OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第75話

中央暦1641年 7月21日

-パーパルディア皇国 首都エストシラント-

 

 夏の陽気と強い日差しがパーパルディア皇国の首都エストシラントに降り注ぐ中。庭園に囲まれたレミール宅において人知れず催しが執り行われていた。

 

「ーー貴族院と軍の方々。この会合に参加していただき感謝する」

「いえいえ。皇国を思って尽力する殿下に我々は心打たれたのです。このような会談の場に参加できることを感謝したいのは私共の方です」

 

 ここに集まっているのはルディアスの政策転換に少なからず反発している強硬派の大貴族や軍人の集まりだ。

 

「レミール殿下。この私邸に我々のような者たちを集めたのは何故でしょうか?」

「それは勿論。ルディアス陛下の対日本政策を変更してもらうための集まりでしょう? 何分。日本は我が皇国に対する畏敬の念が足りてないようですし……」

「貴殿らの言うことも一理ある。しかし、我々の提言に対してルディアス陛下は日本に対して及び腰になっている。由々しき事態だと思わないか?」

「由々しき事態ですか……しかし、陛下は列強国として日本に従属を求めないのは、それのほうが皇国に利益になると判断しているからではないですか? でなければ、あの屈辱的な親和条約を維持したり、独断専行の極みである『国家戦略局』を処断したりしないでしょう」

「確かに陛下のお心は日本との融和的関係を重んじている。その御心を疑う気はない」

「そうなると、我々『正統派』の数を増やし、政治力を強める必要があります」

「左様。我々の影響力は貴族院の2割程。弱くはありませんが強いとも言えないものです」

「軍の方はもっと酷い。我が皇国の軍事力を過小評価する気はありませんが、『魔王軍』との戦いで日本の実力は証明されています。とても軍事力を背景とした外交はできません。それに、日本軍の底が解らず仕舞いです。どのように日本に対して働きかけるか分かりませんが、軍は日本との対決を望みません」

「貴族院の懸念は理解している。ただ、貴族の中に少しずつだが日本との関係で利益を得ているものが出ている。その流れは簡単に変えられないどころか、利益を得ようとより日本と距離を近づこうとする者も出てくるだろう」

「そうなると、我々の活動は以前より厳しくなるかと……」

「案ずるな。監査室の権限を用いて『融和主義者』が勢力化しないよう切り崩しを行う。貴殿らは貴族院の中で利益を得ていない者を『正統派』に参加するよう交渉してほしい」

「……何とかいたしましょう」

「さて、軍の日本に対する見解だが、面白い資料が届いている」

「面白い資料とは何ですかな?」

 

 レミールは皇国では見られない意匠の分厚い本を複数机に取り出した。

 タイトルは日本語で書かれており、丁寧に翻訳解説が付けられている。

 

「この本はクワ・トイネの本屋で手に入れた『国防白書』と『日防軍装備年鑑2095』というものだ。どちらも日本の軍事力に関する情報が載っている」

「ほぅ。これが日本の本ですか?」

「中身もそうですが紙の質が我々のものより断然違いますな。薄いのに表面がまるで鏡のようにスベスベだ」

「絵?ではなく魔写のようですが、ここまで精巧なものをこれだけ載せるとは……」

「諸君。本の中身に関する検分はひとまず置いておいて、重要な情報がこのページに載せられている」

 

 レミールは冊子が挟まれたページ開いた。そのページには日防軍の大まかな人員数が載っていた。

 

「ーー兵員数が我が皇国の10分の1っ!?」

「殿下。確か日本の人口は1億程度と聞いております。流石に軍の人間が30万を切っているとは考え難いかと存じます」

「我が皇国の戦力は皇軍に限れば200万。国家監察軍や各貴族の私兵も含めれば300万は超えるでしょう。しかし、この書籍は欺瞞情報を載せている可能性があります。俄かには信じられません」

