OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第59話

中央暦1640年 8月14日

-クワ・トイネ公国 とある街道-

 

 流星が見えるほど辺りが深い夜闇に包まれる中、要塞都市エジェイから南にある主要街道から外れた林で隊商馬車が1台野営していた。

 この街道の周りは手付かずで、野生動物が頻繁に出現する。

 

 普通なら火の番以外の人間は休むのだが、この隊商達はここでとある人物を待っていた。

 

 パチッパチッと火が爆ぜる音を聞いていると、馬の蹄鉄がゆっくりと近づき、隊商達が待っていた人物が現れた。

 

「おぅマルシオ。追手の方はどうだ?」

「今回もありません。ヴァリーの旦那」

「そうか……バトラー。ここまで来たら日本の目は十分欺けたんじゃないか?」

 

 中年小太り商人が静かに座る我らがリーダーに声を掛けた。

 

「……日本の軍事書籍を精査したところ、彼らはワイバーンより高い空の上から暗闇を物ともしない装備(暗視装置等々)で草原を見ることができます。この瞬間も見てるかもしれません。慎重すぎるくらいでいいんです」

「だがなぁ……。こっちは馬車で移動しているんだ。もしこっちのことがわかっているなら、あの鉄翼竜(AT-41)を飛ばしてくるんじゃないか?」

「……それは逆に言うと、現状我々の存在が露呈していないという証明です。明日もそうである保証はありませんが……」

「確かにそうだな」

「さぁ。明日も早いのです。ウォーケンとカリスに番を任せて、もう寝ましょう」

「そうだな。そうしよう」

 

 この隊商馬車……否。このファンブルトン商会(パ皇国家戦略局公国担当)の馬車は今まさしく内乱にかこつけて脱出しようとする集団だ。

 このメンバーはノウに反乱するよう焚き付け、いざ反乱が始まるとそそくさと公都から脱出した。

 反乱に参加した兵士の多くはクワ・トイネや本国から調達した傭兵なので、体のいい囮として(・・・・)役目を果たしてもらっている。

 

 彼らは公都クワ・トイネ脱出に際して載せられるだけの財貨を馬車に載せると、真っすぐクワ・トイネから離れる道を進まず、近くの町や村に寄りながら離れる道を進んだ。少しでも追跡の目をごまかすためだ。

 

 反乱が起きた日から3週間。彼らの地道な努力によって日本に捕捉されることはなかった。

 

 日防軍情報局は反乱の情報を入手すると、バトラーなど敵性諜報員の監視を強化した。ただ、反乱に即応させた戦力(特殊部隊1個分隊)がノウによって吹き飛ばされたと知ると、残りの職員は在クワ・トイネ日本大使館に撤収した。

 反乱が起きた現在でも、大使館は数少ない反乱軍の手に落ちていない建物の1つなのだ。だが、ここで情報収集態勢において、一時的に生じた空白はバトラーたちにとって福音だった。

 バトラーたちは素早く公都から脱出したため、日本側は完全に行方を見失ってしまったのだ。

 日本側は、既にバトラーたちが公都から脱出していることを把握している。しかし、向かった方向までは未だ情報が集まっていなかった。

 ちなみにいうと、逃げの一手で動いているのはバトラーたちのような中核職員だけで、戦闘可能な職員はマイハークで死亡するか捕縛されており、公都では『憂国騎士団(反乱軍)』を援護する形で若干名が残っている。

 さらに言うと、戦闘要員は捕縛されること(尋問や拷問)を想定して脱出組の情報を一切伝えていない。よって、未だバトラーたち脱出組が日本に捕捉されていないのは、計画を綿密かつ注意深く進めたおかげとも言える。

 ただ、日本も黙ってバトラーたちを逃がす気はなく。ロデニウス大陸内。できればクワ・トイネ内で捕縛できるよう準備を着々と進めていた。

 既に無人機による|クワ・トイネ公国国境全域に対する監視を始めており、そしてさらにクイラ側にバトラー達の情報を提供してほとんどの関所で通行したことを連絡できる体制を整えていた。

 クワ・トイネの各港に関しては、既に警備担当のクワ・トイネ軍部隊が手薬煉(てぐすね)引いて待ち構えていた。

 

 日防軍もクワ・トイネ軍も、混乱を引き起こした重要人物を見逃す気はさらさらないのだ。ただ、バトラーたちも大人しく捕まらないよう、最大限知恵を絞って逃避行に臨むのだった。

