OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第80話

中央暦1641年 10月30日

-フィルアデス大陸 南方海域-

 

 星と月の光がエストシラント全体を覆っていた。そして、パラディス城を囲む海面には30隻程度の魔導戦列艦が展開していた。

 

 この魔導戦列艦はバルスの指示の下。パラディス城を包囲しているように偽装しつつ、『正統派』に物資を送る部隊だった。

 

 偽装封鎖艦隊の1艦である100門級魔導戦列艦『アルヴィータ』はパラディス上の西側で警戒していた。

 

 若い水兵が甲板で見張りに就いていた。

 まだ雪が降るような季節ではないが、甲板に吹き付ける風は長時間耐えられるような物ではなかった。

 

(うぅ寒い。早く交代時間にならねぇかなぁ……)

 

 彼が甲板で腕を擦っていると、南の空からバタバタという音が聞こえてきた。

 

(ん? 何だ)

 

 若い水兵は音の正体を確認しようと視線を移すが、星の光以外何も見えない。

 ジーっと夜空を眺める。しかし、音以外何もわからない。

 水兵は音の正体こそつかめなかったが、上官の元へ報告に向かった。

 

「ーー何っ? 空から音が聞こえるだと?」

「そうです」

「……魔振士(魔導レーダーマン)。空に何か反応はあるか?」

「ーー航海士。渡り鳥の群れと思われる反応が動いていますが、ワイバーンのような強力は魔振の反応はありません」

 

 航海士は魔振士の報告を聞くと、水兵の報告は勘違いなのではないかと感じた。

 

「……ボーデン一等水士。何かを聞き間違えーー」

「ーー航海士。複数の見張りが“空から何か近づいている”と報告が来ています」

「……すぐに艦長と魔導通信士を起こしてくれ。空の上の何かを確認する必要がある」

 

 艦内では異変だと考え艦長と魔導通信士が状況を確認するが、ランタンの光量で空の“何か”を見つけることは不可能だった。それどころか、バタバタという音はさらに大きくなり、甲板上で起きている者全員が空を見上げた。しかし、音の正体は判らず終始空を眺めるだけとなってしまった

 

 

 偽装封鎖艦隊の水兵達が視線を向ける中。日防軍救出部隊は艦隊の上空を丁度通過していた。

 

 ヘリコプターの稼働音は轟音だ。高度な静穏性を確保した機体でも、遮蔽物のない洋上では数百m先からでもローター音を拾うことが可能だからだ。ただ、相手にローター音を聞かれているからと言って、日防軍の行動に支障はない。

 

≪フローライト1からRHQ。LZまで5分。送れ≫

「RHQからフローライト1。LZまで5分了解。オーバー」

 

 輸送艦『紀伊』のFIC(戦域情報管制室)では臨時指揮官の日野 卓大佐はすぐ近くで待機していた通信士に命令した。

 

「虻川。大使館に“救出部隊。5分後に到着”と連絡してくれ」

「わかりました」

 

 虻川 真司通信士は電信室へと向かい、日野が伝えた内容を送った。

 

 

 在パ日本大使館の周囲には、警備班によって返り討ちにあった『正統派』の皇国兵が百近く骸を曝していた。

 

 大使館の窓から警備員が外を見張っている中、阿須大使の元に駐在武官が歩み寄った。

 

「やぁ小谷中佐。何かあったかね?」

「大使。先程救出部隊の司令から連絡がありました。あと10分で迎えのヘリが到着するとのことです」

「わかった。機密書類の処分は?」

「完了済みです。大使も脱出準備を」

「わかった」

 

 阿須たち大使館要員は最低限の見張りを残し、1階の裏口近くへと集まった。

 

 

 大使館の周りでは、皇国兵が建物陰に隠れて様子を窺っていた。

 一気に攻めれば落とせると考えていた彼らだが、予想外に強力な警備戦力を前に2日近く足踏みを強いられていた。

 

「クソ……ッ! 庭のアレ(ドラムカン)は飾りじゃなかったのか……」

「攻略は継続ですか?」

銀の姫様(レミール)が続けろって言うんだ。意地でも日本人を捕まえたいんだろうよ」

 

 隊長格はレミールの意地の悪さに呆れつつ、明かりが落ちた日本大使館を睨み続けた。すると、空の方からバタバタという音が聞こえてきた。

 隊長格が何なのか確認しようとしたが、近くの兵士が反応した。

 

「この音は……隊長。この音は日本の鉄羽虫(ヘリコプター)が空から近づいてくる音です」

「ーーということは、奴ら大使館に近づいてきているということか?」

「おそらく」

 

