"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第153話

 新生"B小町"。

 ここに、MEMちょという新メンバーが加入して、本格的にアイドル活動を始める事になった。

 彼女の加入はかなり大きく、動画配信を筆頭に順調に認知度やファンを獲得してきてるという実感が持てる。

 玄関を開けて、家に入る。

 中は暗く、まだ誰も帰ってきてない事は明白。

 それもそのはずで、今日は私が一番最初。

 おにいちゃんは相変わらず監督のとこに行ってる。そこで何をしてるのかは、分かってる。

 ママは遅くまで仕事って言ってた。

 電気を点けて、リビングのソファに座る。

 今日も遅くまでレッスンして、B小町の曲はかなり覚えてきた。

 色んな人が協力してくれて、段々と形になってきた。

 ……でも。

 ソファの上で膝を抱え、顔を埋めた。

 やれば、やる程に分かった。

 勿論、前々から分かってた。

 でもやっぱり、やったら分かった。

 

 アイという存在が、如何に一番星かという意味を。

 

 レッスンをすればする程、アイドルとして活動すればする程。

 余りに大きく、遠い存在なのかと。

 今までずっとファンとして追いかけ続けてきた。

 今までずっとファンとして見続けてきた。

 でも、見るのとやるのでは全然違った。

 見ていて、スゴいと思った。

 やってみて、凄いと思った。

 でも、全然違う。

 見ていて、近くにいると思った。

 やってみて、どうしようも無い程に遠いと思った。

 歌が違う、ダンスが違う、言動が違う……ううん、そんな事じゃない。

 完璧で究極、最強で無敵のアイドル(一番星)

 その言葉が、本当の意味で分かってしまったから。

 それは決して、ファンに向けての言葉だけじゃない。

 同じアイドルとしても、そう思わせてくる。

 同じアイドルなのに、嫌でも目を奪われる。

 同じアイドル(嘘吐き)なのに、どうしても背中しか見えない。

 どうしようもない程に、アイドルなのだと思わせてくる。

 アイ(ママ)には勝てない……そう、思わせてくる。

 でも、別に勝つ必要は無いと自分に言い聞かせて、頑張ってきた。

 誰も彼もが目を奪われたアイに、勝てるとも思ってない。

 私がアイ(ママ)から勝ちたいと思うのは、ただ一つ。

 

 カズヤ君。

 

 彼を、私だけのファンにする。

 カズヤ君の()を奪うのは、私にする。

 だから、頑張れた。

 カズヤ君がいたから、カズヤ君を想えたから、例えアイ(ママ)がどんなに凄いアイドルだったのかと思わされても、挫ける事は無かった。

 もちろん他の人にはちゃんと()を届ける。

 アイドルにとって、嘘はとびきりの愛だから。

 他の人に全力の()を届ければ、カズヤ君は本当の私を見てくれる。

 また、アイドル(嘘吐き)だねって、言ってくれるから。

 私が()吐け(届けれ)吐く(届ける)程、カズヤ君は見抜いてくれる。

 そうすれば益々、カズヤ君が私にとっての本当になっていく。

 本当を得る為に私は、嘘を吐き続ける。

 ……でも。

 思わずため息を吐く。

 

「おにいちゃんのバカ……」

 

 誰もいない空間で、そう呟いた。

 でも、仕方なかった。

 最近は一人になると、つい同じ事を考えてしまう。

 

 "推しの子"。

 

 それはカズヤ君が、言った言葉。

 トレンドを賑わせ、今年の流行語筆頭となった言葉。

 思い返せば、少し前に最終回を迎えた恋愛リアリティショー、"今ガチ"。

 おにいちゃんが出てたから観てた番組。

 それに関連して、カズヤ君が言った言葉だった。

 その時も家で一人だった私のスマホに通知が来て、慌てて観たのを憶えてる。

 夜に始まった突然の生配信。

 "今日あま"の時に初めて行った生配信と同じ光景。

 あの時は、そこで話したカズヤ君の内容を聞いて、理解した。

 ――"今日あま"って、なんで撮らなかったの?

