"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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ばたばたしており、投稿がめちゃくちゃ遅くなって誠に申し訳ありません……!







第115話

 刑事さんたちと車に乗り込み、警察署へと向かう。

 車内では誰も話す事はなく、全て無言の道中だった。

 約一年前のストーカー事件。

 それが、私の住むマンションの前で、更には私に話を聞きに来た。

 ならば私の中で、一件だけ候補がある。

 間違いなく――あの男の事だ。

 あの男の事を思い出すのは億劫だったが、それでも今回刑事さんがその話を持ってきた事で考え方を改めた。

 私があの男の罪を認めれば、あの男はきっと捕まるんだろう。

 だから刑事さんもこうして直接話を聞こうとしてるに違いない。

 それであの男が捕まれば、それはそれで復讐になるのではないか。

 私が手を下さない、復讐。

 捕まれば当然、それが報道される。

 報道されれば当然、芸能界にはいられない。

 私はあの男の顔を見なくて済む様になる。

 更には、あの男が逮捕されればルビーだってあの男に幻滅するはずだ。

 そんな最低な男を好きでいられる訳が無い。

 なので、刑事さんにはちゃんと協力する事にした。

 

 

 警察署に着き、ドラマとかで観た事のある取調室の様な場所に通された。

 椅子に座れば、机を挟んだ対面に刑事さんが座る。

 そこに、ドアをノックする音が聴こえ、別の警察官の人がノートパソコンを持って入室し、机の上に置いた。

 

「態々ご足労頂き申し訳ありませんでした」

 

 目の前に座る刑事さんがそう言って、置かれたノートパソコンを開く。

 

「ここには書類保存もまだ出来ない情報が多々入ってまして、外部への持ち出しも厳禁にしていましたもので、ここでお見せするしかなかったんです」

 

 そう言ってノートパソコンの画面を私に向けた。

 そこに映るのは、予想通りの人物。

 私にとって一番憎い相手、カズヤだ。

 こちらが対象を認識したのが分かったからか、刑事さんは画面を自分の方に戻した。

 

「では、この男と面識はありますか?」

 

 何やらノートパソコンを操作して、私に顔を向けてきた。

 

「刑事さん」

 

 それに対して声をかける。

 なんでしょうか、そう言って刑事さんは私の言葉を待った。

 刑事さんは色々とあの男の悪行について、きっと色々と調べたんだろう。

 それは恐らく、私とあの男の関係も全て。

 なのでその確認を今からしようとしているに違いない。

 ならば……。

 

 

「全部知ってます、なので捕まえてください」

 

 

 あの男の事は、私が一番知っているんだ。

 それこそ、そのパソコンにも記されていないであろう内容ですら。

 私はあの男に騙されて、裏切られた。

 けれど、誰よりも長くあの男の事を考えてきたんだ。

 そしてそれが、私とあの男の間に起こった事なら、警察が調べられる事よりも詳しく知っている。

 私の言葉に訝しんだ表情を浮かべる刑事さんへと、言葉を続けた。

 

 

「私に内緒で、私の家の周りに監視の人間を置いていた事が書かれているんですよね?」

 

 

「な、何故それをっ……」

 

 刑事さんは、私の言葉に驚いた顔を浮かべた。

 私が、決して知らないと思っていたからだろう。

 私だって忘れていた。

 けれど、復讐を行えるからだろうか。

 頭が冴えて、思い出せた。

 あの男が私のストーカーとして容疑がかけられる理由を。

 一年前のあの件じゃ、ストーカーとしての容疑をかけるのは難しいと思った。

 だってあの時は、話した内容は私に付きまとうといった話はしてないから。

 まるで今までの関係に対する真実を、答え合わせしただけの内容だ。

 もしかしたらあの場面を、誰かが目撃して通報したのかもしれない。

 けれどあの時の出来事は、調べれば調べる程、ストーカーではない。

 何せあの男は馬鹿じゃない、狡猾な男だ。

 だからこそ、傍から見て分かる事は絶対にしないから。

 バレずに遂行出来る計画性と、実行力がある。

 悔しいけど、そこは認めるしかない。

 

 だからこそ、あの場面ではストーカーに成り得ない。

 強いて言えば、ナイフを持っていたので銃刀法違反とか、きっとそんな感じの罪状にはなるのかもしれないけど。

 ただ、今回の争点であるストーカーには紐づかないだろう。

 だけど、刑事さんは私にストーカーの事件と言った。

 つまりは、一年前の件をストーカー容疑として、立件できるだけの情報を入手したという事に他ならない。

 なら、どこにそんな証拠があるのか。

 そう考えて……思い出したのだ。

 その鍵となるのは、約八年前。

 あの男のマネージャーから聞いた、本来私が知り得なかったであろう真実。

 私の住む部屋の周りに、SPを雇って監視させる。

 不審人物が来ない様にとか言っていたが、今から考えれば虚偽なんだろう。

 見せてもらったその契約書自体はもしかしたら本物だったのかもしれない、けど内容は難しくて詳しくは見てなかった。

 だからあのマネージャーの口から言われたのは、もしかしたら嘘の内容なのではないか。

 マネージャーは、あの男とグルなのかはハッキリは分からない。

 あの状況までをも予測しており、前もって決めていた話をマネージャーに言わせたのかもしれない。

 もしくはあのマネージャーがグルではなく、あの男を庇うために嘘を私に言ったのかもしれない。

 けど、どっちでもいい。

 どちらにせよ、あの男は私を弄んだのには変わりないんだから。

 だから、全ては私が、よりあの男に入れ込む為の工作に違いない。

 そう考えると、全てが嘘に思えてくる。

 

