"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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どうも、あるミカンの上にアルミ缶です。
幾つかストックが溜まってきましたので今投稿から、可能な時は二話投稿を行えればと考えております。(以前の様な三話投稿は、どうしても難しそうなのでご了承頂けますと幸いです……。)
また、仕事の都合等で書き溜めが行えない際は一話投稿となりますので、こちらも併せてご認識頂けると助かります。
それでは、お読み頂ける方はどうぞお楽しみ下さい。


第129話

「あれっ、ルビーもここにいたんだっ」

 

 その声、姿に思わず固まってしまう。

 今まで話していたのはルビー。

 今日は夜まで仕事が入っていたが、夕方からの仕事がバラシとなり、急遽深夜まで暇になった。

 同時に、学校が終わったルビーからいつ会えるのかという内容の話になったので試しに、これから会うかと連絡してみれば即了承の回答。

 いつものカフェで合流し、会話に花を咲かせていたのだ。

 彼女からの話題提供を中心に話していれば、まさかの人物が来訪。

 星野アイ。彼女は今日、夜まで仕事で大変だと連絡があり、来る筈の無い人物が現れた事に思わず驚き固まってしまった。

 

「えっ……」

 

 続けて聴こえた声。

 

「……なんでママが、ここに……?」

 

 それは、俺が向いていない方向から届いた。

 こちらの視界に映る人物は俺から顔を逸らして、その声の主へと顔を向ける。

 

「急に仕事がなくなったから、早く帰ってこれたんだよっ」

 

 連絡しといたけどまだ見てなかったかな? そう首を傾げれば、視界の端でルビーが慌てて動くのが目に入った。

 どうやらスマホを手に取って、アイが言っていた内容の確認をしているらしい。

 

「それにしても、カズヤも休みだったんだっ」

 

 意識を正面に戻せば後ろ手に扉を閉めた彼女が、よいしょという声と共に俺の隣に腰掛けている姿があった。

 

「夕方から夜までの仕事がバラシになってさ」

 

 俺の言葉を聞きながら、アイは手に持った飲み物をテーブルに置く。

 そして、俺に顔を向けて笑みを浮かべた。

 

「そっかっ、じゃあ一緒にいれるねっ」

 

 そんな笑みと言葉を向けられ、すぐに返す事は出来なかった。

 何故ならここには、俺とアイ以外の人物も居るのだから。

 そんな人物へと顔を向ければ「……ほんとだ」という呆然とした呟きをした彼女が、顔を上げてこちらを見た。

 

「って、なんでママがカズヤ君の隣に座ってるのっ?」

 

 その声と表情は驚きであり、しかし他にも何か含んでいそうなニュアンスを感じた。

 彼女の驚きを伴った質問に返そうと口を開き掛ければ、

 

「んー」

 

 隣から声が聴こえ、思わず口を閉じた。

 横目で見れば、僅かに首を傾げて何やら言葉を考えている様なアイの姿。

 やがて結論を得たのか、再び口を開く。

 

「これがいつもの立ち位置だからかなっ?」

 

 嘘つけい。

 そう言いたかったが、口には出来なかった。

 何故なら、

 

「えっ……」

 

 僅かな声を上げたルビーが、視線を俺に向けてきたから。

 

「ねっ?」

 

 そして、まるで同意を求める様に、アイがこちらに問いかけてきたから。

 驚きながらも、まるで否定を望んだ様なルビー。

 笑顔ながらも、まるで肯定を望んだ様なアイ。

 これは、俺が答えないといけないのか……?

 前門の虎後門の狼。

 この状況は正に、その言葉に相応しいと思った。

 けれど、いつまでも黙っている訳にはいかない。

 ……仕方ない、答えるか。

 

「…………まあ、可もなく不可もなくって感じかな」

 

「は?」「……ふーん」

 

「ふざけてごめんなさい」

 

 圧には勝てなかったよ……。

 けれども、アイからも「は?」と言われずで助かった。

 二人から言われていたら、間違いなくちびっていた自信があった。

 あそこで「は?」ではなく「ふーん」と答えたアイを見て、思わず成長を感じてしまう自分が情けなかった。

 けれど、ここから何を答えたら良いのかが分からない。

 口を開かねばならないが開けない。

 どうしようかと頭を悩ませていると――。

 

