"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」 作:あるミカンの上にアルミ缶
「急募! 天然清楚家事完璧空気読めるおっとり巨乳美人の倒し方っ!」
私の言葉に、四つの目が向けられた。
「なんなん? その正妻感マシマシな要素盛り沢山なの」
「何かのゲーム? 実写だったら見てみたい」
真剣な悩みに対する二人の反応は、あまりにも普通だった。
今は午前の授業が終わり昼休み。
教室でクラスメイトと一緒にご飯を食べる準備が終わり、ここぞというタイミングで相談した。
返ってきた反応から、一人へと慌てて言葉を返す。
「ちっ、違うよ! 全然正妻感とかないし! 何食べたいかすぐ分かるだけだし! 何飲みたいか分かっててどのタイミングでどのくらいの量出せばいいか分かってるだけだもん!」
「エスパーすぎん?」
私の弁明にただ小首を傾げる桃眼桃色髪の巨乳少女。
グラビアアイドルをやってる
その隣で頬張りかけていたおにぎりを口元から離し、別の少女が口を開いた。
「それで、何でその人を倒したいの?」
そう言って翠色の瞳をこちらに向ける、緑がかった黒髪の少女。
人気女優の
他に相談出来る相手もおらず、仲良くしている二人のクラスメイトを頼る事にしたのだ。
「え、えっと、そうそうっ! ゲームの話!」
フリルちゃんの言葉に乗って、仮想の相談だと告げれば、二人はどこか興味無さそうな表情を浮かべつつも相槌を返してきた。
「ちなみに、何て名前のゲームなん?」
「……えっ?」
みなみちゃんの言葉に、思わず固まってしまう。
しかし彼女は私に構わずスマホを取り出して、準備が出来たと言わんばかりにこちらへと顔を向け直した。
「名前分かれば多分ネットで倒し方とか出てくるやろ?」
それが当たり前かの様に言ってのける彼女に、冷や汗が流れる。
別に、みなみちゃんは悪くない。
この情報社会において、真っ先にネットで調べるなんてのは普通だし、寧ろネットで調べないで何か間違った発言をする方が叩かれる時代にもなっているのだから。
だからこそ、言い訳を考えなければいけない。
みなみちゃんが検索しないように。
必死に考える。
やがて、口を開いた。
「え、えっとぉ……その、あ、アレだよっ! なるべく攻略情報見ないでクリアしたいからね!」
「でも人に聞くのはアリなんや」
「だ、だいじょぶだいじょぶ! それはっ、えっと、そう! 自分ルールでオッケーにしたからっ!」
完璧とも思える私の理由に「ふーん」と僅かにこちらを見ていたみなみちゃんだったけど、やがて「ほな、調べるのやめとこか」と、神奈川生まれ神奈川育ちの関西弁を使いこなしながらスマホをしまってくれた。
それを見て安堵の息を吐く。
「どういうゲームか分かんないけど倒すって、どんな風に倒せばいいの?」
聴こえてきた声に顔を向け、思わず首を傾げる。
どんな風に倒す?
それが理解出来ずにいると、フリルちゃんが再び口を開いた。
「あんまやった事ないからよく分かんないけど、ゲームって攻撃して倒すとか、女性を攻略するとかあるでしょ?」
だからどんなジャンルのゲームなのかなって思ってさ。
彼女の言葉に、漸く理解出来た。
私の相談に合致するジャンル。
「えっと……恋愛ゲーム、みたいなやつ、かも?」
「女性用の恋愛ゲーム? それとも男性用の恋愛ゲーム?」
「えっ……え?」
「主人公は男女どっち? あ、好きな方を選べるゲームもあるんだっけ。その中で倒したい人ってどんな役で出てくるの?」
「えっ……えっ」
「ほぇー、結構詳しいやん」
「ううん、詳しくないよ。トレンドとかに上がって来たの見て知ってるだけ」
「やってないゲームの見ておもろいん?」
「別に面白くないよ?」
「せやったら、何で見るん?」
「イケメン美女だらけで目の保養になるから」
そうだった、この人こんな人だった……!
