"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第102話

 今日は久々の休み。

 だが予定は決まっていた。

 夕方前頃からルビーが我が家に初訪問するのだ。

 現在時刻はまだ昼過ぎ。

 彼女は小学校が終ってから来るので、迎えに行くまで数時間ある。

 ダイニングテーブルで一人、コーヒーを飲みながらスマホを見ていた。

 ルビーがアイドルになるというのは、現在進行形では進んでいるらしい。

 事務所はもちろんアイと同じとこ。

 それに対して一抹の不安を覚えない事も無いが、俺にはどうしようもない。

 B小町の様にグループで活動するらしく、他のメンバーはこれから徐々にオーディション等で決めていく予定との事。

 グループ名は決まってるのかルビーに聞いたところ『まだ! でもアイと同じがいいから新生B小町がいいっ!』って言ってた。

 果たして"新生B小町"なのか、新たなメンバーで生まれ変わった"B小町"にしたいのかは分からんが、望んだ名前になる事を期待したい。

 ルビーもまだレッスンとかは行っていないらしく、普通に小学生生活を満喫してるとの話。

 まあ、アイの時も確か三か月ちょいとかでデビューだったと思うから、大体そんなもんなのかと思った。

 

 そんで今はスマホで、プレゼントについて調べている。

 正直、前回さりなにあげた指輪は、俺が指輪と決めたが何の指輪にするかはジュエリーショップのおばちゃん店員ズがほぼ選んでくれた。

 だから俺が悩みぬいた末に買ったという様なイメージが無かった。

 なので、今悩んでいる。

 今回はあのおばちゃん店員ズがいなく、俺が考えなきゃいけない。

 そしてさりなとの話を思い出せば、やはり安いのじゃ許されないだろう。

 故に高いのを買おうとしても、何が良いのかさっぱり分からん。

 仮にブランドバッグがいいと言われても、何のバッグがいいのか分からん。

 ルビーが商品指定してくれるなら申し分ないが、ジャンル指定されただけの場合、俺に成す術はなくなる。

 まさかルビーを連れまわしてショッピングには行けない。

 どう見ても親子には見えないから。友達と言っても絶対に信用してもらえないに決まってる。

 かといって通販でどれがいいか選んでもらおうとしても、女性って通販でプレゼント買われるのは、どちらかといえば嫌がる人が多いんだろ? いくら俺でもそんな事は知ってる。

 なので、予習中。

 女の子がどういったプレゼントを喜ぶのか。

 色々とサイトを見ていくと、様々な情報が目に入る。

 やれ"女の子へのプレゼントは安すぎても高すぎてもダメ!"だの、"心の籠ったプレゼントが大切!"といったフレーズがよく書かれてる。

 それらを一蹴して、違うサイトへとまた移った。

 バカが、俺が欲しい情報はそんなんじゃないんだよ、高くて女の子が喜びやすいプレゼント特集を見せろ。

 そんな事を考えながらネットサーフィンを進めれば、俺にとってドストライクなサイトを見つけた。

 

 それはプレゼントの特集やランキングを掲載しているサイト。

 更には掲載されているものは、高額商品ばかり。

 ここだッ、そう思った。

 何かサイトにちらほら"キャバ嬢"やら"貢ぐ"といったワードが散見されるが、俺には関係ない。

 高額商品で、それが女性に喜ばれるポイントまで書かれている。

 このページに巡り合えたのは、正に天啓かと思った。

 どれどれ……ふむ、やはりブランド物が結構多い印象がある。

 後は、ダイヤモンドとかの宝石が入ったネックレスといったアクセサリー類。

 服とかも一部特集に載っていたが、現在のルビーが成長期という事を考えれば、あまり得策ではないと却下。

 このサイトはプレゼントにおすすめのジャンルだけでなく、そのジャンルの中でおすすめの商品まで載せてくれているからありがたい限り。

 値段も申し分なく、以前あげた指輪と比べても何ら謙遜は無い。

 女性って、以前よりプレゼントした物の金額が安いと喜ばないってのも聞いた事あるから、それもしっかり念頭に置いておく。

 ルビーから『今から帰るよっ!』っていう連絡が来るまで、スマホとの睨めっこは続いた。

 

 

 

 

 店主に連絡し、今は空いているとの事なので、例の如く個室の予約を頼んだ。

 タクシーで移動し、カフェに入る。

 店主と軽く話をしてから、コーヒーを頼んで個室へと持っていく。

 それを飲みながら、ルビーの到着を待つ事にした。

 流石に彼女一人で、俺の家に来させる訳にはいかない。

 なので、ルビー宅の近くのカフェで彼女を待っていた。

 ルビーが今回俺の家に来る事になったのは、そもそもずっと前からの会話の流れで、俺の家にアイのグッズが全種類あるのでそれを見たいという理由。

 アイが引退してしまって、事務所の仲間たちは三人で仲良く一週間の有休を取って傷心旅行に行ったらしい。

 そこから久しぶりに会えば「よく考えたら、今度は女優のアイとして推してけばいいだけだったよ!」と、楽し気に言っていた。傷が癒えた様で何よりっす。

 てな訳で、一五年間彼らからもらい続けたアイのグッズは相当な数になり、家の居間はそれらの入った段ボールが半分近く埋め尽くし、天井まで伸びている状態だった。

 不意にスマホが振動して、メッセージが届いた事を告げる。

 

