"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」 作:あるミカンの上にアルミ缶
長らく更新が滞っており、大変申し訳ありませんでした。
仕事の都合で執筆が行えず、一切投稿出来ないでおりました。
頭の中にあったプロットは、空いたこの一年で殆どすっ飛んでしまいましたが、何とか組み立て直し、極力齟齬が無い様に進めていきたいと思っております。
もし、まだお読み頂けるという方がおりましたら是非、お楽しみ頂ければ幸いです。
また、投稿に関しては以前の様な一日に三ページという頻度は難しく、申し訳ありませんが一日に一ページで行って参ります。頻度が下がりこちらも重ねて謝罪申し上げます。
極力毎日更新を進めたいとは考えておりますが、仕事の兼ね合いで執筆が難しくなる可能性があるので、可能であれば連日投稿という様なスパンでご了承頂ければと思います。
改めて、まだお読み頂けるという方がおりましたらお楽しみ下さいませ。
以上、何卒宜しくお願い致します。
今日は久しぶりにカズヤ君と会っている。
もう大体、四年ぶりくらいだろうか。
いつも通り連絡を取り合っていて、会える日がないか確認していたら、たまたま仕事がなくなって午後から夜まで暇になったらしく、急遽だけど会えることになった。
ママからは、この後から入っていた仕事がなくなったらしく、これから家に帰るって連絡があったので、出かけてる旨を伝えている。
場所はいつも通りのカフェ。
今まで通りの、奥の個室。
「そんで、いよいよアイドルになれるんだっけか?」
テーブルを挟んだ先で、カズヤ君がコーヒーを飲みながらそんなことを訪ねてくる。
彼の言葉に頷きを返した。
「うんっ。一六歳になったら、デビューだって!」
自然と明るい声色になってしまった私の返事に「ほーん」といつも通りの返しをされる。
間もなく中学を卒業し、高校へと進学。
おにいちゃんとの約束でここまで伸びていたが、私は遂に念願のアイドルデビューを果たす。
それが間近に迫っていて、どうしても気分が高揚してしまう。
まだ私たちの父親らしき人物に辿り着けてはいないらしいけれども、このタイミングより引き伸ばすことはどうしてもできなかった。
だって、ようやく結婚できる歳になったんだ、これ以上の我慢なんて無理だから。
カズヤ君への告白は、デビューライブ直後に行う予定。
デビューライブの日は、カズヤ君も頑張って休みを取れるようにするって言ってくれてるから、観にきてくれるのはほぼ間違いない。
だからそのステージでどんなアイドルよりも輝く私を彼に魅せつけ、カズヤ君の目を奪う。
私だけを見てくれる様に、カズヤ君の前で完璧な
他の人たちは全員、
嘘はとびきりの愛。
「だからデビューライブは、絶対観にきてね?」
そして嘘の愛を届ける私を見て、また――
私が嘘を吐いているのは、どうしてもカズヤ君には分かられてしまう。
それでも良い……ううん、それが良かった。
カズヤ君が私を
そしてカズヤ君が本当の私を見てくれてるって、どうしようもないほどに感じられるから。
カズヤ君だけが本当の私を愛してくれるって、理解出来るから。
だから私はアイドルとして彼の前で、嘘を吐き続ける。
「今のところは予定入ってないから、大丈夫だと思うけどね」
何度目か分からないカズヤ君の回答。
デビューが決まってから、つい何回も確認してしまっている質問。
それ程までに、カズヤ君には……カズヤ君だけには来て欲しいから。
だから、思い出した様に何度も確認してしまっていた。
「で、他のメンバーは決まったんか?」
話題を変える様に、今度はカズヤ君が質問してくる。
他のメンバー、か。
手元にあるストローを咥えて、一口だけ飲む。
そして、彼に言葉を返した。
「うーん、まだ決まってないんだよねぇ……」
その言葉を発して、自分の気持ちが僅かに落ち込んだことを自覚する。