「うむ。私も一概に信じてはいない。だが、今まで日本はどの地域においても万を超す兵力を投入していないようだ」

「……」

「しかし、先も言ったように日本軍の底はかなり深い。いくら皇軍全軍をぶつけて勝利できるかどうか……」

「うむ。だが私が聞いたところ、日本から侵攻を受けた場合の防衛計画があるらしいな?」

「ーー殿下。なぜそのような機密の高い情報をご存じなのですか?」

「何。私の部下の中に軍関連に精通している者がいてな。チラッとそういう風に話しているのを思い出しただけだ」

「……殿下。どの程度詳細を存じているかわかりませんが、その計画は軍が独自に策定したものです。決して口外せぬようお願い申し上げます」

「そうだな。私も軍政に関しては陛下より口酸っぱく関わるなと言われているからな。ここまでにしておこう」

 

 レミールが自らの席に戻ると、この集まりの最初期メンバーであるアンヴォフが部屋に入ってきた。

 

「いやいやこれは皆さん御集りのところ遅れてしまい申し訳ありません」

「おぉアンヴォフ殿。また重要な情報が入りましたかな?」

 

 アンヴォフは最初、『正統派』の中あまり良い印象は持たれていなかった。なぜなら日本と皇国の立場を決定づけさせた出来事の多くに関わっているからだ。しかし、アンヴォフの本業は諜報活動とその集約だ。『正統派』の中にいるどのメンバーより日本に関する情報に精通しているのは彼だった。

 『正統派』の活動において旗印を担っているのがレミール(皇族)なら、裏から支えているのは間違いなくアンヴォフだった。

 

「良くない情報が入りましたのでご報告に……」

「良くない情報とは何だ?」

「この場で勿体ぶることは無しでお願いしたいのだが、アンヴォフ殿」

「……どうも。皇帝陛下は我々の集まりに不審を抱いているようです」

「不審っ!?」

「確かにこの集まりは非公式だ。しかし、そのような集まりは他にいくつもある。我々だけ猜疑の目を向けられる謂われは無いはずだ」

「そうですな。我々は皇国の未来を憂いる者の集まり。その点において間違いはないでしょう。ただ……」

「ただ? 何なのか?」

 

 言い淀むアンヴォフに早く伝えるようメンバーは促した。

 

「如何せん日本側より少なからず忌避感を呈されているようで、皇帝陛下はそのことで頭を悩ませている様子です」

「何だとっ!?」

「いくら力が強いだけの新参者がっ!! 我が皇国に意見するだとっ!?」

「来る日には日本に鉄槌を見せつける必要がありますな」

 

 メンバーは日本の行いに激昂するが、これはアンヴォフの嘘である。

 

 日本は皇国に意見することはあるが、その内容は主に『ファンブルトン商会』に関することだ。『正統派』に関する情報は複数の情報筋から把握しているが、破壊的な行動に移していない現状で動向を見守っている程度であり、間違っても『正統派』の存在自体を否定しているわけではない。

 現状国家による統制が強い日本国内において複数の媒体から政治ネタを集める知識人や趣味人が一定数いるが、その中で皇国に対し強硬な意見を持つものが少数ながら存在する。しかし、所詮少数の中の少数なため政治サイドでは見向きされていない。

 思想信条の自由は現状でも維持されており、公共の福祉を害さない限り過激派扱いされない土壌が日本には存在した。故に反日嫌日思想や信条をどのような立場の人間が持っていたとしても、行動を伴わない限り放置するのが日本なりの緩い所だった。反面。言葉と行動が乖離し、反日的行いが常習なら赦す質ではないが……対して、皇国はそうではない。下層の人間であろうと「皇国はクソだっ!!」と喚けば反逆の意志有りと判断され、処罰の対象になるからだ。

 

「……レミール殿下。ここ最近陛下の権勢は日本によってかつてのような剛腕は影を潜めております。我々が知らぬうちに我が皇国が日本の従属国に成り下がってしまいます。それだけは阻止しなければ……」

