落ちても明かりが照らされ続けた。
中央暦1640年 8月3日
-パーパルディア皇国 エストシラント-
この日、第3文明圏で栄華を極めるエストシラントでは高い気温と湿度によって生じた豪雨が都市全体を覆っていた。
強い雨がエストシラント城に吹き付ける中、ガタガタと鳴り響く窓を無視してルディアスは執務に励んでいた。
「ーー北方は……2つの保護国を属国に編入。6つの属国から領土を割譲か……。こっちは……昨年集めた奴隷が合計8万以上か。これだけ毎年集めているのに、経済がなかなか回らんな。奴隷をもっとかき集めんと……」
彼のもとに届けられる書類は、どれも各局局長の決裁印が記された重要書類だ。
「財政は……まぁ先代のような平穏な時代ではないから、債券発行が多くなるのは仕方ないか。しかし、国庫も少しずつ目減りしているか。う~む……」
ルディアスは目頭を押さえた。長い時間書類ばかり見続けて目の奥が痛くなった。
一息入れようとカップに手を伸ばすが、中身が空だったので手元の鐘をカランッカランッと鳴らして侍従を呼んだ。
数秒もしないうちに侍従が入ってきた。チラッと見えた扉の先には明らかにティートローリーが見えた。
彼女はルディアスの下で数年間侍従を勤めており、ルディアスがどのタイミングでお茶を欲しがのか凡そ把握しているのだ。
「陛下。お呼びでしょうか?」
「追加の茶を頼む」
「わかりました。少々お待ちください」
侍従が一度扉の先に消えると、ティートローリーを押しながら入ってきた。
ルディアスは侍従が手早く空のカップを下げると、新たなお茶が入ったティーカップとお茶菓子の乗った皿をルディアスの手元に用意した。
「どうぞ陛下」
「ありがとう」
ルディアスはカップに注がれた茶葉の匂いを最初に楽しんだ。そして、その匂いがさっきまで飲んでいた芳醇な茶葉と比べて、あまり酸味を感じず、若干の青臭さと甘みを感じた。さらに茶の色も見てみると、緑がかっていた。
「ライラ。この茶はさっきのものと違うようだが、
「はい。それはクワ・トイネに赴任したレクマイア特使より届けられた日本の『玉露』というものです」
「ほぅ……日本にもこのような茶葉があるのか。色も風味も皇国に流通するものと違って面白いな……この皿に乗った赤紫色の物はなんだ?」
「はい。こちらもレクマイア特使より。『
「これはまた……」
ルディアスは初めて見る日本のお菓子にそっとフォークを突き刺し。口へと運び咀嚼した。
「これはなかなか味わったことのない味だな。この食感はーー周りのものは豆だと思うが、中の白い物がわからんな。弾力がありながら卵や小麦と違った風味を感じる。レクマイア特使から何かこの菓子について聞いているか?」
「はい。特使が聞いた話では、日本には『小豆』という豆があり、時間を掛けて砂糖と共に煮込んで作る『あんこ』というものがあるそうです。中の白いものはもち米という物を
「日本には皇国にはない食文化があるようだな。入国できるようになったら表敬もかねて計画を立てよう」
「陛下が日本に向かわれるのですか?」
「そうだ。何か問題があるか?」
「差し出がましいようですが、我が皇国は第3文明圏の覇者です。辺境の国に陛下御自身が足を運ばれるなどというのは前代未聞かと存じます」
「ライラの言うことも分かる。だが、彼の国の実力は確かだ。我が皇国に利するよう付き合っていかねばならんと余は考える」
「陛下がそこまで日本を評価しているとは……。不遜な口を訊いてしまい申し訳ありません」
「よい。日本の実力は確かだが、底の深さは未だわからん。レクマイアの頑張りで少しづつ知れようーーほぅ。この『アカフク』と『ギョクロ』は素晴らしい組み合わせだな」
ルディアスはさらに赤福を口に運ぼうとすると、ラキーネアが入ってきた。
「失礼します。陛下」
「ラキーネアか? レクマイアから日本の土産が届けられた。中々に満足させおる」
「満足しているのは良いのですが、そのレクマイア特使から緊急の魔信が届きました」
「緊急? 何か日本と問題になるようなことでもあったということか?」
「おそらく。まずレクマイア特使より“ロデニウス大陸における諜報活動の状態を知りたい”という件。もう一つは“ロデニウス大陸における諜報活動はどのような目的で行っているのか?”という
「ロデニウス大陸? 余に聞くより
