"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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すっかりと遅くなってしまったのをしれっと問題無く投稿出来てます風に見せる……正に、ゲスの極み……!
(遅れてしまい、ほんっとうに申し訳ありません……!)






第174話

 一日目の撮影が終わり、宿泊先の旅館。

 未成年組は先に取り終えて早めに解散になったけど、未成年組じゃないMEMちょのパートだけは二二時からの撮影になっていた。

 宿に行って温泉に入り、部屋でゆっくりとしてる。

 広々とした和室。

 布団に入って、ただじっと、天井を見つめていた。

 頭の中に浮かぶのは、二つだけ。

 輝く。

 幸せ。

 この二つにまつわる思考が、延々と繰り返されていた。

 輝く。

 幸せ。

 ずっと、じっと考え続けて、徐々に僅かながらも輪郭が形成されてきた。

 何が幸せで、どう輝けばいいのか。

 静寂の室内で、ただ一人で考え続ける。

 その形が、段々と見えてくる様な気がした。

 不意に、扉が開く音がする。

 そして徐々に近付いてくる足音。

 やがて、襖が静かに開かれた。

 その人物が、私を見る。

 

「あれ、ルビー……まだ起きてたんだ」

 

 温泉から戻ってきたMEMちょ。

 浴衣に身を包んだ彼女が、驚いた様に私を見ていた。

 私が、今日はMEMちょと同じ部屋がいいと言って、決まった部屋の割り当て。

 かな先輩はミヤコさんと一緒の部屋。

 MEMちょが旅館に到着したのは、一時間くらい前。

 既に日付は回っており、疲れた様子で部屋に入ってきたのだった。

 そこでも同じ反応を示したMEMちょ。

 だらしない様子を見せたと思ったからなのか、苦笑をしながら置いた荷物を漁り「私、温泉入ると長いから先に寝ててー」なんて言いながら足早に部屋を後にしたのだった。

 そんな彼女が戻ってくるのを、私は待ってた。

 MEMちょが、温泉に持って行った荷物を置いて、私を見る。

 

「遅くなっちゃってごめんねぇ。けど、もう遅いし明日いっぱい話そっか」

 

 朝も早いからねぇ。

 申し訳なさそうな顔でそう言って歯ブラシや美容品などを取り出し、部屋を出て洗面所へと向かった。

 そんな彼女を見やり目を瞑ってみるが、やはり眠気はない。

 結局、MEMちょが戻ってくるまで、寝る事はなかった。

 また部屋に入ってきた彼女が私を見て、やがて苦笑を浮かべるのだった。

 

「電気、暗くするね?」

 

 その言葉に頷きを返せば、MEMちょは床に置かれている間接照明を点けて、天井の灯りを消す。

 薄暗くなった室内。

 間接照明の仄かな暖色だけが、室内に広がるのみ。

 私の横に敷かれていた布団に、MEMちょが入る。

 そしてこちらへと、身体を向けてくれた。

 

「そんで、ルビーはどんな話がしたいの?」

 

 話したくてずっと起きてたんでしょ?

 MEMちょの言葉に、小さく頷いた。

 そんな私を見て、MEMちょは小さく微笑んでくれる。

 だから、静かに口を開いた。

 

「……MEMちょは、好きな人いる?」

 

「……へっ?」

 

 私の言葉に、MEMちょが呆けた様な顔に変わった。

 そんな姿を、ただただ見つめる。

 やがて、我に返ったMEMちょ。

 

「あ、あぁっ、す、好きな人ねぇ……」

 

 どこか慌てた様な早口で私に返し、やがて溜息を吐いた。

 そんな彼女に、小さく頷きを返す。

 私の反応にMEMちょは苦笑を浮かべた。

 

「あはは……残念だけどいないんだなぁ、これがっ」

 

 ご期待に沿えなくてごめんねぇ。と、申し訳なさそうな表情で締めた。

 そんな彼女に、小さく口を開く。

 

「……ほんと?」

 

 私の言葉に、再びの苦笑。

 

「ほんとほんとっ! このMEMちょ、男っ気ナシで有名なんだよぉ?」

 