そんな私を見てか、カズヤ君は苦笑を浮かべた。
「まっ、天下のB小町様を名乗るんだ。生半可な人じゃ務まらないって事じゃねーの?」
「……うん」
彼の言葉に、私が所属する予定のグループ名を思い浮かべる。
B小町。
それは
アイドル界隈では、生ける伝説とも呼ばれている。
私も前世の頃からその虜となり、その圧倒的な輝きは今でも強く鮮明に憶えている。
デビューからずっと、アイという圧倒的な一番星の存在で、一度見ると否が応でもファンにならざるを得ない。
逆に言えば、アイがいなければ人気になれなかったかもしれないグループでもある。
だって、B小町のファンのほとんどがアイ推しなんだから。
しかしB小町最後の日、その印象は晴天の霹靂という様に、大きく覆された。
メンバー全員が、一番星となった。
だから、それを目にした人は、B小町最後のライブを"史上最高の解散ライブ"と言ってしまう。
アイが他のメンバーに合わせたんじゃない。
他のメンバーが全員、アイと同じだけの輝きを放った。
七人から発せられる圧倒的な輝きを見せられて、どうしようもない程に"これが本当のB小町の姿"なんだと思わされた。
今までそれが出来なかった理由も、解散ライブの時だけ出来た理由も分からない。
でも解散ライブは、確実に――アイ以外も私の目を奪っていた。
全員が平等に、けれど一切の手加減無しに、私の網膜を焼いたのだ。
それが、忘れられない。
そんな偉大なグループ名を、私の希望で引き継ぐんだ。
緊張感がない、訳がない。
デビューするまでずっと、今自分の中にある期待と大きな不安はつきまとってくるんだろう。
だからこそ、現時点で私以外のメンバーが決まっていないという事に、仕方ないという印象を抱いてしまう。
だってあれ程の輝きを全員から魅せられたんだ、中途半端な人を採用されても困る。
例え私が好きだとは思えない人だったとしても、私に負けないくらいのアイドルへの情熱や、圧倒的に魅せられるスキルを持った人じゃなきゃ、絶対にB小町のメンバーには認められない。
それを社長やミヤコさんにお願いしてるのもあって、中々他のメンバーが決まらないんだから。
けれどやはり、まだ私以外のメンバーが決まっていない事に対して、どうしても不安は覚えてしまう。
早くいい人が見つかるといいなぁ、なんて考えてしまう毎日だ。
「とりあえず、ルビーがアイドルデビューするんだから、約束通り何かプレゼントしないとなー」
不意にカズヤ君がそんな事を告げた。
まるでひとり言の様に、けれど僅かに声のトーンを上げて。
そんな姿を呆然と見やるが、やがて笑みが浮かんでしまう。
……私が落ち込んでることに気づいて、明るくしてくれてるんだ。
彼から伝わる言外の思いやりを感じ、思わず心が暖かくなる。
やっぱりカズヤ君は、私を見てくれてる。
それが分かり、僅かに鼓動が速まった。
心に従って、浮かんだ笑みを彼に向ける。
「どうしよっかなぁっ。もう高校生にもなるし、何をおねだりしよっかなー」
明るくそう伝えれば「あらま、こりゃあ結構な出費になりそうだ」と苦笑をされてしまう。
失敬な、私は金がかかる女じゃないもん。
確かに今のカズヤ君は芸能界の頂点におり、それに比例する程にとんでもない稼ぎをしているんだろう。
だからといって、別に高いものをプレゼントしてもらいたいなんて、微塵も思ってない。
僅かに前世の記憶が蘇る。
死に際に彼がプレゼントしてくれた結婚指輪。
右の薬指に嵌めてくれたそれは、決して高い物ではなかったはず。
子どもの稼ぎで買えるものだから、一般的な結婚指輪と比較して安物になるのは致し方のない事。
けれど私にとっては――カズヤ君からのプレゼントは、それが一番高価なものでありたい。
だからこそ、高い金額のプレゼントをもらおうという気持ちは微塵もなかった。
安物でいい。タダでもいい。
カズヤ君にとって大切なものが、私は欲しい。
ねえ、カズヤ君。
私、知っちゃったよ?
