OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第9話

中央暦1639年 3月10日

-OCU日本 永田町-

 

 異世界への転移から2か月。日本国の東京・永田町に置かれている内閣府では閣僚全員が集まって会議が開かれた。

 

「現状報告を始めます」

 

 音頭を取る官房長官は部下に指示を出すと室内は薄っすらと暗くなった。

 閣僚の席配置はコの字型になっており、空いたところに大型のディスプレイが置かれている。

 最初に口を開いたのは、国内の資源状態を総合的に把握する経済産業大臣だった。

 

「現在。外務省と防衛省。国交省の尽力により我が国周辺の地形把握。さらにそれらの土地に存在する国家との接触。さらには国交締結が順調に進んでおります。また、クワ・トイネ公国とクイラ王国とは通商条約も締結しており、国内で不足している食料や資源の輸入も順次始まっております」

 

 ディスプレイには転移直後から現在の食料と資源備蓄のグラフが表示されており、1年で食料や資源が切れる状態をほんの1週間程度引き延ばしたことを示していた。

 

「ただ、グラフを見てわかるように転移前の輸入量を補うにはまだまだ遠いのが実状です」

「つまり、現状物資統制法と配給法の解除はできないと?」

「そうです。せめて輸送量が現状の10倍まで増えないと、今年の年末に複数の自治体で停電が発生。さらに鉄道をはじめとする運輸業界が機能不全を起こし。それに伴う物資の配給や統制が効かず、餓死や凍死が発生する公算です」

「わかった。統制法と配給法は継続する方向でいこう」

「ありがとうございます」

「国交大臣。国内の船舶事情はどうなっている?」

「現在各造船会社に5000t級貨物船の建造を要請しています。しかし、就役しても乗員不足で海運の改善には少なく見積もっても1年程時間かかります」

「そうか。1年か……」

「仕方ありません。海運が3割まで落ち込んで、それでなお踏みとどまっている状態です。並みの国では経済が崩壊してもおかしくありません」

 

 2096年。日本では人口こそ1億まで減ったものの、国内の経済は横ばいから微増といった規模を維持していた。

 海洋国家である日本では輸出入停止により経済低下は確定であり、さらに物資不足からくる犯罪件数も時間とともに上昇傾向にあった。

 クワ・トイネとクイラとの海運は上昇傾向だが、国内経済の必要量にはまだ届いていないのだ。

 国家の司る立場からすれば、どの省庁も頭を抱える状態だった。

 沈黙が支配する室内で厚生労働大臣が発言を求めた。

 

「総理。現在クワ・トイネとクイラに派遣しているのはゼネコンと運輸業界の駐在員だけですが、現地に大規模な開拓団を派遣するのはどうでしょうか?」

「……どんなものだね」

「現状。我が国の経済活動は下降基調です。そのため労働人口に余剰が生まれています。ならば失業者対策も兼ねて現地での建設。農作業要員として送り込みましょう。副次効果として国内の配給量を少なからず減らすこともできます」

「それは……棄民ではないか?」

「もちろん送るだけ送って終わりなら棄民政策ですが、輸入量が必要水準まで回復するまでの期限付き政策です」

「……現地雇用労働者の割を食わないかね?」

「ーー現地からの報告ですが、クワ・トイネやクイラ国民に我が国の建設業務を担わせるには教育水準の問題から建設作業の遅延が生じているとのことです」

「そういうことなら。財務大臣」

「省に持ち帰って試算します」

「よろしい。では次の議題だが……」

 

 夜が更けこんでも、内閣府から明かりは消えなかった。

 

中央暦1639年 3月19日

-クイラ王国 バーダット近くの砂漠-

 

「班長。採掘塔の設置が完了しました」

「よし。掘削を始めるぞっ!」

 

 彼らはクイラに派遣された試料採取チームの1つだ。国土のほとんどが砂漠しか無いが、クイラ国内の地質学者曰く『燃える汚泥(石油)燃える空気(天然ガス)が時たま現れる』という話を聞けた。

 試料採取チームは噂があった場所に赴いた。

 

