中央暦1640年 9月7日
-クワ・トイネ公国 クワ・トイネーマイハーク間沿線-
≪
月の光が薄っすらと小麦畑を照らす中。畑を突き抜ける線路の近くをゆっくりと進む幾つもの影があった。
≪ダックスからドラゴンフライ。鉄道沿線上の敵影無し了解。
ダックスからHQ23-1。
「HQ23-1からダックス。キノコ探し了解。オーバー」
鉄道沿線上を進むのは日防軍『第23任務旅団』隷下の第11機械化大隊の機甲工兵中隊だ。
彼らの1km後方には機械化大隊と戦車中隊。さらにCROから借りた貨物列車が続いている。
『『オペレーション・クサリガマ』作戦参加戦力
第1師団/第11機械化連隊
前線指揮中隊『HQ23-1』
↓→第1大隊
↓ ↓→第1中隊『イシキリ』
↓ ↓→第2中隊『ニッコウ』
↓ ↓→第3中隊『ササヌキ』
↓ →→WAP中隊『ナギナタ』
↓
↓→戦車大隊
↓ ↓→第1中隊『コテツ』
↓ ↓→第2中隊※作戦未参加
↓ ↓→自走砲兵中隊※作戦未参加
↓ ↓→機甲工兵中隊『ダックス』
↓
航空陸戦群/第202戦術通信大隊※『24旅団』より貸与
↓→第2無人機運用中隊『ドラゴンフライ』
※
武装コンテナ搭載貨物列車隊『カーゴボックス』
』
竹原が乗るAFCVは機甲工兵中隊の装甲車と共に進んでいる。
『クワ・トイネ中央駅』奪還作戦『オペレーション・クサリガマ』には
機甲工兵中隊は戦車大隊を支援するための中隊だ。ヴァンツァーや軽装甲車も配属されているが、基本的に護衛と作業支援用だ。
機甲工兵中隊の脇を機械化中隊と戦車中隊所属の各小隊が固めている。
事前に無人機のよる偵察と探査を続けているが、伏兵がいないとは限らない。
機甲工兵中隊の兵士が
≪ダックスからHQ23-1。
「HQ23-1からダックス。R-5のキノコ探し完了了解。
HQ23-1からカーゴボックス。R-5まで前進せよ。送れ」
≪カーゴボックスからHQ23-1。R-5まで前進する。オーバー』
ガタンゴトンと軍用列車がゆっくり進む。
列車の編成は、先頭から
線路沿いを進む間。反乱軍に進軍を悟られないよう列車は一切の照明を切って進んでいる。並の状況であれば暗闇の中を進むことになるので、いくら線路上だからといって機関士にとって非常に苦難な仕事だ。ただ、線路上の安全は機甲工兵中隊がしっかり確認している。
≪ドラゴンフライからHQ23-1。『クワ・トイネ中央駅』までの線路周辺に反乱軍兵士なし。送れ≫
「HQ23-1からドラゴンフライ。駅周辺の探査に入れ。送れ」
≪ドラゴンフライからHQ23-1。駅周辺の探査に入る。オーバー≫
航空陸戦群に配備されている無人機は戦域全体の索敵を行う
戦域が草原のように障害物が少なければ、準大型無人機だけでも目標捜索を行うが、今回は戦域に都市部が含まれており、そうなると建物によって死角が増える。その死角を少しでも減らすために中型UAVを捜索のために投入している。
≪ドラゴンフライからHQ23-1。駅周辺に人影無し。送れ≫
「HQ23-1からドラゴンフライ。駅周辺の人影無し了解。オーバー」
AFCVの中でUAVドライバーからの報告を受け取った竹原は一瞬違和感を感じたが、少し考えてから当然かという風に考えを改めた。
もし反乱が公都で起きなければ、駅には停止中の列車や駅舎の保安要員が詰めているはずだった。だが、反乱が起きてから『クワ・トイネ中央駅』の駅員は誰一人駅舎に残っていない。
だが、駅員が残っていないからといって誰もいないわけではない。
駅構内の中央。反乱軍兵士が数人監視として出入りしていたのだ。
中型UAVのセンサー感度は高いが、流石に建物を透視する能力までは持ち合わせていない。
「ーーまったく、シュタグロフの旦那は指示はまどろっこしくて参るぜ」
