OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第61話

中央暦1640年 9月2日

-クワ・トイネ公国 マイハーク-

 

 大陸内で動乱が続くロデニウス大陸。そんな中でも何隻もの船がマイハークの港を往来している。ただ、今日は港でよく出入りする木造帆船ではなく、日本の船とは別の機帆船(きはんせん)が入ってきた。

 

 この機帆船が掲げる国旗は、ロデニウス大陸では滅多にお目にかかれない遥か西のムーの国旗を掲げていた。

 

 この機帆船の甲板上では何人もの船員が忙しなく係留作業を始めていた。

 ただ、甲板には船員以外の人物がマイハークの港をじっくり観察していた。

 

「ーーいあやぁ。まさかあの報告書からここまで船で来るとは、思ってもいませんでしたよ」

「マイラス先輩も大変ですね。第3文明圏のさらに僻地まで送られるなんて、夢にも思わなかったでしょう」

「あぁ。だけど、この岸壁から南の方を見てみるといい。ラッサン」

「南ですか……? あぁ。あれは例の報告書に書いてあったやつですねぇ」

「大都市の港でしか見ないような大型貨物船が何隻も係留されている。日本の造船技術は間違いなく我が国を凌駕しているな」

 

 甲板上で船の品評会を始めているのは、ムー統括軍に所属している戦術士官ラッサン・デヴリンと技術士官のマイラス・ルクレールだ。

 

 軍属である彼らが2万kmも東の僻地に来たのは観光ではない。

 

 凡そ半年前。クワ・トイネに訪れたエルドレント夫婦は多くの情報を携えて母国へと帰国した。

 夫婦が提出した報告書。通称『エルドレントレポート』の内容に外務省はその内容に最初こそ“より精査する必要がある”という判断を下した。さらに、第3文明圏に市場を広げようと考えていたムー産業省や統括軍の参謀本部が現状のロデニウス大陸に興味を持った。

 

 『エルドレントレポート』以外の情報はパーパルディア皇国経由だったため、情報の質はともかく量において不十分だった。ただ、ムーの官僚たちは日に日にロデニウス大陸。特に新興国家である『日本国』に対する興味は増していき、国交を結べないかという流れが生まれた。

 今回はその下準備と交渉という形で外務省や統括軍等から臨時の外交使節団を派遣される流れになったということである。

 

 ちなみにいうと、マイハーク南岸壁(日本船籍のみ利用)に日防軍の軍艦自体は見えにくい位置ではあるが停泊していた。

 

 ラッサンやマイラスたちにとって、軍艦とは大きさを問わず“大砲を多数積んでいる”ことが常識だった。だが、日防軍の軍艦でそのような艦艇は戦艦(主砲9門)巡洋艦(主砲4門)くらいだ。

 仮に駆逐艦やフリゲートを見ても、艦体に対して主砲が相対的に小さいサイズの関係で貧弱に見えるため、精々大型の沿岸警備艦にしか見えないのだ。

 

 

 船が岸壁に係留されると、使節団は早速クワ・トイネの税関へと向かった。

 

「ユウヒ特使。早速日本の領事館に向かわれますか?」

「そうですね。ゆっくりとお茶にしたいですけど、一通り案件が片付いた後にしましょう」

 

 施設団の面々が税関に向かうと、列に並ばず窓口に真っすぐ向かった。ムーは列強2番手なので、大抵の国ではほとんど待たずに入国することができるからだ。

 税関付近の窓口には人だかりができてる。そして、喧騒とは違う緊張感が辺りに漂っていた。

 使節団の職員が税関職員を捕まえて、入国させるよう請願した。

 

「失礼します。私どもはムーの外交使節団の者です。クワ・トイネに入国したいのですが、よろしいでしょうか?」

「ムーのお方ですかっ!? 少々お待ちください」

 

 税関職員は明らかに慌てた様子で上司に連絡した。

 数分した後、中年の税関職員が使節団の前に現れた。

 

「これこれは。我が国に遠路遥々ご足労頂きありがとうございます」

「えぇまぁ。船で2万kmは中々疲れました。早速ですが、貴国への入国と馬車を手配したいのですが……」

「お話は分かりました。私共も皆様のために手を貸して差し上げたいですが、残念ながら現在我が国は全土に戒厳令が発令されている状態でして、いかに列強国の方々といえど無秩序に入国させることは致しかねます」

「戒厳令? 半年前には戦争中でも特に問題なく入国できたと聞いています。戦況が悪化したのですか?」

「いえ、そうではありません……あまり大きな声で言えませんが、7月の終わりに首都で反乱が起きまして……」

「「「反乱っ!?」」」

 

