OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第81話

中央暦1641年 11月1日

-パーパルディア皇国 首都エストシラント-

 

「ーーそれで、日本人共をおめおめと逃したということか。ドルボッ!?」

「……面目次第もございません」

 

 朝食を採ろうとしたレミールの元に、昨晩の戦いの結果と概要。そして大使捕縛が失敗したことを伝えられた。

 ただでさえストレスを溜めてご機嫌斜めだというのに、追加の凶報が届いたことによりレミールはさらに機嫌を悪くした。

 

「しかし殿下。日本大使捕縛は失敗しましたが、この時投入された新型の魔導砲が日本の鉄羽虫(輸送ヘリ)を落としておりーー……」

「捕縛すべき相手を殺せと命じた覚えはないし、作戦自体が失敗しているではないかっ!!」

「……」

 

 レミールは不機嫌な態度を崩さず出された朝食を頬張り始めた。その情景はとても高尚な皇族の食事とは思えない光景だった。

 

 何度か咀嚼したレミールは寝起きの頭から少し思考が動いたのか、同席していたアンヴォフに質問した。

 

「アンヴォフ。今後日本はどう動くと思う?」

「ふむ……そうですな。まぁ間違いなく我々に対する報復は準備するとして、即時動くことはないでしょう。それにその報復も腰の定まらないものになるかと……」

「それは何故だ?」

「まず日本から見て、我が皇国の内乱状態に対してどう見ているかです。幾分推測を含みますが、我々“正統派”と諸勢力の区別が難しいかと思います」

「であるなら、その時間を有効活用して勢力の拡大をーー」

「いえ、おそらくそこまで時間はないかと」

「……何故だ?」

「レミール殿下。今クワ・トイネにラキーネア殿下が特使として赴任しております。我が国の現状を憂いて間違いなく動き出すでしょうな。我々“正統派”を排除するために……」

「そうなると、近く来襲する日本相手にここ(エストシラント)に留まるのはまずいな。皇軍と日本軍を同時に相手するのは自殺行為にしかならん……内陸に避難するべきか?」

「いえ、おそらくそれも危険かと存じます」

「……何故だ?」

「内陸に“正統派”に賛同する貴族はいますが、その貴族軍も内陸からエストシラントを目指しています。我々を包囲している皇軍と激突する可能性が高い。そうなれば、戦力が充実している皇軍が勝利する可能性が高いでしょう。そうなると内陸に退避してもじり貧になるだけで勝機はありません」

「では、腰を据えるのはどこがいい?」

 

 レミールの質問にアンヴォフは顎に手を添え少し考え、回答した。

 

「アルタラスが宜しいかと……」

「アルタラス……南にある元王国だな」

「はい。アルタラスの駐留兵力は大した規模ではありません。それに、そこの属領統治機構長官のことはよく知っています。快く“正統派”に手を貸してくれることでしょう」

「仮に拠点を変えるとして、皇帝や人質たちは連れていくべきか?」

「皇帝と日本人は連れていくべきですが、それ以外は残しても支障ないでしょう」

「……皇帝のいない玉座で権力争いを始めるのが容易に想像できるな」

「そういうことです」

 

 レミールは少し違和感を感じつつたが、これといった案も思いつかずアンヴォフの案に乗ることにした。

 対して、アンヴォフはうまくいったと内心嘲笑っていた。

 

 “正統派“は皇国において軍官共に有力な勢力だ。しかし、皇国全体を掌握する能力はない。まして、内紛状態に陥ったことで今以上に勢力拡大は望みが薄い。そこで地力を蓄えるためアルタラスという飛び地で“正統派”の勢力増進を図ろうというのだ。ただ、アンヴォフが提示したアルタラスへの移動は罠だった。

 アルタラス属領統治機構長官のカルティゴ・シュサクは“正統派”に協力する見込みがあるので(弱みを握っている)、懐柔自体は難しくない。しかし、アルタラスは飽くまで“文明圏外国家”における強国だ。文明圏国家(リーム王国など)と比べると国力は数段劣る。現実には勢力増進を図るどころか、真綿で首を絞められるか如くの状況に陥るのだ。それをアンヴォフは願っているのだ。

 

 アンヴォフはレミールの愚かさに心を躍らせつつも、それを表情に出さず、目の前の麗人が現実を知って絶望する様を心の奥底で想像した。

 

 

中央暦1641年 10月31日

-OCU日本国 東京-

 

 パーパルディア皇国での大使救出作戦から夜が明けた早朝。内閣に作戦結果が届けられていた。

 

「……そうか。小谷中佐をはじめ、23名の殉職者を出したか……」

「はい。時間も秘匿性の必要性から夜間に実施したため、生存者の確認も難しく。またCSAR(戦闘捜索救助)の実施も不可能な状態でした」

「救出部隊の現状は?」

「既にエストシラントから佐世保へ向かっています。2日後には到着予定です」

「道中何事もなければよいが……」

 

 枢木は自身の決断が間違っていたのではないかと悩み、他の参列者も次の言葉に迷った。そして、その静寂を破ったのは扉が開く音だった。

 入って来た事務官は加藤に耳打ちした。

 

「……総理。マイハークの藤原特使より“パーパルディア皇国特使から緊急会談”を求められました」

「本国で大使館を襲撃なんてするんだ。いったいどんな要求をしてくるのか……」

「会談の主題ですが、ベケット特使より“皇国内での内乱鎮定”についてだそうです」

 

 加藤の言葉に、枢木は深く息を吸って一堂に質問した。

 