 隊長各は兵士の言葉に対策を考えるが、鉄羽虫を見たことがない隊長格にとってどう対処すればいいか大いに悩んだ。時間は待ってくれず、彼らの前に鉄羽虫の群れが近づいてきた。しかも、その中にはゴーレム(ヴァンツァー)を吊り下げた物も混ざっていた。

 

 

 ヴァンツァーが大使館敷地内の広い空間(ヘリ用の着陸地点)に降ろされると、暁はシステムを戦闘モードに切り替え通信を送った

 

「ドライバー1からRHQ。大使館上空に到着。LZの周囲警戒に入る。送れ」

≪RHQからドライバー1。到着了解。兵装使用自由。手を出したことを後悔させてやれ。送れ≫

「ドライバー1からRHQ。武器使用自由了解。オーバー」

 

 投下された8機のヴァンツァーが装備する複合カメラが大使館を取り囲む何十もの皇国兵を捉えた。

 

「ドライバー1からドライバー全機。周囲の敵を排除しろ」

「「「了解」」」

 

 ヴァンツァーが腕や肩に装備する銃火器がグインと動き、一斉に火を噴いた。

 

「撃ってきたぞっ!!」

「退けっ!! 退け~~っ!!」

 

 銃弾の雨が皇国兵を襲うと、殆どが痛みを感じることなく細切れにされた。

 生き残れた兵士もどこかしらの四肢がなくなっており、激痛と失血で他の仲間の後を追った。

 

 運よく生き残った兵士たちが物陰に潜んだ。

 

「くそっ!! あのゴーレム。辺り一帯を破壊し尽くす気かっ!?」

魔導速射砲(・・・・・)を持ってこいっ!! 奴らに目にもの見せてやるっ!!」

 

 

 8機のヴァンツァーが周囲の皇国兵を排除すると、索敵装備に重きを置いた機体がいきなり爆発し、擱座した。

 

≪ドライバー6ダウンッ!?≫

≪何処から撃たれたっ!?≫

≪ヴァンツァーを擱座させるなんて……いつの間にパーパルディアはキャノンを用意したんだっ!?≫

 

 予想外な事態にパイロット達は慌てるが、暁は冷静にドライバー6と周囲を観察した。

 

「ドライバー各機。落ち着け。相手がキャノンを持ってきたということはそれ相応に遠方から狙っているということだ。光学スキャンかレーザースキャンでより遠距離を索敵しろ」

≪≪≪了解≫≫≫

 

 6機のヴァンツァーが攻撃はそこそこに周囲警戒に入ると、擱座した機体が復帰した。

 

≪……ドライバー6からドライバー1。システムの再起動に成功。装甲の耐久は残り92%。ボディ。脚部に異常なし。送れ≫

「ドライバー1からドライバー6。レーダーの反応はどうか? 送れ」

≪ドライバー6からドライバー1。先の攻撃で反応不良。送れ≫

「ドライバー1からドライバー6。レーダー不良了解。オーバー」

 

 暁はセンサーマップを切り替えて周辺の索敵情報を確認した。ただ、索敵範囲の広いドライバー6のレーダーユニットの不調によって索敵情報が不安定となった。よって、暁はその状況を打開するため新たな命令を出した。

 

「……ドライバー1からドライバー2及び3は北西方面。5と7は北島方面の索敵と遊撃を行え。送れ」

≪ドライバー2からドライバー1。3とエレメントを組み、索敵と遊撃に入る。オーバー≫

≪ドライバー5からドライバー1。7と索敵及び遊撃を行う。オーバー≫

 

 4機のヴァンツァーはそれぞれ2機1組となり、移動を開始した。

 そして、早速その効果が表れた。

 

≪ドライバー3からドライバー1。敵キャノンを捕捉。送れ≫

 

 魔導速射砲の準備中に捕捉され、装備しているライフルが火を噴いた。

 1秒もかからず弾丸が到達し、魔導速射砲を鉄くずへと変えた。

 

「くそっ!! やつらこっちに来たぞっ!!」

「慌てるな。魔導速射砲はまだある」

 

≪ドライバー3からドライバー1。敵キャノンを撃破。送れ≫

「ドライバー1からドライバー3。敵キャノンが1つだけとは限らん。捜索を継続して周囲を掃除しろ。送れ」

≪ドライバー3からドライバー1。周囲を捜索する。オーバー≫

 