"今ガチ"の話でもおんなじ感想言ってたし、顔が良い人が嫌いな人なんて居ないとか言ってのける人だった。
「二次元もいけるんやなぁ」
「まあ、実写の方が良いけどね」
二人の会話に、徐々に思考を取り戻していく。
えと、何を聞かれてたっけ……?
そうだ、主人公が誰とかそんな感じだったハズ。
相談したい真意に、ゲームの視点を当て嵌めてみると。
「多分……女の人が主人公で、その人がライバルみたいな?」
「多分?」
「た、多分じゃないよっ! 絶対だよっ?」
「必死すぎん?」
そういったゲームやった事無いから自信ないのっ。
そんな事は言える訳も無く、何とか必死に誤魔化す。
「つまり、ライバルの正妻巨乳美人を押し退けて、男の人とくっつかなきゃいけない訳だよね」
「せ、正妻じゃないよ!」
フリルちゃんの言葉に、思わず言い返してしまう。
だが二人とも、ゲームの話と既に思い込んでくれたのか、追及される事はなかった。
再びフリルちゃんが口を開いた。
「じゃあ先に、三人がどんな関係なのか教えて」
その言葉に、つい考え込んでしまう。
ゲームという仮想ではなく、実際の三人の関係。
アイドルとしてデビューライブを成功させてから、一か月以上の月日が経った。
つまり、私がカズヤ君にプロポーズしてから、それだけの月日が経っていた。
今もまだカズヤ君の家に居り、そこから学校やアイドルの活動を行っているのだ。
学校は別に、カズヤ君の家から通っても何かがバレる訳でもない。
アイドル活動。
即ち事務所に私の居住地が違うとバレる事だけが懸念だったけど、現時点でそこも無事にクリア出来ていた。
だって、おにいちゃんが居るから。
家に私が居ない事をバレない様に、おにいちゃんが事務所に色々と手を打ってくれてるお陰で、何も変わらずにアイドルとしても活動出来ていた。
互いの情報も頻繁に交換してるからその点も抜かりなし。
だから残る問題は、カズヤ君の家での事だけだった。
でもそれが、一番の問題だった。
カズヤ君に"天使ちゃん"と呼ばせている女性。
彼女の存在が、何よりも大きく私の前に立ちはだかっていたのだ。
聞けば彼女はカズヤ君のマネージャー兼バイタルサポーターとかいう役割で、公私共にカズヤ君を常にサポートする様な立場に居た。
だから彼女は、カズヤ君が何を食べたいか……私よりも知っていた。
だから彼女は、カズヤ君が何を飲みたいか……私よりも知っていた。
だから彼女は、カズヤ君が今疲れているか……私よりも知っていた。
だから彼女は、カズヤ君が今どうしたいか――私よりも知っていた。
嫉妬で、どうにかなりそうだった。
おにいちゃんとくっつける方法が無いかまで探した。
けど、彼女を知る程に。
嫉妬だけではマズいのだと、思い知らされた。
私は
奪い続けたいと、今でも思ってる。
でも、目を奪うだけじゃ足りない部分を彼女に補われ続けた。
家でカズヤ君と二人で楽しく話していた。
カズヤ君は私だけを見て、私だけの為に話をしてくれていた。
そこに、いつの間にかコーヒーや紅茶を淹れた彼女が、私たちの前に自然と現れてテーブルにカップを置いていく。
それに気付いたカズヤ君が、自然に言った。