「そうですか……では、クワ・トイネ公国内で内乱が起きたという情報はご存じですか?」
「いや? 報告は届いていないな」
「あぁ。そういうことですか……陛下。日本とクワ・トイネが軍事同盟を結んでいることは?」
「日本とクワ・トイネが同盟? すまん。たぶん報告は受けたと思うが、聞き流しておるやもしれん」
「……クワ・トイネはロデニウス大陸の北東にあり、現在ロウリアと戦争中です」
「そうだったな。ロウリアと言えば確か国家戦略局のーー」
ラキーネアの最初の言葉を思い出し、ルディアスは絞り出すように言葉を発した。
「
「そうです。しかも、我が皇国の諜報員が内戦を扇動した証拠も提示したと……」
「……ラキーネア。この話。他の誰かに話したか?」
「内容が内容なので、今のところ陛下だけです」
「……」
ルディアスは頭に手を添えて国家戦略局に対する指示を思い出した。
確かに“ロウリア王国調略を完遂せよ”と前任である
ルコダンが後任になった後、ラキーネアとエルト。そして和親条約を基に“日本に対する”政策は融和的な物へと急転換した。しかし、それ以外の
もちろん。
「余は日本の影響が強い国家相手の調略や要求は控えるように伝えてある」
「そうなると、国家戦略局が陛下の命に反して動いているということでしょうか?」
「……ラキーネア。この後どうするつもりだ?」
「日本大使館に赴く予定です」
「いや。日本大使に対する説明は余が行う。ラキーネアは急ぎクワ・トイネにいるレクマイア特使の下で情報収集をするのだ」
「しかし、日本に対する交渉は私の専権だったはずでは?」
「並の交渉ならいざ知れず、ことを放置すれば日本との再び激突しかねない案件だ。日本大使には事態の重さを我々が把握していることを認識してもらわねばならん」
「……わかりました。すぐ出立の準備を整えます」
「よろしく頼む」
ラキーネアはルディアスにお辞儀すると、反応を見ずにそのまま執務室を後にした。
ルディアスは
≪はい。国家戦略局通信交換室です≫
「ルディアスだ。ルコダンは居るか?」
≪へっ。陛下っ!? 少々お待ちください。直ぐに御繋ぎ致します!!≫
女性事務員は落ち着いて対応するが、ルディアスの声を聴くと態度を一変させて局長であるルコダンを呼び出した。
そして、1分もしないうちにルコダンの声が魔信から聞こえてきた。
≪お疲れ様ですルディアス陛下。私めに何用でしょうか?≫
「単刀直入に聞きたい。南西のロデニウス大陸においてどのような活動を国家戦略局は
≪ロデニウス大陸ですか? 文明圏外における情報収集活動を実施していると担当部門から報告を受けています≫
「そうか。では、前任がロデニウス大陸に対する調略を仕掛けていることは把握しておるか?」
≪存じております。なので、日本との和親条約締結の後、現地担当官に調略活動の停止を命じています≫
「そうか。ふむ……」
ルディアスはルコダンの報告は嘘ではないと考えた。
アンヴォフの後任であるルコダンは『国家戦略局』の職員だが、局長になる前はせいぜい部長補佐クラスの職員だ。
日本に対する失策の責任を取らせた結果。局長をはじめ数名の部長も同様に『国家戦略局』を追われ、空いた席にちょうど
当時、ルコダン以上にアンヴォフの後任に適した局長候補は数名いた。ただ、その他の部長たちは手持ちの仕事から手が離せなかったり、“国家監察軍”の再編成という名の苦行から逃れるため、局内の残留組の間で局長職の押し付け合いが発生した。
事態を知らない人間からすると、ルコダンは部長補佐から一挙に局長へと抜擢された信頼の厚いエリートという風に映るかもしれない。しかし、実際には他の部長が介入しやすい存在としてルコダンが推されたというのが現実だった。
ルディアスとしても放任状態だった『国家戦略局』の自浄と組織再編のためルコダン局長を受け入れた。
正直。アンヴォフは『国家戦略局』の局長として実に塩梅が効く存在だった。ただ、日本という非常識な存在が現れては、皇国の傷を最小限にするため人柱にするしか選択肢が見つからなかったのだ。
「ルコダン。ロデニウス大陸におけるチームの活動報告書を再精査し、その結果を余に報告せよ」
≪わっ……わかりました≫
魔信が切れると、ルディアスはすっかり日が落ちたエストシラントの夜景を窓越しに眺めた。
その光景には、ただ静かに営まれる皇国の日常が広がっていた。