『いま家でたっ!』

 

 そんなルビーのメッセージ。

 

『あいよー』

 

 そう返して、彼女の到着を待ちながら、改めてコーヒーを飲んだ。

 ここまで送ってもらった顔なじみのタクシーの運転手には、二〇分後くらいにまた迎えに来てくれと伝えているので、もうすぐ来るルビーが飲み物を飲む時間くらいはある。

 贔屓にしてるタクシーの運ちゃんなので、俺が幼女と一緒にタクシーに乗り込んでも訝しまれる心配も無い。

 その時、個室の扉が開く音がした。

 

「おまたせっ!」

 

 そう言って現れたのは金髪の幼女、ルビー。

 いや、久々に会ったら幼女とはもう呼べず、少女から極々僅かに女性へと足を踏み入れた様な容姿を見せてきた。

 それはやはりアイドルになる前後のアイとそっくりであり、僅かに彼女を見つめてしまう。

 遅くなってごめんねっ、と小学生らしからぬ言葉を発しながら、笑顔で対面の席へと腰掛けた。

 

「とりあえず、何飲む?」

 

「えっ? うーん……」

 

 俺の質問に、ルビーは僅かに悩む素振りを見せた。

 そして再び口を開く。

 

「じゃあ、紅茶にしよっかなっ」

 

 淑女になりすぎだろ……。

 以前会った頃の、パフェとメロンソーダに囲まれる彼女の光景が目に浮かび、思わず時が経つのは早いもんだと感じてしまう。

 まあ、紅茶といってもミルクティーだが、それを受けてカウンターに向かい、注文した商品を受け取って戻った。

 

「ほい、お待ちどうさん」

 

「ありがとっ」

 

 彼女の前にグラスを置けば、笑顔でお礼を言われる。

 ストローを挿して、入れたシロップを軽くかき混ぜてから飲み始めた。

 そんなルビーの姿を見やってから、声をかける。

 

「そんで、プレゼントって何がいいか決まった?」

 

 そう訊ねれば、彼女はストローから口を離してこちらを見てくる。

 

「んー、まだ悩み中かも」

 

 でもっ、そう言って再び笑顔を浮かべた。

 

「カズヤ君ちにあるお宝グッズ見た後で考える予定っ!」

 

 お宝グッズ。とどのつまりアイのグッズだろう。

 彼女の言葉に「あいよ」と返せば、ルビーは再びミルクティーを飲み始めた。

 ルビーがそれでいいなら俺は構わんが、夕暮れ頃までには流石に帰したいから、言うてもそんなに時間ないんだけどなあ。なんて考えつつ、コーヒーを一口。

 そうだ、と思い出してスマホを取り出す。

 メッセージアプリを開いて、目的の人物のチャット欄を開く。

 そして文章を作成し、送信。

 

『アクア、これからルビーが俺の家にあるアイのグッズを見に来るから、申し訳ないけど夕方にまた連絡したら、俺らが初めて会ったカフェに迎えに来てくれないかな?』

 

 送って、間もなく既読。この親子は本当にスマホのチェックが早すぎる。

 

『は?』

 

 そんな一文が返ってきた。

 まあ、そらそーか。

 続けて文章を返す。

 

『迷惑かけて申し訳ないけど、可愛い妹の為を思って出来れば内緒で迎えに来てくれるとありがたい』

 

 即既読。

 

『良く分からないけど、とりあえず分かった』

 

 そんな返信に『ごめんね、助かるよ』と返し、スマホをしまった。

 顔を上げれば、こちらを見つめてくるルビーの姿。

 

「……仕事の連絡?」

 

 その言葉の割には、こちらを見る表情が妙に半目に見えるのは気のせいだろうか。

 

「ま、野暮用だよ」そう返す。

 

「ふーん」

 

 やや見定めてくる様な表情を、笑顔でやり過ごす。

 

「時間もないし、ちゃっちゃと飲んで行きましょか」

 

 そう伝えて再び取り出したスマホの画面に表示される時刻を見せれば、慌てた様にミルクティーを飲み始めた。

 そして俺のスマホにメッセージが届き、内容を確認すると『もうすぐ到着します』という運転手からの連絡。

 分かりました、そう返してスマホを消した。

 無理はしなくていいが、頑張ってミルクティーを飲んでいるルビーを見やる。

 プレゼントに関しては、今日話が纏まるかは分からない。

 けれど、アイのグッズでも見て楽しんでくれるなら、それに越した事はないだろう。

 そう考えて、残っていたコーヒーを飲み干す。

 同じタイミングで『到着しました』というメッセージが届いた。

 ルビーを見れば、同じく飲み干したところ。

 

「じゃあ行こっ!」

 

 そう言って元気に立ち上がったルビーに苦笑しつつ、飲み干した二人分のコップを持って個室を出る。

 カウンターに容器を返却して、店を出た。

 店主には夕方頃にまた来ると言ってあるので、問題は無い。

 店の入り口前に停まっているタクシーにルビーを先導して乗車し、家へと向かってもらった。

 車内で俺に、笑顔でアイの事を語り続ける少女を見ながら思う。

 

 

 願わくばこの少女も、俺に関わらず幸せになって欲しいと。

 

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