――ありがとう、ちょうど飲みたいって思ってたんだ。
私がカズヤ君の目を奪い、カズヤ君は私だけを見てくれていた筈なのに。
そのたった一言が……私に強い劣等感を持たせた。
その前までずっと、カズヤ君と話していた。
カズヤ君が私に話してくれた言葉数の方が、断然多い。
カズヤ君が私を見てくれていた時間の方が、断然多い。
けれど、そのたった一言が。
何気無い自然なその言葉が。
私に向けてじゃないのが……どうしようもない程に、悔しかった。
だから段々と、その女の存在を常に把握出来る様に意識し始めた。
彼女が動こうとしたら、先に私が動いて、カズヤ君の全てを私だけに向けようとした。
家に彼女が居る間、その存在を意識し続ける。
帰ってきた時も、ご飯を食べる時も、食後も、お風呂に入ってる時も、寝る直前も。
いつもいつでも、女の存在を把握出来る様に、意識し続けた。
何日も、何週間も、ずっと。
絶対に見逃さず、女の動きを把握して、それを先回り出来る様になる為に。
動いた時に何をしているのか、どの様な工程で作業をしているのか、どんな様子なのか。
全部、全部、手に入れて、女が何の行動も出来なくさせる為に。
そして昨日、言われた。
三人での食事が終わったその時。
今までずっと見てきた女の行動から、全員分の皿を片付ける作業に入るのだと察して、それを先回りする事で女の行動を阻止しようと実践しかけた瞬間。
――私のわがままですが、最近お二人の会話が聴けなくて寂しかったので……飲み物をお持ちするまでの間だけで良いので、何か話題でもあればお話しながらお待ちくださいっ。
今までで一度も無かった行動に、動きを止められた。
……何だ、それは。
思わず、そんな言葉が浮かんだ。
笑みを浮かべて自分の、カズヤ君の、そして私の皿を回収してキッチンへと遠ざかっていく。
彼女の言葉を聞いたカズヤ君が、何気無く言った。
――ん? ああ、そういや最近のルビーはどんな事あったとか、もしあれば聞きたいな。
その言葉に、心臓が跳ねた様な気がした。
カズヤ君に……気を使われた。
それを理解したから。
何故、気を使われたのか。
それを、理解したから。
そして、思い出したから。
カズヤ君の目を奪い、奪い続け、そしてそれだけでは足りない部分も全部自分のものにする。
――ありがとう、ちょうど飲みたいって思ってたんだ。
その言葉も、私に向けてだけ言ってもらえる様にする。
だからその言葉を貰った女を潰す為に、その行動を監視し、観察し、把握しようとし続けた。
女の存在を意識し、常にどこにいるのかを確認し、何をしているのかを把握する。
それを続けて、過ごした結果。
カズヤ君の目を奪う事を、していない自分がいた。
その事実に意識が飛びそうになる。
女を意識して、カズヤ君を意識してなかった。
女の存在を確認して、カズヤ君の存在を確認してなかった。
女を見ていて――カズヤ君を、見てなかった。
女に集中して――カズヤ君と、話してなかった。
その事実を、理解してしまった。
自分の根幹が、揺らぎそうになっていた。
カズヤ君に私を見て貰い、私もカズヤ君だけを見続ける。
そんな私は、何をしていた?
