中央暦1641年 11月8日
-リーム王国 王都ヒルキガ-
フィルアデス大陸北東に『リーム王国』という文明圏国家が存在する。
南にパーパルディア皇国。北にマオ王国に挟まれており、国力はフィルアデス大陸の中では比較的優れている国家である。ただ、パーパルディア皇国に比べると数段見劣りし、常に皇国の後塵に埋もれていた。
王国全体は既に燦燦とした雪化粧に包まれており、道行く人々は厚着をして道を往来している。
王が座る会議室は分厚い壁と精密な設計でしっかり密閉され、さらに魔導加熱器による恩恵により薄着は無理でも、厚手の防寒着を着るような参加者は居なかった。
この会議室は国王が参集した国家の要職たちが集まっている。そして、国王であるバンクスが重大な決断をするため質問していた。
「ーーメルヴィン外務卿。あの皇国で内乱が起きたという情報の裏付けはどうなった?」
「バンクス国王陛下。デール公使の新たな情報と南方の国境騎士団が集めた情報を精査したところ、パーパルディア皇国内での内乱は確かなようです」
「リバル将軍。我が軍の総戦力はどうなっておる?」
「はい陛下。国境に4万。王都など主要都市に10万。ワイバーンが500騎。戦列艦60隻が我が王国の現有戦力です」
「全戦力の半分を皇国へ向けた場合。どこまで侵攻可能か?」
「皇国の兵力配備に変化がなければ、国境からアルーニの中間地点までは可能でしょう。ただ、皇国軍主力の反撃で占領した領土を失い。さらに我が王国へ逆侵攻されるものと思われます」
「ふむ。確かに今までの皇国の状態であればそうだろう。では、内乱に陥った現在の皇国であればどうだ?」
「明確なことは言えませんが、結果自体は変わらないかと存じます」
「そうか、だが皇国の政情は不安定にある。どうにもならんか?」
バンクスは己が領土拡大という野心を果たさんと将軍一堂に視線を移した。
その中の血色が悪そうな一人が口を開いた。
「陛下。国力に勝る皇国相手に正面から挑むのは愚の骨頂です。よって、皇軍を正面から戦わないようにするのが良策かと思います」
「それができるなら苦労しない。貴様には何か具体的な策があるのか?」
「皇国で活動する影からの情報では、幾つかの属領や植民地で皇国に対する反抗や暴動が増えつつあります。一日二日程度で鎮圧される程度ですが、我が国から彼らに武具や資材を流せば、たちまち火種は大火へ広がるのではないかと愚考します」
「外から切り込まず、中から腐らせ策か……貴官の考えは理解できるが、より具体的にはどうするのだ? 」
「反乱に相応しいリーダーは既に数人心当たりがあります。リーダーを中心に勢力を結成。秘かにそれらの組織を援助します。次いで、行動を開始した勢力に皇国軍や臣民統治機構を排除。領域を確保させます。ここまで宜しいでしょうか?」
「その後。後援した勢力の要請で我が王国軍を派遣するのか?」
「いえ、それでは領土獲得の策謀と喧伝している事になり、結局皇国軍と戦うことになります」
「それでは、何のためにその勢力を支援するのだ? それでは我が王国軍を直接侵攻させるのと変わらんではないか?」
「ここからが我が王国軍が行うことです。反動勢力の領域確保の後ですが、あえて反乱勢力と皇国軍を激突させます。相当なことがない限り皇国軍が勝つでしょう。その後、敗退した反乱勢力をこっそり我が国境近くまで誘導し、そこから皇国へ“武装勢力に対する鎮定”という形で反乱勢力をせん滅します」
「おい。なぜ支援した勢力をせん滅するのだ? それでは支援する意味が無かろう」
「ここは敢えて皇国の方を持つように動き、その後対価として領土を得るのです。ただ戦って消費するより確実に成果を得られます」
「……なるほど、裏から手を回して恩を売るのだな。幾ばくか時間はかかるだろうが、ただ戦うよりは損失も少なかろう……貴様の案。採用しようではないか」
「ははぁ。ありがとうございます」
リーム王国を始め、パーパルディアの野望によって苦汁を味わっていた周辺諸国が欲に駆られ皇国相手に動き出した。
中央暦1641年 11月10日
