"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第101話

 今日も今日とて仕事である。

 佐山さんと話した通り、CMの仕事を少しずつ減らし、どうしてもという案件だけを新しく受ける様にしていた。

 メインはドラマや映画、舞台を多めに選ぶようになってきた。

 いつまでもCM界の帝王気取りじゃあ、後進が育たないっていうのもある。という体で。

 今日も映画の宣伝で午前中は情報番組の生放送に出演。

 午後からはワイドショーの生放送に、同様の理由で出演。

 そのままドラマの撮影に直行。

 夜からはバラエティー番組が二本収録を予定しており、最後に深夜のラジオパーソナリティで締めのスケジュール。

 稀によくある、激務の日だった。

 

 バラエティー番組の収録へと移動中、一本の電話がかかってきた。

 スマホを見れば、そこに記載されている名前は『有馬かな』。

 かなちゃんから電話が来るなんて珍しいと電話に出れば、声が違う。

 名乗りを受けたが、どうやらかなちゃんのお母さんだった。

 かなちゃんはもう寝てるらしい。早寝出来て偉いね。

 内容を聞くと、何やら美辞麗句を並べられながら、めっちゃ話をされる。

 丁寧な物言いだが、要約するとどうやら、かなちゃんの仕事を何か紹介して欲しいらしい。

 まあかなちゃんの演技力だったら別に問題ないと思い、運転中の佐山さんに紹介できる仕事はあるか確認してみたが、俺が主演をしてるドラマで子役の枠がまだ決定してないところがあるらしく、女の子役だからそれを紹介する事にした。

 佐山さんがこの後連絡して調整してくれるみたい。

 めちゃめちゃお礼を言われた。まあ、気にせんといて。

 そう言いながら、かなちゃんのマネージャーが近くにいるか訊いてみると、いるらしいので替わってもらった。

 かなちゃんのお母さんから離れる様に伝え、少し経ってから大丈夫と言われたので改めて話をする。

 この人と話すのは、"今日あま"だったドラマの撮影現場以来。

 

「それで? 今のかなちゃん、仕事はどんな状況なんですか?」

 

 俺の言葉に、マネージャーは僅かに黙った。

 やがて声が聞こえてくる。

 

『正直、現状で殆ど案件が無い状態です……』

 

 言いにくそうなその言葉に、思わず首を傾げた。

 

「かなちゃんの演技力なら仕事は普通に来そうですが、何かあったんですか?」

 

 そして、マネージャーの口からかなちゃんの現状を教えられた。

 以前に、俺が改変したドラマでダブル主役を演じて以来、かなちゃんのお母さんが現場でもっといい役を寄越せと言う様になってきた。

 そしてかなちゃん自身も母親に引っ張られる様に、もっとこう撮って欲しいなど口出しする事が多くなる。

 段々と撮影スタッフから母娘で煙たがられ始めた。

 やがて仕事がほぼ無くなり、所属している事務所も契約を切られる寸前。

 そしてかなちゃんが俺と繋がりがある事を知り、母親が仕事を求めて俺に連絡してきて今に至るとの事。

 とりあえず事務所に関しては現状で、参加したドラマのスタッフとかから苦情が来ているらしく、ほぼ契約が切られるのは確定。

 そうなれば、このマネージャーは他の役者のマネジメントもしており事務所在籍の社員なので、かなちゃんとは縁が切れる。

 何やら言葉の端々に、有馬母娘に対する疲れというのが見えているので、恐らくこの人も色々と限界なんだろう。

 かなちゃんの母親からの連絡は、仕事を与えられるかは別として、俺に寄越してもらっていい旨を伝える。

 そして決まったらマネージャーに連絡するという事で話がまとまった。

 何かすんげー感謝されたけど、ホントに大変そうだね……。佐山さんにもあんま迷惑かけない様にしとこ。

 通話を終了し、スマホの画面を消す。

 横にいる天使ちゃんから心配そうな声をかけられたが、大丈夫と返して目を瞑った。

 先程の電話を思い返す。

 かなちゃんの母親が増長してしまった原因。

 それは、俺のせいなのかもしれない。

 "今日あま"のままであのドラマを撮っていれば、かなちゃんはヒロインの幼少期として僅かに出演するに留まった。

 それが、俺が作品を変えた事で主役級にのし上がり、そのドラマ自体が皆の助けがあって人気を博した。

 

