"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」 作:あるミカンの上にアルミ缶
あぶねぇ……間に合った……!
(間に合ってませんごめんなさい)
寒さが厳しくなり始めた、年の暮れとも言えるこの季節。
俺は今日も今日とて暖かい車の中で悠々自適に移動中なのである。
いやもうホント、前世の様な電車移動なんか全く以て考えられなくなってしまったもんだ。
向かっているのはテレビ局。
早朝に深夜ラジオから帰ってきて、就寝中のルビーと会う事なく爆睡。
そんで午前中も終わりに差し掛かった頃合いに起床し、天使ちゃんが作ってくれたご飯を堪能。
最近は学校の日に自分の弁当を作る様になったルビーのお陰で天使ちゃんもそれなりには寝れる時間を確保出来た事だろう。
まあそれでも俺が起きる前に掃除して飯を作ってくれてるから、一生頭が上がらないのだが。
それでもって僅かに天使ちゃんとまったりしてれば、佐山さんが迎えに来た。
少しばかり早い時間に来てくれるので、佐山さんにもコーヒーを出して三人で軽くブレイク。
天使ちゃんが洗い物を済ませてくれた所でいよいよ出勤と相成ったのである。
今日の予定は、前日よりも全然マシなもの。
いやもう、実質休みみたいな感じよな。
午後から一本、映画の番宣でバラエティー番組に出演。
そして夕方からは二本、CMの撮影が入っているのみ。
夜にはなれども、決して遅くない時間帯には家に帰れる予定だ。
三人で雑談しながら移動を続けていれば、テレビ局に到着。
そんで局のお偉いさんを筆頭に多くの人間が入り口で俺を待っており、関係者入り口に入れば平身低頭で挨拶をされて、そのまま楽屋へと案内される。
楽屋はかなり広く、俺と佐山さんに天使ちゃんだけじゃ到底使いきれないスペース。
重厚なソファに腰掛ければ、局のお偉いさんが二人、テーブル越しのソファに腰掛けた。
そして互いに目配せして、やがて一人が口を開く。
「カズヤさん、本日は弊局の番組にご出演いただきありがとうございます」
その言葉に「いえいえー」と軽く返せば、安堵の息を漏らされた。解せぬ。
まあ、解せるんだけどさ。
再び、お偉いさんが口を開いた。
「それで……宜しければ、是非ともご相談がありまして」
その言葉に「どぞー」と軽く返せば、安堵の息を漏らされた。解せぬ。
……まあ、解せるんだけどさ。
「来期から、局の威信を賭けた新番組を行う事となりまして……自信を持ってお送り出来る番組になる事間違いなしですので…………そこで、是非ともカズヤさんのお力もお借り出来ればと、思っていた次第です」
その言葉に、僅かに逡巡。
お偉いさん達が、その後ろで白い巨塔の様に並び立つ人達が、固唾を呑むのが分かった。
やがて、考えを纏めて口を開く。
「んじゃ、いつも通り監督に企画書見せて判断してもらってください。監督が良いなら俺も良いよーって事で進めてもらえば」
俺の言葉に、眼前に映る全員の表情が輝いた。
「おお! ありがとうございます! ではその様に取り計らわせていただきます!」
その言葉を筆頭に「流石はカズヤさんだ!」「今後ともうちではカズヤさんに最大限の配慮をさせていただきます!」「やはり懐の広さでカズヤさんの右に出る者はいませんな!」「カズヤさんのその度量の広さを我々も学ばせていただきつつ、今後とも良好な関係を築いていきたい所存です!」等々、聖徳太子でも聞き分けが無理ゲーなヨイショの嵐。
そのまま口々に感謝を述べながら徐々に部屋を後にし、最後に残ったお偉いさんが「いつも通り外に局員を置いておきますので、もし何かありましたらその者に申し付けて頂ければ」と告げて、部屋を出て行った。
まあ、あのまま居られても話す内容無かったし、相変わらず去り際の判断は素晴らしいと言える。
