中央暦1641年 11月13日
-パーパルディア皇国 エストシラント南東海域-
パーパルディア皇国エストシラントより南東へ100km。ひときわ目立つ細長い糸のような雲が秋晴れの空に何条と北西へと延びていた。その雲は自然に生まれたモノではなく。人工的に生まれた金属の鳥達が吐き出すモノだった。
彼らはフェンで建設されたゴトク基地から飛び立った日防軍航空部隊だ。
空中管制機を中心に16機の
≪こちら空中管制機『オーロラ』。現在時刻0900。邦人及び皇国皇帝救出作戦を開始する。『フェザント』及び『ターミガン』はエストシラント上空に進入。航空優勢を確保せよ≫
≪フェザントからオーロラ。エストシラントに進入する≫
≪ターミガンからオーロラ。エストシラントに進入する≫
12機の戦闘機が編隊を崩して高度を下げ始めた。
ほぼ同じ時刻。エストシラントの南50km海上に日防軍艦隊が航行していた。
作戦の指揮中枢である輸送艦『野間』の艦橋では、作戦指揮を担当する近藤 尊中将と皇国軍総司令のアルデが佇んでいた。
「アルデ閣下。作戦開始の時間になりました。味方への呼びかけをお願いします」
「うむ。判った」
アルデは事前に用意された魔導通信機のマイクを起動させると、話始めた。
「この通信を聞いている全皇国軍へ。私は皇国軍総司令のグロスチェク・アルデである。諸君らの知っている通り、我らが敬愛するルディアス皇帝に弓引く者達がパラディス城とその周辺を占拠している。この窮状に日本が陛下救出のため手を貸してくれる。そして、今まさに日本軍がエストシラントへ向かっている。彼らは皇国の友軍である。
皇軍総司令として全軍に命ずる。日本軍を見ても攻撃することを固く禁ずる。皇都防衛隊は反乱軍に対する包囲を継続。ワイバーンは飛竜隊基地で待機。海軍は哨戒任務以外の軍艦は海軍基地へ帰投せよ。
私の命令に反し、日本軍へ攻撃するものは反徒としてこれを処罰する。私からは以上だ」
アルデがマイクを切ると、数秒と経たず反応があった。
≪……こちら。皇都防衛隊のアツィード・メイガです。アルデ閣下。先ほどの通信は確かですか?≫
「確かだ。現にこの通信も
≪日本は皇国の味方。それは本当ということでよろしいでしょうか?≫
「そうだ……」
スピーカーからの反応が沈黙するが、それより早く日防軍士官がアルデに耳打ちした。
「閣下。我が軍の航空隊が、後5分でエストシラント上空に到達します」
「わかった」
スピーカーの向こうの反応を待っていると、メイガの声が流れた。
≪皇都防衛隊司令アツィード・メイガ。閣下の命に従います≫
「よろしい」
アルデはマイクを置いた。そして、横にいた日防軍士官が声を掛けた。
「では閣下。基地までお送りします」
「よろしく頼む」
日防軍士官がアルデを飛行甲板まで案内すると、多くのヘリコプターが出撃準備を進めていた。
ヘリの1機にアルデと護衛が乗り込んだ。彼らはパラディス城へ向かわず、皇都防衛隊司令部へ向かうためだ。
中央暦1641年 同日
-パーパルディア皇国 エストシラント-
パラディス城を封鎖しているように偽装している艦隊旗艦では今後の方針が議論されていた。
「ーーアルデ将軍の話。本当だと思うかね?」
「日本が味方ということですか? つい2週間前に戦ったばかりなのによく協力する気になりますな」
「しかし、嘘か真か関係なく。閣下の命で軍は動くでしょう。何もせずにいれば、我々が“正統派”であることが露呈します」
「だが、市内にいる味方の移動はまだ少ししか進んでいない。軍港に入るわけにはいかんぞ」
「バルス司令から何か新たな指示はありますか?」
「ない。バルス司令は
司令部内の議論で有効な対策は生まれず。艦隊司令であるベルーノ・ジークリーデは息を深く吸い込んで口を開いた。
「……我々に栄誉ある凱旋は廻って来そうにないな……」
「提督……」
「接近してくるであろう日本軍に備える。船腹に余裕のある船はーー」
より細かな指示を出そうとした瞬間。バタバタという音と共に会議室の扉が開かれた。
