OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第69話

中央暦1640年 11月4日

-ロウリア王国 王都ジン・ハーク-

 

 ロデニウス大陸の戦乱が収まって1週間。ロウリア王国王都ジン・ハークは日防軍駐留部隊によって強い統制下に置かれていた。

 

 王都の城近くに立派に貴族の邸宅が佇んでいるが、今その邸宅は日防軍進駐軍司令部として機能しており、周囲では22任務旅団から分派した警備部隊が邸宅周辺を固めている。

 

 ロウリア王国の中にあって、国王ですら許可が無ければ入ることが許されない治外法権の土地に、マオスとパタジンが付き人と共に訪れていた。

 

 

「ーー反乱の可能性?」

 

 荒谷はマオスとパタジンから信じられない言葉を聞いて、一瞬思考が止まりかけながら言葉の内容を咀嚼した。

 

「はい。陛下が降伏合意書に調印した後から数名の将軍に不審な動きがありました。そして、その者たちはその晩のうちに王都から脱出していることがわかりました」

「……なぜすぐ脱出していることを報告しなかったのですか?」

 

 荒谷は軽くパタジンとマオスを睨みつけた。2人は荒谷の眼光の裏に日本の踏んではいけない一線があるように感じた。

 

「「ーー申し訳ありませんっ!!」」

 

 2人は汗を掻きながら頭を下げた。深々と頭を下げた2人に対して埒が明かないと判断した荒谷は続きを促した。

 

「……それで、あなた方は当方に何を要請しに訪れたのですか?」

 

 荒谷の言葉にパタジンが反応した。

 

「ーーはい。軍を離脱した将軍……いえ、脱走兵はロウリア王国の各諸侯領へ向かった可能性があります。ですので、降伏合意の条文に含まれる『ロウリア国軍の首都ジン・ハーク集結』に関して、少しお時間をいただけませんか? 脱走した賊を捕縛するのに必要なのです」

 

 パタジンの言葉に、荒谷は即座に反応せず少しだけ状況を整理した。

 実際。王都に入った22旅団隷下の各警備班から『王都から全力で離れる騎馬の集団を確認』した報告が複数入っている。

 さらに、内閣と統合軍参謀部から『王が降伏しても、一定規模の非主流派による地方での反乱や王国からの離脱が懸念される』ことと『敗北に納得できない者が王国より離脱して便衣活動(ゲリラ行動)を取る可能性がある』というレポートも届いている。ある意味、パタジンが伝えてきたことは荒谷にとって想定済みなのだ。

 

「申し訳ありませんが、ただ少数の賊相手に軍の集結を遅らせることはできません」

「「……」」

 

 パタジンとマオスは、荒谷の言葉にさほど驚かなかった。彼らからしても、無理な要請だと分かっていたからだ。

 

「失礼ですが、その賊に関する情報は他の諸侯領にはすでに伝達済みですか?」

「伝達済みです。しかし、我が王国は元々小国の集まりが時代と共に拡張と併呑を繰り返し、今の形になったのです。かつての復仇と自治独立の為、賊を引き入れる可能性があります」

 

 荒谷は手元のデータパッドを操作し、ロウリア王国内の想定事後行動のデータを確認した。

 

「懸念はわかりました。しかし、その諸侯がかつて独立国だったとしても現在はロウリア王国として一つの国となっています。そして、ロウリア王国の全権は我々が保有しています。ロウリア王国からの離脱は余計な流血を生むだけです。仮にそのような分離独立勢力が発生し、暴力を行使するなら我々日本国が責任を持って対処しましょう」

「わかりました」

「ただし、我々も準備不足が否めません。マオスさん。『北の港』から西に離れた地域に南北3km。東西1kmの空間を急ぎ用意してください」

「わかりました。直ちに手配いたします」

 

 マオスとパタジンは荒谷に会釈すると、部屋を後にして乗ってきた馬車に乗り込んだ。

 

「……やはり、軍の集結は断られてしまいましたね」

「それはそうです。軍の集結は今後の軍備縮小と武器の横流し(・・・・・・)を事前に防ぐためでしょう。現地で軍の動員解除を命じたら、動員兵は元の仕事に戻るでしょうが、軍の中には傭兵や山賊だったものも少なからずおります。私が荒谷将軍の立場なら同じように判断します」

「まぁ。それはいいです。こと(分離闘争)が起きたら責任を持つという意思が確認できただけでもよしとしましょう」

「しかし、宜しかったのですか? 反乱分子の始末を日本に押し付けて……」

「仕方ありません。ロデニウス大陸統一の為に諸侯にはかなりの負担をかけました。統一の暁には資産や亜人奴隷を手土産にする予定が破綻したのです。軍が健在なら面従腹背な者や欲深い者がいても武威を以て反乱の芽を潰せますが、今はそれも不可能に等しい。ロウリアに新たな戦禍を生まぬよう動く必要があります」

