中央暦1639年 1月31日
-クワ・トイネ公国 マイハーク-
日本とクワ・トイネの国交が樹立してから1週間。通商条約に基づく政府開発援助団の第1陣がマイハーク港横の海岸に到着した。
「ーーおいおい何だあれ?」
「煙…いや、海水が舞い上がっているのか?」
「船って言えるのか。あれ……」
海岸の様子にマイハーク市民は日本の能力に驚愕していた。
そこには作業用重機を積んだホバークッション艇が何度も往復していた。
クワ・トイネ国内のインフラ事情。もとい港湾能力の低さに日本は絶望しながら必要とする水準に引き上げるためだ。
浜に上がったホバークッション艇から作業用重機が降りてきた。
作業用重機はクワ・トイネが指定した集合地点に移動。他の重機も集まっている。
並んでいる重機の中に妙なものが混ざっていた。それは高さ4m。幅は3mほどある人型の作業用重機
「あっ、あれはゴーレム?」
「日本はすごい魔導技術を持っているんだな」
「あれ? 日本に魔導はないと聞いているけど」
マイハーク市民は日本のことを理性的だがよくわからない国家だと認識していた。だが、目の前に並んだ重機を見た途端。日本人の知らないところで“よくわからないすごい国家”に格上げされていた。
日本から来たゼネコン社員の監督はマイハーク市民のことなど気にせずタブレットを眺めながら並んだ重機を数えている。
「これで第1陣分の重機は全部か?」
「そうです……と言っても、まずは住宅団地向けですが……。これでマイハーク中の宿屋を貸し切りすることはなくなるかと」
「貸し切りというかほとんど占拠に近かったがね」
日本から来た作業員は笑い話で済んだが、宿屋の費用は全額経済産業省から提供されていたため、宿泊その他の費用合計の金額を見た会計担当者は一様に頭を抱えることとなった。
中央暦1639年 2月5日
-クイラ王国 首都バーダット-
クイラ王国。ロデニウス大陸の南東域を領土とし、そのほとんどが砂漠で覆われている国家である。
この国はクワ・トイネと長らく同盟関係にある。クワ・トイネは豊富な食糧の一部をクイラに渡す代わりに、クイラは肉体的に優れたドワーフや獣人を中心とする出稼ぎ労働者を多数派遣していた。
首都バーダットの中央に構える王城『バーダット城』の一室ではクイラ王国の外務卿メツサルとリンスイが茶会を開いていた。
「お久しぶりですメツサル殿。ご壮健で何よりです」
「これはこれは。リンスイ殿もお元気そうで何よりです」
2人の机にお茶とお茶菓子が運び込まれると、メツサルは話を始めた。
「そういえば、最近ニホンとの交易でマイハークや周辺がとても豊かになったと聞いています」
「豊か……ですか。ええまぁそうですね。ただ豊かになったという表現はかなり生ぬるい。たった2週間ですがマイハーク周辺だけでも恐ろしい発展ぶりですよ」
「ほぅ。恐ろしいほどとはどういうことですか?」
「えぇ。我が国の建材は木造か貴国から齎される石材が主流だったのだが、ニホンには鉄骨や“コンクリート”という素材を用いていとも簡単に大きい建物を建築していてな。しかも従来の建築物より頑丈ときている」
「そうですか。今度は私がそちらに訪れた方がよいでしょうな」
「それがよいでしょう。訪れるなら建築家を同伴されることをお勧めします」
「ではお言葉に甘えて、後日訪問させていただきましょう」
2人はカップを戻すと本題に入った。
「それで、今回はどのような要件ですかなリンスイ殿」
「ええ。実は貴国と日本の国交締結を仲介するために馳せ参じた次第です」
「おぉそれは。先の話が本当なら我が国にとってもかなりの利益になりましょう」
「そうでしょう。じつはここにニホンから預かった親書がありましてな」
「そうですか。では拝見させていただきます」
メツサルはリンスイから親書を受け取ると、内容をじっくり読み解いた。