思考が定まらず、自分という人間が分からなくなる。
私は、どんな人間だったのか。
その答えがぼやけて、思考の中ではっきりとしてくれない。
私は、私は……。
意味も無く流れた涙を止める事も出来ず、ただ茫然と立ち尽くす事しか出来ない。
私は、私は…………。
思考が更に輪郭を消し、境界線の無い様々な何かが心の中で漂い続ける。
そしてそれすらも認識出来なくなりかけた、その時。
――ルビー、落ち着いて。大丈夫……大丈夫だから。
優しい声と共に、頭をその胸元へと抱き寄せられた。
流れ出る涙が、量を増す。
その服を強く握りしめて、言葉にならない声を上げる事しか出来なかった。
――大丈夫、落ち着いて。本当のルビーは今も何も変わってないよ。ずっとルビーの本当も嘘も全部見てきた俺を信じて。
その言葉が、曖昧だった心の中を洗い流す。
その言葉は、私の中に強く残った。
大丈夫、落ち着いて。本当の
そう言ったのだと、思えた。
額を胸元に強く擦り付け、更に大きな声を出す事しか、出来なくなった。
その言葉を中心に、心の中に暖かさが広がる。
こんな私を愛してくれるカズヤ君を、愛してる。
その思いを中心に、思考が戻ってくる。
情けなく縋りついて、カズヤ君に泣き付くだけの私。
こんな私のままじゃ、ダメだ。
漠然と、そんな事を思った。
カズヤ君をずっと見ていると思っていても、気付いたらカズヤ君以外を見ている様なままじゃ……絶対にダメだ。
だから、もっと成長しなきゃ。
――お二人の分、ここに置いておきますね?
――ありがとう。
頭上から聴こえてきた小さな声に、思う。
こんな関係に、なりたいと。
聴こえてきた声に――憧れてしまった。
だから、成長しなきゃない。
カズヤ君を意識するという事は、カズヤ君を意識しない時があるという事。
それじゃ……ダメだ。
カズヤ君を意識しない時があるのなら、それでは不完全なのだから。
なら、どうすればいい。
カズヤ君を意識、出来れば良いのではないか。
例えカズヤ君を意識してない時も、カズヤ君を意識出来れば良い。
まるで矛盾みたいな内容だけど、私の中ではしっくりと来た。
無意識でも常にカズヤ君を意識出来る様になれば、カズヤ君を意識しない時なんて存在しないのだから。
だからこそ、私はそれを目指したい。
そう思えた。
服から両手を離し、カズヤ君の背中へと回す。
強く、強く抱きしめた。
……もう少しだけ。
カズヤ君を意識したかどうかで壊れる自分と決別する為に、もう少しだけこのままでいさせて。
髪を撫でられる感触を得ながら、もう暫く彼の胸に顔を埋めるのだった。
その時の記憶を思い出し、そして思い知らされたのが今日。
今朝起きて部屋から出た私がダイニングに向かうと、ちょうどのタイミングでご飯がテーブルに置かれた。
それを行った人物が私に笑顔で挨拶をしてくる。
カズヤ君は既に仕事に向かったと聞かされ、何故一緒に行かなかったのかと訊ねれば。
――今まで私のやってる事を見ててくれましたんで、そろそろルビーさんに教える頃合いかなと思い、今日からたまに家に残る事にしました。
カズヤさんのご飯とお飲み物は、どのタイミングでどの順番でお渡しするか佐山さんにお伝えしてますので。
佐山さん。カズヤ君のマネージャーの男性。
彼が家に来てカズヤ君が私を紹介した時に、何だか頭痛を堪える様に片手を頭に当ててたのが印象的でよく憶えてる。
それよりも、彼女の言葉に私の眠気が完全に吹き飛んだ。
一緒にいなくても、カズヤ君の状態を予測しているかの様な口ぶり。
それが決して口先八丁では無いと、今までの経験から私に思わせた。
加えて私に、教える。
ずっと意識してたのを気付かれていた。
頃合いという事は、私が一通り彼女がやっている事を知り、把握したのだと判断したに違いない。
……私に気付かれない様に、ずっと私を見てたんだ。
その事実に驚愕し、震える。
私の前に立ちはだかった壁は、途轍もない程に高く、そして厚いのだと改めて理解させられたのだった。
意識を記憶から視界に戻せば、私の事を見ている二人の姿。
えっと、何だったっけ……?
