OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第68話

中央暦1640年 10月29日

-ロウリア王国 王都ジン・ハーク-

 

 日を跨いでから数十分。衛兵がニホン側の言伝を報告してきたことに対する今後の対応の決めるため、ハーク34世を始め王国の上層部一同が参集していた。

 

「ーーそれで、ミミネルとの連絡がつかないのは確かなのだな?」

「生死不明ですが、逃げ帰ってきた兵たちの話を聞く限り、生存は絶望的かと……」

「そうか。奪還作戦は失敗したか……」

 

 ハーク王は背もたれにどっかりと体重を預けた。それは、誰から見てもこの戦争に対する諦めの態度だと勘づいた。

 会議室は静寂に包まれ、1秒がまるで1時間もあるような時間が過ぎていった。

 誰もかれも閉口する中。ハーク王はとある人物の存在を思い出し、顔を横に向けた。視線の先には、黒いポンチョを羽織るパーパルディアの工作員が佇んでいた。

 

「……使者殿。貴国は敗北が確定した我が王国に、尚見返りを求めるのか?」

「……」

 

 黒いポンチョの男(ヴァルハル)は何も告げず、会議室を後にした。

 無言で去るその光景に列席した軍人が憤慨した。

 

「何とっ!? いくら皇国の人間だからといって陛下に対してなんと無礼なっ!!」

「……捨て置け」

「しかし陛下……」

「日本が皇国より優れたる存在なのは、開戦1ヵ月で証明しておる。仮に追加の支援があっても、我々の命運を長くするだけで結果は変わらん」

 

 ハーク王の言葉に一同は何を言いたいのか理解した。そして、この場において最も適切な人物が声を上げた。

 

「では陛下。以前仰っていた“作戦失敗に際し、日本に対して降伏する”ことを伝えるということでよろしいでしょうか?」

「前言を覆すことはせん……ただ、余以外で誰の首が必要か考えておかねばならんな……」

「陛下のご決断に感謝いたします……日本に対する返答は私が行っても?」

「そうだな。よく代表を務めたスマークなら、こちらが本気であることを伝えることができよう。頼んだぞスマーク」

「わかりました」

 

 スマークは立ち上がりると、ハーク王が声をかけた。

 

「待てスマーク」

「何でしょう?」

「これを持っていき、降伏の証とするのだ」

「ーーこっ……これは……。しかし、これは王家に伝わる名剣では……!?」

 

 ハーク王は、スマークに初代ハーク王が携えていた聖剣を手渡した。

 

「……余は敗者として処刑される運命だ。盗人に渡るくらいなら勝者に渡る方が良い」

「……陛下の想い。確実に御伝えいたします」

 

 ハーク王の決断は他の部下にも伝わり、会議は解散。ただし、会議に参加した若干名が“自分の首が差し出されるかもしれない”と疑心に陥り、大急ぎで王都から脱出する準備を始めた。

 

 

 王都北門では荒谷たちがAFCVで暖を取っていた。

 ロデニウス大陸は日本より南にあるとはいえ、10月ももう下旬だ。

 AFCVは多数の電子機器を搭載しているということもあり、冷房は非常に強力だ。そのおかげで、秋も終わりかけの季節だというのに車内の方が寒いのだ。

 荒谷は部下が入れてくれたコーヒーをありがたく口に流し込んでいた。

 

「あぁくそ……面倒くさい」

「まぁまぁ荒谷団長。いくら戦力を削っても頑なに戦争を続けた相手です。いきなり降伏勧告してもそう簡単に首を縦には振らんでしょう」

「まぁ。そうなったら王都の城門をすべて封鎖して()を徹底的に耕すことになるがな。する羽目になったら無駄な攻撃だよ……」

 

 荒谷はコーヒーを飲み干すと、新たな一杯を作ろうとした。しかし、コーヒーを作るより先に周囲を監視していた車長が報告してきた。

 

「荒谷団長。門から使者が出てきました。以前から交渉団の代表を務めているスマーク将軍です」

「ーーわかった。会おう」

 

 荒谷は護衛を引き連れてスマーク達に近づいた。

 

「お久しぶりです。荒谷将軍」

「スマーク将軍も元気そうで何よりです……それで、ただ挨拶するために出て来たわけではないでしょう?」

「はい。正式にロウリア王国は日本国に降伏します」

 

 スマークはハーク王より受け取った聖剣を荒谷に差し出した。

 

「申し訳ありませんが、その剣は?」

「これの名前は『聖剣アルジャン・ハルク』と謂われるものです。ロウリア王国建国の英雄が愛用していたと言われる物で、代々ロウリア王国国王に継承されるものです。こちらを降伏の証としてお渡しいたします」

「……わかりました。降伏を受諾します」

 