「なるほど。国交締結と友好の証として通商条約の提案でありますか」
「然り」
「しかし、我が国は貴国と違ってニホンに魅力的なモノがあるとは思えませんが……」
「そこの細かいことはニホンが考えることです。ご心配なさらず」
「それはよかった。早速このことを国王陛下に報告して、ニホンの特使との会談を用意いたしましょう」
「よろしくお願いしますメツサル殿」
2人の茶会が終わった2週間後。日本の外交派遣団を乗せた船がバーダット港の沖合に錨を降ろした。喫水の都合で入港ができず、使節団は客船に搭載されている小型艇で岸壁に降り立った。
岸壁に降り立った派遣団には外交特使の他に他省の官僚と学者や技術者も同伴していた。
小型艇から数人が降り立つと、上着を脱いで汗を拭った。
「クワ・トイネは温暖な気候なのに、こっちは完全に砂漠地帯だな」
「ええ。調査任務とはいえ、この日差しはなかなかきついですね」
この5人は日本-クイラ通商条約に伴う地下資源調査の為に派遣された地質学者グループだった。
港の突堤から見える景色は中世風の建物が通り沿いに並んでいた。
突堤から通り沿いに入ると数台の馬車が待機していた。乗り物が異国情緒なのに、横に控えている人物がスーツ姿ということもありある種風情というものとミスマッチしていた。しかし、地質学者たちからしたら、目印にもなっていたので5人はその馬車に向かった。
「お疲れ様です。経済産業省の相沢です。調査チームの代表はどなたですか?」
「私がこの調査チーム代表の永沢です。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。今回皆様が宿泊する宿屋まで案内します。そちらの馬車に荷物をお載せください」
5人が手早くキャリーケースや地質調査用の器材を馬車に積み込むと、相沢は移動を開始した。
「馬車に乗るというのは初体験だが、やっぱり揺れがひどいな」
「申し訳ありません。まだ車両類の搬入がされていませんので」
「いえいえそういうわけでは……。そういえば相沢さん。調査の移動も馬車を使うということですか?」
「近場での調査はそうですが、より内陸の調査となると移動が困難なので、日防軍の揚陸艦を用いて各種車両を輸送します」
「それはいつ届くのですか?」
「すでに防衛省と産業界の協力があるので、早ければ2週間後には届くかと」
「そうですか。わかりました」
馬車の揺れを少しでも和らげようと6人は雑談していると日本政府の用意した宿屋に到着した。
5人は手荷物を部屋に運び込み。器材の類は貸倉庫へと運び込んだ。
荷物を運び終えた5人は宿屋内に設けられた酒場へと足を運び、空いているテーブル席に着いた。
程なくして酒場のウェイトレスが5人に歩み寄った。
「申し訳ありません。お客様はニホンから来られた方ですか?」
ウェイトレスに目を向けると、そこには
その顔を見た5人は一瞬硬直した。
ウェイトレスは5人が硬直した顔に頭を傾げた。
「え? あぁそうです。日本から来ました」
「そうでしたか。お代は政府よりいただいてますのでお料理をお持ちいたします」
そう言うと犬顔の獣人ウェイトレスは厨房へと消えていった。
「お代は政府が会計済みか。何か地場料理を堪能できると思ったのだが」
「まぁ。注文を聞かれても困りますよ。僕たちは
調査チームの中で一番若い助手が
札には彼らにとって理解できない文字で書かれていたからだ。
クイラと正式に国交が結ばれ。文科省を中心に日本語・クイラ語の翻訳事業に着手した。。しかし、2週間という短時間ではまだまだ進んでいないに等しかった。
それでもなお進めるのは、クイラの
用語解説
『WAW』……ヴァンダーヴァーゲン
ザックリ言うとフロントミッション世界における人型車両のこと。かつては戦闘用もあったが、2090年代では、軍向けにWAPが普及しており、もっぱら重機の代わりとして流通している。