あ、三人の関係か。
フリルちゃんから言われた言葉を思い出し、なるべく正確に伝えようと、脳内で整理する。
「三人の関係はね……」
そう口火を開き、纏めた思考を吐き出した。
「幼い頃から重い病気を患っていた主人公は、病室で同い年だった男の子に会って死の間際に結婚の約束をして一二歳で死んじゃったんだけど、気付いたら数年後の世界で生き返ってて、そのまま大人になってた男性と小学生に上がってから再会したら主人公が死に別れた婚約者だって憶えてくれてた。でも男性には十年以上ほぼ同棲している女性がいて、その女性はありえないくらい男性の事分かってて心の底から尽くしてるんだよね。それと女性は主人公にも男性と同じくらい優しくてさ。その女性を倒さないとクリア出来ないゲームって感じ」
「昼ドラも真っ青な設定すぎん?」
「そのゲームをしないのが、一番のハッピーエンドだよね」
ですよねー。
ってはならないよっ!
「そこを! そこをなんとかっ!」
顔の前で両手を合わせながら、必死に頼み込む。
今の私では、彼女を超える方法が思い浮かばなかった。
何をすれば追い付き、そして追い越せるのか。
どうすればいいのか、何から始めればいいのか、どんなに考えても思い浮かばないから、誰かに聞きたかった。
聞ける人は、目の前の二人しかいなかった。
暗中模索になっている自分に、何でも良いから光が欲しい。
その一心で、二人の意見を望んだ。
「せやかて、想像以上に難易度高くてすぐに思い浮かばんねん」
「もしその設定でドラマにしたとしたら、ちょっと脚本ミスっただけで主役が炎上しそうな内容だし」
二人の言葉に、徐々に懇願の意思が萎んでくる。
他の人から見ても、そんなに難しいんだ……。
そんな思いが胸に重くのしかかる。
諦める事は絶対にしない。
けど、やっぱすぐに行動出来る事を見つけるのも難しいんだって、思ってしまった。
「そのゲームって、選択肢とかで進んでく様なやつ?」
「……え?」
不意にフリルちゃんから声をかけられて、思わず呆けた声を返してしまう。
続けて、声が聴こえた。
「ほら、そういうゲームって選択肢で進めてくのも多いしさ」
彼女の言葉に、その意味を漸く理解する。
同時に、心の中で悲観的な考えが小さくなった様に思えた。
視界に映る表情。
フリルちゃん、みなみちゃんはどっちも、私の話を聞こうと顔を向けてくれていた。
私の相談に、ちゃんと乗ってくれようとしてる。
そんな姿に気持ちが盛り返す。
こんなとこで落ち込む様じゃ、成長出来ない。
だから落ち込むのではなく、落ち込む暇があるなら例え暗中模索でも何かを探し続ける方が良い。
そう心に言い聞かせ、口を開く。
「多分、選択肢は無くて……日頃の行動で結果が変わる感じ、かな」
「多分?」
「た、多分じゃなくて絶対っ!」
「必死やん」
みなみちゃんの鋭い指摘を何とか躱し、言葉を待つ。
二人とも思考に耽る様な仕草を取り、沈黙が訪れた。
やがて、それが破られる。
「……普通に考えたら前世からの婚約者って事で最終的には結ばれそうな気がするんやけど、ゲーム的にはその人を超える何かをしないといけなさそうなんよなぁ」
みなみちゃんの言葉は答えではなく、答えを導く為の情報の整理という感じだった。
「女同士の直接対決はありそうだけど、それまでに何かしてないとダメそうだよね」
続くフリルちゃんの言葉に、思わず目線を逸らした。
女同士の直接対決なのかは分からないけど、それらしい何かは発生した記憶があったから。
……でもあれは、別に私の負けじゃないしっ。
こうしてカズヤ君の家に住んでるんだから、寧ろ勝ちまである。
気圧された……フリをしただけだし。
キッチンに彼女よりも先に到着したのは……話に乗ってあげただけだしっ。
苦い思い出を慌てて思考から追い出し、二人へと意識を戻した。
「やっぱ、そのゲームで出来るんか分からんけど、地道にその人よりも男性と一緒にいる時間を増やすしかないんかなぁ?」
「でもその女の人も気遣いも出来る万能みたいだから、それだけじゃクリア出来ない様になってるかもよ? それって真っ先に試しそうな方法だし」
「そうなんよなぁ……。あっ、例えば何かその女の人の欠点とかを見つけるとかはありそうやんね?」
「それは確かにありそう。他だと、もし他に男の登場人物いるなら、その人をそっちとくっつけるとかかな」
「い、いやぁ、試してみたけど……それらも違った、みたいなっ?」
ゲームではなく現実で、とは口が裂けても言えない……!
