"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」 作:あるミカンの上にアルミ缶
撮影の回が増すにつれて、出演者の仲も更に良くなってくる。
撮影自体は俺も楽しくやらせてもらっていた。
だが、問題が発生した。
事務所で社員の人が、テンション高く話しかけてきた。
「すごいよカズヤ君! 出てる番組毎回トレンド入りしてるじゃないか!」
「しかも人気ランキングでカズヤ君がずっと一位! 流石はファン代表!」
大喜びの社員が沢山。
喜んで頂けて何よりです。あと、ファン代表は関係ない。
対して俺は絶望していた。
な、何故こんな事に……!
最初は確かに、可愛い子たちがいっぱいではっちゃけたさ。
でもそこからちゃんと引こうとしたんだ。
だけど。
二回目の収録。
皆から離れた所でひっそりと本を読もうと思ってた。
特に興味が無い小説だが、名前だけ気に入ったので買ったやつ。
読もうと開きかければ、影が出来る。
出演者の女の子が覗き込んでいた。
「なにしてんのー?」
「いや、本読もうと」
カメラ密着。
「どういう本?」
「いや、まだ見てないから分かんない」
気付けばもう一人女子到着。
「あ、カズヤ君。ちょっと相談があるんだけど」
「カズヤ君と今話してたんだけど?」
「おねがいっ、ちょっとだけ!」
「……もー、しょうがないなあ」
「ありがとっ」
俺を置いて、俺の所有権について勝手に話が進む。
とりあえず相談には、大人として真剣に答えて上げた。
顔を赤らめられた。解せぬ。
テレビで放映されて、持っていた小説が爆発的ヒットした。
三回目の収録。
前回に負けじと、今日も今日とて本を読む。
全く興味のない、事務所の人に渡された小説。
表紙を開こうとすれば、声がかかる。
「カズヤ君! ヘルプヘルプ!」
どうやら男の子同士の喧嘩の様だ。
これぞ青春って感じで、非常に微笑ましい。
男ってこんなもんなので、別に眺めてても良いとは思ったが、女子たちの上目遣いに屈した。
仕方なく喧嘩の仲裁に入る。
「どーどー、落ち着きなさい。何で喧嘩してんのよ?」
「俺の方があの子に相応しいって言ったら、急にこいつがキレたんだよ」
「はあっ? 逆だろ!」
実に青春らしい理由だった。
「そんで、どっちが相応しいかで喧嘩してたと」
その言葉に両者頷いた。
まあ俺としてはどっちの気持ちも応援したいが、如何せん女子からの期待に応えてあげたい気持ちが上回る。男の子なもんで。
すまんな、ここは落ち着かせてもらうぞ。
「で、あの子は君らに喧嘩して欲しいって言ったの?」
視線を向ければ、他の子に支えられながら縮こまっている女子の姿。
「そ、それは……」
「……言われてねえけど」
両者、ばつが悪そうに顔を背けた。
小さくため息を吐く。
「まあ男の子だから、君らの気持ちは分かるけど……あの子を幸せにしたいって気持ちはある?」
そう訊ねれば、それぞれが力強く頷いた。うむ、良い目だ。
「なら君らが今する事は喧嘩? じゃなくてあの子が一緒に居たいって思って貰える様に理解して、理解されようと努力する事でしょ。今この喧嘩はあの子にとっては幸せじゃない、寧ろ不幸せにしてるんだからやめなさい」
俺の言葉に、互いにハッとした様にあの子を見た。
若さ故の過ち。気付いて直せば問題なし。
「男は皆バカなんだから、ごちゃごちゃ難しい事は考えず、ただ好きな子を幸せにする事だけ考えな!」
そう喝を入れれば、互いにぎこちないながらも謝り、二人してあの子の元へと駆け出した。
若いっていいねー、なんて考えながら元居た場所に戻る。
「さっすがカズヤ君! 頼りになるーっ」
「うんっ、カッコよかった!」
そんな黄色い声援の報酬を貰えたなら、出張った甲斐があったというもの。
前回からの定位置に座り、改めて本を開こうとすれば、目の前に人影が。
顔を上げれば、渦中の女子。
「……カズヤ君、ありがとう」
君が悪い訳じゃないのに、健気にお礼を言ってくれる姿に思わず笑みがこぼれる。
「君が幸せになれるなら、それが一番だからね」
そう言って顔を下げて読書に移ろうとすると「そ、それと」という声が続く。
「……す、すごく……カッコよかった」
顔を真っ赤にして走り去ってしまった。え、ちょ、やめてっ。
そしてそんな取れ高を、あの男が見逃すはずがなかったのだ。
その回が放映された時、トレンドには『カズヤお兄様』が入り、巷では「どーどー、落ち着きなさい」という言葉が流行ったらしい。お願い、やめて……。
回を増す毎に、まるで陰謀かの如く、俺の見せ場が増えていく事となった。