「司令。我が艦から20km南の海上に日本の軍艦が現れました。真っ直ぐこちらに向かってますっ!!」
「……諸君。我々も覚悟を決めねばならないようだ」
ジークリーデの言葉に一同は静かに首を縦に振った。
鋼鉄の城砦がその巨体を生かして大海を突き進んでいた。
日防軍第2艦隊所属戦艦『磐城』。20世紀末に全滅し、22世紀も間近という
その巨艦のCICでは艦長の藤城 宗司大佐が戦域マップをジッと睨んでいた。
「ーー艦長。パラディス城周辺に展開していた戦列艦が我が艦へ向かってきます」
「つまり、封鎖艦隊は反乱軍側であると証明されたわけだ……総員配置。使うのは127mm砲だけでいい」
「わかりました」
『磐城』の艦内でブザーが鳴り響いた。
排水量8万トンもの艦体だが、それを動かす人員はたった750人だ。5分もしないうちに戦闘準備が整った。
「砲雷長。敵との距離は?」
「まだ
「100を切ったら取り舵。右砲戦で敵を排除する。『小矢部』と『亀島』にも伝達」
「了解」
反乱軍艦隊も日本艦隊もお互い距離を詰めた。そして、先に動いたのは射程に勝る日本艦隊だった。
「艦長。敵との距離。100。いつでも行けます」
「よろしい。目標。本艦に近い戦列艦3隻。1番。3番。5番速射砲。砲撃はじめ」
「了解。撃ちぃ方ぁはじめっ!!」
「敵艦発砲っ!!」
「回避運動っ!!」
ジークリーデは3隻の巨艦の発砲炎に反応して転舵した。しかし、戦列艦に比べ、高精度な砲とそれを補佐する射撃管制装置による砲撃は無慈悲な結果を突き付けた。
「『ベリティー』。『グレイス』。『ダルタニア』。『ティノン』。『ヘルサリエリ』。轟沈っ!?」
「ーー日本の実力は報告書の通りか……」
ジークリーデはこの戦場に居たことを絶望した。そして、有効な策はおろか逃げ出すこともできず、5分と経たず冷たい海へと投げ出されていた。
戦列艦の残骸を横目に、鉄の城砦はパラディス城を望める位置まで進んだ。
「『磐城』からオーロラ。敵艦隊を排除」
≪オーロラから『磐城』。敵艦隊の消失を確認。パラディス城城壁への攻撃に移れ≫
「オーロラから『磐城』。パラディス城城壁への攻撃に移る……砲雷長。51cm砲用意。弾種レーザー誘導弾。目標はパラディス城城壁」
「主砲目標。パラディス城城壁。弾種レーザー誘導弾。了解」
『磐城』の装備する3連装51cm滑腔砲がゆっくりと動き出し、ぴたりと止まった。数km離れた空域では事前に発艦させた無人観測機が搭載している複合カメラから誘導用のレーザーをパラディス城城壁に対して照射している。
「ーー艦長。無人機による目標制定完了」
「よろしい。51cm砲発射」
「了解。51cm砲。撃ちぃ方ぁ始めっ!!」
パラディス城の尖塔では、正統派が味方艦隊の惨劇を見届けていた。
「ドルボ将軍。味方の艦隊が……」
「判っていたことだ。それより、敵の砲撃に備えさせろ。城を直接撃ってくることはないだろうが、我々が展開している上級城下街wーー」
「将軍。敵巨大艦発砲」
「何っ!?」
ドルボは単眼鏡で『磐城』を見ると、視線の先では巨体を硝煙で艦体全体を隠す光景が目に入った。
「何処を狙ったーーっ!!」
独り言が口から出た瞬間。城が大きく揺れた。
揺れが収まると、伝令兵が大急ぎでドルボの元へ報告しに来た。
「ドルボ将軍。内城壁および外城壁の9か所がほぼ同時に吹き飛びましたっ!!」
「魔導砲の直撃を想定して作られた城壁だぞ。それが一撃で吹き飛ばされるとは、どんな威力の魔導砲なんだ……。
崩れた城壁に兵を向かわせて、侵入できないよう防塁を築けっ!!」
「わかりました」
伝令兵は駆け足で隊長の下に向かった。
パラディス城の城壁から昇る煙は、20km南に離れた所からでもよく見えた。
≪オーロラからジラフ。城壁への攻撃完了。皇国軍と共にパラディス城まで前進せよ。送れ≫
「ジラフからオーロラ。パラディス城まで前進する。オーバー」
「ジラフ各車へ。前進開始」