三人だけになった楽屋。
俺の後ろに立つ二人に声をかける。
「そんな感じで、いつも通りよろしくね佐山さん。あと天使ちゃん」
言葉を続ける前に、横から手が伸びてくる。
その手に持っていたのは、コーヒーの匂いが漂うカップ。
「どうぞっ、カズヤさん」
その言葉と共に、テーブルへと置かれたのだった。
「ありがとー」
そう返せばニコリと微笑みを返され、カップを持ち上げてコーヒーを飲む。
うむ、これぞ天使ちゃんクオリティ。
今飲みたいと思っていた濃さと、その量。
実に素晴らしい。
カップをテーブルに戻し、スマホを出そうとすれば。
「収録は一〇分後だから、近くなったらまた言うよ」
その必要がなくなった。
これぞ、佐山クオリティ。
背凭れに身を預けてリラックスする。
それを見て二人も動き出し、先程までお偉いさん方が座っていたソファへと腰掛けたのだった。
お偉いさん達が言ってた、お願い事。
俺に力を貸してもらいたいと言った、その真意。
それは俺がその新番組に出て欲しいという訳ではない。
その後ろ側の、テレビ局にとっては絶対に欠かせない、重要な存在。
スポンサー。
その提供を、俺に打診してきたのだった。
何故スポンサーを獲得するのに、
理由は、俺が良いよと言えば基本的に、その他が全部許可するから。
けれど何でもかんでも許可を出してたら、俺を贔屓してくれてるスポンサーが損をするかもしれない。
だから人気が出る番組かのジャッジを、スポンサーを入れても問題無いかのジャッジを監督に任せる事にしてた。
当初、こういった話が局からされる様になった時、一度保留にして監督に相談した。
どう思うっすか、って。
そしたら監督の方から、だったら新番組の企画書を俺に見せる様に言ってくれればそこでスポンサーを出すに相応しい番組か判断するよって言ってくれたんで、それに全乗っかりした訳だ。
よって今ではどの局でも同じ対応で、監督にお願いしてる。
もう何度目か分からない局の威信でも、俺の答えは変わらない。
局側としても、俺を通さずに監督へと企画書を見せてスポンサー集めしようとしたが監督から、カズヤの許可を得てないならそもそも話にならないというお叱りを受けたらしく、こうして俺がテレビ局へと赴いた際はどこでも大名行列が出来る様になってしまった。
俺としてはこっちの許可なんか基本全スルーで通るからいらなくねと思うが、監督曰く形式だけはしっかりと整えておかないと相手がつけ上がると言うんで、その言葉を信頼したのだ。
佐山さんがまだ何も言わないという事は、まだ移動時間では無いという事。
スマホで何やらメッセージを送っているその姿は、恐らく監督へと先程の件を連絡してるんだと思えた。
天使ちゃんは俺の方を見ながらニコニコとしてる。
手持ち無沙汰になったので、何となく口を開く。
「そういやこの番組って、どんな感じでやればいいんだっけ?」
訊ねたのは、これから始まる収録の内容。
本来は番組のスタッフからその説明を事前に受けるんだろうが、その仕事は全て佐山さんに任されている。
過去に一度、番組の説明に来たディレクターが緊張かでかなりしどろもどろになり、俺としてはどーどー落ち着きなさいなって感じだけど、佐山さんはそうではなかったらしい。
気付けば佐山さんから説明を受ける様になっていた。
俺の言葉に、佐山さんが顔を上げる。
「まあいつも通りの雛壇があって、その反対側に特別ゲストって形でカズヤ君達が座る感じだね」
基本的に映画の事について訊かれるからそれに答えればいいよ。
その端的な説明に全てを把握。
だが、疑問が浮かんだ。
「俺以外にも映画に出てる誰か来んの?」
今までの番宣は俺一人だけの出演ばかりで、他に同じ作品の番宣で共に出たゲストはいなかった。
俺の疑問に佐山さんが答える。