「仕方ないだろ。俺たちは元正規兵や傭兵より弱いんだ。諦めてジッと外を見張ってろ」
「へいへい……」
2人が見張りに付いていると、甲高い何かの音が高速で通過した。
「何だ? 今の音」
「何かが通過したような音だったが、聞いたことないな」
「音の正体を探すか?」
「いや、あんな音を出すんだ。俺たちをおびき寄せるための罠かもしれん」
「なら、一旦隠れようぜ」
「よし」
2人は駅構内の階段の陰に隠れた。
さっきと同じ音が近づいてきた。違うのは、高速で通過するのではなく、駅構内を這うように動いていることだ。
「見えたか?」
「いやだめだ。クソ早ぇ……」
2人の反乱軍兵士はブンブンと音をたてる立てる何かの正体を探ろうとするが、駅構内の電気は消されており、結局わからずじまいのまま、音の正体は遠くへ消えていった。
『クワ・トイネ中央駅』から500mにまるで闇夜に溶けたような集団がゆっくり進んでいた。
「イシキリ2-2からHQ23-1。
≪HQ23-1からイシキリ2-2。現在地で待機せよ。送れ≫
「イシキリ2-2からHQ23-1。現在地で待機する。オーバー」
彼らは日防軍の偵察部隊だ。
流石に徒歩とはいえ闇夜を10kmも進むのは大変だったが、
日を跨ごうという時、本隊は『クワ・トイネ中央駅』から2kmの位置に到達した。
「竹原連隊長。オブジェクトTPから2千mの位置に到達しました」
「よし。全隊戦闘態勢を指示」
「わかりました」
ほぼ同じころ、軍務局でシュタグロフが公都外縁を見張る反乱軍兵士から報告を受けていた。
「ーー列車が停車しているのは確かなのか?」
「夜間ですのでおそらくとしか言いようがありません。より詳細を把握するため、偵察を派遣しますか?」
「よろしい。人選は任せる。相手の正体を掴むのだ」
「わかりました」
シュタグロフは公都外縁の複数に見張りを置いていた。そのうちの一つが軌道上で停車する謎の列車を報告してきたのだ。
「竹原連隊長。各隊戦闘準備よし」
「よろしい。HQ23-1から『イシキリ』。オブジェクトTPを制圧せよ。
HQ23-1から『ニッコウ』『ナギナタ』『コテツ』。オブジェクトTPまで進軍。周囲を確保せよ。
HQ23-1から『ササヌキ』。『ダックス』と『カーゴボックス』を護衛せよ。オーバー」
≪≪≪了解≫≫≫
指示を受けた各隊は動き出した。
最初に動いたのは偵察として駅の近くで待機していた『イシキリ』だった。
反乱軍兵士2人は羽虫?の正体を掴み損ねたため、報告することを躊躇っていた。
増援を受けなかった彼らは物の数分で射殺され、30分もしないうちに『クワ・トイネ中央駅』は日防軍によって制圧された。
≪ドラゴンフライからHQ23-1。『カーゴボックス』から3千mの距離に敵味方不明の騎兵が複数接近中。送れ≫
「HQ23-1からドラゴンフライ。騎兵の接近了解。オーバー
HQ23-1からササヌキリーダー。騎兵に対して
≪ササヌキリーダーからHQ23-1。接近中の騎兵へ誰何する。オーバー≫
竹原は最初、接近する騎兵を反乱軍だと考えた。しかし、クワ・トイネ正規軍でも反乱軍でも遠距離から敵味方識別をするための手段がない。
原始的ではあるが、攻撃してこない限り
「ラーディ。ベッカー。ここからは歩いていくぞ」
「歩いて? まだ相手と1kmはあるぞ。しかも動いてる」
「だからだ。いくら夜だからって新月じゃないんだ。畑に隠れながら近づくぞ」
列車の正体を掴もうと反乱軍兵士は馬から降りて静かに近づいた。
反乱軍兵士は日本人に比べて視力はよかった。だが、彼らが警戒する距離より、遥か遠方から既に捕捉されているなど、思いもしなかった。
「……ササヌキ1-1からササヌキ3-1。目標まで100m。送れ」
≪ササヌキ3-1からササヌキ1-1。引き続き対象に接近する。オーバー≫