一か月間、見続けて……多少の天然ドジという事以外の欠点が見当たらなかった。
そこはかとなく何回かおにいちゃんの事を良く言ってみたけど……微笑ましそうに見られただけで終わった。
「んー、そうなると中々思い浮かばんなぁ」
「まあゲームだし、簡単に思い付きそうなのは徹底的に潰して難易度上げて、特定の条件じゃないとクリア出来なくしてるっぽいね」
……リアルにいる人なんだよなぁ。
そんな感想を抱いた時、閃いた。
頭を悩ませてくれてる二人に、声をかける。
「……もし二人がこの主人公だったら、どうやって倒す?」
その言葉に、二人の目がこちらへと向いた。
「ウチらが主人公やったら……?」
「自分が当事者だったらどうするかって事だよね?」
二人からの返答に、頷きを返す。
そして再び考え込んだ姿を見つめた。
「私だったら、真正面から打ち負かす様にやるかな?」
フリルちゃんの言葉に、顔を向ける。
「オーディションと同じく、私の実力……この場合は愛とかかな、それを見せつけて選んでもらう様にすると思う」
堂々と言ってのける姿は、実にフリルちゃんらしかった。
「ウチの場合は、そうやなぁ……」
声を上げたみなみちゃんへと、フリルちゃんと共に顔を向けた。
「ウチは真正面から打ち負かすみたいな勇気無いし器用でもあらへんから……ウチと居て楽しいなとか、一緒に居たいって思ってもらえる様にそっと寄り添うくらいしか出来へんかもしれんなぁ」
どう寄り添うとか具体的にはでてけぇへんけどね。
そう言って照れくさそうに目を逸らすみなみちゃん。
でも、凄く彼女らしい考え方だなと思った。
二人の意見を聞いて、抱いた感想。
好きな人への接し方やアプローチの仕方は、人によって全然違うんだ。
それぞれの方法にそれぞれ強みと弱みが内包されていて、武器にもなれば弱点にもなるんだと思えた。
こうして人からの話を聞いて、改めて認識し直せた。
そして、思った。
私のアプローチの仕方にも、もし弱点があったならどうするか。
そんなのは無いと、思いたい。
でも、もしも弱点があるんだとしたら、直さないといけない。
じゃないと、カズヤ君と幸せになれないかもしれないから。
そんなの……絶対に嫌だ。
後者以外、ありえない。
だったら、カズヤ君が望む
だったら、どんな
フリルちゃんの様な、みなみちゃんの様な女にも、なれなきゃいけない。
それぞれのアプローチ方法も、出来る様にならなきゃいけない。
何となく、方向性が見えた気がした。
「だから……思うんやけど」
不意に、みなみちゃんが言葉を続けた。
視線を戻して、慌てた様にすぐにまた口を開く。
「い、いや、ゲームじゃもしかしたら出来へんかもやけど、あくまでウチの目線での話やでっ?」
弁明の様な言葉を私達に告げて、そのまま話を続けた。
「主人公は前世からの婚約者で、倒さなきゃいけない女の人は正妻感マシマシやろ?」
正妻じゃない!