「いや、映画の番宣はカズヤ君だけだよ。もうすぐ年の暮れだし特番も増えるから、特番ドラマの番宣も一緒にやるんだってさ」
彼の言葉に納得。
なるほど、確かに何度か複数の番宣を一緒に行う番組にお邪魔した事はある。
それと同じかと考えれば、疑問が完全に解消された。
「そのドラマから来るのは……アイさんらしいよ?」
その言葉に、新たな問題が出た。
いや、別にアイとの共演がマズイ訳じゃない。
佐山さんに頼んで施行してもらった彼女との共演NGは、既に廃止してる。
アイが徐々に落ち着いて来たのが分かったから。
だから別に問題はない。
でも、ただ。
気まずさがあっただけ。
共演NGを解いてから結局、一度も共演をしてない。
そして何より。
星野家で起きたあの一件。
それ以来、アイとは連絡を取っていない。
決して連絡したくなかった訳ではなく、彼女からの連絡があれば普通に返すつもりではいた。
けれども俺から連絡して何か状況を悪化させてしまう事を恐れ、こちらからは連絡が送れず仕舞いだった訳だ。
あの状況下でアイが見せた、我が子への愛を信じる事にしたから。
だから彼女を信じた俺から連絡するのは、やめておこうと思っていた。
アイにもし何かあればそれは俺に向けられる。
今までずっと見てきたアイの姿を信じて。
だから会うのも話すのも、数か月ぶり。
こんなにも一切の接触を絶ったのは、アイの引退ライブの時以来だろう。
だが以前とは違い、嫌われて離れた訳じゃ無い。
故に勝手が分からなかった。
「そろそろスタジオに向かおうか」
佐山さんの声に、思考の海へと深く潜っていた意識が浮上した。
立ち上がった彼の姿を見て、俺もまたソファから立ち上がる。
天使ちゃんはこのまま楽屋にいるのだ。
何でも、収録が終わってすぐにコーヒーを俺に出したいから。
そして収録現場にいると、中には彼女の容姿からちょっかいをかけてくる人も稀にいるので、三人で話し合ってそう決めた。
頑張ってくださいと笑顔で声援をくれる彼女に笑みを返し、楽屋を出る。
そう遠くない道中だが、その中で佐山さんから動きのタイミングなどを説明される。
彼の説明にかかればこんな短時間で十分理解出来るのだ。
スタジオに入ればディレクターが駆け寄ってきて、セット裏に案内される。
そこで佐山さんとは別れて、ディレクターへと着いて行くのだった。
「音楽が鳴りましたらお待ち頂いている正面の扉が開きますので、そこでスタッフがまた案内するんでそのタイミングで扉から出て頂ければ大丈夫です」
ディレクターがそう言って手を伸ばした方向。
そちらへと顔を向けると。
「あっ、カズヤさん! お久しぶりですっ!」
俺が待機する位置の横に立つ、アイの姿があった。
明るい笑顔で、こちらに顔を向けている。
ディレクターが「スタッフが来るまでお待ちください」と言って、その場を離れていく。
足を進め、彼女の隣に立つ。
他に誰も居ない、二人だけの空間。
「……久しぶり、アイ」
正面の扉を見ながら、口を開いた。
隣から、声が聴こえる。
「カズヤは、元気にしてた?」
明るいその声に「元気だったよ。そっちはどう?」と返せば「私も元気にしてたよっ」と明るく返される。
僅かな沈黙。
やがて、重い口を開いた。
「…………ルビーも、こっちで元気に暮らしてるよ」
緊張に、微かに声が震える。
けれど、言った。
言ってしまったとも、言えるかもしれない。
しかし、その言葉を伝えた。
再び、僅かな沈黙。
やがて。
「そっかっ。迷惑をかけてるかもだけど、ルビーの事よろしくねっ」
俺の中に、微かな違和感が生まれた。
何かは、分からない。
けれどどこか、違和感を覚えた。
「……分かった。今はもうルビーも落ち着いてるだろうし、もしまだ連絡してないなら、ルビーと話をしても大丈夫だとは思うよ」