UAVによる偵察もできるが、より詳細な情報と映像を長時間得るには向いていない。だが、複合カメラはRAVが停止状態でなければ利用できない。そして、カメラを持っていける高さは15mが限界だ。地形が悪いと最大能力を発揮できない。
ササヌキ3-1と呼ばれる日防軍歩兵5人はササヌキ1-1の誘導で暗い中を少しずつ敵味方不明の歩兵に近づいた。
畑の中ということもあり、お互いの距離が数mの距離まで近づくと、
「こちらは日防軍である。誰かっ!?」
「「「へっ!?」」」
反乱軍兵士は静かに日防軍に近づけと思ったら、いきなりライトを照射されてしまい間抜けな声を出してしまった。
いきなり戦うことを想定していない反乱軍兵士は帯刀こそしていたものの、鞘から抜いていない。対して日防軍は準備万端で銃を向けている。勝敗はすでに決してた。
「ゆっくりと武器を地面に捨て、両手を高く掲げろ」
「…………」
反乱軍兵士はどうすることもできず、大人しく指示に従った。
「ササヌキ3-1からササヌキ1-1。敵味方不明兵士3名を確保。これより『カーゴボックス』へ移送する。送れ」
≪ササヌキ1-1からササヌキ3-1。不明兵士を『カーゴボックス』への移送せよ。オーバー≫
手早く武器を回収し、3名は手綱で結ばれ『カーゴボックス』へと連行された。
この後も、探りを入れに近づいた反乱軍兵士は逃げる間もなく捕縛され、尋問の後、自らの正体を吐き出す羽目になった。
『カーゴボックス』周辺がゴタゴタしている最中、『クワ・トイネ中央駅』の周辺ではキュラキュラと無限軌道の音を抑えながら装甲車群が動いていた。
≪イシキリ1-1からHQ23-1。オブジェクトTPの制圧完了。送れ≫
「HQ23-1からイシキリ1-1。オブジェクトTP制圧了解。引き続き。後続部隊到着までオブジェクトTP周辺の警戒を継続せよ。送れ」
≪イシキリ1-1からHQ23-1。オブジェクトTP周囲の警戒を行う。オーバー≫
日防軍は殆ど砲火を交わさず反乱軍から無事『クワ・トイネ中央駅』の奪還を果たした。
その後、列車や後続部隊の到着もあって闇夜の静けさと共に目的を達成した。
戦いが起きているというのに、異常に静かな現状に軍務局で指揮を執るシュタグロフは違和感を覚えていた。しかも、複数個所に対して出した偵察や定時報告が何故か届かない。
「ーー将軍。ライナスとドゥーイ。ブラストンの隊から偵察が戻らないと報告がありました」
「報告がないか……参謀。どう思う?」
「やられたと見て考えた方がいいでしょう。誰にやられたかは不明ですが……」
「日本軍であれば盛大な火薬音が聞こえるはず。それがないということは、最近増援としてやってきているクイラ軍か?」
「いかがしますか?」
「……他の異常がないか各警戒区域の報告をまとめてくれ。できるだけ正確にな」
「わかりました」
参謀が通信室に向かうと、ほんの数分で戻ってきた。
「将軍。つい先ほど『クワ・トイネ中央駅』が日本軍に制圧されたと魔信で報告がありました」
「『クワ・トイネ中央駅』が……? ということは、最初の報告にあった列車は日本軍が用意したものか……」
「直ちに兵を向かわせますか?」
「いや、ここから駅まで遠すぎる。日本軍の動きを監視する程度に留めておけ。あと、警戒以外の動かせる兵をすべて官公庁街の防衛に回せ」
「将軍は明日にでも日本軍が攻めてくるとお考えですか?」
「少なくとも、公都から東には我が方より大規模な戦力が集結しつつある。払暁に攻めてくる可能性も考慮した方がいい」
「わかりました」
参謀が執務室を後にすると、シュタグロフはドカッと椅子に座り、今後の展望を思い描きながら目を閉じた。
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