 そんな彼女に、小さく口を開く。

 

「……ほんと?」

 

「えっ? いや、うんっ、ホントだよ! 今の私はアイドル一筋! 他のことなんて考えられないからねっ」

 

「……ほんと?」

 

「うんっ、ホントだよぉ?」

 

「……ほんと?」

 

「うん、ホントだよ」

 

「……ほんと?」

 

「……うん、ホントだよ」

 

「……ほんと?」

 

「…………まぁ、気になるかなって人は……いるけど……」

 

 彼女の言葉に、口を開く。

 

「……その人に、アプローチしないの?」

 

 そう告げれば、彼女は私から顔を逸らして天井を向く様に身体を動かした。

 その横顔はどこか、優しく微笑んでいる様に見える。

 

「……しないよ。だってその人の事を好きな人がいるしさ。そっちを応援したいって気持ちの方が、強いからね」

 

 呟く様に言った彼女の言葉。

 それを聞いて、僅かに考え込む。

 そんな私に、再び声が届いた。

 

「……それに、その人も……そっちの女の子が好きなんだと思うんだ」

 

 だから邪魔したくないってのが一番かなぁ。

 どこか認める様に、諦める様に、自分に言い聞かせる様に思えた言葉。

 気付けば、口を開いている私がいた。

 

「……MEMちょはホントに、それでいいの?」

 

 その言葉に、苦笑が返ってくる。

 

「いいのいいのっ、私は若い子たちが恋愛して、青春してるの見てるのが楽しいから」

 

 どこか境界線を作っている様なMEMちょの言葉。

 それが何だか、気に食わなかった。

 彼女へと口を開く。

 

「確かに……あと数年したらMEMちょも、三十路だもんね」

 

 私の言葉に「ぐふぅっ!」という何かを吐き出した様な音が聴こえた。

 その発生源であるMEMちょが、勢いよくこちらへと顔を向ける。

 

「ま、まだっ、五年ッ! まだ五年も猶予あるから!」

 

「でも、あと五年で三十路になっちゃう!」

 

「ぐぶはぁッ!」

 

 何故かMEMちょが血反吐を吐いた様な錯覚を覚えた。

 満身創痍にも思える彼女が、息も絶え絶えに口を開く。

 

「……そ、それでもっ! 例えそうだとしてもっ! こちとら現役JKでやってるんだよぉ! 誰が何と言おうと三十路には徹底的に抵抗してやるぅッ!」

 

 心からの叫びを向けてくるMEMちょに、静かに言葉を返す。

 

「……そうだよ」

 

「……えっ?」

 

 私の呟きに、MEMちょがきょとんとした。

 構わずに続ける。

 

「MEMちょが何歳だったとしても、B小町に入ってって……きっと私は言ったと思う」

 

 呆然と見つめる彼女に、続ける。

 

「それは年齢とか全然関係なくて……MEMちょだから、一緒にアイドルをやりたいって思ったんだ」

 

 私の話を、無言で聞いているMEMちょ。

 

 

「だからっ、私はMEMちょに何歳だからって……年齢を理由に夢を諦める事は、絶対にして欲しくないっ」

 

 

 私の言葉に、彼女の目が見開かれた。

 そんな彼女に、笑みを浮かべる。

 

「普段は仲良し、でもステージに立ったら全員で輝きを競い合う……それが、"B小町(私たち)"でしょっ?」

 

 驚いた表情のMEMちょを見つめる。

 そして告げた。

 

「蹴落とす必要はないよ。正面から堂々と"私を見ろ!"って、後悔しないくらい全力でぶつかるのが、私は良いと思うんだ……アイドルも、恋も」

 

 これは、人からの受け売り。

 以前、フリルちゃんが言ってた事。

 でもやっぱり、それが良いって思った。

 遠慮するんじゃない、引くんじゃない。

 仲が良くても全力でぶつかる。

 全力でぶつかり合えば、後悔なんてない。

 後悔しない為にも、全力で輝く。

 全力で輝いて……その目を奪うんだから。

 その心を、奪うんだから。

 それが――アイドル(私たち)だもん。

 暫く固まっていたMEMちょが、やがて小さく息を吐いた。

 私から顔を逸らし、天井を見上げる。

 やがて、聴こえた。

 