「そういえば、なんでルビーはカズヤと一緒にいたの?」

 

 横から救世主が話題を提供した。

 追及を深められなかった事に、またしてもアイの成長を感じてしまう。

 大人になったなあ、アイ。

 窮地を脱した様な感覚に、思わずそんな事を思ってしまう。

 その言葉につられて、ルビーの顔が母親へと向く。

 それを見て、密かに嘆息。

 

「えっと、カズヤ君と連絡してたら仕事なくなったから会おうってなったんだよっ」

 

 まだ僅かに困惑を含みつつも、笑顔で返すルビー。

 

「へー、ルビーってカズヤの連絡先知ってたんだ」

 

「うんっ。前に会った時に教えてもらったんだっ!」

 

 互いに笑顔で話す二人は正に親子の様で。

 

「カズヤだったからいいけど、知らない人と勝手に会うのは危ないからね?」

 

「カズヤ君だから大丈夫だよっ! 他の人とはこんな風に会ったことないしっ」

 

 アイは親心として対応し、ルビーが子どもとしての回答を述べている。

 それはやはり親子の会話。

 なのに、

 

「うーん、でもやっぱり心配だから、これからカズヤと会う時はママと一緒に会おっかっ」

 

「大丈夫っ! カズヤ君だもんっ。それにママも忙しいしっ!」

 

「ママもなるべく合わせる様にするから大丈夫だよっ」

 

「ううん、ママの仕事してる姿いっぱい見たいから、ママはお仕事頑張ってっ!」

 

 何故だろう、そこはかとない震えが身体に訪れるのは。

 そして、俺は知っているから完全にスルーしていたが、特にルビー。

 俺の前でアイの事を"ママ"と呼んでいるのは、問題ないんだろうか。

 けれど俺からそれを聞くのは、明らかに藪蛇そうなので不問。

 ルビー、アクアを通して言われるか、子どもたちの前でアイから言われるまでは、こちらから聞く事はしない。

 これは星野家の問題であり、俺から問い質して良い問題じゃないから。

 故に、何も言わずコーヒーを啜る。

 俺はただ、目の前で繰り広げられる母娘会話を聞くに徹するのだ。

 

「カズヤも、ルビーを一人で来させるのは不安だよねっ?」

 

 不意に、アイの言葉が俺に向いた。

 どうやら母娘の会話は一旦中止らしい。

 顔を向ければ、変わらぬ笑顔をこちらに向けてくるアイ。

 ……こやつ、一人で説得出来ないから俺を味方に付けようとしたな?

 直感的に、意図を感じ取った。

 だが、そんな事をすれば、

 

「カズヤ君は私一人でも問題ないよねっ?」

 

 当然、娘も同じ行動を取るに決まってる。

 この空間には三人。

 ならば多数決の原理を考えれば、俺を味方につけた方が優勢。

 だからこうして再び、俺に究極の問いがやってきたのだった。

 正直、俺としては"どっちでもいい"が結論。

 けれどそう伝えたが最後、二人が組んで俺を集中砲火する未来から逃れられなくなる。

 故にその回答は不可。

 どうしようか……。

 二人からの視線を一身に感じつつ、やや間を空けてから口を開いた。

 

 

「……とりあえず、二人で来れる時は二人で来りゃいいんでね?」

 

 

 両方向から、ため息が聴こえた。

 解せぬ。

 

「……全くカズヤは」「ダメダメだなぁ」

 

 片や母親として、片や友達として僅かに非難が込められた視線を向けられる。

 そうは言われても、と答えたいが答えられず。

 彼女らに否定という反応を行う事は出来なかった。

 その為、只々二人から視線を逸らしてコーヒーを飲む事しか出来ない。

 木村カズヤは、事なかれ主義なんだ。

 どちらか片方につく事で良くない結果を招くなら、その矛先は俺に向けてくれれば良い。

 俺がコーヒーを飲み続けていれば、二人もまたそれぞれの飲み物を一口、口に含む。

 僅かな沈黙。

 

「そういえば、ルビーとカズヤはどんな話をしてたの?」

 