「ーー軍が不甲斐ないばかりに、申し訳ありません」

「結果論ですが、陛下も我々も可能性の欲を望みすぎました。数年は耐え忍ぶ時代になります。軍は最も苦しい立場になりますが、将兵達の手綱はしっかり握っていてください」

「わかりました」

 

 2人はそれぞれの邸宅に戻り、明日することを考えつつ床に就いた。

 

 

 マオスとパタジンの話を聞いた荒谷の行動は早かった。翌日にはNSCの案件として議題に上がり、より具体的な対応策が話し合われた。

 そして、枢木(総理大臣)田澤(防衛大臣)は荒谷の報告に目頭を押さえていた。

 

「ーーまぁ、どうにかして軍備縮小は避けたいわな」

「ただ、相手の言い分が正しいなら最悪ロウリア王国内で内戦になる可能性があります。軍としては戦力の再配分もあり、追加の派兵は困難です」

「しかし、折角降伏したのですから、ここから分離した勢力と新たな戦争に流れるのは好ましくありません。ロウリアの軍集結を見送るのは仕方ないのでは?」

「それはロウリア側の言っていることが本当ならの話だ。普通に考えたら意図的に外様勢力を作って、軍備縮小をなし崩し的に引き延ばしているようにしか見えん」

「では、分離独立勢力が現れても放置する方向で行きますか?」

「いや、勢力が決起するのを待って一気に空爆しよう。ロウリア軍から離脱した軍勢力は賊として扱うと明示しているんだ。行動に移すような欲深い愚か者は、この際徹底的に叩き潰そう」

「総理がそうおっしゃるならそうしますが……。弾薬と燃料の方はきっちり予算請求しますので、よろしくお願いします」

「もちろんだ」

 

 NSCはその後、ほかの案件も議論され、今後のロデニウス大陸の在り方を枢木たちは模索するのだった。

 

 

中央暦1640年 11月17日

-パーパルディア皇国 首都エストシラント-

 

 燦燦と雪が降り、うっすらと都市全体を銀世界に覆われる中。皇帝の居城であるエストシラント城では『帝前会議』が行われていた。

 

「ーーであるからして、ロデニウス大陸の利益を得るため日本との関係は友好的にすべきであるっ!!」

「日本との関係は『国家戦略局』の不手際のせいで悪化してしまっている。事態を放置していればいつか我が国に日本の鉄槌が降りかかるかもしれんっ!!」

「異議ありっ!! 日本は海洋国家でありその国力は高いものの、彼らの言う『国家転移』による影響は未だに尾を引いている。むしろ第3文明圏の覇者として日本の保護国化を目指すべきである」

「日本は輸入の大半をロデニウス大陸に依存している。早期にロデニウス大陸掌握を図り、我が国にとって屈辱的な『日パ和親条約』の改定を推し進めるべきであるっ!!」

 

 皇帝ルディアスの眼前では、各局長による政策議論が紛糾していた。

 議題は『日本との外交・交易方針』だ。

 皇国の覇権維持と利益の独占を目指す『対日強硬派(タカ派)』と、これまでの日本の行動から見直しを図る『対日融和派(ハト派)』で侃侃諤諤の話し合いが行われている。

 

「『日パ和親条約』の改定というが、昨年の『ロウリア王国借款回収作戦』や『魔王討伐支援作戦』における日本の力をどう見るのか? 二線級とはいえ『国家監察軍』をたった1隻で壊滅させたり、『魔王ノスグーラ』を消滅させた日本の軍事力をもっと重く評価すべきではないかね?」

「大臣。確かに軍策謀部(日本の統合軍参謀部に相当)では『日本の個々の戦力は我が皇軍を圧倒している』という評価を出しています。しかし、『両軍の総戦力比較』において、『我が皇国が数的に有利』という評価もお忘れなく」

「その軍の見解だが、我が皇国は広大な領土を管理する上での大戦力だ。局所的に全戦力を集結させるなど不可能ではないか?」

「……局長の言う通りです」

「財務局長としては日本と戦端を開くことは大反対であります。昨今において拡張政策はかつてに比べ黒字化に限界が出てきています。之は偏に多数の領域編入に際して期待された利益に対して、軍事歳出が予想より拡大したことが原因と思われます。そこへさらに軍事的に優れた日本相手に行動することになれば、今までの利益が軽く吹き飛ぶほどの損害が生じるのは確実です。そうなれば我が国の財政は悪化の一途になると思われます」