「…………中々、酷なこと言うなぁ、ルビーは」

 

 その呟きに、笑顔のままで答える。

 

「出来る出来ないじゃない、MEMちょならやれるんだよ。だって……私が認めた"B小町(アイドル)"なんだからっ!」

 

 私の言葉に、返事は無い。

 やがて、MEMちょは身体を動かして、私に背中を向けてしまった。

 けれど。

 

「……あーあっ、こんなんならルビーと同じ部屋にしなきゃよかった!」

 

 背中越しに聴こえた声。

 僅かな沈黙。

 やがて、再び聴こえた。

 

 

「……もぉ……明日会ったら……諦められなくなっちゃうじゃん……」

 

 

 微かな呟き。

 そして重ねる様に「子どもなんだからさっさと寝なさいっ!」とどこか慌てた口調で告げ、静かになった。

 その姿を見て、心が暖かくなる。

 やっぱり、諦めて欲しくない。

 幸せに、輝いて欲しい。

 そんな思いが、改めて心の中に湧いた。

 蹴落とすとか、キライになるとか、そんな事は考えずにただ輝いて欲しい。

 幸せになって欲しい。

 そう思えた。

 だから先輩も、MEMちょも、ただ輝いて幸せになって欲しい。

 

 

 "キライ"になるのは、私だけでいい。

 

 

 静かに、天井へと身体を向け直す。

 私の幸せ、輝き。

 その事をずっと考えてきた。

 ずっと、考え続けてきた。

 私がもっと輝くにはどうしたらいいのか。

 私が幸せと思えるには、どうしたらいいのか。

 そんな事をずっと、考え続けていた。

 何日も、何日も。

 私にとっての幸せは、段々と固まってきた。

 なら、私がもっと輝くには、何をすればいいのか。

 それを考えていた。

 そして今日、MEMちょの帰りを待っている間。

 布団の中でも、考えていた。

 その時。

 ふと、脳裏に思い浮かんだ言葉。

 

 

 

 

 ――――俺の事を好きなんて気持ちがなくなれば、ルビーはきっと誰よりも輝くアイドルになれるよ。

 

 

 

 

 誰かに……そう、言われた気がする。

 誰かは、思い出せない。

 思い出そうとすると、それを拒む様に私の中の何かが邪魔をして、鮮明になってくれない。

 ぼやけたシルエットでしか、映し出してくれない。

 けれど。

 それを思い出す度に、何故か心に"キライ"という感情が湧き上がる。

 何故かは、分からない。

 何かは、分からない。

 でも、同時に思う。

 私はアイドルとして、輝けるんだって。

 どうすればもっと、輝けるのか。

 

 ――――俺の事を好きなんて気持ちがなくなれば、ルビーはきっと誰よりも輝くアイドルになれるよ。

 

 そうなんだね。

 私がもっと、アイドルとして輝く方法。

 

 

 "キライ"になれば、誰よりも輝くアイドルになれるんだ。

 

 

 じゃあ、誰がキライなの?

 私は誰が一番、キライなの?

 ママが前に、私が帰ってきた時に言ってた……カズヤさん?

 ……ううん、違う。

 だってカズヤさんは別に、キライじゃない。

 

 

 ただ、"好き"っていう気持ちがないだけだもん。

 

 

 だからあの時、ビックリした。

 何故か私がカズヤさんの家で暮らしてて、家に帰るってなった時。

 あの時にカズヤさんの事をどう思ってるか訊かれて。

 それでカズヤさんの事を"キライ"って言った自分に、ビックリした。

 なんで"キライ"って言ったのか、分からなかった。

 家に帰って普通の生活に戻って、落ち着いてきた頃。

 その時に改めてカズヤさんの事を思い返しても別にキライにはならなかった。

 ただ、好きでもないってだけ。

 ならなんであの時"キライ"って言ったんだろ?