-神聖ミリシアル帝国 首都ルーンポリス-
「ーーそれで、パーパルディアの内紛は未だ収まらずか?」
「はい統括官。今も皇軍と反乱軍は首都で散発的な戦い……いえ、小康状態でにらみ合いを続けています」
ここはフィルアデス大陸から西へ1万km離れている『神聖ミリシアル帝国』の首都ルーンポリスである。
外では枯れ葉の混じった風がにある外務局の一室である。
部屋の主であるリアージュの机は整理されているものの、重要な案件が彼の元に舞い込んでくるのだ。
「邦人の安否はどうなっている?」
「今のところ外国人が多い区画や大使館の安全は確保されています。ただ、気になる情報が……」
「我が帝国にとって好ましくないことか?」
「違います。内乱が起きたのとほぼ同時刻に日本大使館への襲撃と、皇国内の日本人が若干名連行されたと報告がありました」
「大使館の襲撃? 何とも、列強国として恥も外聞もないことをするな。親政と圧政のし過ぎで理性が焼け付いたか?」
「まぁ。反乱を起こすような勢力ですから、理性を期待するのは間違いかと……」
「それで、その日本大使館はどうなったのか確認できたのか?」
「
「……情報部から今後第3文明圏がどう動くかレポートを提出させろ。状況如何では我が帝国も動かざるを得ん」
「わかりました」
職員が部屋から出たことを確認すると、リアージュはお気に入りの葉巻を取り出し、慣れた手つきで準備すると、紫煙を肺一杯に吸い込み、深く考え込んだ。
「先進11ヵ国会議まで半年を切ったというのに、前回に続いて波乱に満ちそうだな……」
リアージュは次の時代の到来を確信しつつ、それが帝国にとってよ言うことは悪いことか判断に悩んだ。
中央暦1641年 11月12日
-フェン王国西方海域-
全体がのっぺりとした甲板で覆われた輸送艦『野間』の甲板に1機のヘリが降り立った。
ダウンウォッシュが吹き付ける中、妙にゴテゴテした装飾の服を身に着けた初老の人間が中から降りてきた。
「……フェンから鉄羽虫に乗せられたかと思ったら、まさか日本の船に乗せられるとは……不思議なものだ」
彼が辺りを見回していると、日防軍士官数人が近づいてきた。
「お待ちしておりました。アルデ総司令官。中でラキーネア殿下がお待ちです。どうぞ」
「ご苦労」
アルデは日防軍士官の案内で広い部屋へと案内された。そして、そこには個人的に快く思ってなかった相手の顔があった。
「アルデッ! 元気そうで何よりだ」
「ラキーネア殿下……申し訳ありません。軍を総括すべき者が反乱軍を生んでしまうなど。どう責任を取るべきか……」
「泣き言を言いたいのはわかる。だが、我が国の窮地に日本が手を伸ばしてくれた。皇国の内乱を鎮めるため、貴官の力が必要なのだ」
「はい殿下」
2人が話していると、ラキーネアを案内していた日防軍士官が口を挟んだ。
「失礼しますラキーネア殿下。そろそろ……」
「あぁ。そうだな。申し訳ない」
彼らは無駄話をやめ、会議室へと入った。
会議室では多くの士官が正面の
「これより。パーパルディア皇国政府用心及び邦人救出作戦のブリーフィングを開始する」
画面にはパラディス城周辺の詳細画像と地図が表示された。
パラディス城周辺地図
『皇国要人及び邦人救出作戦参加戦力
第21航空団※指揮中枢
↓ ↓→空中管制機『オーロラ』
↓
↓→第5航空団
↓ ↓→第1飛行隊『フェザント』
↓ ↓→第2飛行隊『ターミガン』
↓
↓→第2艦隊※任務部隊
↓ ↓→第1戦隊
↓ ↓ ↓→BB『磐城』
↓ ↓ ↓→DD『黒潮』『朧』
↓ ↓ →→FF『小矢部』『亀島』
↓ ↓→第2戦隊
↓ ↓ ↓→CG『磐城』
↓ ↓ →→FF『物部』『大栗』
↓ ↓
↓ 第2輸送隊
↓ →→輸送艦『野間』『薩摩』『志麻』
↓
↓→第1艦隊※輸送兼援護部隊
↓ ↓→第1戦隊
↓ ↓ ↓→DD『峯風』『朝日』
↓ ↓ →→FF『柳瀬』
↓ ↓→第3戦隊
↓ ↓ ↓→CG『石槌』
↓ ↓ ↓→DD『江風』
↓ ↓ →→FF『柿田』
↓ ↓
↓ 第1輸送隊
↓ ↓→LSH輸送艦『紀伊』『島原』『能登』
