"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第123話

 劇団ララライとの舞台が千秋楽を迎えた。

 三か月程度続いた公演は、常に満員御礼だったらしい。やったね。

 打ち上げを兼ねて、劇団員の人たちと飲みに行き、今はその帰り。

 そういや茜ちゃんは、この期間を通じて大分俺の真似が上手くなった。

 たまに俺に見せてくれる俺の演技は日を追うごとに上達しており、それを毎回素直に褒めるが、彼女自身がまだ満足してないのか頑なに「もっと精進しますっ」と言い続けられてしまった。

 俺の演技なんて極めても大して使える場面ないぞー、と伝えてはいるんだが、俺がいる内に何とか感覚を掴みたいらしく、めちゃくちゃ頑張ってるっぽい。

 そして声の力、すごいね。

 それに関して茜ちゃんはかなり精度を高めており、出合い頭の挨拶にそれを使われて何度驚いた事か。

 けれども存在感を消すのは、ほぼ成長なし。

 まあ、仕方ないね。

 やり方は分かるけど、何で出来たのか俺自身が分からんし。

 そんで、俺の演技は未完のままに舞台の千秋楽を迎えてしまい、茜ちゃんは悔しそうに泣くのを我慢してた。

 だから言ってやったのさ。

 ちゃんと他の人の研究もするんだぞーって。

 そしたら首を横に振られて、逆に意固地になってしまったっぽい。

 次に会う時には、絶対完成させると意気込んでいた。

 結局、何を言って良いのか分かんなかったので、とりあえず「がんばれー」と伝えるにとどめた。

 ララライ代表の金田一さんによれば、彼女は既に劇団のエースとしての頭角を現してきてるみたいなので、俺以外の有益な研究でもして、安泰になってくれと思わずにはいられなかった。

 そして逆に手早く終わらせられないかと考え、茜ちゃんと連絡先を交換する。

 何か分かんない事あったら連絡してくれと言っておいたが、彼女は果たして自分から連絡してくるだろうか。それが心配だ。

 

 

 佐山さん運転の元、マンションに着く。

 まだ仕事が残っているらしく、佐山さんは俺と天使ちゃんを下ろして事務所へと車を走らせていった。

 天使ちゃんと一緒に外階段を上がる。

 まあ何年もこの行動を繰り返しているから分かる。

 

「きゃっ」

 

 足を踏み外して転げ落ちそうになった天使ちゃんの腕を掴んで引き止める。

 俺の仕事の日数とほぼ同じだけ繰り返されているから、すっかりと慣れたもんだ。

 寧ろ、天使ちゃんが何事もなく階段を上り切った日の方が、かなり心配してしまう程である。

 

「あっ、ありがとうございますぅっ」

 

 そう言って、僅かな暗がりでも分かる程には耳まで赤らめた天使ちゃんが離れる。

 ここまでがテンプレートなのだ。

 そして今日も無事に階段を上り切り、部屋へと向かう。

 玄関の前で鍵を取り出した。

 

「そうだっ、カズヤさんっ」

 

 鍵を挿し込もうとすると、隣から声をかけられた。

 そちらを向けば、笑顔な天使ちゃんの姿。

 

「晩ご飯終わりましたら、ちょっとだけお時間を頂いてもいいですかぁっ?」

 

 その言葉に首を傾げるが、頷く。

 天使ちゃんお手製のご飯を食べたら、寝るまでどうせ何もやる事がない。

 だからノープロブレムだった。

 

「ありがとうございますっ」

 

 それではまた後で伺いますねっ、そう明るい声で告げた天使ちゃんは隣の部屋へと向かった。

 何の話かは分からないが、まあ天使ちゃんだし悪い事は絶対ないだろと考えて、玄関のドアを開ける。

 中に入れば、ダイニングに進みいつもの席に座った。

 着替えようかと思ったが、今日は天使ちゃんが作り置きしてくれてたみたいなので、こちらに来るまでそうは時間がかからないはず。

 なので、天使ちゃんの話が終わってから着替えりゃいいかと思い直した。

 椅子に座り、スマホを点ける。

 そこには何通かメッセージが届いていた。

 アプリを開き、送り主を確認する。

 アイ、ルビー、アクア。

 見事に星野家三連星が勢揃いだった。

 どれどれ、と内容を確認していく。

 まずは一番最新で届いていたアイから。

 

『舞台、今日が最終日だったんだよねっ。お疲れさまっ!』

 

 それが彼女とのチャット欄の、一番下に表示されているテキスト。

 だが、その一個上。

 

 

『ねーカズヤー、早く一緒に共演したいなぁっ』

 

 

 このテキストを、しばらく見つめてしまう。

 アイとの共演NGは、まだ続けていた。

 いや、別にアイと関わりたくないとかそんなんじゃない。

 前に会った時、俺の家へとアイも来てしまったあの時。

 俺の自己満足がアイにバレてしまって、何故かアイからの好感度が爆上がりしてしまった一件。

 その時に、俺の家でアイが言ってたんだ。

 

 ――これから一緒に共演したら、ずっと抱きついて離れないからねっ。皆に私たちの関係を見せてあげないとっ!

