中央暦1641年 1月17日
-ガハラ神国 首都タカマガハラ-
第3文明圏で多くの国が新年を祝う中、ガハラ神国の首都『タカマガハラ』には国民以外にも外国から多くの客人が訪れていた。
客人の中には各国の大使や公使も訪れており、一種の外交会談の場となっている。
その中には当然パーパルディア皇国の大使が含まれており、神王『ミナカヌシ』と会談していた。
「ーーミナカヌシ陛下。新年あけましておめでとうございます」
「新年明けましておめでとうございます。ミネヴァン大使」
2人は軽く雑談していると、ミナカヌシの侍従が巻物を持参してきた。
「陛下。お持ちしました」
「ご苦労」
ミナカヌシは侍従から巻物を受け取ると、一礼して退室した。
「ミナカヌシ陛下。そのスクロールは何でしょうか?」
「これですか? これは皇国にお渡しする『予言の書』です」
「ほぅ。これが『予言の書』ですか……赴任してまだ日が浅いので、これを見るのは初めてです……中を拝見させていただいても?」
「もちろんです」
ミネヴァンはミナカヌシから受け取った巻物を広げ、内容を精査した。
最初、吉兆の報せでも記されていると思ったミネヴァンは、内容を把握すると見る見る内に顔色が悪くなっていった。
「ーーミナカヌシ陛下。これの内容はあまりに我が国を愚弄していると言わざるを得ない!!」
「そうは言われましても……巫女による予言を正確に記しているのが『予言の書』なので、我が国はその内容に恣意的な物を含めることはありません」
「……つまり、この予言の内容が近い将来我が国に起きることということですかっ!?」
「……外れる可能性
「ーーこの巻物は直ちに本国を送ります。よろしいですね?」
「えぇ。ぜひ送ってください。この巻物を一番必要にしているのはルディアス陛下だと思います」
ミネヴァンはミナカヌシに一礼した後、応接室を後にした。
血相を変えて飛び出したミネヴァンと違い、ミナカヌシはいつもと変わらない表情で次の公使と会談に入った。
後日。『予言の書』がルディアスの元に届けられ、早速目を通してた。
『~
生き物の中で首長竜が最も強かった。故に他の生き物は首長竜が近づいてくると道を譲った。
そんな集いの前に、太陽を背にする不死鳥が舞い降りた。
不死鳥はただ静かに集いの仲間になろうと近づきいた。
その不死鳥に色白な首長竜が襲い掛かった。他の首長竜がそれを制止しようとするが、色白の首長竜は我武者羅に暴れまわり、近くの首長竜や他の生き物を傷つけながらも不死鳥に近づいた。
色白の首長竜が不死鳥に近づくと、不死鳥は諭すように語り掛ける。しかし、色白の首長竜は逆上し不死鳥に襲い掛かろうとする。
不死鳥は色白の首長竜の行いに呆れ、一切の迷いなくその口から炎を吐き出し、色白の首長竜に浴びせた。
色白の首長竜の悶え苦し身ながら絶命し、他の生き物たちはその死に様をただただ静かに見守った。
不死鳥は傷ついた生き物に近づき、それぞれ癒しの涙を与えた。
最初疑いの目を向けていた生き物たちはその行いに感謝し、不死鳥を一人の仲間として受け入れたーー
』
ルディアスはこのスクロールの内容を読み進めると、昨年のエルトの報告を思い出した。
(ーーリントブルムの片割れが息絶える予言。ここに来て似たような予言が出てくるとは……)
ルディアスは一しきり悩んだ後。休憩ついでに信頼できる茶飲み仲間を呼ぶことにした。
「ライラ。少し休憩にしたい。バルコニーにルパーサを呼んでくれ」
「わかりました」
ルディアスは仕事着からラフな服装に着替え、中庭へと向かった。
「やぁルパーサ」
「お疲れ様です陛下」
2人は軽く挨拶すると、茶を嗜みながら近況や雑談に楽しんだ。
お互い一杯目を飲み干したとき、ルパーサが質問した。
「陛下。まさか茶飲みのためだけに休憩しに来たわけではないでしょう? ズバリ、その巻物が関わっているのではないですか?」
ルパーサは机に置かれた巻物を指さし、ルディアスが反応した。
「まさにそうなんだよ。この中身を見て、ルパーサの率直な意見が聞きたい」
ルディアスは巻物を手渡すと、ルパーサは巻物を読み進めた。
「ガハラ神国から送られた巻物でしたか……」
ルパーサは巻物を読み進めていくと共に眉間に皺が寄っていった。
「……陛下。この巻物から私に率直な意見を求めているのですよね?」
「そうだ。どう読み解く?」
