"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第28話

 CM撮影が終わり、今日も今日とて事務所に居座っていた。

 夕方から移動でもう一件撮影が入っている。

 事務所内のソファーに座り、社員の人たちといつも通りくっちゃべる。

 話は専らあいの事ばかりであり、全くあいを追っていないのに、ガチファンばりにアイドルのあいについて現況が把握出来てしまっていた。

 そして今日も、

 

「昨日のB小町も最高だったなー!」

 

「やっぱアイしか勝たん!」

 

「はい、カズヤ君。今回新しく出てたグッズ」

 

 ファン(奴隷共)が推しについて熱く語り合っている。あ、グッズどーもです。

 彼らの熱量は冷めるどころか増す一方で、有休を使い果たすだけでなく、遂にはたまに休みを取ってライブに行く猛者にまで上り詰めてしまっていた。

 けれど、俺をファン代表で崇める気持ちはなくなってくれない。

 全く推し活してないんだから、いい加減分かってくれよとも思ってきた今日この頃。

 

「あ、そう言えばカズヤ君ってもう知ってるっけ?」

 

 全てはこの一言から始まった。

 

「何が?」

 

 彼は何故かニヤニヤとした表情をしている。うーん、殴りたいこの笑顔。

 

 

「今度飲料メーカーのCM――アイとブッキングするかもしれないらしいよ?」

 

 

「…………は?」

 

 彼の言葉が理解出来ず、呆然としてしまう。

 俺はこの時、決して呆けてはいけなかった。

 その間にファン(奴隷共)が動き出してしまった。

 

「マジかよ! それ絶対落とさせんなよ!」

 

「部長か!? 部長に言えば良いんだなッ?」

 

「あっ! ちょっ!」

 

 彼らの騒ぎで我に返ったが、上司へと走り出した男を止めるには間に合わなかった。

 奥で部長との会話が聞こえてくる。

 

「部長ッ!」

 

「おっ、おう、どうした?」

 

「カズヤ君とアイのブッキング、絶対に落とさないでくださいッ!」

 

「は? い、いや、それはスポンサーの意向に」

 

「これ落としたらカズヤ君、うち辞めちゃうかもしれないんですよ!?」

 

「なっ、なに!? それは本当かッ?」

 

「はいッ! 間違いなく!」

 

「な、なら、こうしちゃおられんッ! すぐに商談しなければ――」

 

 慌てた様子で鞄を持ち、事務所から走り出した部長。

 それを見やり、男はこちらへ向けて溢れんばかりの笑顔で親指を立ててくる。

 ……うーん、殺したいあの笑顔。

 人に殺意を覚えるという感覚を始めて知った。

 こちらに戻って来るや否や、仲間たちから肩を叩かれ盛大に歓迎される。

 

「よくやった! ファンとしてお前を誇りに思うよ!」

 

「お前の事、やる奴だと思ってたけど……立派に成長しやがって……!」

 

「へへっ、よせやい」

 

 男たちの友情が展開されている眼前を、ただ微妙な表情で見つめる事しか出来ない。

 ありがた迷惑って、こういう気分になるんだね……。

 心の中でさりなと雨宮先生に何度も土下座した。

 友情ごっこが終わり、再びテーブルを囲んで男たちが座り出す。

 

「いやー、これでカズヤ君にようやく恩を返せるってもんだよ」

 

「え、何にも恩売ってないけど」

 

「またまたあ、俺らにアイを語って教えてくれたじゃないか」

 

「いや、それは話題なくて」

 

「謙遜しなくていいよ。大丈夫、カズヤ君がこれまでライブに行けなくて一番苦しい思いをしてるのは皆知ってるから」

 

「別に行きたい訳じゃ」

 

「カズヤ君は」「俺たち」「アイの」

 

『ファン代表なんだから!』

 

 もしかしたらすげー良い事を言ってくれてるのかもしれない。

 だが何でこんなにも喜べないんだろう。

 ありがた迷惑、これに尽きる。

 彼らは悪い人じゃなく、寧ろすげー良い人たちばかり。

 だから悪意が一切ないのが更に質が悪い。

 こんな事なら、無理にでも彼女のファンじゃない事を前もって認識させておくべきだった。

 けれども、過ぎた時間は戻らない。覆水盆に返らずだ。

 優し気な笑みで見守られる三方向からの視線に耐えられず、思わず顔を逸らす。

 どうしてこんな事になったのか……。

 もう俺は、星野アイの視界に存在してはいけなかったのに。

 俺の存在を、彼女の中から完全に消したかったのに。

 悩めど悔やめど、時間ばかりが過ぎる。

 

 

 

 

 そして、星野アイとブッキングしたCM撮影日が来てしまった。

 

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