 

 俺から共演NGを出してるとは伝えてない。

 けれど、彼女の事務所で知ったらしい。

 そこから鬼電がしばらく止まなかったのは記憶に新しい出来事。

 まあ、そんなこんなでのらりくらりと躱しているが、最近のアイはこの様に手法を変えてきていた。

 メッセージではねだる様に、さりげなく俺にニュアンスを伝えてくる。

 電話では俺への愛を囁きながら一緒の番組に出たいと、さらっと溢す。

 今のアイはかなり温厚な攻めで、俺が施してる共演NGを解こうとしていた。

 いや、まあ共演NGを解くのは構わないんだが、どうしても二の足を踏んでしまう。

 だって、一緒に番組に出てアイから本当に抱きつかれる様な事があったら、アイに非難が集中するから。

 俺は正直、何の痛手も無い。

 アイは、アイドルを辞めてまだ二年程しか経っておらず、彼女のガチファンも健在。

 そして巷では女性人気が高いらしい俺へと抱きつけば、それぞれのファンはアイに恨みを抱く事になる。

 男の嫉妬は女に、女の嫉妬は女に。

 そういう事だ。

 だから二の足を踏まざるを得なかった。

 とりあえずは正直にその旨をアイには伝えたが、どうにも濡れ手に粟状態。

 何やら俺に愛されてるという想いに浸ってしまい、話にならなかった。

 てなわけで、アイとの共演NGは絶賛続行中である。

 とりあえずアイには『おー、ありがとー』と、最新のメッセージだけに返信する。

 以前の彼女ならきっと、その前のメッセージにも返さないと怒っただろうが、今は違う。

 

『お疲れさまでしたっ、舞台は楽しかった?』

 

 何気無いメッセージなのに、否応なく彼女の成長を感じてしまい、思わず感慨深くなる。

 とりあえず『他の人は皆すげー上手いから緊張しっぱなしだったわ』と送り、ちゃっと画面を閉じた。

 他にも二通、未読のメッセージが残っているから。

 続いてはルビー。

 

『今日で舞台終わりなんだよねっ? 観に行きたかったなぁ』

 

 そんなメッセージに微笑ましくなってしまう。

 まあルビーやアクアだけで観に来る事も出来ただろうが、ルビーは中学に上がったばかりで勉強についていくのが大変らしく、アクアによって缶詰めにされていたから無理だった。

 せめて義務教育くらいはしっかりと履修させる。

 そうアクアの強い意志を俺も尊重して、チケットの手配は見送る事にしていた。

 

『ま、違う舞台でも観にくりゃいいさー。アクアの許可が出ればね』

 

 そう送れば、すぐに既読と返信。

 

『カズヤ君のイジワルっ!』

 

 その返事に思わず笑ってしまう。

 まあ大好きなせんせが一緒にいるんだから良いじゃないかと思ってしまうが、どうやら勉強漬けはせんせへのラブパワーでも如何ともしがたい状況らしい。

 

『テストで良い点でも取れたら、舞台でも何でも連れてってやるから頑張れー』

 

 再び即既読。

 

『ホントっ? 絶対に嘘じゃないよねっ? 約束だよ!』

 

 そんな返事が返ってきた。

 何やらぐいぐい来てはいるが、まあそれ程勉強から逃れたいという事だろう。気持ちはすげー分かる。

 だとしたら、送った通りにルビーがテストで良い点を取れた暁には、ご褒美として何か用意してあげないといけないかな。

 そんな事を考えつつ『あいよー』といつもの返事を返して、チャット画面を閉じた。

 最後に残るはアクアからのメッセージ。

 まあ、以前会って以来たまに仕事募集中の連絡が来るからそれかもなあ、なんて考えながらチャット画面を開こうとする。

 同時に、来客を告げるチャイムが鳴った。

 お、もうそんな時間だったか。

 そう考えてスマホをテーブルに置き、玄関へと向かう。

 鍵を開けて、ドアを開いた。

 

「カズヤさん、お待たせしましたっ」

 

 そこには予想通り、明るい笑顔でお盆を持つ天使ちゃんの姿。

 

「いやーいつもすまんね、天使ちゃんや」

 

「いえっ、私がやりたくてやってることですからっ」

 

 俺の言葉に、優し気な声と笑みで返してくれる。

 ドアを開けながら身体を少しずらして、天使ちゃんを中へと促す。

 お邪魔しますっ、そう言って一度俺に軽く頭を下げてから、天使ちゃんは入室した。ええ子やでホンマに。

 ダイニングに入り、天使ちゃんが俺の席の前に持ってきた料理を置いてくれた。

 椅子に座り、両手を合わせる。

 

「いたたきます」

 

 いつも通り対面に腰掛けた天使ちゃんが笑みを浮かべる。

 

「はいっ、どうぞ召し上がれっ」

 

 嬉しそうな表情で見つめられながら、遅い晩ご飯を食べ始めた。

 これを求めて、打ち上げの席でも殆ど食事には手をつけなかったのだ。

 もうすっかりと俺好みの味付けを知り尽くした天使ちゃんに敵う筈もなく、ただただ箸が止まらない。

 

 

 そういやこの後に何か話あるんだっけか、そう考えながら食事を進めた。

 

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