その言葉を、寸での所で口から出さずに何とか堪えた。
「……その二人が合わさったら、最強やない?」
みなみちゃんの言葉に、思わず考え込む。
カズヤ君に天使ちゃんと呼ばせてるあの女。
私は、彼女がやっている事を把握し、実践しようとした。
けど、そのせいでカズヤ君を見ないという、ありえない失態を犯してしまった。
あの女がカズヤ君から言われている事を、全て私が言われる様になりたい。
そうすれば、カズヤ君がどこを見てても、私が常にいる様になれる。
だからあの女がやってる事くらい、出来る様にならなくちゃいけないんだ。
カズヤ君を一番愛してる私がどの女よりも、カズヤ君が望む"どの女"にでもなれなきゃいけないんだ。
だから今は巨大に見える壁でも、絶対に越えなきゃない。
あの女がカズヤ君の前から消えたとしても彼が気付かないくらい、あの女にもなれなきゃいけない。
じゃなきゃまた、自滅するかもしれないから。
カズヤ君が、私以外の女にかける言葉が無くなるくらいに。
だからみなみちゃんの言った事は、現状で私の壁として立ちはだかっている課題。
それを越える為に、成長しなきゃない。
どんな女をも寄せ付けない、私になる為に。
「確かに前世からの婚約者で、気遣いも理解も家事も性格も全部完璧で相思相愛だったら、他にどんな女がいても太刀打ち出来ないね。ま、でも……多分ゲームの設定上出来ないよね」
フリルちゃんが言葉を返すと、みなみちゃんはまた慌てた様に口を開いた。
「せ、せやからあくまでウチ自身の考えやでっ?」
みなみちゃんが続ける。
「そりゃゲームやからもしかしたら出来ないんやろうけど、個人的には……"倒す"ってのが、あんま好きやなくて」
その言葉を聞いてから、何故か徐々に鼓動が速まり始めた気がした。
「上手く言葉に出来ないんやけど、倒す以外のやり方があれば、そっちの方がええなって」
「倒す以外って、どんなの?」フリルちゃんが、訊ねた。
「うーん、そこがムズいんやけどねぇ……ウチの勝手な解釈やけど、そんなにもずっと尽くしてくれる優しい女性がいて、そして前世からずっと好きで、生まれ変わって再会してからも一途に思い続けられる男性って……すごく優しい男性なんやろなって思うんよ」
みなみちゃんの言葉に、鼓動の速まりが何故か収まらない。
「せやから、そんな優しい男性から見たら……」
笑みを浮かべたみなみちゃんが、言った。
「二人が仲良くしてくれるんが、一番の幸せなんかなぁって思ったんよ」
言った通りゲームやから出来ないやろうけどね。
そう言って、照れ隠しの様な笑い声を上げた。
「視点の変更をすれば、確かにそうかも……。リアルで考えたら、喧嘩してたり仲が悪い姿って見たくないし、それが自分のせいだったら嫌だしさ」
話を聞いたフリルちゃんが、その言葉を肯定した。
「でも、ゲームだから難しそうだけどね」
「せ、せやからこれはあくまでもウチ個人の考えなんよっ」
そんな二人の話し声が徐々に、鼓動の五月蠅さに搔き消されていく。
みなみちゃんの言葉が、ずっと頭から離れない。
ずっと、ずっと消えずに残り続けている。
それはきっと、その言葉に衝撃を受けたからに違いない。
――二人が仲良くしてくれるんが、一番の幸せなんかなぁって思ったんよ。
他の女を倒さなければ、カズヤ君が幸せになる。
他の女と仲良くする事で、カズヤ君が幸せになる。
カズヤ君の幸せの為に、他の女と仲良くする。
そんなの…………考えた事も無かった。
だって、
結婚するって約束して、それをずっと求めて、絶対に叶えたいんだから。
カズヤ君にちょっかいをかける女は全員、私の敵でしかない。
そう思ってきた。
そう思わないと、いけなかった。
だって、私の運命の人なんだもん。