 それは、小学生だった私の言葉。

 それに対して、カズヤ君はこう言った。

 ――自己満足の気紛れって事よ。

 この言葉を聞いて当時は、ヒロイン役のアイ(ママ)を見たかったと愚痴を溢してしまったが、今となっては違う。

 彼の配信を観て、気付いた人も多いと思う。

 カズヤ君が如何に、"今日は甘口で"という作品を愛しているのかを。

 だってそうじゃなかったら、"明日わた"があんなにも"今日あま"を面白くする訳が無いから。

 原作者の吉祥寺先生もその後公表してたし。

 "明日わた"は"今日あま"の未来を描いたオリジナルストーリーだって。

 だから思った、カズヤ君があの時に"自己満足の気紛れ"って濁した本当の意味を。

 "今日あま"のドラマと同じく、演技が素人な人たちばっかのキャストだったんだろうって。

 だからカズヤ君は、一人で全責任を負って守った。

 原作者を、演技が下手な共演者を、制作するスタッフを、ドラマは変われども輝きを変えないヒロイン役を――"今日あま"をよくも無くしてくれたなって彼にSNSで怨嗟の声を上げていた原作ファンを。

 自己満足という言葉で全てを引き受けたカズヤ君の()で、皆守られた。

 カズヤ君が魅せた、嘘はとびきりの愛。

 

 ……でも、嘘はやっぱりダメ。

 

 やっぱり、いつか"本当"に負ける。

 だから、おにいちゃんも最後に出た"今日あま"で、カズヤ君は本当の事を伝えなくちゃいけなくなった。

 結局、嘘はいつか崩壊する。

 本当だけが、最後に残るんだから。

 だから本当が、本当だけがとびきりの愛なんだ。

 だから本当(カズヤ君)が、私は欲しい。

 ……なのに。

 再び、思い出してしまう。

 カズヤ君の二度目の配信。

 そこで彼の口から告げられた言葉。

 

 

 そんな黒川茜は俺の――――推しの子なんだ。

 

 

 その言葉が、その内容がずっと、頭から離れない。

 黒川あかね。

 "今ガチ"に出演し、炎上した人。

 でもそれを解決に導いたのは、カズヤ君だった。

 何故?

 彼は言っていた、黒川あかねは俺の推しの子なんだって。

 推しの子。

 即ち、推してる子。

 推してるのは、私だよね……?

 だって、ずっとカズヤ君は私を見てくれてたもん。

 アイドルになるのも、ずっと応援してくれてたもん。

 前世の時から、私と結婚するって、言ってたもん。

 なのに、なんで。

 

 なんで、他の女を"推しの子"って言うの……?

 

 カズヤ君から黒川あかねの名前が出て、すぐに調べた。

 彼の言葉通り、確かに過去に共演経験があり、カズヤ君との接点は分かった。

 でも、たった一つの舞台で共演しただけの女を、なんで推してるの。

 女優なだけあって、確かに顔は良いと思う。

 けど私だって前世の時からアイ(ママ)と同じに見えるって言ってくれたんだから、そして何より今はママ(アイ)の子どもなんだから、顔は悪くない。

 なら関係の長さは? 私の方が圧倒的に長いに決まってる。

 誰よりもカズヤ君の事を知ってる。

 なのになんで、黒川あかねを推すの?

 結婚するって言ったよね?

 

 だったら異性で、"推しの子"は……私一人だけのハズだよね?

 

 カズヤ君が、そんな間違いをする筈ない。

 本当の私を教えてくれる、正しいカズヤ君が他の女を"推しの子"だって言い方するハズない。

 だから確認した。

 

 ――カズヤ君、何で黒川あかねに推しの子だって言ったの?

 

 ――まあ、推しの子だったから?

 

 ――は?