 荒谷もその意図を察し、恭しくその聖剣を受け取った。

 聖剣を受け取るのを確認したスマークは荒谷に質問した。

 

「荒谷将軍。今後我々はどうすればよいでしょうか?」

「そうですな。まずは王城まで案内と護衛をお願いしてもよろしいですか? 後、ハーク王と会談できる場の用意もお願いします。降伏の内容はそこでお伝えします」

「わかりました。急ぎ伝えます。王城へ案内いたします」

 

 スマークは近くの衛兵に荒谷が伝えた内容を伝令させ、さらに馬を借りると護衛の兵と共に荒谷たちが乗る装甲車数台と共に王城へと向かった。

 

 三重の城壁を超え、荒谷たちは王城へと入った。

 

 荒谷たちはスマークと共に謁見の間へと案内された。そこには、ハーク王が玉座で姿勢を正して待っており、横にはマオスなど国家の重鎮が揃っていた。

 

 ハーク王は立ち上がると、荒谷たちを出迎えた。

 

「日本の方々。ジン・ハークへようこそ。私がロウリア王国国王のハーク・ロウリア34世である」

「日本国防衛軍第22任務旅団旅団長の荒谷 潤大佐です。早速ですが、降伏内容をお伝えします」

 

 荒谷は持参したデータパッドから該当のデータを開いた。

 データの内容は、この大規模会戦でロウリア軍を降伏させることができた時のため、事前に用意されたものだ。

 

「日本国はロウリア王国に対して次のことを要求する……」

 

『降伏勧告「プロトコル97‐2‐13」

 

第1条・ロウリア王国の全権は日本国の監督下とする。

第2条・ロウリア王国は日本国より『進駐軍総監』もしくはその職を代行する者の指揮監督を受け、実行に移すこと。

第3条・ロウリア王国全軍は日本及びクワ・トイネに対する攻撃を全面禁止とする。

第4条・ロウリア王国軍は治安維持以外の戦力を王都へ集結させること。

第5条・ロウリア王国各都市は、無条件で日本国防衛軍およびクワ・トイネ公国軍が進駐する権利を与えること。

第6条・上記に従わない将兵は11月31日を以て軍籍をはく奪。罪人として処理する。

第7条・ロウリア王国内の国軍以外の業務を継続すること。

第8条・ロウリア王国が上記の項目一つでも破った場合。降伏の意思なしと判断し、以て日本及びクワ・トイネはロウリア王国への攻撃を再開する。

第9条・ロウリア王国がこのプロトコルを維持する限り、日本及びクワ・トイネはロウリア王国内における犯罪及びそれに類することを厳に慎む。

 

「ーー以上ですハーク王陛下。直筆でのサインをお願いします」

 

 荒谷は合意書が挟まれたホルダーを提示し、ハーク王のサインを求めた。

 普遍的なものであれば、王位に就く相手に対してこれは無礼な行為だ。しかし、戦争で敗北した相手に対して、これはある意味政治的メッセージ(お前の意思を記せ)の確認と周知が目的なのだ。

 

 ハーク王は腸が煮え滾るような感覚を抱きつつも、それを言葉や行動(使者を切る)に移せば、ロウリア王国全体がどうなるかを想い。ただただ静かにサインを記し始めた。

 

 サインをしている間、ハーク王は恐る恐る荒谷に質問した。

 

「……ひとつ聞きたいのだが、余の身柄はどうなるのだ?」

 

 ハーク王は内心この質問を投げたくなかったが、知らずにことが進む(処刑台に送られる)より身構えていた方がましなのではないかと考えた。

 対して、荒谷は澱みなくハーク王の質問に答えた。

 

「この合意書の第1条の中にある『全権』はハーク王の身柄に関する事柄も含まれます……なので、ハーク王の身柄は居城内に限り、自由に行動しても構いません」

「……余を監獄に入れる意思はないということか?」

「もちろん入れることもできますが、そこまでする理由は我が国にありません。ただし、王都から脱出など考えた場合、どうなるかしっかりお考え下さい」

「……肝に銘じておこう」

 

 荒谷はサインが書き終わったことを確認すると、周りのロウリア王国の臣下を一瞥した。

 

「この降伏調印書を以て、現時刻よりロウリア王国の全権をハーク王より私。荒谷 潤が『臨時進駐軍総監』として掌握しますが、何か質問はありますか? ちなみに、異論反論は受け入れません。よろしいですね?」

 

 マオスを始め、集まった臣下たちは程度の差はあれ不快感を表情に露わにした。しかし、それを口にしてしまってはハーク王の顔に泥を塗ってしまうと考えた一同は判断し、静かに同じ言葉を発した。

 

「「「……承知しました」」」

 

 荒谷は返事を確認すると、早速『進駐軍臨時総監』として指示を出した。

 