この世界のどこを探したって、絶対に代わりなんか存在しない人なんだもん。
それが他の人のとこに行ってしまうなんて、絶対に考えられない。
考えたくも無い。
だから、カズヤ君にちょっかいをかける女は全員、私の敵。
だから、"どんな女でも"私がカズヤ君にとっての一番になるって、決めたんだ。
だから、それに向けて成長するって決めたんだ。
カズヤ君が望んだ
そう、決めたんだ。
でもみなみちゃんの一言で、気付かされた。
今の状況で、カズヤ君の事を好きでちょっかいをかける女と仲良くしてと言われたら、私にはそれが出来るのだろうか。
結婚した後なら、幾らでも仲良くしてあげられると思う。
だって、カズヤ君にとっての
でもまだ結婚してないタイミングで、それを求められたのなら。
絶対に嫉妬するし、その女を遠ざけたくなる。
カズヤ君に近付くなと、牽制するかもしれない。
でも。
思考がそこから進まなくなった。
まるでそれ以上、その考えに向かうのを許さないかの様に。
何が、私の思考を止めたのか。
それは――私の本性だった。
私の本性は、変わらない。
弱くて流されやすくて醜い。
だからこそ、カズヤ君を見ていなくてはいけない。
カズヤ君を信じなくてはいけない。
私よりも、カズヤ君を信じなければいけない。
つまり。
後者以外、ありえない。
ならば。
カズヤ君が、求めるかもしれないなら。
カズヤ君が、望むかもしれないのなら。
私は……そんな女にもならなきゃいけない。
そんな女にもなれる様に、成長しなきゃない。
――私のわがままですが、最近お二人の会話が聴けなくて寂しかったので……飲み物をお持ちするまでの間だけで良いので、何か話題でもあればお話しながらお待ちくださいっ。
――今まで私のやってる事を見ててくれましたんで、そろそろルビーさんに教える頃合いかなと思い、今日からたまに家に残る事にしました。
参考に出来る人は、居た。
だったら、見て、把握して、実践して、身につける。
家事とかは味付けとかコーヒー豆の分量等々、覚えきれていない事も多く、何から手をつけていいのか分からない。
でも、仲良くするだったら、感情はどうであれすぐに実践は出来る。
成長しなきゃ、カズヤ君が望む私になれない時があるかもしれないから。
いつでも、カズヤ君が幸せだと思う私でいる為に、自分の感情だって抑えてやる。
カズヤ君にちょっかいをかける女への嫉妬が、カズヤ君への愛よりも大きくていい筈が無いんだから。
絶対に、やり遂げてみせる。
「あ、かなり逸れたけど……結局、ゲームで考えたら何するんがええんやろ?」
「確かに。でもこれ以上は中々思い浮かばないかも」
二人の言葉に、口を開く。
「……ううん、そんな事ない」
私の言葉に、二人は揃って顔を向けた。
そんな二人に、笑顔を浮かべる。
「二人に相談して良かった! これ以上ないくらい参考になったもん! ありがとっ!」
私の言葉に、二人は揃って顔を見合わせた。
やがて、どちらともなくこちらに向き直す。
「なんや、よう分からんけど……」
「解決の糸口が見つかったなら良かったよ」
そう言って、中断していた食事を各々が再開する。
私も笑顔のまま、鞄からお弁当を取り出した。
「そういえば、ここ最近ずっと弁当だよね」
「作って貰ってるんよね? いっつも美味しそうで羨ましいわぁ」
二人の声を聴きながら、包みを開けて蓋を開く。
箱に収められている中から箸で一品摘まみ上げ、口へと運んだ。
自分が信じる自分とは昨日……決別したんだ。
だから、今日からは成長しなきゃいけない。
でも、嘘は絶対に吐きたくない。
とびきりの愛は、本当だけだから。
成長の第一歩。
本当くらい、笑顔で言える様になる。
一品目を咀嚼し、飲み込んだ。
「――うんっ、美味しいっ!」