「アンヴォフの言いたいことはわかる。だが、陛下の御意思に背くことはーー」

「殿下。時間と共に日本に靡く者が増えていくことは確実です。列強として。この国の貴族の一人としてそのような流れは断じて容認できかねます!」

「……軍としても格下のままというのはいい気持ではありません。すぐは無理でも、時間があれば日本に追いつけると認識しております」

「……貴殿らは陛下のお心を軽視するのか?」

「殿下。確かに我々臣民は皇帝に着いていく存在にございます。しかし、その皇帝が皇国を軽んじるなら、忠義など湧くはずがないっ!!」

 

 貴族の言葉に他の者も静かに肯いた。

 

「……それは、皇帝に対する反逆の意志有りということか?」

「殿下。貴女とて薄々感じているはずです。今のルディアス陛下は日本の力に及び腰です。我々『正統派』はそのような流れに抗うために集まったのではないでしょうかっ!?」

「それは、確かにそうだが……」

「レミール殿下。殿下が覚悟を以てこの国を列強に相応しい国として導いて頂けるなら、軍も最大限支持できるよう動きましょうっ!!」

「……私にどうしろというのだ?」

 

 

 知らないうちに場の空気は沈黙し、参列者の視線はすべてレミールに集まっていた。

 

「ーー殿下。皇国の未来のため立ち上がりましょうっ!!」

「……私は陛下をお慕いしている。それなのに卿らは私を裏切り者にするのか?」

「いいえ殿下。これは一時的な権力の移譲です。我が皇国の歴史上いくらでも例があります」

「ーーせめて陛下を説得させてほしい。それからでも十分だろう?」

「殿下の陛下をお慕う気持ちは重々承知しております。しかし、説得が失敗した暁には……腹を決めて頂けますね?」

「……わかった。ただ、いざというときの合図は私が出す」

「もちろんです。その合図が未来永劫発せられないことをことをお祈り申し上げます」

 

 そのあと、レミール邸では来る合図が出た後の具体的な行動計画が練られ、夜遅くに解散となった。

 

 とある貴族が馬車に乗り込み、レミール邸から少し離れたところまで進むと、脇に佇むアンヴォフを拾った。

 馬車の扉が閉じられ、また走り始めるとアンヴォフが口を開いた。

 

「閣下。殿下を焚き付ける演技は中々の物でしたね」

「ホッホッホ……。元国家戦略局局長に褒められたなら舞台俳優も行けるかものぅ」

 

 この貴族……名をフリードラント・エンリケスは貴族院の中でも格の高い位置におり『正統派』の中心人物の一人だ。

 

「それで、我々の計画がうまくいけば本当に宰相の地位に就けるのだな?」

「今宰相の地位にあるブリューシュタン公は陛下の意志を最大限反映させる存在。レミール殿下が女帝に就けば追放されるのは目に見えております」

「フフン。これでエンリケス家はさらに発展する事が約束されるわけだ……」

 

 エンリケス家は今まで皇国発展を支える名門貴族の一つだ。ルディアスが皇帝の座に就いた後も政策を支える一家として発展を続けた。しかし、この2年の政情変化によってエンリケス家が主とする産業に危機が迫ったのだ。しかも、そのフリードラント本人は対応に失敗した口の貴族だ。

 『正統派』は今までの棍棒外交と皇国至上主義を軸とした政策で甘い蜜を吸っていたが、その蜜にどっぷり浸かってしまい政策転換に対応できない保守派とは名ばかりの頑固者の集まりなのだ。

 だからこそ、レミールの説得によって政策転換がかつての政策(棍棒外交)に戻るか、あわよくば宰相や主流派を排除して自分がその席に就きたいと考えたのだ。

 

 アンヴォフは持ち前の情報網を駆使し、非主流派となりつつある貴族や軍人を『正統派』に参加するよう促した。しかし、彼の行動は愛国心から発露したものではない。

 今までの勤労奉仕を無視してあっさり切り捨てた我が皇帝(ルディアス)と、平然と責任を自分に押し付けた皇女(レミール)に復讐するためだ。

 

 湖面に投じられた一石は皇国に小さな波紋を広げつつあった。そして、それが国全体を覆う大波へと変化していくのだった。

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