俺の言葉にアイは「んー」と何かを考える様な声を漏らした。
やがて、俺に向けて声を届ける。
「今はルビーの好きな様にさせてあげたいし、もしルビーが帰ってきたり話がしたいって言ってくれたら、話そっかなって思ってるんだ」
優し気な声で告げた彼女の言葉。
やはり、違和感は消えなかった。
けれども分からない違和感の正体。
だから、俺が言える事は。
「……なるほどなぁ」
それだけだった。
俺の相槌に、アイが微かに笑う。
「なにそれっ、カズヤは昔から変わんないなぁ」
急なディスやめて。
……でもまあ。
「これが、俺クオリティなんで」
「確かにっ」
気まずいと思っていた心境は、消えた様だった。
番組スタッフが俺達の下に駆け寄ってくる。
そして扉の向こうから音楽が鳴り響く。
「ではお願いします!」
その言葉が掛けられて、二人で頷きを返した。
開かれる扉。
鳴り響く拍手。
二人揃って笑顔で扉を潜れば、MCの男性に紹介をされた後、指定された席へと促されて座る。
俺の隣に座る、アイ。
そして番組は進み始める。
何気無いMCと雛壇に座る人達とのやり取り。
それが笑いに変わる。
盛り上がりを見せる中、ゲストへの質問がされる。
MCの男性が俺達へと顔を向けた。
「ご出演される映画とドラマはどちらも愛がテーマの一つとの事ですがゲストのお二人は、ご自身の恋愛観などはどの様に考えられてますか?」
その言葉に、微かに目線を動かす。
カメラの奥にいる佐山さんへと。
彼の少し後ろに立っている金髪のいかつめな男性は、どこかで見た記憶があった。
佐山さんが微かに頷いたのが見える。
なるほど、俺の自由で良いのね。
「どちらも非常に人気でおモテになるとは思いますがまだご結婚はされてないという事で、例えばこんな異性がタイプやこういった事をしてくれる異性に惹かれるといったものは何かあったりするんですか?」
佐山さんから聞かされていない質問内容。
けれども映画に絡めているから、佐山さんとしても答えて問題無いと判断したんだろう。
MCの質問に、頭の中で考えを巡らす。
その時、隣から声が聴こえた。
「そうですね、私はただ一緒に居てくれる人だったら良いなって思います」
その言葉に、自然と顔を向けてしまった。
視界の端に映った金髪のいかつめな男性が頭を抱えているのが見える。
「ほほう。一緒に居てくれるっていうのは、例えばどういう時に一緒に居てくれると良いなって思われるんですか?」
MCの質問に、アイが返す。
「んー……分かんないかもっ!」
その言葉に、MCを始め雛壇に座る面々が勢い良く床へと転がるのだった。
何とか立ち上がったMCが口を開く。
「そっか、分かんないかぁ……でも可愛いから許さざるを得ない」
そんな感想を述べたMCに雛壇の面々が彼に向けて非難を浴びせるのだった。
おいこっちの時とは態度が違いすぎるぞ。
俺達にはもっと詰めてくるだろ。
その様な声をMCは目を瞑りながら手を仰ぐ事で受け流す。
そして、雛壇に向けて告げた。
「だってお前ら、可愛くないし」
再び雛壇が騒がしくなったが、MCは後ろ手を振る事でスルー。
こちらへと顔を向け直した彼が、俺を見た。
「カズヤさんも何か思いつくものってありますか?」
その言葉に、暫しの逡巡。
異性に求めるもの。
正直に言えば、無い。
でも、強いて言えば……。
「幸せそうに笑ってくれたら、嬉しいですね」
俺の言葉にMCはどこか感嘆とした声を溢し、雛壇の面々はどこかオーバーリアクション気味に思い思いの言葉を連ねていく。
これが、俺達との差か……!
やっぱりイケメンは心までイケメンで出来てるのかよ!
……まあ、俺もおんなじ事考えてたし!
嘘つけ! お前こないだブスお断りって言ってただろ!
おまっ、それを言うんじゃねえよ!