 あの男が刺された事自体、自作自演なんじゃないかって。

 

 私に内緒で、私を監視するという契約を結んでいたならば、その証拠は絶対どこかに残っているはず。

 そしてその証拠が見つかれば、一年前のあの件と結び付けて、あの男が私のストーカーとして容疑を固められるだろう。

 あの男と私の関係について、明確な証拠はそれしかないんだから。

 あんな男の事なんて一切頭に浮かべたくなかったから、今まで忘れてただけ。

 でも、私が手を下さずに復讐出来るなら、いくらでも思い出せる。

 警察は、八年前まで彼が私を監視していた事を知って、去年の事件と結び付ける事が出来たんだ。

 だから、刑事さんにはお願いしたい。

 

 

「私はあの男に騙されてきました。なので刑事さん……あの男を逮捕してください」

 

 

 私が抱く、本当の願いを叶えて欲しいと。

 私の言葉に、刑事さんは表情を戻して、私を見つめた。

 やがてため息を吐く。

 

「そこまで知っているんじゃあ、話は早いが……」

 

 そこまで告げて、もう一度ため息を吐いた。

 そして真剣な表情に変えて、私に聞く。

 

「……では、彼からストーカー被害を受けたと認めるという事で、よろしいですか?」

 

 

「はい」

 

 

 刑事さんの言葉に、迷いなく答えた。

 私の言葉に刑事さんはもう一度ため息を吐いて「何か違う理由があったのかとも思ったんだけどなあ……」なんて呟きながら立ち上がった。

 ドアの横に置いてある机の奥に座り、何やらメモを取っていた警察官の元に向かうのを見届ける。

 あの口ぶりは、もしかしたらこの刑事さんは、あの男をどこか信じていたのかもしれない。

 そんな事をする人じゃないって。

 だけど私と同じ様に、裏切られたんだろう。

 警察官との話を終えた刑事さんが、私へと振り向く。

 

「捜査へのご協力、感謝致します」

 

 そう言って、更に言葉を続ける。

 

「それでは、被疑者となる木村カズヤの逮捕令状を裁判所に請求します」

 

 早くて大体三時間程度はかかりますが、なんて言う刑事さんをただ見つめる。

 間もなく、あの男への復讐が成される。

 それだけが、私の心を占めていた。

 だから、刑事さんに聞く。

 

「逮捕の瞬間って、私も立ち会えますか?」

 

 私の言葉に、刑事さんは目を丸めた。

 

「いや、我々が直接貴女を連れていく事は出来ないので……」

 

 刑事さんはそこで言葉を止める。

 何やら考え事をしている様だ。

 どうしても無理なら諦めるしかない。

 けれど少しでも可能性があるのなら、立ち会いたかった。

 あの男への復讐が達成された瞬間を。

 

「……まあ、大丈夫そうか」

 

 不意に呟いた刑事さんに耳を傾ける。

 刑事さんはまた、後ろに控える警察官の元に行き、何やら耳打ちしている。

 それを聞いた警察官が驚いた表情で、刑事さんに顔を向けた。

 ……どうしたんだろ?

 そんな疑問を抱きながら、刑事さんの対応を待つ。

 やがて私へと顔を向けてくれた。

 

「この後、数時間程度お時間を頂戴しても大丈夫ですか?」

 

 その言葉に、迷わず頷く。

 刑事さんの言葉は、つまりそういう事だろうと確信出来たから。

 そしたら奥の警察官が立ち上がり、私の方へと歩いてくる。

 

「それでは、隣の部屋でお待ち頂ければと思います」

 

 ご案内致します、そう言って私を見た。

 言葉につられて立ち上がれば、警察官が先導しそれについていく。

 ドアが開けられて、取調室を出る。

 廊下をほんの少し歩けば、隣の扉が開けられて、その中へと案内された。

 室内の片側を見て、驚く。

 壁の一部が、先程までいた取調室を映していたから。

 

「マジックミラーみたいなものだと思って頂ければ構いません」

 

 もしかしたらドラマとかで観た事ありますかね、と私の反応を理解したのか、案内してくれた警察官の人が説明してくれる。

 確かに、刑事物のドラマとかでこんなのは見た事があった。

 呆然と壁越しに映る取調室を見ていると、後ろから警察官の人に声をかけられる。

 

「どうぞ、こちらにお掛けしてお待ちください」

 

 そう言って、私の隣にパイプ椅子を置いてくれた。

 そこに腰掛けながら、スマホを取り出す。

 帰りが遅くなるんなら、子どもたちに連絡しなきゃいけない。

 とりあえず三人のグループチャットに『帰りが遅くなりそうだから、先に寝ててねっ?』と送る。

 すると、すぐに既読が二つ。

 

『えーっ、ママと一緒に寝たいっ!』『分かった。母さんも明日仕事なんだから、あまり遅くならない様にな』

 

 それぞれ個性ある返事に、幸せを感じて笑顔になってしまう。

 うん、この子たちさえいてくれれば私は大丈夫だから。

 何度目か分からない確認を済ませた。

 すると、部屋に刑事さんが入ってきた。

 

「今連絡を行った所、任意出頭に応じてくれる様です。大体三〇分後くらいに到着する見込みなので、もう少々お待ち頂ければと思います」

 

 刑事さんはそう言うと、部屋を出ていった。

 案内してくれた警察官も「外におりますので、何かあればお声がけください」と告げて、一緒に退室する。

 一人となった部屋で、笑顔を浮かべる。

 それは先ほどの、子どもたちからの返信を思い出したからではない。

 どうしても、笑顔になってしまう。

 

 

 もうすぐ、あの男への復讐が果たせるのだと思うと。

 

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