OCU日本国召喚   作:Bu3og

74 / 80
第74話

中央暦1641年 5月24日

-クイラ王国 沿岸都市『ラバ・スー』-

 

 港町『ラバ・スー』に珍しく旅客帆船が入港した。

 多くの乗客が降りてきたが、観光客は1人もいない。乗客のほとんどがクイラ出身の出稼ぎ組だからだ。

 

「ーーいやぁ。まさか数年離れてるうちに港町がえらい立派になったもんだなぁ」

「おや? トベラーじゃねぇか。お前さんも出稼ぎから戻ってきた口か?」

「ベンスおじさん!? お久しぶりです」

「すぐ故郷の『カ・ルカン』に帰るのか?」

「えぇまぁ。乗り合い馬車で1ヶ月掛かるんで……」

「素寒貧ならまだしも帰ってきたばかりで金はあるだろ? 『カ・ルカン』ならレッシャで3日も掛からん」

「みっ……3日っ!?」

「あぁそうだ」

「ベンスおじさんも使ってるの?」

「漁師の俺は滅多に乗らないが、アッシュや他の親戚は数カ月に1回こっちに来てるぞ?」

「えぇ!? そのレッシャって奴にどう乗ればいいんだ?」

「お前さん始めてか? 時間もあるし俺がレッシャの乗り方を教えてやろう」

「ありがとうございますっ!!」

「その代わり時間ができたんだ。今夜飲みに付き合えっ!!」

「奢りですかっ!? お供します!!」

 

 2人の男性が街へ歩いていく中、港に直接接続された貨物ターミナルからガタンゴトンと重い音を立てながら長大な貨物列車が走行していた。

 

 山岳沿いに有力な鉱山が多数あり、クイラ王国の合意の元。北東の『ラバ・スー』と『ルーモス』に鉄道を敷設して鉄鉱石の供給拠点とした。ただ、『ルーモス』の鉱物産出だけでは日本の需要を満たすことは困難だった。そこで、他の鉱山都市の接続も併せて山岳に沿う形で路線敷設を計画。敷設作業に入った。

 当初はクイラから鉄鉱石を日本へ輸入。そこから多くの工程を経て軌道敷を製造し、クイラに運び込んでいた。しかし、採掘から敷設まで時間が掛かるとして、ゼネコンと経産省は内閣とクイラ政府にとある提案を出した。

 

「クイラの鍛冶師ギルドに鉄鋼関連の技術を提供して軌道敷の生産をしてもらおう」

 

 内閣とクイラ政府はお互い首を傾げた。

 

 内閣が心配したのは技術流出の観点からだ。経済支援を実施した近隣国が市場開放を条件に技術移転を要求した。最初の数年こそ良かったものの、その後製造技術が模倣され、技術移転した近隣国が国際市場に販売し始めたのだ。

 日本側は見た目が似ていた近隣国の製品を「模倣品だっ!!」と判断したが、近隣国は「あくまで独自開発である」と言い張った。この知的財産に関する話は近隣国相手に多数の例があり、彼の国は一種の国策として黙認していたため、結局両国間の未解決案件と化した。

 

 話を戻そう。クイラ政府側の鉄道に対する意識は単純だ。鉄道の有用性や必要性が理解しきれていないからだ。

 山岳沿いやバーダットに敷設した鉄道は見ているし、馬車より使えることを彼らは理解している。しかし、その分自分たちで使うという考えに乏しく。ゼネコン担当から提案されても渋々という形でクイラ政府は軌道敷製造技術を取得した。

 意外にもこの話に乗り気だったのはドワーフ族が多数在籍する鍛冶師ギルドだ。

 鉄鋼鍛冶に多くの心血を注ぐ彼らとしては、日本の軌道敷を含め、冶金技術や金属加工に興味を示したのだ。もちろん彼らとしても、ロデニウス大陸内と日本との技術格差を痛感させられたことが最も大きい。軌道敷製造技術の導入は鍛冶師ギルドにとって自らの成長と発展に繋がると判断したのだ。

 日本の鉄鋼業界の技術指導とクイラの鍛冶師ギルド達の自己研鑽によって鉄道用(※60kg/m。日本だと新幹線用)軌道敷をはじめとする鉄鋼生産量は加速度的に増加していった。

 初期こそ不良率に悩まされながらもレールや固定ボルトのクイラ国内での生産が増える毎に線路の敷設速度も早くなり、最終的に当初予定されていた総工事期間が8割程度まで縮めることができた。また、今でも延伸は続けられている。

 

現時点における大陸内の主要路線図

 

【挿絵表示】

(ペイントより)

オレンジ…敷設済

ブルー……敷設予定

 

 この鉄道もクワ・トイネと同様。都市間が開通するごとに民間旅客を少しずつ増便している。

 山岳住まいの住民にとって、街の外に出るというのは大変苦労することである。移動だけで道の悪い山道を数週間単位で進むしかなく、山岳ゆえちょっとした悪天候で立ち往生ということも頻繁に発生しており、常に住民の生活はギリギリだった。それが、鉄道により食料や生活物資の輸送量は格段に増え、さらに国外で出稼ぎに出ていた若人も戻ってきていた。