 

 

中央暦1640年 8月17日

-ロウリア王国 王都ジン・ハーク-

 

 停戦が破られてから3週間。王城の執務室では少し老けたハーク王が眠れぬ夜を過ごしていた。

 

「亜人どもめぇ……来るなら最大限の歓待を持って迎えてくれよう……っ!!」

 

 ハーク王は愛剣を側に置きながら、何本ものワインを空にしていた。

 

 講和会議の後、翌日届けられた伝令からの情報にハーク王は耳を疑った。

 

「国境に展開する一部の軍団が日本軍の爆轟魔法を受けました。被害は優に5千を超えております」

 

 伝令の話す内容にハーク王は日本が本格的に攻めてきたと勘違いした。さらに、錯乱してパタジンやミミネルに王都を絶対守るよう指示を出していた。

 王都には開戦時(1年半前)10万の兵士を用意していた。そこからさらに健全な男性を動員して、今では15万以上の兵力がジン・ハークに駐留している。だが、ハーク王はそれでも心配だった。

日本軍は彼の国(パーパルディア皇国)を退けるどころか、圧倒するほどの実力があることを認識しているからだ。

 来る日も来る日も日本の来襲に脅え、安眠できる時間は日に日に減り、ストレスを紛らわせようと酒を飲む量が次第に増えていった。

 

 今のところ、日本軍の影も形もジン・ハークに迫ってくる気配はない。だが、自己の認識外の攻撃がいつ王城に降り注ぐのではないかという恐怖に、気が気ではないのだ。

 

 空になった杯に新たな酒を注ごうとした瞬間。パタジンが入ってきた。

 

「陛下。失礼いたします」

「パタジンか……何用か?」

 

 パタジンは一瞬。目に隈を作り、酒精に浸る目の前の御仁にどういう風に声をかけようか迷うが、諦めて報告すべきことを伝えることにした。

 

「クワ・トイネの内乱に関する新たな情報が入りましたので、報告に参りました」

「そうか。して、亜人どもは慌てふためいておるか?」

「そこに関しては残念ながら、クワ・トイネ国内が安定しているため、3週間前の内乱生起から公都以外では然したる混乱は起きておりません。それどころか、現最高指揮官の手腕によって公都の反乱軍討伐の準備が着々と進められています」

「そうか……日本の方はどうなっておる」

「日本に関しては、国境線から少なからず戦力を公都に振り向けているようですが、国境防衛を疎かにするほど戦力は減っておりません。また北の港の方はお互い睨み合いが続くだけで、攻めてくる気配はありません」

「うむ。そうか……うむ」

 

 ハーク王は改めて盃に酒を注ぐと、グラスをゆっくりと回し続けた。

 

「陛下。お気に障るかもしれませんが、酒は嗜む程度に控えるのがよろしいかと……。目元が以前より生気を失っております」

「それはそうだろうっ!? 講和会議の後にいきなり日本から攻撃を受けたと聞けば、余以外も血の気が引くに決まっておるっ!!」

 

 ハーク王は講和直後に起きた国境線周辺での戦闘を、日本からの先制攻撃だと報告を考えた。それが、未だ本格的な侵攻して来ていない日本の行動原理に説明がつかないからだ。

 

「それはそうですが、現に日本はクワ・トイネ内の内乱鎮定に重きを置いているのは確かです。今しばらく日本軍がこちらへ動き出すことはないかと……」

 

 パタジンの言葉に、ハーク王は注いだ酒を一気飲みし、杯をガタンと机に戻した。

 

「……パタジンよ。仮にだ。仮に今動員できる全戦力を用いて攻勢に出たら、前線を突破できるか?」

 

 パタジンはハーク王の言葉にどう返答しようか迷ったが、臣下として事実を伝えた。

 

「しっかり検討しなければわかりませんが、難しいかと存じます」

「検討が必要なら検討せよ。降伏を受け入れる気は、余はないからな」

「……わかりました」

 

 パタジンは酒に溺れるハーク王に欠礼が無いよう退室した。

 

 

 翌日。パタジンはミミネルをはじめとする将軍達や参謀。隊長級。さらにパーパルディアの繋ぎ役も参集して軍議を開いた。

 議題はもちろん。『日本軍相手に勝利できるか?』である。

 

「我らがハーク王は降伏を頑なに望まず、故に有利な条件での講和を希望されておる。職位関係なく、建設的な意見を出してほしい」

 