 中年税関職員の言葉に、話が聞こえていた使節団たちは一様に驚愕した反応を見せた。

 

「失礼ですが、この近くに反乱軍がいるのですか?」

「いえ、今のところはそのような話はありません。ただ、反乱の前後に日本軍の基地で戦いがあったという話は聞いております」

 

 職員の後ろで話を聞く、マイラスは他と少しずれた考えでラッサンに話しかけた。

 

「近くで戦いか。日本軍がどんな兵器を使うのか見てみたかったな」

「先輩。そんなこと言ってる場合じゃないと思いますよ」

 

 ラッサンが冷静に突っ込むと、中年税関職員が話を続けた。

 

「皆様は外交関係者ということもありますので、上の方に報告してなるべく早く入国できるよう便宜を図りましょう。ただ、今すぐの入国は致しかねます。どうか本日は乗船してきた船で夜をお過ごしくださるよう。お願い申し上げます」

 

 中年税関職員が深くお辞儀をすると、ほかの職員の方へと向かった。

 

「ユウヒ特使。どうしますか?」

「まぁ。情勢がそうなら致し方ありません。今日は大人しく船に戻りましょう。皆さん」

「「「わかりました」」」

 

 使節団は気持ち気を落としながら、乗ってきた機帆船へと戻り一夜を過ごした。

 

 

 次の日の昼。税関で足止めを食らう商人を横目に、ムー使節団は何とかクワ・トイネに入国した。

 

 先日の中年税関職員は気を利かせて、クワ・トイネの外務局職員が道案内も兼ねて同行してくれることとなった。

 使節団は外務局局員が用意した、ムー国内のボンネットバスより洗礼されたデザインのバス(日本製のバス)に乗り込み、さらに使節団ということで用意してくれた高級ホテル?(船員向けビジネスホテル)に荷物を置いた。

 ただ、使節団は最初各々担当別で活動する予定だったため、ホテルスタッフに馬や荷馬車を希望した。しかし、戒厳令が発令されているためマイハーク市内でも可能な限りバスで移動するように推奨された。さらに、市外に至っては絶対に行かないよう念を押された。

 マイラスやラッサンは「戦争中で反乱も起きているのだから仕方ないか……」と納得したが、ユウヒはこの微妙な扱いに嫌悪感を抱いてしまった。

 

 諦めて目的地まで全員移動することに決めたムー使節団は、最初にクワ・トイネのマイハーク公館へと向かい。市長に表敬訪問した。

 

 マイハークで市長を務めるエルフはムー使節団の表敬を受けるとは露ほども思っていなかったため、かなり緊張する羽目になった。

ムー使節団は市役所職員に今後の予定を伝えると、訪問先にある日本特使館に連絡を付けてくれた。

 

 またバスで移動し始めたマイラスは、外の光景を見ながら違和感を感じた。

 

「なぁラッサン。妙にクワ・トイネの兵士が多くないか?」

「多いなんてもんじゃありませんよ? あちこちで兵士が巡回してますし、それに、大きい交差点には無限軌道の装甲車(LT-9)も居座ってます。街全体はきれいですけど、いつ戦いになってもおかしくないほど緊張感が漂ってます」

「そういう感覚はよくわからないな」

「先輩は技術士官ですから、バスの中からわかる範囲で報告書の材料を探すしかありませんね」

 

 マイラスたちは車窓に流れるマイハークを観察し続けた。そして、とある建物に近づくと一段と警備が厳重になった。

 

「ここが日本の外交特使館か……」

 

 日本外交特使館に到着するとムー使節団はバスから降車した。

 

 使節団の前にスーツ姿の役人と重武装の警備兵が数名近づいてきた。そして、中年と老年の間くらいの最も威厳がある者が使節団に話しかけてきた。

 

「ムー使節団の皆様。日本国外交特使館へようこそ。ここで特使を務めている藤原 重一です。以後お見知りおきをお願いします」

「ムー使節団特使のユウヒ・マリーニです。お会いできて光栄です。フジワラ特使」

「話が長くなるでしょうから、中へどうぞ」

 

 藤原の案内でムー使節団は特使館の大広間へと案内された。

 

 お互い軽い雑談を終えると、ユウヒが本題に入った。

 

「フジワラ特使。我がムーは貴国に非常に興味をもってこちらを訪れました。親善の証としてこちらを送らせていただきます」

 

 ユウヒが机に置いたのは、木目が目立つ球体の置物だった。

 

「こちらは我が国が転移前の情報を基に作成した地球儀になります。我々が住む土地は巨大な球体をしているのです。ご存じでしたか?」

「ほぅ。では、ムーは他国に比肩しない知識と技術を持っているとお見受けいたします。確かにこれはすごい」

 