あの時に言ってくれた指の意味。
――薬指はもう一つ……"心の安定"っていう意味があるんだって。
そうだよね、もう一つ意味があったんだね。
右手の薬指に指輪を嵌める意味。
恋愛成就。
それが、カズヤ君があの時言わなかったもう一つの意味。
私がせんせのことを好きだったから、きっと伝えなかったんだと思う。
でもきっと、言わないけれど、届けていてくれたんだろう。
私に愛を。
せんせとの恋愛が成就する様にっていう、カズヤ君なりの愛を。
偶然ネットで見つけた指輪を嵌める指の意味だけど、それを知った瞬間、知れたのは必然だと思った。
だって、本当の私を見つけてくれるカズヤ君の本当の愛を、私は気付かないといけないんだから。
カズヤ君が向けてくれる本当の愛を、私は知らないといけないんだから。
曖昧な記憶なんて一切ない、文字通り前世からの運命の人。
前世と今世、"世"を超えて愛し合う二人は、絶対に引き離される訳がない。
奇跡としか言いようがないカズヤ君と私の関係は、神にすら愛されているに違いないんだから。
だから、必然。
そして、前世で指輪を嵌めてもらった右手の薬指の意味を叶える。
恋愛成就。
指輪を嵌めてくれた、他でもない彼と。
「ほんで、どんな感じのプレゼントが良いのよ?」
カズヤ君の言葉に、意識を目の前に戻す。
アイドルになる記念のプレゼント。
果たして、何がいいんだろうか。
アイドルとしてデビューする、デビューライブに来てもらう。
前世から、私の
そこで、ふと思い出した。
それも前世での記憶。
デビューライブ。
カズヤ君の大切なもの。
――さりなちゃんが元気になったらあげるよ。そんで、これを持ってアイに会いに行きな。
そう言って見せられたのは、B小町のデビューライブの半券。
あの時は、純粋にB小町のデビューライブに行った彼が羨ましかった。
けれど、今それを考えると、違った思いが浮かんでくる。
彼が持っているB小町の、デビューライブの半券。
それは言い換えれば、アイのデビューライブの半券。
カズヤ君にとって、アイドルのデビューライブの思い出は
……なんか、やだなぁ。
彼にとってのアイドルは、私であってほしい。
そう思うのは、傲慢だろうか。
だから、彼のアイドルの思い出を私で埋めたい。
カズヤ君の家には大量のアイグッズがある。
それは変えようのない事実。
それをいつか、私のグッズでそれ以上に埋めてみせたい。
でも、どうしてもアイのデビューライブのチケットだけは、覆せない。
カズヤ君がそれを持っている以上、彼の中にいる
だってチケットの半券は、グッズじゃないんだから。
そのたった一枚が、大量のグッズを凌駕する思い出になっているんだから。
私が、どんなグッズよりもそれがほしいと思ってしまう程に、何よりもアイのファンである証なのだから。
「……昔に約束した、B小町のデビューライブの半券が欲しいな」
私が
それもある。
でも、大部分を占める本当の理由は、それじゃない。
カズヤ君には、私の
私が、私だけがカズヤ君にとっての一番のアイドルでありたい。
そんな、醜い理由。
カズヤ君の中から
そんな、酷い理由。
独占欲では言い表せない程に黒く淀んだ感情が、私の中で蠢き続ける。
けれど、それが私の本性だから。
他の人には嘘の愛を届け続けて、アイのファンのままでもいいからさ。
だから
「あー、そういやそんな事も言ってたっけなあ」
思い出した様な声を上げるカズヤ君。
「まあ、約束通り元気になったんだし……あげないとな」
んじゃあ今度会える時に持ってくるわ、と軽い調子で告げた。
それを聞き、笑みが深まるのを自覚する。
「ホントっ? ありがとっ!」
そう言えば「ホントにアイが好きなんだなー」という言葉と共に、苦笑が返ってくる。
私の本性はバレてないが、それでよかった。
だって、結婚を申し出るその時まで、嫌われる訳にはいかないから。
結婚したら、カズヤ君はこんな私でも間違いなく愛し続けてくれるから。
結婚すればカズヤ君は私だけを見て、愛してくれる。
ならば、私の本性だって愛してくれるんだから。
誰に迷惑をかけてる訳でもないし、カズヤ君への愛が溢れているだけだもん。
結婚前は万が一、愛が重いと思われる可能性がゼロじゃないから、言わないだけ。
一緒になって幸せになろうね? カズヤ君。
不意に個室のドアがノックされた。
ほーい、とカズヤ君が返事をして、ドアを開ける。
――えっ?
思わず、胸中で声を上げてしまった。
だって……。
「あれっ、ルビーもここにいたんだっ」
なんで、