 パタジンの言葉に、集まった者たちは一様に渋い顔で他の物の顔を覗いた。そのような策があるなら、もうすでに使っているからだ。

 ゆっくり手を挙げたのは、この戦争で数少ない戦果を挙げているアデムだった。

 

「パタジン殿。お聞きしますが、その講和を有利にするのに軍事的勝利が必要ということでしょうか?」

「そういう意味で捉えて問題ない」

「では確認したいのですが、我が軍は今どれだけの戦力を保有していますか?」

「今のところ、国境線に13万。王都周辺に15万。後は各貴族領の私兵を合せて精々35万といったところだ。そしてワイバーンが120騎。開戦前と比べると大きく戦力は落ち込んでいる」

「ワイバーンが4分の1ですか。クワ・トイネのワイバーンの数は回復していても100騎はないでしょうが、日本の鉄竜の前には寂しい数ですねぇ」

 

 アデムが黙ると、末席寄りに座っていた隊長の一人が手を挙げた。

 

「防衛騎士団第3騎兵隊のノリア・カルシオです。意見よろしいでしょうか?」

「よいぞ」

「現状我々は国境線と北の港の2つに戦線を展開しています。国境線から先は所詮亜人どもの土地なので、今は捨て置いてよいと思います。しかし、北の港は我が国の領土です。まずそちらの奪還を図るべきではないでしょうか?」

「カルシオ隊長の意見はもっともである。では奪還するに辺り、具体的な方策を提示できるか?」

「ーー国境にいる戦力から多数の戦力を引き抜くしかありません。引き抜くにあたり、大規模な欺瞞が必要かと考えます」

「大規模な欺瞞とは何か?」

「重装歩兵及び軽装歩兵に似せた案山子を並べてはどうでしょうか? 用意するのに時間はかかりますが、戻りの馬車に前線の兵士を乗せれば前線の負担を時間と共に減らすことができます」

「だが、そのかかる時間に日本が待ってくれる保証はないぞ? その時はどうする」

「少なくとも、真っ当に戦う方法では日本軍に勝てません。あえて我が国の国土に侵攻させ、然るべきところで決戦に出るのはどうでしょうか?」

「カルシオ隊長。流石に陛下はそのような案を」

「パタジン将軍。並の相手であれば私もそのような策を用いたくありません。しかし、日本軍は多くの面で我々の先を行っています。もはや正道や王道で打ち勝つことを考えるべきではありません。邪道非道外道な策を用いらなければ、最低限の勝利すら手に入らないかと愚考します」

「うぅむ。それは確かにそうだが……」

 

 カルシオの言葉に三大将軍のミミネルも肯定した。

 

「パタジン殿。カルシオ隊長の案はより綿密に計画した上で陛下に上申しましょう。我らが陛下です。最終的に勝利を得られるのであれば、一時の苦難を受け入れてくれるでしょう」

「……スマークはどう思う?」

 

 パタジンはスマークに意見を求めた。カルシオの意見は中々に受け入れ難い案なので、三大将軍の意見を統一したいのだ。

 

「……カルシオ隊長。仮に決戦を仕掛けるなら、どこがいいと思う?」

「……国境から300km西にクラペト川があります。日本軍がそこを渡河する時を狙うのが良いかと存じます」

「……日本軍が使う鉄馬車がいくら強力だろうと、鉄ゆえに渡るのは困難か……」

「そうです。それにクラペト川の幅は数百mはあります。簡単には渡れないでしょう」

「ふぅむ……」

 

 スマークは顎髭を軽く撫でた。ある種、1年もの間。日本軍のそれを間近に見てきたのが彼なのだ。

 

「パタジン将軍。仮に決戦に敗北した場合。陛下に降伏することを考えて頂けないだろうか?」

 

 パタジンは一瞬スマークに“この敗北主義者めっ!!”と叱責しそうになった。しかし、腹に一物抱えながら冷静に返答した。

 

「……上申した際に一言聞いてみるが、確約はできん」

「わかりました。手遅れにならぬよう。お願いいたします」

 

 スマークの発言の後、他の軍議参加者も少なくない意見を出したが、最終的にカルシオの誘引決戦案が参謀によって取りまとめられ、ハーク王に献上された。

 目の隈が少し深くなったハーク王は首を何度も傾けるが、最終的に裁可した。

 裁可されると、ロウリア軍は作戦準備に入った。日本がクワ・トイネ内乱に託けている今しか反抗のチャンスはないのだ。




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