 故に、だろう。

 かなちゃんの母親は、かなちゃんが今までのちょい役では満足出来なくなってしまったのではないか。

 そしてかなちゃんの演技は、言ってしまえば振れ幅の調整が天才的に上手い。

 初共演のあのドラマでは、俺が極限まで存在感を消す事で、かなちゃんは俺が存在しなくなったマイナス分を、同じ振れ幅でプラスする演技をしてみせた。

 だからあの場面は、俺が行った生から死への振れ幅分を、かなちゃんが受け取りその振れ幅を一人残された少女という役で出し切った。

 かなちゃんの演技の神髄は、プラスでもマイナスでもその振れ幅分の演技が出来る事なんだろう。

 そして副次的な才能として、その振れ幅の中で合った演技が出来る。

 それは自分で生み出すのではなく、模倣。

 今までに見たその振れ幅に合った、最適な演技を模倣して魅せる事が出来る。

 今日あまを改変したドラマの撮影で、アイの表情を真似したのも、その振れ幅につられたから。

 なので他の演者が輝けば、必然的にかなちゃんも同じだけ輝ける。

 反対に、誰も輝けない演技では、かなちゃんも同じだけ輝けない。

 だからあの時、"明日わた"の撮影ではアイという一番星が輝いて、かなちゃんはそれに負けず劣らず輝けた。

 その成功体験が今、かなちゃんと母親を苦しめているのかもしれない。

 母親はかなちゃんにまた、主役の様な役柄を演じて欲しいと願い、かなちゃんもそれに合わせてしまう。

 だから母親が変わってしまった振れ幅につられて、無意識に似た行動を取ってしまっているんじゃなかろうかと推察。

 けど、その根本の原因が俺にあるかもしれないなら、何とかしてあげたい。

 でも、それは難しい。

 恐らく俺がかなちゃんにどんなに仕事を与えても、彼女の母親はより上を見てしまうだろうから。

 そしてかなちゃんも大きくなった時に、矯正出来ない程に母親に似た性格へと確立してしまえば、どちらにせよ自然と仕事は減っていくだろう。

 故に、直接的な手助けは出来ないって思ってる。

 まあ、年齢が近いアクアに将来助けてもらえる事を願いながら、陰ながらサポートする程度が関の山だ。

 そこまで考えて、目を開けた。

 なるようになるしかない。

 その時々で考えていこう、そう先延ばしを決めた。

 

 

 

 

 かなちゃんの事で悩んだあの日から幾ばくか月日が経った今日この頃。

 珍しく午後から仕事の為、午前中の現在は家でコーヒーを飲みながら寛いでいた。

 何かニュースでもあるかな、とラジオの話題作りにスマホを手に取れば、ちょうどメッセージが届く。

 そこに書かれてある名前は『さりな』。

 星野ルビー、その子であった。

 彼女からは未だに変らぬ頻度でメッセージが届き、余裕が生まれた今は少し文章量を増やして返してあげてる。

 それでもルビーからは、返事が短いとお叱りを受けたりもするが……。

 とりあえず届いたメッセージを確認。

 

『来年、アイと同じ歳でアイドルになれるかもっ!』

 

 そんな内容だった。

 ほーん。そりゃすごい。

 

『やったじゃん』

 

 思った事を返す。

 すぐに既読がついた。

 

『なんか反応薄くない?』

 

 しまった。

 適当に感嘆詞でもつけてやりゃよかったか……。

 

『やばいね、そりゃ楽しみだよ』

 

 大分良くなったんじゃないかと思う。

 返信がきた。

 

『まだ薄いけど……特別許す』

 

 やったぜ。

 それにしても、ルビーがアイドルねえ。

 まあ可愛いし人気は出るんだろう。

 そんな気はする。

 そして、ルビーに関しては、前世の頃からファン認定されてたから、流石に応援に行かないと怒るかね……?

 記憶を掘り返し、さりなとの会話を思い出す。

 ……せめてデビューライブには顔を出さないと拗ねそうで怖いな。

 なら、予定が前もって分かるなら、合わせられそうなら何とか合わせてみようと決めた。

 

『それでねっ、アイドルになるから何かプレゼント欲しいなっ』

 

 返信を返さずにいると、ルビーからそんなメッセージが飛んできた。

 プレゼント。

 まだこの幼女は俺に高額商品を強請る気か。

 前世の彼女を思い浮かべた。

 一度ため息を吐く。

 だが、まあアイドルになるお祝いだし、仕方ないか。

 

『あいよー。んで、何が欲しいのよ?』

 

 そう送れば、即既読。

 

『んー』

 

 何やら悩んでいる様なテキストが送られてくる。

 

『まだ考え中っ』

 

 続け様に送られてきた。

 ま、好きなだけ悩めばいいさね。

 

『分かったら教えてくれー』

 

 返事を送り、スマホの画面を消す。

 とりあえず少し早いが風呂に入って仕事の準備でもしとくか。

 そう考えて立ち上がれば、メッセージが届く。

 アプリを開いて内容を確認。

 

『予定合えばカズヤ君ちで相談させてねっ』

 

 なにゆえ、俺の家?

 まあ、別にいいけど。

 

『あいよー』

 

 いつもの返事を行い、スマホを消した。

 今度こそ、スマホを置いて風呂に入りに行く。

 

 

 ルビーとの予定が合ったのは、それから約半年後の事だった。

 

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