機械化大隊の奏でるディーゼルエンジンの前奏が終わり、巨大な咆哮を上げながら前進を始めた。
城壁が穿たれて約1時間。多くの正統派兵士が城壁の残骸を撤去していた。
「クソッ……。なんつぅ破壊力の魔導砲だ。俺たちが使っている奴なんて玩具みてぇだ」
「こんなんで撃たれたら跡形もねぇな」
兵士たちは瓦礫を撤去しながら、敵の攻撃に備えていた。
生き残った城壁の上では、数人の兵士が周囲を監視していた。そして、南側を見張っていた兵士が叫んだ。
「皇軍が攻めてきたぞっ!! 日本の
兵士の報告に城壁の上に登る者。バリケードや土嚢の裏でマスケット銃を構える者。城内の魔導砲を用意する者など、蜂の巣を叩いたような慌ただしさで戦う準備を進めた。
南側の街道を封鎖していた正統派の兵士たちは、持てる武力で日本軍との戦いに興じていた。
「撃ち方用意。構えぇ! 撃てぇっ!!」
バリケードから突き出したマスケット銃からバババッっと白い硝煙と共に鉛玉が何十と放たれ、さらにドンッドンッという轟音を立てながら魔導速射砲が発射された。
標的となった戦車は爆煙で覆われ、その姿を覆い隠した
「ヘンッ! この魔導速射砲はお前らの鉄羽虫だって落とした代物だ。これだけ撃たれりゃ無傷なわけーー」
煙が晴れると、焦げ跡以外まるで何もなかったように戦車が佇んでいた。
「魔導砲に耐えるなんて、どれだけ硬いんだっ!?」
魔導速射砲の直撃すら耐えたその姿に、正統派の兵士は浮足立った。
≪目標。敵対戦車砲。てぇっ!!≫
魔導砲のそれより明らかに強力な咆哮が辺りに響くと、魔導速射砲とバリケードが大きく吹き飛ばされた。
最初の1台が攻撃を始めると、他の戦車も砲撃を始めた。
放たれた数だけ多くの物が残骸と化した。
「ドルボ将軍。敵は南側の主要街道複数から鉄地竜を先頭に進軍。ヴァルター軍団が現在応戦していますが、鉄地竜の防御力も然ることながら、攻撃力も凄まじく。多くの封鎖線が突破されています」
「……他の封鎖線はどうなっている?」
「他の軍団は今のところ攻撃を受けていませんが、正面の皇軍と対峙しており、下手に戦力を動かすことができません」
ドルボは卓上の駒を眺めつつ、対応策を考えた。
「……東のツェリデフ軍団をヴァルター軍団の援護に回せ。北西のソルケン軍団と北東のカタリーネ軍団に封鎖線を縮小するよう指示を出せ」
「了解っ!!」
参謀が魔導通信士に指示を出すと、ドルボは砲声響く室内でジッと卓上を眺めた。
「貴族私兵軍が到着するのが2日後か、それまで耐えられるか……」
作戦開始から約3時間。輸送艦『野間』の指揮管制室では、エストシラントの戦況が集積される様を近藤が注視していた。
「司令。機械化大隊がパラディス城5kmの位置まで前進したとのことです」
「ならば、頃合いだな……制圧部隊に出撃させるよう第2輸送隊各艦に連絡」
「了解」
近藤の指示が下りると、3隻の輸送艦の甲板上で出番を待ちわびていたヘリコプターが順次発艦し始めた。
パラディス城周辺では激戦の様相を見せているが、正統派軍の戦力は激減していた。
「あの鉄地竜に魔導速射砲が利かないっ!!」
「弾も僅かしかないぞっ!!」
魔導速射砲を操る砲兵が弾薬箱から最後の弾を取り出すが、それより早く戦車からの多目的榴弾が魔導速射砲に着弾し、砲手共々吹き飛ばした。
魔導速射砲を吹き飛ばした戦車の車長は冷静に司令部へと報告していた。
≪ジラフ3-7からJRHQ。敵カノンを破壊。送れ≫
≪JRHQからジラフ3-7。敵カノンの破壊を確認。優先破壊目標はすべて破壊。ジラフ各車は北から迫る敵軍団の対応に回れ。送れ≫
≪JRHQからジラフ1-1。北から迫る軍団に対応する。オーバー≫
WAPや戦車を含む40近い鉄の軍団はパラディス城の防衛戦力を多数撃破した。
正統派にとって悪夢なのは、有力な戦力だと思われた魔導速射砲が日本の
彼らに残された戦力は歩兵だけとなった。
対して、日本軍がパラディス城攻略を行わず、ドルボの指示で移動してきた歩兵部隊と交戦を始めた。