 それを破ったのは、アイだった。

 どんな話をしていたか。

 

「今度ルビーがアイドルになるっていうから、何のプレゼント欲しいかって話してたんだよね」

 

 娘であるルビーがアイドルになる事など、母親であるアイが理解している体で言葉を返す。

 俺が何と無しにそう答えれば、ルビーが何やら慌てだした。

 

「べっ、別に高い物買ってもらおうとかそんなんじゃないよっ?」

 

 その言葉は明らかに俺向けではない。

 

「……ふーん。プレゼント、ね」

 

 何故か僅かに笑みを消しながら返す、アイ(母親)に対して。

 ルビーを見つめていた彼女の視線だけが、こちらに向く。

 

「プレゼント、ねっ」

 

 改めて放たれた言葉に、俺が意図を汲み取る事は出来なかった。

 プレゼント、それがアイの中でどの様な意味を持ったのかが、理解出来ない。

 やがて目を閉じた彼女だが、すぐに開いた。

 その視線は、正面にいる娘へと注がれる。

 

「うんっ、いいんじゃないかなっ」

 

 そんなに高いのはダメだよっ? 再びの笑顔でアイは、ルビーへと言葉を届ける。

 それを聞いたルビーは、表情を笑顔に戻して大きく頷いた。

 こんな二人を見ながら思うのはやはり、親子だなという事。

 そして、初めて見るアイの母親としての姿に、思わず安堵と喜びが胸中を占めた。

 ちゃんと母親になれている、それが見られたから。

 ちゃんと子供を愛している、それが感じられたから。

 ルビーもまた、アイドルとしてだけでなく、母親としてもアイを愛していると思えたから。

 何てことない普通の親子の光景。

 その光景が目の前にある事に、言い表せない程の喜びを感じた。

 何度も思うアイの成長。

 彼女に成長したなんて俺が思うのは烏滸がましいが、それでもアイの中で俺以外にも大きな存在がいるという事を確かに感じ、一抹の寂しさも無い喜びが胸に広がったのだった。

 これが、今までアイと離れた事による恩恵なのか、こうして関係を修復した結果なのかは分からない。

 けれどもこの光景を見ると、今までやってきた事は失敗はあれど、間違いでは無かったんだろうと思える。

 決して自分を肯定する訳では無い。

 でも、俺がしてきた事による影響が、悪い方向にならなくて良かったという安堵からそう思えた。

 願わくば、この光景が変わらずにずっと続いて欲しい。そう思わずにはいられなかった。

 

 しかし、俺の中ではまだ一つだけ、懸念事項があった。

 それはアクアとルビーの関係。

 彼らが互いに、前世の存在を認知し合ったという連絡がルビーから来たのは、記憶に新しい。

 その連絡ではルビーのテンションがかなり高く、アイドル時代のアイに対する熱量と同じかそれ以上だった。

 けれども、今の所はまだ二人の進展に関して情報が届いていない。

 ルビーはアクアに告白したのか、アクアはルビーにどう返したのか。

 もしかしたら俺なんかに報告する必要性を感じずに、実はもう関係が進展しているのかもしれない。

 ……ぴえん。

 それならそれで、現在のアイの姿を見れば、それを受け入れた上でこの様にルビーに接しているんだろう。

 ならば何も問題は無く、俺の考えは杞憂に過ぎない。

 でも、もしまだ二人が進展を見せていない、もしくは進展していても母親であるアイに報告していないのであれば、星野家には大きな爆弾が残っている可能性がある。

 まあアイの事を考えりゃ、進展しているけど隠すというパターンはかなり難しそうだが。

 もしこの件で星野家が揺れる様であれば最悪、俺が二人の父親でそれを隠していた理由をでっち上げてこちらに子供たちの怒りの矛先を向け、双子で付き合うという問題を疑似的に解決という方法も出来なくはない。だが、まあこれは最終手段かな。

 アクアとルビーの恋愛事情がどうなるかは分からないが、アイも含めて幸せな結果となる様に、協力出来る所はしていきたいと思っている。

 

 その後、日が暮れるまで三人で他愛も無い話を行い、それぞれで喫茶店を後にした。

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