中央暦1639年 1月24日
-ロウリア王国 王都北の港沖-
ロデニウス大陸中央の沖合。ここでも日防軍巡洋艦
「ーー面舵30度」
「了解。おぉもか~じ」
『石鎚』は艦長の指揮の下、相手の帆船と着かず離れずの距離を保って航行していた。
「こちらに交戦の意思はない。ただちに攻撃を中止せよっ!!」
「やかましいっ!! 戦う意思がないならさっさと降伏しろっ!!」
艦橋横の見張り台では、拡声器を使って帆船の攻撃を止めようと呼びかけを続けていた。対して相手の帆船は戦う気満々であり、索付きの銛を何度も発射してきている。
その様相を見ながら、『石鎚』艦長の新田は横でその様子を見ている外務省の河上に話しかけた。
「河上特使。確か接触できた国家と可能なら国交を結ぶ下準備と聞いておりますが、いかがしますか?」
「……大なり小なり話ができるなら交渉をする余地があるでしょうが、これでは交渉の席にも着けません。今回は一旦引き上げましょう」
「仕方ありません。日本へ戻りましょう」
帆船の攻撃を巧みに回避する『石鎚』は日本に帰還する針路に変針すると大陸から遠ざかった。
遠ざかっていく『石鎚』に帆船の船員は歓声を上げた。
勝鬨を挙げる船員に反して、船長は相手を冷静に判断していた。
(……規則に従って追い払ったが、見た限り帆船じゃなかったな。パーパルディア皇国の新型ならこちらが攻撃したら問答無用で反撃しただろう。いったいどこの国の船だ?)
考えに更けていると、魔導通信士が話しかけてきた。
「船長。先ほどの船に関して報告しますが、何か伝えることはありますか?」
「ん? ああ。“国籍不明の巨大船と接触。これを退散させたり”と海軍司令部に伝えてくれ」
「わかりました」
(まぁ。今度の大陸統一作戦の障害にはなるまいて……)
3か月後、このとき追い払った『石鎚』の実力を体感することになるとは船長を含め誰1人知る由はなかった。
中央暦1639年 1月25日
-フェン王国 アマノキ-
見る人が見れば日本の城郭と見間違えるような形状をしている。それがフェン王国の王宮
天守閣には軍事や外交を司る武官(フェン王国では他国でいう大臣はすべて武官である)を集め、緊急会議を開いていた。
最初に口を開いたのは剣王シハンである。
「皆の衆。よく集まった。今回は先日現れた
「では、まずは東塔監視番長の私から。ことの始まりは10日前。雲よりかなり高い所を1つの龍が飛んでおりました」
番長は幅がある巻物を部屋の中央に広げた。そこには異様に翼が細長く、眼球が顎下についている生き物風の墨絵が描かれていた。
「おぉ。これは見たこともない龍じゃな」
「ガハラ神国の風龍に比べ、胴は異様に短く翼が横に長いのか?」
「如何にも。さらに、この一つ眼龍を見つけた監視番の話曰く。翼は全く動いていなかったらしいのです」
「翼が動かない? これだけの翼を持っているのだ。たった一回でも羽搏けば長く飛べるのではないか?」
「私めも最初はそう思ったのですが、羽搏き一回もせずアマノキに近づいてはグルグルと旋回し、南東へ向かったとのことです」
「南東ということはロデニウス大陸か。このような龍か鳥がいるという話は聞いたことはありませんな」
「私もありません」
「しかし。その程度のことであるなら、さして重要なことではなのでは?」
「それは、そうなのですが……」
「そこからは、外務武官(=外務大臣)の私が話しましょう」
外務武官は一度咳払いをすると話を始めた。
「実は、この一つ眼龍が去った後、ガハラ神国大使から緊急の会談がありました」
「ほぅ……。して、どのような内容だったのだ?」
「はい。あちらから『フェンは魔帝の兵器を掘り当てたのか?』と質問されたとのことです」
「魔帝の兵器? 王宮武士団はそのようなものを使っておったか?」
「陛下。お言葉ですが、王宮武士団にそのような兵器はありません」
「私もそのように伝えました。こちらもその一つ眼龍について知らないか伺ったのですが、大使曰く『天の浮舟の一種だと思われる』と返答されました」
「天の浮舟? 確か、第1文明圏が用いる物だったか?」
「そのように記憶していますが、わが国には第1文明圏の大使館はありませぬ故。確認は取れません」
「うぅむ。今回は民に何ら被害がなかったと安心してよいだろうが、外務武官。団長。一つ眼龍に関する情報を可能な限り集めるのだ」
「「御意っ!」」
フェンは差し迫った脅威と別に未知に対する恐怖が圧し掛かった。
用語解説
『1つ眼龍』
ワイバーンや竜がいる世界でRQ-1やMQ-1を前提知識無く見たらどう呼ぶか考えたらこうなんじゃないかという呼称。
訂正
誤字を訂正しました。ゲベック様。ありがとうございます。