そんな声をMCが静める。
「お前らの醜さだけがどんどん出てくるんで静かにしてくださーい」
彼の言葉に雛壇からの矛先が再びMCへと向いた。
それを受け流し、ツッコミをしながら再び俺達へと顔を向ける。
「一緒に居てくれる、幸せそうに笑ってくれたら嬉しいと仰って頂きましたが、例えば、そうですねぇ……お二方はそれぞれ、お互いの事をどの様に思っているとかはありますか? 昔から色々と共演もなさってるという事なので、お互いがそれぞれどんな印象かだけ、教えて頂いてもよろしいですか?」
これは、映画の内容とは絡まない質問。
けれども先程の佐山さんの頷きからすれば、どんな質問でも俺の判断で答えて良いという事。
ならば特段困る内容でも無いので、普通に答える。
「アイさんは、演技も素晴らしく現場の雰囲気を明るくしてくれたりもするんで、見習わなきゃいけない部分も多い尊敬出来る人ですね」
当たり障りの無い、回答。
けれども嘘を含んではいない、回答。
「ほほう。ではアイさんは、カズヤさんにどんな印象をお持ちです?」
俺の言葉に頷き、MCの男性がアイへと顔を向けた。
自然と俺も顔を向け、彼女の言葉を待つ。
何やら考えているアイ。
やがて俺へと顔を向けた。
その笑みのまま、MCへと顔を向け直す。
「昔からの、お友達って感じですねっ」
その言葉にMCが僅かに驚いた様な声を上げる。
「お友達、ですか。具体的にはどの様な?」
笑顔のアイが、答える。
「小さい頃から共演したりしてたんで、同い年ですし仲の良いお友達って気がしますっ」
「確かに、CMでしたっけ? お二人が幼い頃に最初に共演したのって」
「はいっ。そこから度々共演してたんで私の中では友達って感じでしたっ」
「あー、一緒に成長してる様に思えますもんね。じゃあアイさんからしたら、カズヤさんは最早幼馴染みたいな感じだ」
「あっ、そうかもっ、幼馴染みたいな感じかなっ?」
アイとMCの言葉をただただ聞き続ける。
「そうなると、美男美女の幼馴染! こっちからすると正にお似合いの二人って感じがしますね!」
「私が勝手に思ってるだけですけどねっ?」
「いやいや! 私から見ても確かにと思わされましたよ。もしもお二人が将来ゴールインとかなれば、日本全国で祝福の嵐になっちゃうんじゃないですか?」
「いえいえっ、カズヤさんにはもっと素晴らしい女の人がお似合いですよ!」
「そんな事無いですよ! こうして一緒に並んでるとお似合いだなあって思いますもん!」
「あははー、じゃっ、私も頑張っちゃおっかなっ?」
「やめてッ! 俺の初恋を奪うのだけは!」
「黙れ既婚者が! 俺が今アイさんと会話に花を咲かせてる途中でしょうが!」
「横暴だー! 誰かこのMCを引きずりおろせ!」
「やかましい! ここでは俺がルールなんだよ!」
会話が笑いへと変わり、番組として成り立っていく。
その後は恙なく進行し、互いの番宣を締めに収録が終わった。
スタッフ達から挨拶をされながら、佐山さんと合流してスタジオを後にする。
視界の端では金髪のいかつめな男性がアイに何やら説教しているのが見えた。
通路を抜けて、楽屋に戻る。
「あっ、お疲れ様ですカズヤさんっ」
笑顔で労をねぎらってくれた天使ちゃんに言葉を返しソファに座り直せば、すぐにカップがテーブルに置かれた。
礼を述べてコーヒーを飲む。
正面に座る二人も紅茶やコーヒーを飲んで小休憩。
その後は楽屋の外で待ってたお偉いさん達を引き連れて、出口までの大名行列。
三人で車に乗り込み、テレビ局を後にした。
そのままCMの撮影現場へと赴き、俺の口からも改めて監督へとテレビ局での話を伝えれば相変わらずの笑みで了承してくれた。
全ての仕事を終えて、車に乗り込む。
時刻は一八時。
ちょうど夕飯時には帰れると思いながら、すっかりと夜の帳が降りた街並みを眺める。
都会のビル群を駆け抜ける車内は無言。
けれども息苦しいという訳ではなく、ただ会話の無い時間だった。
そこで、改めて振り返る。
番組の収録を。
そこでの内容を。
そこでの発言を。
何故かは分からない。
けれども今この時にも、ずっと消えない。
アイの言動への違和感が、頭の中に残り続けていた。
だが幾ら考えども、違和感が何となくある。
その結論で終わってしまう。
その先を具体化出来ないのは、暫くアイと接していなかったからなのか。
はたまた、俺の知らないアイがあったからなのか。
考えても仕方ない。
違和感だけを頭に残しつつ、ルビーが待つ家へと帰るのだった。