中央暦1641年 10月28日
-パーパルディア皇国 首都エストシラント-
『正統派』の武装蜂起が起きて数時間。皇軍最高司令官であるアルデと皇都防衛隊将軍のメイガは運よく皇都の北にある駐屯地に避難していた。
「……メイガ将軍。決起した勢力について何か存じているか?」
「不確定の物も含め、まずエストシラント駐留の約10万。さらに各地の貴族の私兵が5万以上……。規模だけで見れば大したことはありませんが……。隷下の斥候からパラディス城と上級城下街に至る街道をすべて封鎖されており、陛下を始め政府要人の安否が確認できません」
「つまり、エストシラント中心部は
アルデとメイガは卓上に広げられたエストシラント全域の地図を静かに眺めた。皇城には敵軍を示す赤い駒が置かれ、事態の中心であることを示していた。
「さてと……我々は決起部隊に対して後手に回っている。皇都防衛隊の方はどうなっている?」
「各隊に伝令を走らせ戦力の掌握を急いでいます。しかし、皇城を抑えられているという事もあり、士気は全体的に低い状態です。今すぐ行動を移すのはかなり難しい状態にあります」
「まったく。まさか巨大な組織故に身動きが取れないとは……おい君。海軍司令部との通信を開いてくれ。彼方の状況も確認したい」
「わかりました。少々お待ちください」
パラディス城は南沿岸に聳え立っている。その意図は陸上侵攻のルートを制限することと、いざ皇城が陥落したときに備えて緊急脱出用の海上ルートが構築されている。
アルデはとりあえず、軍の掌握と併せてパラディス城を占拠する
(海軍の中からも反乱軍に加担する者がいたら包囲の意味がない。バルスもこの事態に対処しているならいいが……)
アルデはこの事態を収束させるため、思考を巡らせるのだった。
アルデとメイガが軍の掌握と反乱軍に対応している最中。海軍司令部は独自に動いていた。
海軍総司令官であるワーグナー・バルスは
(ーー決起に参加を表明している艦長や分艦隊司令を再編と言いつつ集合させ。パラディス城を包囲するフリをして物資の搬入させる……何とも回りくどい行動を執らせるものだ)
バルスは『正統派』に属しており、参加してから海軍内で少しずつ『正統派』の賛同者を増やしていった。そして、決起の段階では1割以上の海軍将兵が『正統派』とそのシンパになっていた。
『正統派』の士官がバルスに耳打ちした。
「総司令官。停泊中の
他の士官や参謀が事態収拾のために情報収集に勤しんでいる中、バルスは司令部内で白々しくそれらしい命令を発した。
「よろしい。即応できる魔導戦列艦を以てパラディス城周辺海域を封鎖。残りはいつでも出撃できるよう補給を万全にし、港内で待機せよっ!!」
「「「了解しましたっ!!」」」
優秀な指揮官としてバルスを信じる部下たちは、何も知らず羊のように指示に従った。
「追加で命令を出す。現在哨戒に出ている艦隊は第3国の船をエストシラントに近づかせるな。エストシラントの混乱を他の国に知られてはならんっ!!
「総司令官、現在港内にいる民間商船はどうしますか?」
「……出港を全面的に禁ずる。港湾管理局にはそう伝えよ」
「わかりました」
部下達が慌ただしく各所へ連絡を始めると、バルスは神妙そうな顔を見せつつ、事前に『正統派』が決めた所定通り進んでいることにほくそ笑んでいた
パラディス城ではレミールをはじめ、『正統派』の人間が城内を巡回していた。
パラディス城は皇帝の居城であると同時に政府要中央庁舎も兼ねており、よって皇帝直属の近衛兵が場内警備を担当している。しかし、決起において近衛兵の殆どは『正統派』に属していなかったため、隊長各以外は地下牢に閉じ込められた。
会議室では、レミール達『正統派』の中心人物が集って決起の指揮を執っていた。そして、レミールはとある報告を今か今かと待ちわびていた。
明らかに不機嫌なレミールの態度に、悪い報告を届けなければいけない伝令兵は腰が引けながらも報告した。
「……レミール殿下。先ほど日本大使館の制圧と日本人捕縛に向かった隊から失敗したと報告がありました」
「えぇいっ!! なぜ高々貴族の私邸程度を落とせんのだっ!?」
「もっ……申し訳ございません……」
レミールが望む報告。『日本人政府関係者の捕縛』は未だに届かない。それどころか決起の直後から何度となく部隊を送り込んでいるが、全て返り討ちに遭っている。