正統派の兵士は小銃による撃ち合いを諦め、城壁を超えようとする敵に備えた。しかし、不思議なことに日本軍は城壁の敵を眼中になしという風に扱っているのか、パラディス城への直接攻撃がなくなった。
「あいつら。なんで城に攻めてこないんだ?」
「城や城壁の中にいる俺たちを警戒しているんだろ。一先ず、城に置いてある火薬と弾を持ってこないと……」
日本軍の鉄地竜が味方に砲火を向ける中、パラディス上の兵士たちは補給を始めた。
最後の戦いになるだろうと腹をくくる兵士たちの耳に、バタバタという音が聞こえてきた、
「おい。この音……」
「日本の鉄羽虫の音だ……まさかっ!?」
音に気付いた隊長が城壁に上ると、予想通りの光景が広がっていた。
隊長の視線の先には、WAPを吊り下げた輸送ヘリと攻撃ヘリが海からパラディス城へと向かってくる光景だった。。
「奴ら、空からパラディス城を攻めに来たぞっ。半分は俺に続けっ!!」
隊長の言葉に反応した兵士たちが小銃片手に内外壁へと走り始めた。
≪ルシアン1からJRHQ。エリアPCに到達。送れ≫
≪JRHQからルシアン1。LZ周辺の敵兵を排除せよ。送れ≫
≪ルシアン1からJRHQ。LZ周辺の敵兵を排除する。オーバー≫
最初に気付いた城壁上の兵士たちは小銃で反撃を行うが、対空機関砲の直撃を想定した厚い装甲を有する攻撃ヘリだ。マスケット銃程度の火力では塗装を削るのがやっとだった。
「だめだっ!? こっちの銃が効かないっ!!」
「退避っ!! 退避ぃ~~っ!!」
攻撃ヘリからの反撃は苛烈だった。装備する20mm機関砲が竜の咆哮のように轟くと、筒先から飛び出す弾丸に正統派の兵士は人の形をとどめないほど細切れにされ、肉片だけが辺りに残された。
「LZ周辺の安全確認。チョッパー全機。降下せよっ!!」
正統派兵士による抵抗がなくなると、輸送ヘリからWAPが投下された。
「チョッパー1からJRHQ。LZへ降下完了。パラディス城周辺の制圧に移る。送れ」
≪JRHQからチョッパー1。パラディス城周辺制圧開始了解。パラディス城への攻撃は厳禁とする。送れ≫
「チョッパー1からJRHQ。パラディス城への直接攻撃を厳禁了解。オーバー」
最初に降下したWAPに乗っている暁は、周囲の敵に銃弾を浴びせながら、乗機の自己診断プログラムを確認した。
(ーー全体的に機体の挙動が重い。関節周りのセンサーは要交換の警告。ジェネレータの出力もいつもより低い……相手がWAPだったら新人相手でもきついな)
正統派兵士が恐慌状態ながらも小銃を向けてくる。しかし、暁や他のWAPは正統派兵士に一切の手心なく攻撃した。
「鉄の巨人と戦えるかっ!!」
「城壁の陰に隠れろっ!!」
パラディス城城壁内の戦いは、WAPと攻撃ヘリによって10分と掛からず制圧された。
≪チョッパー5からチョッパー1。敵のほとんどが建物陰に逃げ込んだため、排除できません。送れ≫
「チョッパー1からチョッパー5。我々の目的はLZ周辺の確保だ。敵兵の排除にこだわる必要は無い。そのまま敵が出てこないか見張っていろ。オーバー」
時たま銃撃音が辺り周辺に木霊してくるが、LZ周りの銃声は止んでいた。
≪JRHQからチョッパー1。あと10分でクロッカスとジェーダがLZに到着する。LZ周辺での警戒を厳となせ。送れ≫
「チョッパー1からJRHQ。LZ周辺での警戒を厳とする。オーバー。
チョッパー1からチョッパー各機。後10分で城の制圧部隊が到着する。
≪≪≪了解≫≫≫
7機のヴァンツァーはドシンッドシンッと音を立てながら脅威の捜索を始めた。
正統派兵士は建物の奥で気配を可能な限り消して身を潜めた。ただ、彼らの戦意は地に落ちており、鉄の巨人にただ
バババッと空から輸送ヘリが近づいてきても正統派兵士は怯えきっており、真っ当な反撃どころか、対応できる兵士はいなかった。
≪クロッカス1からJRHQ。クロッカス全チーム。LZ降下完了。パラディス城制圧及び邦人。皇帝の救出作業に入る。オーバー≫