 それをずっと考えてた。

 ずっと、考え続けてきた。

 考えに考えて……やがて。

 自分でも理解出来ない、"キライ"。

 それは、カズヤさんに対してじゃない。

 その謎の"言葉"が浮かんだ事で、"キライ"って言ったのかもしれない。

 なら何故か私の中に残り続けるその"言葉"で出てきてしまう"キライ"。

 その、"キライ"という事が、何かに大切なんじゃないかって思えてきた。

 だって、"キライ"が私の中に生まれる様になってから……前よりもアイドルに向き合えて、集中出来ている様に思っちゃうんだもん。

 だから、私がアイドルとしてもっと成長出来るには、輝けるには。

 "キライ"が、必要なんじゃないかって、気付いた。

 誰かから言われた言葉。

 そこで、言われた内容。

 

 俺の事を好きなんて気持ちがなくなれば、ルビーはきっと誰よりも輝くアイドルになれるよ。

 

 "キライ"が、大切。

 私がきっと誰よりも輝くアイドルになれる。

 この二つが、必要なんじゃないかって思えた。

 私がアイドルとして輝く為に、必要な事。

 

 俺の事を"キライ"になれば、ルビーはきっと誰よりも輝くアイドルになれるよ。

 

 そうだと、思えた。

 誰かを"キライ"になれば、それを隠している()はもっと輝ける。

 大事な何かを隠すから、輝けるのかもしれない。

 アイ(ママ)だって、私たちの事を隠してたんだもん。

 ならきっとこれが、正しいって思えた。

 じゃあ私は……誰が"キライ"なんだろ。

 カズヤさんは? 嫌いじゃない。

 好きでないだけ。

 だから私にカズヤさんの話をされたら、何で私に言うんだろって思うだけだもん。

 じゃあ、"キライ"はカズヤさんじゃない。

 なら私が"キライ"って思える人って、誰かいるのかな?

 キライって事は、その人の事を悪く思ってるって事だよね。

 キライって事は、その人の事を見たくも無いって事だよね。

 キライって事は、その人の事を苛立つって事だよね。

 キライって事は、その人の事を憎んでるって事だよね。

 キライって事は、その人の事を許さないって事だよね。

 

 

 

 

 私とおにいちゃんの、父親だ。

 

 

 

 

 アイ(ママ)を殺そうとしてるんだよ?

 私の母親を殺そうとしてるんだよ?

 家族を殺そうとしてるんだよ?

 幸せを、壊そうとしてるんだよ?

 

 そんなの、絶対に許せないよね?

 

 なら、その人の事を私は絶対に嫌える。

 ううん、嫌うだけじゃない。

 

 絶対に殺してやる。

 

 私のママを奪うなら、私の幸せを奪うのなら。

 こっちだって、奪ってもいいよね?

 ママの命を狙ってるんだもん。

 なら、私が殺したって文句ないよね?

 私、そんなの我慢出来ないもん。

 だって私は――"悪くない"もん。

 ママがいなくなるなんてさ。

 だってそんなの絶対に、許せないもん。

 だから、許さない。

 どんな手を使っても必ず見つけ出す。

 僅かに顔を動かし、向きを変える。

 そこに映っているのは、こちらに背を向けて寝ている、MEMちょの姿。

 彼女の後ろ姿を見ながら、心の中で呟く。

 

 

 MEMちょが好きなのって……おにいちゃんだよね?

 

 

 何となく、そうなのかなって思ってた。

 そんなに頻繁じゃないけど、事務所でおにいちゃんの姿を目で追ってるのも何回か見てる。

 それに、MEMちょがうちの事務所に入ってB小町のメンバーになったのも、おにいちゃんのお陰。

 おにいちゃんがMEMちょの、アイドルになりたかったけどなれなかったっていう言葉で誘ったんだもん。

 事務所に来たMEMちょは、どんな過去があって、アイドルになるのを諦めたのかを私たちに教えてくれた。

 小さい頃からアイドルになるのが夢だったMEMちょ。

 母子家庭で下の子がいるから諦めそうになったMEMちょにお母さんが応援して、背中を押してくれて、オーディションに参加する様になった。

 けど高校三年生の時、応援してくれてたお母さんが入院してしまった事で、下の子達を大学に行かせたいという気持ちで大手のオーディションも辞退、高校も休学して働きだした。