「ドルボ……貴様。“まともな警備兵力を配備していない建物など数刻で制圧できます”と豪語していなかったか?」
「……殿下。確かに豪語しましたが、まだ失敗したと決まったわけではーー」
「そのような詭弁を誰が望んでいるというのだ!?」
ドルボはこの癇癪狂いを落ち着かせようと舌を回すが、不快な事実だけが積みあがっていく現状にレミールは腹を立てていた。
「いいかっ!! 日本人どもを捕縛できなければ交渉を始められんっ!!」
「もちろん承知しております。ただ、我が方の戦力はそう多くありません。あと少しお時間をください。必ずや日本人どもを捕縛してみせますっ!!」
「ふん……他の日本人はどうだ?」
「そちらは既に。13名を地下牢に捕縛しております」
『正統派』が決起した直後、日本大使館の襲撃と並行して上級城下街を訪れていた日本人の捕縛に動いた。
日本大使館では警備によって阻まれたが、商社の駐在員は護衛こそ引き連れていたものの、十倍以上の兵士に囲まれては多勢に無勢であり、あっさり捕縛された。
もちろん。捕縛した日本人は交渉で使うつもりだ。
各所で集められた日本の解析では、総体的に人命や人道を重んじる事が多い。
『正統派』が実権を握っている間に日本と交渉し、なし崩し的に皇国と日本の
中央暦1641年 10月30日
-フィルアデス大陸 南方海域-
パーパルディアにおいて武装蜂起が起きてから2日。夕陽が海面に降り注ぐ中、旭日旗を掲げる軍艦が7隻航行していた。
7隻の中で今回作戦全般を取り仕切る
『在パーパルディア皇国日本大使館要員救出作戦参加戦力
↓→第1輸送隊※指揮中枢
↓ ↓→輸送艦『紀伊』『能登』
↓
↓→
↓ ↓→DD『峯風』
↓ ↓→FF『柳瀬』
↓
↓→
↓ ↓→DD『浜風』
↓ ↓→FF『新井田』『鹿島』
↓
↓→第11戦術機甲大隊/第1中隊『ドライバー』
↓→第61空中機動大隊/第3中隊『ジャガー』
↓→第91航空打撃大隊/第2中隊『フローライト』
』
『紀伊』の会議室には統合参謀部の士官と各中隊の隊長が集まっていた。
「ーー揃ったようなので、ブリーフィングを開始する」
会議室中央にエストシラントの地図が表示された。
「2日前。パーパルディア皇国首都エストシラントにて大規模な武装蜂起が発生した。発生のほぼ直後。エストシラントに置かれた我が国の大使館は幾度となく反乱軍の攻撃を受けている」
参加した日防軍士官たちは静かに頷いた。
「死傷者こそ出ていないが、大使館警備用の武器弾薬が底を尽きかけている。我々の目的は大使館要員の救出とその支援だ。場所は星印が記されている場所だ。
救出艦隊はエストシラントの南方50kmの沖合まで接近。到達したら戦闘ヘリとWAPの中隊を先行。大使館周辺の安全を確保する。次いで、輸送ヘリを大使館の敷地に送り込み、大使館要員の回収作業を進める。回収が終われば、戦闘ヘリによる周囲警戒を継続。WAPの撤収を掩護する。流れとしては以上だ。なお、想定される敵戦力に
司会役の士官が参加者を一瞥した。
「何か質問はあるか? 作戦開始は2200。各自準備に入れっ!!」
各人は進行役の言葉を聞くと、それぞれの部下が準備を進める格納庫区画へと向かった。
日が落ちてから数時間。輸送艦『紀伊』と『能登』の甲板では先行部隊の出撃態勢を整えていた。
ヘリに懸下されたWAPを暁が見上げていた。
「……これでこの機体も見納めか……」
暁の乗機は第2次ハフマン紛争から乗り続けている愛機だ。日本国外のメーカー品でアセンブルされており、日防軍の制式機種と比べ整備補修に問題を抱えていた。そして、各部の対応メーカーの在庫枯渇に伴い、この任務で暁の乗機は除籍になることが決定した。
暁は乗機の有終の美を飾るためコックピットに乗り込み、アイドリング状態になるよう起動させた。
≪HQから全部隊。作戦開始時刻になった。救出作戦を開始する。オーバー≫
WAP輸送ヘリのサイドローターがゆっくり回り始めた。
もう片方の輸送艦から戦闘ヘリが飛び立った。輸送ヘリも戦闘ヘリを追う形で漆黒に沈むエストシラントの日本大使館へと飛んで行った。
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