 

 ――……昔、幸せになって欲しい人を"推しの子"だってアクアに教わりまして……。

 

 原因が判明。

 その事をおにいちゃんに話して数日間口を利かなかったら、土下座の勢いで謝ってきたので許す事にした。でも、完全には許してない。

 昔、アクアがせんせだったって知ったあの日、おにいちゃんは恋愛事では力になれないかもしれないって言ってたけど。

 まさか邪魔してくるとは思わなかった。

 とりあえずは今後、カズヤ君に勝手な入れ知恵禁止って言ったら何度も頷いてたから、もう大丈夫だとは思う。

 この件は、カズヤ君と結婚出来たら完全に許してあげるつもり。

 カズヤ君もカズヤ君で、他の女に思わせぶりな言葉を言うんだから、それはそれでダメダメだよ。

 異性関係ではどこかダメダメになる似た者同士のカズヤ君とおにいちゃん。

 そう考えれば、おにいちゃんと結婚する人も、中々苦労しそうだ。

 明るくも、自立していておにいちゃんに依存しない人じゃないと厳しそうかも……。

 ふと思い浮かべるのは、そんなおにいちゃんが映った画面。

 "今ガチ"の最終回。

 それまではMEMちょと友達同士の距離で仲良くしていたおにいちゃんが、あかねに告白した。

 驚いたけど、どこか納得する自分がいた。

 だっておにいちゃんは、あかねを見てなかったから。

 

 あかねが演じる――アイ(ママ)を見ていた。

 

 炎上が収まってから番組に復帰したあかねは、見違えた。

 いや、見間違えた。

 あかねではない、アイ(ママ)に。

 私ですら思わずママって呟いてしまった程に、アイだった。

 でも、昔のアイ(ママ)っぽかった。

 恐らくキャラクターを演じて出る為に、かなりの人気を誇るアイを選んだのかもしれない。

 もしくはおにいちゃんの入れ知恵じゃないかとも思ってる。

 そこにおにいちゃんが居て、数多のキャラクターからアイ(ママ)を選択したんだから。

 そんなあかね演じるアイ(ママ)に、小さい頃の様な微妙に素っ気ない態度を取るおにいちゃんが少し面白かったのは内緒。

 だからこそ、そんな態度を取るおにいちゃんが、あかねを選んだのも納得出来た。

 まあ、ママ(アイ)になりきってる人にキスしようとするおにいちゃんは、気まず過ぎて妹として見てられなかったけどさ……。

 おにいちゃんは、あかねを利用しようとしたんだと思う。

 未だに見つからない、私たちの父親を捜す為に。

 ママ(アイ)を殺そうとした、絶対に許さない人間を見付ける為に。

 おにいちゃんは私に隠れて色々動いてるけど、知ってる。

 未だにその尻尾すら掴めてない事に、焦りを抱いてる事を。

 だから、あかねを利用する事にした。

 ママを悲しませない為に、父親が居ない事を私たちは気にしてないよと思わせる為に。

 ママには内緒で動く為に、アイ(ママ)になりきれるあかねから、情報を得ようとしたんだ。

 でも結局、キスはしなかった。

 おにいちゃんはあかねにフラれた。

 未だに事務所でかな先輩から「ねぇ、あかねにフラれたのどんな気持ち? ねぇ」って揶揄われて怒りに震えるおにいちゃんの姿をよく見る。

 そのまま無言で立ち去るのを見て「よしっ、今日もアクアに勝ってやったわ!」なんて拳を突き上げる先輩を見るまでが恒例。

 けど、それを見る度に思い出す。

 おにいちゃんをフッた時の、あかねの姿。

 キスをしようと顔を近付けたおにいちゃんから、その直前で顔を逸らした。

 そしてその声、喋り方、動作、雰囲気……その瞳で。

 

 

 ――ごめんね。

 

 

 あかね(アイ)が、言った。

 そこで二人のシーンが終わる。

 最後にノブユキがゆきに告白して、成功。

 最終回が終わりを迎えた。

 アクメム勢からは残念といった声が漏れた以外は、ほぼほぼ大団円で幕を閉じた"今ガチ"。

 でも、私には分かる。

 あそこで、あかねが言った言葉。

 ごめんね。

 それで終えたシーンだけど、そこには続きがあったと。

 確証は無い、でも確信していた。

 だって、完璧じゃなかったから。

 