「どうだ?」

「正直驚きですね。石油だまりが下にあるのは確かです」

「埋蔵量はどうだ?」

「正確な量はわかりませんが、かなりの量になるのは確かかと」

「ここもか? ここら辺の地層はすごいな。掘ったら掘っただけ資源が湧いてくる。羨ましい限りだ」

「その上に住みたいかと聞かれたら、考えさせられますけどね」

 

 試料採掘チームはクイラ国内各所で試掘を実施した。その結果、クイラ国内には日本国に必要な資源が多く埋蔵されていることが判明した。

 

「だが、これでもっと忙しくなる」

「そうですね。砂だけの大地じゃなくて、埋蔵金が埋まっている一大地域ですからね」

 

 試料採取チームは次の採掘地点へと歩を進めた。

 

 クイラの資源調査チームからの報告に財界や産業界は大手を振って喜んだ。そして、クイラに対する投資とコンビナート開発計画が加速することとなる。

 また、国内で失業状態の社会人も一山当てようと開拓団の募集所へ訪れる人が増えたのだった。

 

 活気に沸く日本。投資によって日に日に豊かになっていくクワ・トイネとクイラを横目に、隣国であるロウリアで恐るべき計画が進んでいることに気づくことはなかった。

 

 

中央暦1639年 3月21日

-クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ-

 

 クワ・トイネと日本の国交が結ばれてから約2か月。公都クワ・トイネは日本との交易によって経済が上り調子だった。何せ、食料を作れば作るだけ日本が買い取ってくれるので、農家や商社は大いに喜んでいた。

 公都内の活気はまさに鰻登りだった。そんな街中で若い男が路地裏へと向かった。そして、そこには裏路地には似つかない小奇麗な中年が待っていた。

 

「……最近沸いてますね」

「あぁ。どこもかしこもニホンとの商売で繁盛してるよ」

「商人魂的にはその恩恵をうちにも分けてほしいものです」

 

 商人の正体はパーパルディア皇国の諜報局員。若い男はロウリア王国のスパイである。両者ともとある計画のため、クワ・トイネに潜入している。

 

「まぁ。例の計画がうまくいけば総取りなんじゃない?」

「計画といっても借金の手形を回収するという形ですから、出資先がちゃんと事業に成功してもらうことが前提ですよ」

「大変だねぇ。安い元手で大金を得ようとするのは」

「商売で利益を得ようと思ったら仕方のないことですよ。ただし、成功するようテコ入れはしますが……」

「なるほどねぇ。そうだ。これが今のクワ・トイネ軍の配置だ」

「そうですか」

 

 商人は封筒をすばやく確認すると、金貨数枚を男に渡した。

 

「これが今回の報酬です」

「へへっ。まいど」

 

 男は金貨を数えながら、商人に尋ねた。

 

「そういえば旦那。ニホンについて何か知っているかい?」

「いえ、上からは何も……」

「聞きたいんだけど、お宅の国はあんなのが走っているかい?」

 

 若い男が指したのは、日本がクワ・トイネに贈呈した自動車の一つだった。

 クワ・トイネにおける主たる交通手段は馬車である。それが、日本との通商条約によって多くのトラックがクワ・トイネ内で走るようになった。また、日本から有償無償で提供される自動車も少しずつだが目にする機会が増えている。

 

「……本国では見ないな」

あの形(セダンタイプ)のは大体政府のお偉いさんか、日本との商売で利益を得たやつだ。ニホン人が言うには、ジドウシャっていうらしいぜ」

「そのジドウシャがどうしたんだ?」

「あんな形だが、まず馬並みに足が速い。それでいて馬より頑丈ときている。ちなみに、マイハークでよく走っているのは馬車より何倍も大きいのに軍馬(騎馬用)並みに早くて荷馬車の何倍もモノを運べるんだ」

「……それは、いやな情報を聞いたな」

「まぁ。クワ・トイネはジドウシャを物凄い荷馬車程度にしか考えてないだろうけど、軍隊がそのすごさに気付くのも時間の問題だろうよ」

「……計画はすでに最終段階です。今更ジドウシャを導入しても戦力の引き上げは難しいですよ」

「確かにそうだな」

「しかし、ニホンについてはもっと知る必要があります。ニホンのネタも今後仕入れてください」

「その分報酬も弾んでくれよ」

「わかっています」

 

 こうしてクワ・トイネで暗躍する2人の会話は終わった。

 




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