「ーー各人。これは……パーパルディアに対する軍事介入の要望に他ならない。一旦各省で軍事介入と不介入による利点欠点を纏めてほしい」

 

 枢木の言葉に各大臣は静かに肯き、すぐに動き出した。

 

 

中央暦1641年 11月3日

-クワ・トイネ公国 マイハーク-

 

「ーー本日はこちらの会談の要請に応えて頂き、感謝申し上げます。加藤外務大臣」

「事態は予断を許さない状況です。お互い、正確な情報を交換する必要があります。ラキーネア殿下」

 

 涼しい風が港町に吹き抜ける中、加藤 哲弥外務大臣はマイハークに置かれたパーパルディア特使館に足を運んでいた。

 

「……まず。本国の貴国大使館に対する襲撃は皇国の意志ではありません。国内の『正統派』という勢力が皇帝の治世に痺れを切らして行動したというのが真実です」

「真実ですか……何かそれを裏付けるものでも?」

「はい。この特使館で働くスタッフの中に、『正統派』に属する者がいました」

「獅子身中の虫ということですか……。それで、先日“皇国内での内乱鎮定”と話を聞いていますが、間違いありませんか?」

「大臣の仰ったとおりです。内乱終結後は今回大使館襲撃及び貴国が被った損害を可能な限り補償するつもりです」

「そうですか……まぁ補償があっても“内乱鎮定に参加します”と言えないのが我が国の現状です」

 

 加藤は秘書が纏めたレポートを提示した。

 

『パーパルディア皇国内紛に関するレポート

 

内政

・反乱発生時の『反乱軍(正統派)』の勢力は全体的に規模が劣るものの、内乱が長引いたり、他の皇族や地方勢力が合流して規模が増加する可能性があり、従って内乱の長期化は避けられない。

・派閥が権力(皇帝)より分離しているため、行政役務に支障ないし停滞が生ずるのは確定。

・内乱によって地方行政が中央の方針や政策に従わず、独自行動を始める可能性がある。最悪な場合。先鋭的な指導者によって『分離独立勢力』の出現が考えられる。

・パーパルディア政府は本土内の『反乱軍』。地方の『分離独立勢力』との内戦状態に入り、パーパルディア全体が群雄割拠になる可能性が高い。

・内乱終結後の国力低下は避けられない。

・内乱終結後も『分離独立勢力』が出現する可能性があり、さらに国力低下状態の皇国ではそれ等の勢力を御すことが困難になる。

 

外交

・皇国と外交摩擦を有している周辺国家が『反乱軍』若しくは『分離独立勢力』を支援する可能性が高い。

・『分離独立勢力』からの要請という形で直接ないし間接的に軍をパーパルディア内に投入する可能性がある。

 

軍事

・反乱軍の規模は皇国軍より劣るものの、時間経過によって正規軍側戦力が反乱軍側に合流する可能性がある。

・『分離独立勢力』が出現した場合、皇国軍の数的優勢が消滅する可能性が高い。

・内乱は現段階で皇国軍が勝利する可能性が最も高いが、最低でも多大な損耗。『反乱軍』の勢力増加次第では皇国軍が敗北する可能性も予想される。

 

経済

・エストシラントで反乱が生じているため、第3文明圏及び周辺諸国における経済全体に悪影響が出ることは確実。

 

 加藤はラキーネアの反応を見つつ、話し始めた。

 

「こちらとしても、皇国がこのままというのは好ましく考えておりません。しかし、こちらの軍の導入することに関しては些か早計だと考えております」

「それは、そちらの国内世論と我が国との関係からですか?」

「それもありますが、やはりただ介入するだけでは反乱勢力に口実を与える危険性をはらんでおります。よって、我が国が自主的に支援するのではなく『皇国の正当なる者による支援要請』が必要だと我が国は考えています」

「ーー皇帝からの言が必要であるということでしょうか?」

「最も理想的なのはそうですが、反乱勢力と敵対し、かつ皇帝に近しい者でも“代替は可能”と考えています。ただ、皇帝と皇族では“重み”が違いますから、その点(発起人の皇族)は慎重に選定する必要はあるでしょうな。何かそのような人物に心当たりはありますか?」

 

 ラキーネアが少し考えこむと、加藤の言葉に回答した。

 

「残念ながら、皇帝に匹敵するような求心力を持つ方に心当たりはありません。ここは、なんとかパラディス城より皇帝陛下をお助けするのがベストだと思います」

「……パラディス城からの皇帝他皇国の要人救出。内閣に持ち帰り検討しますが、その場合そちらからパラディス城城内と周辺の鮮明な地図が必要です。準備は可能ですか?」

「ーー時間はかかると思いますが、何とか用意します」

「よろしくお願いします。事態が予測不可能になるのは我が国の本意ではありませんので……」

「……こちらの無茶な要求を聞いていただき、ありがとうございます」

「ーーラキーネア殿下。確かに我が国と貴国との関係は万事良好というわけではありません。しかし、火種を放置したままでは手囮会うこともできませんから……」

 

 会談が終了すると、ルディアス皇帝救出のため2人は職場へと戻った。

 




解説
『魔導速射砲』
 既存の魔導砲は破壊力と射程はあるものの、その分構造上砲尾辺りは点火装置装置しか存在せず。先込め式という構造から攻撃速度に難があった。
 今まではそれでよかったが、日本の火砲に触発されて何とか後装式を設計した。
 射程は同等ながらも、冶金技術の限界から口径や炸薬量は減っており、破壊力はパーパルディアが運用している砲の中では控えめなものとなっている。
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