 ガールズバーとかでも働いて必死にお金を稼いで、その甲斐あって下の子達も大学に行けて、更には入院してたお母さんも元気になった。

 

 でもその時、MEMちょは二三歳になってた。

 

 アイドルのオーディションはほぼ全てが応募要項に"満二〇歳までの女の子"と書かれており、再びアイドルを目指す環境が整ったMEMちょだったけど、年齢という条件だけで目指せなくなっていた。

 それで持て余すだけになった情熱を活かして配信をし始めて、今に至る。

 現役JKと謳っていて、実年齢を聞いた時は流石のおにいちゃんも叫び声を上げていた。

 でも、そんな彼女でも。

 ……ううん、そんな彼女だからこそ、一緒にやりたかったんだ。

 そんなMEMちょを誘ったのはおにいちゃん。

 実年齢を知らないで誘ったとはいえ、知っても一切反対しなかったおにいちゃん。

 多分おにいちゃんも、私と同じ気持ちだったんだと思う。

 アイドルになりたくてもなれなかったっていう気持ちは……痛い程分かるから。

 おにいちゃんの誘いがMEMちょにとってどれだけ嬉しいか、どれだけ惹かれたかは、分からない筈がなかった。

 B小町として徐々に成長して人気が出てきてるのは、自分達の頑張りも大きい。

 人気が出てきたのに合わせて活動の仕方にも徐々に変化が起きてるのは事実。

 でもMEMちょが、夢だったアイドルになれた原点は、おにいちゃんのままだから。

 それを今日、確信した。

 アネモネさんに好きな人を聞かれてアワアワしてた先輩を助ける為に、MEMちょがおにいちゃんの背中を押した。

 その時に呟いた言葉。

 

 ――……かなちゃんにはきっと、アクたんが必要だからさ。

 

 その言葉で、ようやくMEMちょの気持ちが確信出来た。

 おにいちゃんに言う様でもあり、自分に言い聞かせている様でもあった声色。

 背中だったからおにいちゃんは見えてないけど、私にはちゃんと見えてたよ?

 その時の、MEMちょの顔。

 おにいちゃんの背中を押してるのに、何でそんな悲しそうな顔をしてるの……?

 先輩の背中を押してるのに、何でそんな苦しそうな顔をしてるの……?

 それって、おにいちゃんの事が好きだからだよね。

 諦めようって思っても、何回そう自分に言い聞かせても、諦められないくらい……おにいちゃんの事が好きなんだよね?

 私はMEMちょも大好き。

 優しいし明るいし、アイドルとして文句なしの可愛さもあるし。

 だからMEMちょにも絶対に幸せになって欲しい。

 誰かの為に動く、誰かを応援する、誰かの背中を押す、誰かの為に身を引く、誰かの為に諦める。

 それはもしかしたら、素晴らしい事なのかもしれない。

 優しさなのかもしれない。

 だけどさ……私達は、アイドルなんだ。

 協力するところはもちろん協力する。

 仲良くやっていくっていうのも、もちろん大切。

 ……だけどさ。

 だけど、その心にある本当は……自分が一番輝きたいって思いじゃないの?

 誰かを蹴落とすんじゃない。

 誰よりも正々堂々と輝いて、見る人の目を奪いたいんじゃないの?