 

 港町『ラバ・スー』も鉄道ができるまでクイラのどこにでもある漁村の一つに過ぎなかった。それも今は昔のことであり、バーダットに劣るものの、多くの荷出し倉庫が並ぶ港湾都市へと様変わりした。

 今では『ラバ・スー』住民の多くが港湾業務に従事しており、漁師も禁漁期になると稼ぎに来ている。ただ、港の規模に対して商社や商人の数は少ない。地元の漁船以外で港に入る船のほとんどは日本行きの貨物船だけだからだ。

 まだまだ港の規模が小さいということもあり、日本の貨物船が入ってくるのは2日に1隻程度である。

 

 今日の港湾業務は貨物の入れ替え作業だけだ。荷役担当以外の職員は職場を後にし、行きつけの酒場に足を運んでいた。

 

「ーーおじさん。奢ってもらうだけじゃなくてホントに一晩泊まっていっていいの?」

「いいっていいって。今この町は景気が良いんだ。甥っ子1人泊めるなんてわけないさっ!」

 

 ベンスはお気に入りの地場産エールを呷りながら串焼きを頬張った。対してトベラーは空になった杯の代わりを注文した。

 

「親方。日本のビール置いてる?」

「おっ? 兄さんクワ・トイネからの出戻りか?

済まないがもう品切れだ」

「品切れ? そりゃ残念だ」

「日本のビール? ホンドー。いつからそんなヤツ置いてるんだ?」

「1月前くらいだな。クワ・トイネでしか飲めなかったらしいが、最近はこっちでも商人が仕入れてる。ただ、飲む奴が多いからすぐ品切れになっちまうんだ」

「うまいのか?」

「おじさんエール好きだし。多分気に入るよ?」

「ほぅそうか。ホンドー。次それを仕入れたらボトルキープ頼むぞっ!」

「あぁわかった」

 

 地方のどの港も盛況だ。それが、クイラ経済が好調であることを何よりも示しており、多くのクイラ国民がその恩恵を受け取るのだった。

 

 

中央暦1641年 6月17日

-フェン王国 日防軍ゴトク基地-

 

 フェン王国の上空に1機の無人機が飛行していた。

 

≪ライアー18からゴトクコントロール。着陸許可を求む≫

≪ゴトクコントロールからライアー18。着陸を許可する≫

≪ライアー18からゴトクコントロール。着陸許可確認。着陸態勢に入る≫

 

 無人機が着陸したのはフェン王国の南にあるゴトク平野と言われる荒野が広がる土地だ。だが、荒野の一角に造成されたそこだけはフェンでよく見られる情景からかけ離れていた。

 

『日本国防衛軍フェン王国ゴトク平野統合基地』

 

 日本がフェンと同盟を締結して造成した複合基地だ。

 この基地は海に向かって滑走路が伸びており、基地の海側には軍艦数隻を係留。運用できる突堤が2本ある。また、元がパーパルディアとの戦争を考慮して基地は作られており、複数の野戦陣地が基地を囲むように造成されている。そして、荒野のただ中は基地だけではない。基地を造成するときに雇用したフェン国民向けの簡易住居を起点に小さな町が広がっている。

 

 野戦基地程度なら重工兵隊だけでもできるが、永久築城の基地となると技術水準や機密レベルが低い設備に限り現地で土木建築会社に建築を仮託していた。ただ、ゴトク平野の周辺にまともな人里が無くかったので日本側が従業員用プレハブを用意した。

 先も言ったように歩いていける範囲に人里がない。仕事のストレスを発散するところが皆無となれば、機に聡い商人はゴトク平野での商機を見出しプレハブ近くで商売を始めるようになった。

 最初は馬車で屋台を運び入れる程度だったが、それではすぐ品切れになってしまい、今度は酒場が建つようになった。

 こうなってくると今度は商人と従業員が増えていき、いつの間にか基地の正門側にあたる東側にあれよあれよと建物が増えていった。

 なお、最初日防軍上層部やフェン王国政府はこの流れに微妙な反応を示した。

 日防軍上層部は不特定多数の人間が基地周辺で活動することに防諜上の危機感を感じたからだ。ただ、現地の兵士はどちらかといえば好意的に受け止めていた。こちらも基地周辺に休みの時の楽しみが増えることを喜んだからだ。また、旧世界のような中国やザーフトラ。USNのような強力な敵性国家が存在しなということ、またフェン国民の日本人に対する好意的な反応もあり、町の拡大は歓迎していた。

 フェン王国政府の反応は、同盟国である日本に対して不慮な事態や商魂を発揮することが無礼に当たらないか心配したからだ。ただ『基地内に無断で立ち入ること』という禁止行為に反していないため、日本側は外交上もしくは軍事上の問題としなかった。

 

 両政府が現状に対して追認したとなれば、後は時間と共に更に人は増えていき、その増えた人間相手に商売を見出して更に多くの人が訪れるようになっていた。また、フェンに入る商船のほとんどは首都アマノキの港に入るが、ことゴトク平野周辺だけは日本製品が少しづつ周辺に出回るようになっていた。