 藤原は古式ゆかしいながらも地球儀を見分した。

 

「我が国は約1万2千年前。別の星から転移してきた歴史があります。多くの国ではおとぎ話と誹られますが、現在保管している古文書から我が国では事実の歴史として認識しています」

「そうなのですかっ!?」

「もちろんです。この球体にあるこの大陸がかつて我が国が統治していたムー大陸全土です。そしてこちらは当時我が国と覇権を争っていたアトランティスです。他にも5つの大陸がありますが、いずれも我が国かアトランティスと深い関係がありました」

「ほぅほぅ。では、この弓状の島は何という土地ですか?」

「これは、かつて我が国と深い友好関係にあった『ヤムート』と言われる場所です」

「おぉそうですか……。矢野君。世界地図を持ってきてくれないか?」

「少々お待ちください」

 

 藤原に矢野と呼ばれた役人は一度退室して、1分もしない内に戻ってきた。手には比較的大きな紙の巻物を持参している。

 

「我が国も2年ほど前、この世界に転移してきた身でして。この地図は転移する直前に作成されたものです」

 

 矢野がさっと巻物を広げると、そこにはムーが持参した地球儀とよく似た大陸配置の地図が広がっていた。

 ユウヒを始め使節団員全員がこの地図を見て動揺した。

 

「こっ……これは、我が国が転移する前の世界とよく似ているっ!?」

「そうですか。実は元の世界での話なのですが、かつて『ムー大陸』と言われていた場所が一夜にして消滅したという話がありました。如何せん、地質学的にも物理的にも『ムー大陸』を証明することができず、与太話の類だと私は考えていましたが……皆様がこちらにお越しいただき、さらにかつての地球の姿を模した地球儀までお持ちになるとは……いやはや、なんと言葉にしてよいやら」

「まさかこんな出会いができるとは、私どもも思っていませんでした。それで、日本は『ヤムート』とどのような関係なのですか?」

「我が国の古い呼称の中に『大和』という物があります。時代と共に『ヤムート』という呼ばれ方が変わったのかもしれません」

「そうでしたか……。日本の方々は転移してまだ間もないとのことでしたが、心中お察しします」

「やはり、ムーの方々も転移直後は大変だったのですか?」

「当時の文献がかなり喪失しているので詳しいことはわかりませんが、この世界の常識との違いと理不尽には苦しめられたと残っていると古文書に記されています」

「ムーの方々は大変な歴史を歩んでおられるようですね」

「確かに大変でした。約1万2千年前に転移した直後。魔法文明が広がるこの世界の国々と対峙しながら、科学技術の発展開発に心血を注ぎました。今では世界第2位の国家として認知されるようになったのです」

「気が遠くなるような年月を過ごされたことに敬服いたします」

「『ヤムート』のーーいえ、日本の方々。かつて友好関係にあった我々がこの異世界で出会えたのも何かの縁でしょう。我が『ムー』との国交締結を考えてはいかがですか?」

「ユウヒ特使のお考えとムーの意思は理解いたしました。我が国も喜んで貴国との国交締結を準備しましょう」

 

 この日、日本とムーの非公式な会談は国交締結の準備を行うという形で幕が下ろした。

 

 

中央暦1640年 9月5日

-クワ・トイネ公国 マイハーク日防軍基地-

 

 クワ・トイネ皇国において最大規模を誇る日防軍基地。

 現在この基地に日防軍の大部隊が集結していた。しかも、今後さらに増強される見通しである。

 

 司令部庁舎の会議室では、派遣軍司令の志麻の他に『第23任務旅団』指揮官であり第11機械化連隊指揮官の竹原 巧大佐と副官たちが集まっていた。

 

「ーーそれで竹原大佐。作戦案があると聞いているが何なのかね?」

「はい。公都クワ・トイネ奪還の前段階と前線の補給線強化のため、『クワ・トイネ中央駅』とその周辺地域の奪還を提案いたします」

「『クワ・トイネ中央駅』の奪還か……確かに意義は理解できるが、貴官が指揮する戦力の半分近くは日本本土で輸送待機中ではないか?」

「そうです。しかし、前線の補給状況は芳しくありません。公都全域は無理でも駅を含む鉄道の回復はクワ・トイネで活動する友軍全体に利すると考えております。それに、公都の広さに対して反乱軍の規模は大してありません。23旅団から臨時の機械化増強大隊を編成するだけで十分実行可能です」

「……わかった。市ヶ谷の統合軍参謀部と協議できる場を作ろう」

「ありがとうございます」

 

 後日。竹原の作戦案が統合軍参謀部に提出され、裁可された。




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