≪ジェーダからJRHQ。PCバルコニーへの降下完了。敵司令部制圧に移る。オーバー≫
パラディス城での戦いは終わりつつあった。
「敵に入られたぞっ!!」
「戦える者は武器を取れっ!!」
城内を守る正統派兵士は反撃に出るが、閉所戦闘においては日防軍兵士の方が何倍も優れており、剣とマスケット銃を構えるもの次々と斃れていった。
下の階を中心に城内制圧を目指しながら派手に戦う
「
「わかりました。予定通りジェーダ2は4階。ジェーダ3は最上階の制圧に向かえ、3階は中央会議室以外を制圧。指導者層の捕縛は4階と最上階の制圧後に行う」
「「了解」」
ジェーダ2とジェーダ3の隊長が反応すると、それぞれに率いられる分隊は談話室を後にした。
案内役のヴァルト・ユルゲンタインは
まるで一つの生き物のように素早く動いている。しかし、それでいて装備が擦れる音はせず、足音もほとんど立てずに進んでいった。
「凄いですね。まるで暗殺者だ」
ふっと漏れたヴァルトの言葉に、太郎もとい伊延 倫治中佐は小さな言葉で反応した。
「我々はそういう訓練を積んでいるので……」
太郎の言葉を聞いたヴァルトは改めて日本の敵にならなくて良かったと内心思いつつ彼らと一緒に3階へと向かった。
「ーードルボ将軍……1階はほぼ陥落。2階も、落とされるのは……時間の問題です」
肩から血を流し、途切れ途切れの声で報告に来た伝令の言葉にドルボ達は顔を青白くした。
「ーー日本軍に関する情報。特にフレンツマンからの報告書を軽視しすぎましたな。我々は……」
「今更行っても詮無き事だ……」
参謀たちはドルボに視線を向けた。受け取る命令が最後になるだろうと覚悟を決めたからだ。だが、参謀たちの覚悟に比べ、ドルボは敗北を受け入れる覚悟ができていなかった。
何とか起死回生の一手がないか、もしくは逃げ道がないか考えた。だが、それを考える時間は既に無いことに気づかなかった。
扉が浅く開いた事に気付いた参謀の一人は、伝令が閉め忘れたか?と考えなら扉に近づくと、カランカランと音を立てながら円筒状の物が何個も部屋に入ってきた。
「何だ、こrーー」
拾おうとした従兵が手を伸ばした瞬間。円筒状の物が目と耳をつぶさんばかりの音と閃光。煙を部屋全体にばら撒いた。
「グワッ!!」
「目がぁーー!!」
ドルボ達が意識を朦朧とさせる中。足早に濃紺の兵隊が部屋へと流れ込んできた。
中にいた正統派の軍人たちは耳鳴りと視力が回復してくると、全員組み伏せられていた。
「きーー貴様ら、日本軍か!?」
「そうだ。他の反乱軍指導者はどこだ?」
「そんな物。知っていたとsーー」
伊延はドルボの反応に対して、ナイフで勢いよく指を一本切り落とした。
「ァガッ。グゥッ……」
「
伊延は血の付いたナイフを他の指に立てようとした。
ドルボはスモークゴーグル越しで薄っすらと見える日本兵の眼に恐怖し、口を開いた。
「わっ……私より上の者ーーレミール殿下やエンリケス公爵は既に城の外だっ!!」
「……どこに逃げたか判るか?」
「城の崖下に脱出用の船着き場がある。そこからアルタラスヘ向かったっ!!」
「そうなると、船ごと沈んだな。それならーー」
「いや、城から離れたのは2日前だ……」
伊延はマイクを起動させる手を止め、ドルボに確認した。
「2日前にアルタラスヘ向かった。間違いないか?」
「そっ……そうだ。だからこれ以上はやめてくれぇ……」
ドルボは味わったことのない苦痛にみっともない顔を晒しながら伊延に懇願した。
「ーー手当てしてやれ」
「わかりました」
伊延はこれ以上の尋問を諦め、ドルボの情報を司令部へと伝える。
「ジェーダ1からJRHQ。敵司令部制圧完了。指揮官は捕縛。されど他の反乱軍指導者の捕縛は失敗。送れ」
≪JRHQからジェーダ1。敵司令部制圧了解。反乱軍指導者の逃走方向報せ。送れ≫
「ジェーダ1からJRHQ。反乱軍将校の話では、2日前にアルタラスヘ向かったとのこと。真偽不明。送れ」