 ゴトク基地の港には定期的に建設資材を運ぶ民間船が入港しているが、荷室に余裕があることを利用して、合計数十トンもの日本産食品が運び込まれている。

 

 現状において、ゴトク平野はフェン王国の中でも類を見ないほど経済成長が進んでいる地域と化し、今日も今日とて名も無き町にできた最初の酒場『有志鉄扇』では日防軍兵士やフェン国民で賑わっていた。なお、店の名前の由来は基地周辺に敷かれた有刺鉄線に対するダジャレであり、始めて店に訪れた日防軍兵士は一様に微妙な顔を見せるのが入店する前の一連の流れだった。

 

「ーーよぉブンコ。今日も繁盛してるなっ!」

「あら? テイシャーにカッセイモンじゃない!? 仕事帰り?」

「あぁそうなんだけど、明日から10日ほど実家に戻るんだ。親方が偶には親に顔を見せてこいって言われてね」

「テイシャーもそうなの?」

「俺は半人前だから明日も仕事だよ。まぁ今日は親方がカッセイモンに餞別をくれたから一緒に飲みに来たのさ」

「羽振りのいい親方じゃない! 大切にするんだよ」

「わかってるさ」

 

 2人の大工見習いはカウンター席に着いた。

 最初の1杯を注文して祝杯を上げると、2人の人影が声を掛けてきた。

 

「よぉ。カッセイモンにテイシャーじゃないか」

「おぅ? パタシーにカブじゃないか!?」

「隣いいか?」

「もちろんいいぞ」

 

 声を掛けてきた友人2人は隣の席に座り、同じ物を注文した。

 

「商人のカブがこっちに来るのは分かるが、パタシーは宮仕えだろ?」

「その宮仕えとしてやってきたんだよ。この周辺には千人以上の住民が居るから、お上からこの辺り一帯を正式に村として認定することになったんだ」

「村か。この辺りも立派になったもんだなぁ」

「立派になったお陰で人も増えて、商いも活気づくってもんだ」

「そうなると、儲かってるのか?」

「日本人相手だと酒や食べ物は売れるんだが、それ以外はあまり売れないな。もっと良いものを日本が卸してる」

「もっと良いものって何だ?」

「うちは生活雑貨が中心なんだが、日本製はプラスチックやらゴーセージュシとかケイキンゾクで作られてるから、木や竹でできたやつより軽くて使いやすいらしい」

「らしい?」

「買える場所がここにしかないし、流通してる数も少しだから、俺も見たことしかない」

「たくさん入ってきたらお前の商売上がったりじゃないか?」

「寧ろ日本製の商品を仕入れたいんだよね。少しなら珍しさもあって売れるから」

「商魂逞しいな」

「商人からしたら、売れるものは欲しいし、売れない物は減らしたいもんさ。だから、もっと欲しいんだよなぁ」

「そんな簡単な話じゃないぞ」

 

 カブの話に反応したのはパタシーだ。

 

「日本の商品は魅力的だ。皇国や文明国の物に比べたら質は段違いだし、価格もそこまで高くないとしたら、誰も彼も日本製を欲しがり始める」

「それは仕方ないんじゃね?」

「わかってないなぁ。経済は人・物・金で成り立つけど、人のところには作る人と欲しい人に分けられる。自分たちが作るものは魅力がなくて、他所の物は欲しいって状況は金が外に流れ続けることと市場が相手に渡ることを意味するんだ」

「あ~……難しい話は辞めてくれ」

「政治が難しいのは仕方ないが、無関心なのは良くないぞ……まぁ話を戻すと、国の経済を日本に握られることをお上が嫌がっているんだ」

 

 フェンと日本の間に軍事協定はあるが、自由貿易を重んじるような貿易・経済協定はない。

 フェン王国の経済は環流性が高い分。輸出に積極的でないことが大きい。さらに、日本が望むような鉱物資源の産出や農林畜水産食品も大規模に存在しないため、結果的に経済交流は低調だ。しかし、ゴトク基地周辺に関しては日本製商品が少しづつ流通するようになっていた。これらは元々日防軍向け商品のダブついた分を民間に放出している程度だ。流通する量など微々たるものである。そもそも、日本とフェンでは経済規模が違いすぎるため為替を制定していない。

 ただ、流石に駐留する日防軍兵士達に直接物々交換させるわけにはいかなかったので、純金や純銀を軸に擬似的な貨幣交換は行われていた。

 

「まぁ。お役人様は難しいことばかり言って庶民を困らせるんだからっ。そういうの良くないわよ!」

「そうは言うがなブンコ……」

「それに、日本人は金にガメついどころか、お釣りを受け取らない人もいるくらいだよ。もっと大物になって、それだけ懐の広い人になんなさいなっ!!」

「……一番ガメついのはブンコな気がしてきた」

「なんか言ったかい?」

 

 ブンコの鋭い視線を避けようと4人とも同じように杯を傾けた。

 

 フェンに生まれた『基地の街』は今日も今日とて賑やかな夜が流れていくのだった。




2026年3月16日 ロデニウス大陸の路線図追加
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。