ルパーサは軽く首を捻りながら話す内容を改めて考えた。なぜなら、最悪目の前の御仁の癇癪に触れる可能性があるからだ。
「陛下。失礼ですが、この巻物を他の誰かに見せましたか?」
「……中身を把握しているのは持ってきた在ガハラ神国大使だけだ」
「そうですか、では言わせていただきますが……。おそらく、レミール殿下が何かまたやらかすのではないかと思います」
「あぁ。やはりそう思うか。余もそう思っている」
「しかし。そうなるとこの予言はレミール殿下による権力闘争を暗示した物なのでしょうか?」
「権力闘争程度で済めばよいが……しかし、事を鎮める巻物の不死鳥が何を指しているのかがわからん」
「この巻物の内容だと、不死鳥がいる国家のことなのか、不死鳥を象徴とする国家のことではないですか?」
「まぁ。不死鳥の件は追々探すとして、レミールには監視が必要だな」
「アレも中々に気性が荒いですからねぇ」
2人はその後、休憩を終えそれぞれの職務へ戻った。
中央暦1641年 2月3日
-トーパ王国 『新・世界の扉』-
「ーーやっとここまで出来ましたな。センダー隊長」
「うむ。前の物より断然合理的で頑丈になっておる」
トーパ王国における魔王『ノスグーラ』との戦いから1年。大きく傷ついた『世界の扉』は、より強固で合理的な形へと変わろうとしていた。
辺り一体は建設資材や兵器が多く置かれ、工兵隊がしながら
「しかし、“あの”皇国が武器の売却以上に軍の駐留までするようになるとは……時代が変わりましたね」
「それほど、皇国にとっても魔王の出現は非常事態と判断したのだろう」
皇国にとってトーパ王国は属国の一つだ。現に一定数の奴隷を毎年献上させている。ただ、昨年の戦いのこともあり、例年のように多数の奴隷を求めたり輸出品を買い叩くような事は減った。
パーパルディア側にも事情がある。まずトーパ王国は寒冷な地域ということもあり人口は国土面積に対して少ない。例年であれば魔王などという存在を理由に奴隷の要求を少なくする理由はない。ただ、魔王出現とそれに付属する戦災復興にトーパ王国は動く必要がある。
パーパルディアが例年のような奴隷提供の要求に動けば、トーパ王国の戦災復興活動を妨げてしまうのだ。
次いでまずいと考えたのは、トーパと日本が関係を持ったことだ。
語らずとも、日本は魔王軍撃退において最大の功労者だ。パーパルディア皇国軍も肩を並べ、その実力を肌で感じている。
ただ、面白くないのトーパが日本の武器購入を打診したことだ。
日本側は輸入できる武器がないため丁重に断ったが、この流れで火が付いたのはパーパルディア側だ。
パーパルディアとしては、フィルアデス大陸の覇者と認識しているが、それが日本の出現で脅かされ始めていると認識したのだ。
かつての皇国であれば直ちに強硬策を用いるのだが、事日本相手には最悪手ということは既に実証済みだった。そこで、逆転の発想として旧式ながら、多くの皇国製兵器の有償無償で提供することにより、日本との違いと覇権国家としての格を示す方向に動いた。
その証拠として、『新・世界の扉』の裏面には十門以上の魔導砲と千丁以上の魔導マスケット銃が保管されている。
『新・世界の扉』に配属となった兵士達は、皇国製の兵器習熟のため定期的な訓練を実施している。ただ、まだ扱い切れているとはいい難く、全体的に動きはぎこちなかった。
「ーーそろそろそんな時間か??」
辺りを歩いているとブ~ンという音が頭上から聞こえてきた。そして、見上げた先に雲間からチラチラと赤い丸が描かれている中型UAVがグラメウス大陸の方へと飛んでいった。
「もうそんな時間でしたか」
「それなら、テントに戻って食事にしましょう。パンの焼ける匂いも漂ってきたことですし」
「そうだな。そうしよう」
『新・世界の扉』に日防軍は展開していない。代わりに、首都ベルンゲン近郊に作った野戦飛行場から数日間隔で偵察用UAVを飛ばしている。魔王こそ退けたものの、オーガや魔獣軍団の脅威が未だ残っており、何かを機にまたグラメウス大陸から侵攻してくる可能性があるからだ。
なお、日本側の下心として、グラメウス大陸を資源開拓の土地として有望視しており、魔獣排除に
魔王という脅威によって生み出された日本と皇国のパワーゲームがトーパ王国という盤面で進められているのだった。
解説はありません