「交易局長としては、日本との交易で少しずつ利益が増えております。ここで日本との関係を拗らせては今後得られるであろう交易による利益がなくなります。日本との関係は良好な状態を維持するのが皇国にとって国益になると愚考します」

 

 会議全体の雰囲気としては、日本との融和を重視すべきという意見の方が優勢だ。

 フェアな交易であれば、基本的に大損することはないのだ。しかも、今のところ『ロデニウス大陸に対する戦争工作』に対して日本側は沈黙を貫いている。

 勿論日本国内では『皇国の行動』次第で相応の制裁を準備しており、皇国上層部が考えるほど状況は楽観的ではなかった。ただ、日本の優先事項は『ロデニウス大陸内の復興と開発』が急務であり、パーパルディアに対する制裁は優先順位として低いのだ。

 

 融和派に対して日本に強硬な派閥は実益より、皇国の体面を重んじる者たちだ。

 彼らは日本を『列強国である皇国を対等だと考える不遜な新参者』という風に考えている。もちろん、昨年の同時期にいなかった派閥だ。

 ここ最近魔が差したのか、日本との関係改善(皇国優位論)を唱えており、ルディアスとしても無視できない政治集団へと規模を拡大している。

 

(ーー短期的な利益を得るなら、タカ派の意見は真っ当だが、机上の空論だな)

 

 『日パ和親条約』が締結されてから約1年。日本と皇国の交易は国力に反して大した規模ではない。最悪無くなってもお互い一時の損失を被る程度の規模だ。

 ルディアスとしては、今後の拡張政策の補填分として日本との交易拡大を睨んでおり、安易に強硬策を取るのは好ましくないと考えていた。

 

 ルディアスが思案に明け暮れていると、知らないうちに会議は静まり、参列者はそれぞれルディアスの裁定の言葉を待った。

 

「日本に対する諸君らの意見はよくわかった。諸君らの貢献はまさに皇国発展の礎となったのは確かである」

「陛下……」

「だが、余の拡張政策を始め大体10年。財務局長が言った通り日に日に歳出は増え、発展のパイは減りつつある。そこへ日本との衝突は間違いなく皇国衰退の引き金になりかねん」

「へっ……陛下。それはつまりっ!?」

 

 ルディアスは軽く深呼吸すると、会議参列者全員に宣言した。

 

「今までの拡張政策を見直しを行う。軍官共に皇国繁栄のため、組織の垣根を超え、相互で協力せよっ!!」

「「「ははぁー!!」」」

 

 皇帝の言葉に、参列者は深く頭を垂れて賛意を示した。しかし、ルディアスは皇国上層部の腐敗を理解していなかった。

 自らの欲を満たすため、面従腹背な臣下が混ざっていることを知らなかったからだ。

 

 

 ルディアスは会議が解散すると、執務室へ戻とった。

 部屋にはすでに『臣民統治機構』のパーラスが分厚い書類を手にルディアスの帰りを待っていた。

 

「陛下。お疲れ様です」

「パーラスか。どうした? 急ぎの用事はーー頼んだな。例の件(・・・)か?」

「はい。こちらが監査室の決裁目録の比較になります」

 

 ルディアスは書類を受け取ると、中身を確認した。

 

「……日本に輸出するための決裁書が多いな」

「はい。『日パ和親条約』を機に商人たち利益を得られると考えたと思われます」

「そうなると、特に問題はないということか?」

「いえ、それがそうとも限らないようです」

「どういうことだ?」

「こちらは今年5月と昨年5月の輸入品目録です」

 

 パーラスは該当のページを捲った。

 

「……鉄資源や木材が大きく増えているな」

「日本の鉄資源の輸入額はすさまじく。日本が鉄くず1tに掛ける費用で我が国だと5tもの鉄くずを購入することができます。対価はクワ・トイネの農作物が中心ですが、彼の国が作る個性的な製品も対価として払われています」

「ーーそれはほんとに我が国からの輸出なのか? 決済総額に比べ利益が低く見えるが……」

「はい。どうもシオス王国等。我が国の属国や保護国を経由して輸出しているようです」

「なぜそのようなーーあぁ。我が国に比べ租税が少ないからかっ!!」

「そうです。その浮いた租税分の利益がある程度監査室に流れているようです」

「つまり、監査室が納めるべき税を横領しているかもしれないということか?」

「おそらくですが……如何いたしましょうか?」

「パーラス。引き続き調査を頼む」

「わかりました」

 

 ルディアスは皇国が偉大な国家だと考えていた。しかし、見えない所で匂いを醸し始めた腐敗の臭いに、苦悩するのだった。




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