 嘘じゃなかったから。

 

 本当だったから、続きがある。

 本当だったから、続きを言わないといけない。

 だって、私がそうだもん。

 カズヤ君以外の人に迫られたら、言う。

 ごめんねって。

 でも、それだけじゃダメ。

 私はカズヤ君だけを見てるから、他の人に未練なんて残させない。

 だから、ハッキリと言う。

 

 好きな人がいるから、って。

 

 だから、確信してる。

 私の本当と同じ雰囲気を感じたあかねの言葉。

 でもあの時、あかねは……あかねではなかった。

 けど、そこの全てが本当だった。

 なら一体、誰の本当なのか。

 それも、分かる。

 

 あかね(アイ)の言葉だって。

 

 二人の本当に、嘘が無かった。

 ならどっちも、その言葉の向きに嘘が無かったという事。

 言葉の向きに嘘が無かったという事は――同じ対象という事。

 だから、本当。

 そう確信したのは、根拠がある。

 それは数か月前。

 学校が休みで、午前中にB小町としてレッスンが入っていた、"今ガチ"初回放送の日。

 ママは午前中から出かけるって言ってたのを憶えてる。

 午後からは何も無い、そんな休日。

 レッスンが積み重なり、大分擦り減ったシューズを買い替えようと、レッスン終わって家でゆっくりしてから一人で出かけたあの日。

 目的の物を買って色々と店を覗いて夕方になり、そろそろ帰ろうかと駅に向かった、その時。

 

 

 

 

 ママ(アイ)が、カズヤ君の胸に飛び込む光景を見た。

 

 

 

 

 アイ(ママ)が悪いんだよ?

 前にさ、カズヤ君が言ってたよね。

 

 ――……とりあえず、二人で来れる時は二人で来りゃいいんでね?

 

 ってさ。

 午後からは私も空いてるって、知ってたよね?

 それを承知で、私に黙ってカズヤ君と会ってたんだよね。

 カズヤ君と会うのを私に隠してたんだ。

 ママは、(子供)に隠し事なんかしないよね?

 だって"本当"に愛してるんだから、隠し事なんていう"嘘"なんか吐く筈ないもん。

 じゃあ、なんで嘘吐いたの?

 もしかして……あの時に言ってくれた"愛してる"は、ウソだったの?

 スマホから通知音が鳴る。

 

『とりあえず休み確定したから、問題無く行けそうよー』

 

 感謝を伝えるスタンプを送る。

 ……なら、

 

 本当に愛してないママ(アイ)は、ママじゃないよね?

 

 ……なら、

 

 アイに気を使った態度を取る必要は無いよね?

 

 ……なら、

 

 未練を残させない為にも、ハッキリと言った方が良いよね。

 

 ……だから。

 

 (アイ)に、本当(カズヤ君)は絶対にあげない。

 

 私が知ってる本当のカズヤ君は、欠片も渡さない。

 カズヤ君にとってのアイドル(嘘吐き)は、私だけ。

 カズヤ君の本当を知ってるのは私だけで、とびきりの愛が嘘でしかない貴女がカズヤ君の本当を知れる訳が無い。

 勿論、"皆のアイドル(嘘吐き)"としては、これからも尊敬し続ける。

 だって、貴女が完璧で究極のアイドルっていうのは、本当だから。

 これが、本当。

 嘘は、どこにもない。

 私をカズヤ君は愛してるが、本当。

 アイをカズヤ君は愛してるが、嘘。

 だから結局。

 本当を教えてくれるカズヤ君に対して――。

 

 

 

 

 (アイ)はいつか崩壊して、本当(わたし)だけが残る。

 

 

 

 

 やがて"B小町"のデビューライブとなるJIF――ジャパンアイドルフェスティバル当日を迎えた。

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