 ヴァンツァーが遊撃戦を始めると、速度で劣る皇国軍は次々と撃退され、虎の子の魔導速射砲も殆どが発射する前にスクラップへと変わっていった。

 

 

≪ジャガー1からRHQ。まもなくLZ上空に到達する。周囲の状況はどうか知りたい。送れ≫

≪RHQからジャガー1。大使館周辺の安全は確保済み。送れ≫

≪ジャガー1からRHQ。大使館周辺の安全確保了解。これよりLZに着陸する≫

 

 タンデムローターの大型輸送ヘリ2機が大使館の敷地へと着陸した。

 後部ランプが開き、日防軍兵士が大使館とヘリの間に安全地帯が生まれるよう迅速に展開した。

 

 完全武装の兵士が数人。大使館の裏口へと近づくと、大声で呼びかけた。

 

「阿須大使っ!! お迎えに上がりましたっ!!」

 

 小谷が外を確認すると、明日に移動するよう促した。

 

「大使。行きましょう」

「そうだな」

 

 大使館周辺の戦闘は小康状態だった。しかし、ヘリのローター音とダウンウォッシュによって激しい戦いを周囲に錯覚させていた。

 

「大使はジャガー2へっ!! 小谷武官はジャガー3に案内しろっ!!」

 

 2機のヘリに大使館要員は分かれて乗り込んだ。ただ、それが生死を分けるとは、この時誰も予想しなかった。

 

 

 大使館の周りでヴァンツァーが敵を捜索していた。しかし、その建物の中で皇国兵が最後の攻撃を準備していた。

 

「ーー弾はあったか!?」

「いえ。ここにある1発だけです」

「まぁいい。やられっぱなしは性に合わん。ぶっ放せるよう準備しろっ!!」

 

 大使館から200mほど離れた馬車小屋に魔導速射砲が置かれていた。相手の反撃が苛烈になると、大急ぎで馬車小屋まで運び、藁の山を作って奥が見えないよう偽装したのだ。そして、彼らの努力は最高の機会を与えた。魔導速射砲の先は偶然にも大使館に着陸した大型輸送ヘリに向いており、後は火を着けるだけだった。

 

 大型輸送ヘリが少し浮き始めた。そこへ先任が指示を出した。

 

「今だっ!! 撃てっ!!」

 

 兵士が大砲索を引くと、ジーという音の後に魔導速射砲から砲弾が発射された。

 

≪センサーに反応っ!?≫

≪あの馬車小屋だっ!!≫

 

 すぐに反応した日防軍兵士から猛烈な応射により、小屋と中にいた兵士は一瞬でハチの巣に変わり果てた。ただ、発射された砲弾を止めることはできず、まるで吸い寄せられるように大型輸送ヘリの後部ローターへと当たり、爆音が辺りに響いた。

 

 飛び立とうとした大型輸送ヘリは制御を失い、そのまま海へと墜落してしまった。

 

≪ジャガー1からRHQ。ジャガー3ダウン。ジャガー3ダウン。送れ≫

≪RHQからジャガー1。ジャガー3には誰が乗っていた。送れ≫

≪ジャガー1からRHQ。武官の小谷中佐他。大使館職員十数名が乗り込んでいる。送れ≫

≪RHQからジャガー1。後10分で回収チームが到着する。生存者を回収可能か? 送れ≫

≪ジャガー1からRHQ。ジャガー3の墜落地点は洋上30m。夜間により救出困難。送れ≫

 

 皇国軍による予想外の反撃により、小谷中佐を含めいきなり多数の死傷者を出てしまった。

 

≪……RHQからジャガー1。計画の予定通り、次のヘリで撤収せよ。送れ≫

≪……ジャガー1からRHQ。撤収作業に移る。オーバー≫

 

 大型輸送ヘリ墜落以後、展開した戦闘ヘリ。ヴァンツァー。さらに歩兵部隊は周囲を念入りに捜索するが、動く敵兵はもはや存在しなかった。

 

≪ジャガー12からRHQ。LZに到達。撤収作業を開始する。送れ≫

≪RHQからジャガー12。撤収作業開始了解。オーバー≫

 

 迎えのヘリが到着すると、4機の戦闘ヘリは歩兵とヴァンツァーの撤収作業完了まで周囲を警戒した。

 

 結果的に撤収準備は無事完了し、すべてのヘリコプターは洋上の輸送艦へと帰還の途へと就いた。ただ、救出するはずだった小谷少佐を始め、大使館要員とヘリパイロット2名を殉職させたという事実に、それぞれの機内では通夜のような空気が漂うのだった。

 

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