"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第29話

 憂鬱な気分のまま過ごしていれば、あっという間にその日が来てしまった。

 何か方法はないか、ワンチャン飛んでしまっても良いんじゃないか等色々考えたが、行動に移せず仕舞いで、当日を迎えた。

 

 だが、だが撮影場所に移動中の車内で俺に天啓が下った。

 昨日も複数撮影があり、そのせいで台本はまだ読めてなかったが、いつも通り単品だろうし最後に回してもらう。

 そしてそのギリギリに行けば良いんじゃないか、と。

 閃いた瞬間、あまりの天才的発見に思わず自分に酔いしれてしまった。

 急いで監督に電話し、到着が遅れるので撮影を最後に回してほしい旨を伝える。

 相手はいつもの彼なので、慣れた様に「あいよー」と軽い返事が来たのでガッツポーズ。

 これで彼女に会う確率は格段に低くなった。

 仮に会ったとしてもすぐに帰るだろうから、認識される心配もほとんどない。

 

 運転しているマネージャーに声をかけて、申し訳ないがどこかでギリギリまで時間を潰したい旨を伝える。

 理由を聞かれたので適当に「アイドルと会うとか緊張しちゃってNG連発しそうで怖いからさ」なんてありきたりな回答で誤魔化す。

 え、でも、なんて言ってくる彼に「いーのいーの」と受け流す事で、話を回避した。どうせ、事務所の皆がアイのファンだって言ってるから、会わなくていいのとか聞こうとしたんでしょ。

 喫茶店に入り、ギリギリになったら出ようと伝え、コーヒーを堪能する。

 目の前の席で、マネージャーである彼は何やらそわそわしている様だが、今日ばかりは気にしない。

 もしかして彼も密かにアイのファンだったのか? だったら申し訳ない事をした。

 だが我慢してくれ、俺の為に。

 

 

 何杯目か忘れたコーヒーを飲み干した頃「そろそろ時間だよ」と催促がかかった。

 それに頷き店を出る。

 車に乗り込み再度向かい出せば、若干の緊張感はまだあれど、カフェインの過剰摂取で大分リラックス出来ていた。

 然程時間はかからずに撮影場所へと到着。

 マネージャーと共に中に入れば、そこにはいつもの監督。

 演者っぽい人はどこにも見当たらなかった。

 そこでやっと緊張感が解け、一度盛大にため息。

 よし、これですげー気楽に出来る。

 

「おはようございます。遅くなって申し訳ありません」

 

 とりあえず監督に挨拶。

 俺に気付いた監督は、こちらを見ていつもの柔和な笑みを浮かべる。

 

「ああ、いいって。他のシーンは殆ど撮り終わったから、寧ろタイミングばっちり」

 

 彼の言葉に再び安堵。

 つまり俺以外の演者のシーンは全て撮り終えた様だ。

 

「台本はもう読んだ?」

 

「あ、時間がなくてまだちゃんと読めてなかったです」

 

 やべ、他の事にずっと気を取られてて読むのすっかり忘れてたわ。

 まあどうせ、いつも通り一言二言だろうからすぐに覚えられるか。

 

「今回のはちょっと、いつもよりセリフ量が多いから、早めに読み込んどきなよー」

 

 おろ、そうなの?

 まだ準備が残ってるから時間はあるからね、そう告げて監督は奥へと歩いて行った。

 あれま、いつもよりセリフが多いとは参ったな。

 そう考えながら背負っていたリュックを下し、中に入っている台本を探す。

 その時、後ろの方から声が聴こえてきた。

 

 

「おはようございますっ! 今日はよろしくお願いしますっ」

 

 

 その音に、心臓が大きく鼓動する。

 同時に、額から汗が垂れてきた。

 その声の主が、後方にいるスタッフに挨拶をする声が再び聞こえる。

 

 

「――B小町のアイですっ! よろしくお願いしますっ!」

 

 

 名前を聞けばもう誤魔化せない。

 何故。その言葉が頭を埋め尽くす。

 もう他の撮影は終わったんじゃないのか、残るは俺だけなはずじゃないのか。

 数多の疑問が脳に過っては、解決される事無く霧散していく。

 その中で一つの可能性が湧き出て、弾かれた様に手に取った台本を開く。

 そこでようやく答えが分かった。

 監督が言っていた様に、確かに今回はいつもよりセリフ量が多い。

 だって――。

 

 

 もう一人(星野アイ)との掛け合いなんだから。

 

 

 

 

「おはようございますっ!」

 

 

 

 

 同時に、俺のすぐ後ろから声が聴こえた。

 

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