↓
↓→『
↓ ↓→第11戦術機甲大隊/第1中隊『チョッパー』
↓ ↓→第21航空打撃大隊/第2中隊『ルシアン』
↓ ↓→第61空中機動大隊『クロッカス』※1個中隊未参加
↓ →→第11特殊警備中隊『ジェーダ』※1小隊欠
↓
↓→『エストシラント市内対応部隊』
↓→第61機械化連隊/第1大隊『ジラフ』
』
「まず作戦発動の第1段階は航空部隊と海上部隊を用いてパラディス場周辺の敵海上戦力を排除sーー」
「ま……待ってくれっ!!」
進行役の言葉に、アルデが素っ頓狂な声で言葉を遮った。
「パラディス城の海側に展開している戦列艦は我々側の封鎖艦隊である。何故友軍である封鎖艦隊を撃破する必要があるのかっ!? その艦隊は皇軍の指揮下にある」
アルデの言葉に、参列した日防軍士官は隣のものと目を合せたり、手元の資料を確認しだした。そして、隣の士官がアルデに質問した。
「アルデ閣下。失礼ですが、パラディス城周辺に展開する戦列艦が味方であるのは確かですか?」
「もちろんだ。海軍のパデス司令が私の命令に従って艦隊を展開させている」
隣に座っていた士官はデータパッドの画面をスライドさせ、いくつかの映像を映し出した。
「アルデ閣下。我が軍は反乱が発生した翌日から定期的にエストシラントに偵察機を派遣しています。その際、閣下が仰る封鎖艦隊とパラディス城の崖下では頻繁に物資を積んだ小型船の出入りを確認しています。とても反乱軍と封鎖艦隊が敵対している動きではありません」
アルデが日防軍士官からデータパッドの映像を見せられた。
闇夜に木箱や樽を積んだ小舟がランタンの小さな明かりを頼りにパラディス城崖下と戦列艦を行き来している映像だった。
「バルスめぇ……この私を欺くとは芸達者な……」
映像が流れていく毎に彼の中でフツフツとした憤怒の感情が渦巻いた。
「……我々が閣下に求めるのは、皇帝の味方であるという喧伝です。我々日本国は侵略者ではなく、反乱軍を共に打ち払う仲間として受け入れられる必要があります」
「ーー反徒の排除に他国の力が必要になったことは業腹であるが、我々だけで鎮められないのも事実……皇国軍の総司令官として最大限協力しよう」
アルデの言葉を聞くと司会役が話を続けた。
「では続けます。パラディス場周辺の海上及び航空優勢を確保したのち、エストシラントより南に位置する港に機械化部隊を輸送。沿岸沿いの街道を進みつつパラディス城を目指します。
この段階で反乱軍に我が軍の接近が知られるでしょうが、特段問題ありません。また、皇国海軍司令部が道中にあるので、必要なら制圧支援も実施します。
地上部隊がパラディス城外壁に近づいたら洋上の『磐城』より艦砲射撃を実施、二重の城壁を粉砕します。
艦砲射撃完了後、パラディス城城壁内にヘリボーン部隊を展開し、城内を制圧していきます。
場内の敵を排除しつつ、皇帝を含む皇国の要人。さらに我が国の邦人救出と保護を進めていきます。
なお、第二目標として反乱軍の主要人物の捕縛ないし排除も狙います。ここまでで質問はありますか?」
司会役が参加者に質問を募ると、最初に手を上げたのはラキーネアだった。
「もし反乱軍の主要人物が逃走された場合、対応策はありますか?」
「想定される物として大きく3パターンあると考えています。海洋脱出と反乱軍による敵中突破であれば容易に捕捉できます。ただ、城内の秘密通路からの脱出の場合逃げられる可能性はあります」
「事前に用意した城内図だけでは不足しているということでしょうか?」
「裏付けが不十分ですし、歴代皇帝が城内図にない秘密通路を設置している可能性が捨てきれません。ただ、未知の秘密通路があっても、エストシラント市街まで脱出するには相応の時間がかかると予想されます。この作戦で逃しても、捕捉は時間の問題と考えています」
「わかりました。ありがとうございます」
「他に質問はありますか? 無ければ各々準備を始めてください」
閉会の言葉が告げられ、各士官は持ち場に就いたり隷下部隊が待機している区画へと向かった。
解説はありません