 だから、私はMEMちょも応援する。

 先輩もきっとおにいちゃんの事が好きだろうから、先輩も応援する。

 だって、先輩の事も好きだから。

 役者からこうしてアイドルになってくれて。

 私達よりもずっと上手い歌、間違いのないダンス、そして輝いた時の存在感。

 口が悪い時もあるけど、私達の事を思って言ってくれてるって分かる時も多いから。

 事あるごとにおにいちゃんにちょっかいを出しては、勝ったって嬉しそうに喜んでる姿。

 あんな姿見せられたら、応援したくなっちゃうよ。

 今日の撮影で、ちょっと先輩の表情に違和感を感じたけど、多分大丈夫。

 だって一緒に外に出たおにいちゃんが、何も変わらずに先輩を見ていたから。

 だから、どっちも応援したい。

 どっちも頑張れって、応援したい。

 先輩も応援して、MEMちょも応援する――星野ルビーは欲張りなんだっ。

 どっちが結ばれるかは分からない。

 でも正々堂々と向き合えば、きっと悲しいだけの終わりにはならないだろうから。

 おにいちゃんと付き合って結婚して、幸せに暮らして欲しい。

 だから私は、二人の事を応援する。

 その決意に後悔は無いから。

 心配はしてないから。

 ……だって。

 その責任はおにいちゃんがきっと、何とかしてくれるハズ。

 だって、世界一のおにいちゃんなんだから。

 二人からの好意を何とか出来てこそ、世界一のおにいちゃんなんだから。

 だから――、

 

 

 おにいちゃんには、殺させない。

 

 

 何の後ろ暗さも無い状態で、幸せになって欲しいから。

 だから、私がやる。

 私が、殺してみせる。

 ママもおにいちゃんも、私が守ってみせる。

 おにいちゃんは昔、言ってくれたよね?

 ミヤコさんを驚かせた時の私を見て。

 演技力があるって。

 それに私は、アイ(ママ)の娘なんだから……。

 

 

 

 

 人殺しくらい、隠してみせる。

 

 

 

 

 そのくらい、完璧に隠して、笑顔で明るい幸せな……"アイドル(嘘吐き)"になってやる。

 だから私がやらなきゃない。

 おにいちゃんは独自で動いてるから、それを追い越さなきゃない。

 おにいちゃんよりも先に、父親を見つけなくてはいけない。

 そしておにいちゃんよりも先に、殺さなくてはいけない。

 でも今の私にはおにいちゃんみたいなコネは無い。

 ……だったら、作ればいい。

 おにいちゃんには出来ない方法で、作ればいい。

 私の輝きで目を奪い、コネにしてしまえばいい。

 だってアイの娘だもん。

 そんな事くらい簡単に出来なきゃ、星野ルビーじゃない。

 ママの幸せもおにいちゃんの幸せもMEMちょの幸せも先輩の幸せも全部欲しい。

 

 星野ルビーは欲張りなんだ。

 

 だからその幸せを隠し通して――嫌う事だってやってみせる。

 幸せを守る為に、それを隠し通して――愛を届けてあげる。

 隠し通して、本当の様に……愛してあげる。

 

 私の"()()()"な……父親(あなた)の事を。

 

 難しくない。

 やれば出来る事だから。

 だってその方法は、もう知ってる。

 アイ(ママ)が、教えてくれたもん。

 

 噓はとびきりの愛。

 

 だから、私も愛してみせるよ。

 あなたの事を。

 "キライ"を隠して隠し通して、愛して魅せる。

 (本当)はとびきりの(キライ)

 絶対に、やり遂げるから。

 どんな風に動くかは、何となく思い付いてきた。

 父親が、アイ(ママ)を選んだ理由。

 それはきっと、その人にとってアイが特別だったから。

 きっと、アイ(ママ)じゃなきゃダメだったんだと思う。

 ならさ。

 私が……アイ(ママ)になればいいよね?

 そしてアイ以上に、輝きを放てばいいんだよ。

 アイドルという枠組みだけじゃない。

 全てにおいて、アイ(ママ)になってそれより輝けば、"あなた"は絶対に……こっちを見てくれるよね?

 だから、アイドルとしてステージに立つだけじゃない。

 ユーチューブをするだけじゃない。

 色んな番組にも出て、テレビに出る様になって。

 誰からも、私がアイ(ママ)と同じだと、そしてそれ以上に輝いていると認識されなくちゃいけない。

 そうなったら"あなた"は、私の方が"特別"だって思うよね。

 そんな"あなた"を……私は()してあげる。

 私に出来る、一番簡単で、自信がある方法。

 明日のMV撮影からでも出来る方法。

 輝き(ウソ)に魅せられて寄ってきた"あなた(父親)"を――私が"()"す。

 これが私の"()し方"。

 

 

 アイ(ママ)よりも"あなた"の特別になって、その目を奪えばいい。

 

 

 そして、()に目が眩んだまま、本当(アイ)が分からずに死ねばいい。

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