「質問がなければ早速命令を達します。まず『進駐軍司令部』庁舎を用意。さらに、王都全城門の管理は今後日本国が行います」

「わかりました。庁舎を急ぎ準備します」

 

 マオスは部下に指示を出すと、文官たちは部屋を後にした。

 対して、軍を総括するパタジンが荒谷に質問した。

 

「荒谷将軍。城門の管理を行うといいますが、門を守る衛兵達はどうすればよいですか?」

「我が軍から城門を管理する部隊を派遣します。その部隊の指揮の下、衛兵たちは今後職務に励むことになります」

「わかりました。衛兵たちはそのまま担当の城門詰所で待機するよう伝えます」

「それで結構です」

 

 この時を以て、日本とクワ・トイネ。ロウリアとの戦争は終結した。しかし、それはあくまで嵐が過ぎ去ったに過ぎない。

 日本とロデニウス大陸では、その過ぎ去った嵐の後始末がここから始まるのだった。

 

 

中央暦1640年 10月31日

-グラ・バルカス帝国 首都ラグナ-

 

 灰色の四角い建物が密集するように配置されたこの都市では、工場から吐き出される煤煙が空気中に混ざり、澄んだ空気を吸うことは困難だった。

 見る人が見れば、その情景は1950年代の日本と酷似すると口にするだろう。しかし、ここは日本より西に2万5千km離れた『グラ・バルカス帝国』の首都『ラグナ』である。

 この鉄筋コンクリートで作られた大都市のとある区画に、一般人の立ち入りが禁止されている区画が存在する。

 そこを根城にしているのはほとんど軍隊だ。しかし、その建物だけは他の建物とは違い、軍としての威厳より徹底した合理性とスマートさを求めた雰囲気を醸し出している。

 

 これは『帝国情報局』というアメリカのCIAかイギリスのMI6として機能する組織の建物だ。

 

 『帝国情報局』の一室では、部屋の主であるセレスティノ・バミダルが報告資料を読み進めていた。

 

 バミダル達の担当はTECINT(読み・テキント)……技術情報の解析が中心だ。

 今日も今日とて部下の一人であるショーネ・ナグアノが纏めた報告資料に目を通している。

 

「……」

 

 バミダルは終始眉間に皺を寄せて報告資料を読み進めており、その様子を背筋に少なくない汗を流しながらナグアノは上司の言葉を待った。

 資料を読み終えたバミダルは眼鏡を外し、黙ってしまった。彼はナグアノにどう言葉を伝えればいいのか迷っていたが、とりあえずいつもの手順という形でナグアノに質問した。

 

「……ナグアノ君。この写真と資料収集はどの地域の担当が提出しているんだ?」

「……我が国から東へ2万km以上離れた『第3文明圏』といわれる地域です。国名はパーパルディア皇国。写真が撮られた都市は該当国の首都の港とのことです。時期は昨年の11月末と報告書に書かれています」

「……率直に聞きたいが、パーパルディア皇国の技術レベルはどの程度だと考える」

 

 ナグアノはバミダルの質問の意図はわからなかったが、内容に関して正直に答えた。

 

「おそらく。我々が崩壊させたレイフォルと同程度……だと思われます。集められた資料の中に類似したものが多数確認できるので……」

「そうか……ではこの写真に写っている軍艦についてどう見る?」

 

 バミダルは報告書から数枚の写真を抜き取り、ナグアノに見えるように置いた。

 写真には岸壁から2kmほど離れた位置に、パーパルディアの戦列艦が漁船のように見える灰色の軍艦が投錨している姿が映っていた。

 

「……我が国と同等。もしくはそれ以上の造船技術を持つ国家の軍艦と思われます」

「ふむ。ではもう一つ。この軍艦の国籍はわかったのか?」

「現地担当と写真解析班の情報を突き合せますと、パーパルディア皇国の近くに“ニホン”という国家がいるようです。詳細は追加の報告書から調べる予定です」

「そうか……ナグアノ君。この軍艦を見て、仮想敵国のムーと比べてどう見る?」

「……間違いなく格上だと思います」

「だろうな。引き続き職務に励んでくれ」

「わかりました。“ニホン”の技術解析に励みます」

「いや、確かに興味はあるが、『第3文明圏』の諜報能力は発展途上だ。それに、軍上層部は眼前の列強である『ムー』と『神聖ミリシアル帝国』にご執心だ。そちらの解析を優先的に進めてくれ」

「……わかりました」

 

 ナグアノはバミダルの部屋から退室した。

 

 バミダルは報告書に添付された写真をもう一度眺めた。

 

「……この軍艦。下手をしたら我が軍の『グレート・アトラスター級』より大きいな。予算と人員を回してもらうよう上申しないと……」

 

 ロデニウス大陸での戦乱がやっと落ち着いた中。脅威といえる勢力が着実に日本に忍び寄るのだった。




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