≪……JRHQからジェーダ1。クロッカスが城内を制圧した後、反乱軍将校を後送せよ。送れ≫
「ジェーダ1からJRHQ。城内制圧後、反乱軍将校を後送する。オーバー」
3階の警戒を続けていると、下の階から迷彩柄の兵士が上がってきた。
双方の兵士はお互い味方であることを示しながら、クロッカスの指揮官である木畠 治郎中佐が伊延と話し合うため会議室に入ってきた。
「ジェーダはもう任務を完了したたのか?」
「はい。3階から上は掌握済み。敵司令部も合わせて制圧。しかし、反乱軍指導者複数が2日前に逃走しました。JRHQに報告済み」
「こっちは
「……時間稼ぎにも付き合わされてますね」
「仕方ない。我が国の邦人の命が掛かっている。中途半端では終われない」
2人が話していると、城内案内役のヴァルトが部屋に入ってきた。
「太郎さん。通信交換室の機材は使用できます。どうしますか?」
「ありがとうございます。今後の流れを確認するので、お待ちくださいーージェーダ1からJRHQ。城内の通信室を掌握した送れ」
≪……JRHQからジェーダ1。皇都防衛隊司令部と連絡を確保し、反乱軍に対して降伏を勧告せよ。送れ≫
「ジェーダ1からJRHQ。皇都防衛隊と通信ライン確保。反乱軍への降伏勧告了解。オーバー」
司令部との連絡が終わると、伊延はヴァルトと共に通信交換室へと向かい。指示に従って皇都防衛隊司令部との通信ラインを開いた。
「皇都防衛隊司令部。こちらパラディス城通信交換室。どうぞ」
≪こちら皇都防衛隊司令部。誰か?≫
「パラディス城を奪還した日防軍部隊だ。司令部より、そちらと通信ラインを確保するよう指示された」
≪状況はわかった。アルデ総司令に繋ぐ≫
木畠は通信に出た相手が
「クロッカス1からJRHQ。皇都防衛隊司令部と通信ライン確保。送れ」
≪JRHQからクロッカス1。皇都防衛隊司令部と通信ライン確保了解。そのまま皇都防衛隊司令部との通信を維持せよ。送れ≫
「クロッカス1からJRHQ。皇都防衛隊司令部との通信を維持了解。オーバー」
司令部との通信が終わると、皇都防衛隊司令部から通信が入った。
≪皇都防衛隊司令部からアルデだ。パラディス城はどうなっているか?≫
「地下区画以外の制圧は完了しました」
≪まだ昼にもなってないぞ? 本当なのか?≫
「反乱軍指揮官を捕縛しました。これから降伏勧告を発信する予定です。そちらの作戦目標はどうなっていますか?」
≪まず、海軍司令部は抵抗もなく制圧を完了した。バルスを始め、複数の士官が3日前に海軍司令部から海に出ている≫
「つまり、裏切り者は逃がしたということですか?」
≪……こうは言いたくないが、そうなる≫
「こちらも逃しています。相手の方が一枚上手なようです」
≪……≫
「皇都防衛隊司令部。何かありましたか?」
≪たった今。まずい情報が報告された。反乱軍部隊が包囲網を突破するため、北東に全力で攻勢に出ている。展開している我が皇軍も何とか脱出を阻止しようとしているが、対応が後手に回っている≫
「上級司令部に伝えます……クロッカス1からJRHQ。反乱軍がエストシラント北東へ脱出しようと動いている。送れ」
≪JRHQからクロッカス1。前線からもそのように報告を受けている。既にジラフが対処している。クロッカスはパラディス城及び付帯施設の制圧に専念しよ。オーバー≫
木畠は指示を受けると、展開中の各隊と通信を取った。
「クロッカス1から各クロッカス。状況報せ。送れ」
≪クロッカス2からクロッカス1。地下施設を制圧中。オーバー≫
≪クロッカス3からクロッカス1。内部城壁を完全制圧。オーバー≫
≪クロッカス4からクロッカス1。外部城壁の制圧実施中。進捗率は70パーセント。なお抵抗は続いているが制圧は時間の問題。オーバー≫
上がってくる報告は日防軍が受け持つ作戦目標が順調に進んでいることを示していた。
パラディス城の外で戦いの煙と音が響いた。皇国軍と反乱軍の戦いは続けているが、作戦目標は達成したのだ。
解説はありません