"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第40話

 番組も終盤に差し掛かり、そろそろ終わりが見え始めた今日この頃。

 視聴率も中々好調で、監督の顔は常にホクホク顔。

 事務所では毎回俺がトレンド入りし、認知度爆上がりになったので、従業員全員ホクホク顔。

 俺は、街で変装無しで出歩けなくなった事実を目の当たりにし、ドナドナ顔。

 星野ママごめん俺、有名人になっちゃったよ……迎えに行くの遅くなりそう……。

 心の中で謝罪を繰り返す日々である。

 

 あいはこないだ、アイドル活動を再開した。

 復活最初の仕事が音楽番組とは中々やりおる。

 俺だったらブランクが酷くて無理だわ。

 

 そんで、SNSとか連絡手段でしか使わず、トレンドとか社員の人に教えられなきゃ知らない俺。

 いつもの如く事務所で社員の人からあいトークをされている中で、バズっている動画を紹介された。

 それは、B小町のライブで、乳児二人が全力のオタ芸を披露しており、それをあいが笑顔で見ているというもの。

 ちょー可愛かった。

 だっこして頬っぺにすりすりしたくなる程愛らしい姿。

 そして、そこに映るあいの笑顔には間違いなく(あい)が現れていた。

 彼らの微笑ましい姿に社員さんたちと、何度も巻き戻して見直した。

 

 

 そんなこんなで、今日はオフなので家でゆっくりする予定である。

 変装しないと外に出られないし、別にそこまでして外出したい理由も無いから、独居老人の様に家に籠るんだ。

 やる事もないし寝て曜日として一日を過ごそうと思えば、スマホから通知音。

 誰かからメッセージが来たっぽい。

 通知を見れば『星野』の文字。

 最近忙しいのか連絡がなかったので、結構久々だった。

 アプリを開き、内容を確認する。

 そこには短い一文。

 

『今日休みでしょ? 今から行く』

 

 だから何で俺の予定知ってんの……?

 とりあえず返信。

 

『人気アイドルが男の部屋来ちゃダメでしょ』

 

 即既読。

 

『カズマには関係ない』

 

 いつぞやのやりとりかい。

 

『鍵は開けといて』

 

 人の話を聞きゃあしない子ね。

 こうなったら何を言っても無駄だ。

 

『あいよー』

 

 そう言って画面を消す。

 彼女が今どこに住んでんのか分からないが、流石に何時間もかかる距離ではないだろう。

 忘れない様に、先に玄関の鍵を開けておく。

 後は別にいつ来てもいい。

 ここ数年で一番良い買い物をしたと自負しているコーヒーメーカーを操作しながら、彼女の到着を待った。

 

 

 自家焙煎のコーヒーを飲みながら待つ事三〇分。

 玄関のドアが開く音がした。

 到着したらしい。

 珍しくドタドタと足音を鳴らしながら、ダイニングへと彼女は姿を現した。

 帽子、サングラス、マスクを外して俺を見る。

 彼女と会うのは約一年ぶり。

 以前見た時よりも、更に美しくなった様に思えた。

 しかしその表情は無。

 床を強く踏み鳴らしながら移動し、テーブルを挟んだ彼女の特等席の前に立つ。

 こちらを睨みつけながら、テーブルに両手を強く叩きつけた。

 その光景に、思わず身体が大きく震える。

 彼女は両手を振り下ろした態勢のまま、俺を凝視し続けた。

 

「……なにあれ」

 

 呟かれた不意の言葉。

 

「なにあれ」

 

 再び呟かれた言葉に、何故か既視感を感じた。

 俺が呆然とし答えられないでいると、彼女は鞄からスマホを取り出す。

 画面を点け、こちらに向けてきた。

 

「これ」

 

 恐る恐る画面を覗き込めば『カズヤお兄様の恋の行方は!? 彼を取り巻く恋愛模様が更に加速!』なんてタイトルの、俺が出演している作品のSNS公式アカウントが表示されていた。

 テキストの下には、俺が女子の頭を撫でている画像や俺の目の前で顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに微笑む女の子など、今までのシーンとみられる切り抜きが貼られている。

 ほーんこんな感じで宣伝してんのか、なんて呑気に考えた直後、ハッとした。

 

「い、いやっ、別に進んでやってる訳じゃないし!」

 

「関係ない」

 

「そ、それにっ、仕事だから!」

 

「関係ない」

 

 にべもなく、切り捨てられる。

 俺は何故弁明の様な事をしているんだろう、そんな事が脳裏を過るがすぐに消える。

 とにかく弁解しなければ、俺に未来はないんだから。

 

「他の子と遊ばないって誓ったよね?」

 

「いやっ、だからこれは仕事で」

 

「は?」

 

「い、いや、なんでも……」

 

 無表情の「は?」がとにかく怖い。

 

「それと」そう言って、スマホを操作する。

 

 改めて画面を向けてきた。

 

「なんで、頭撫でてんの?」

 

「そ、それは、その、ノリで」

 

「は?」

 

「いや、はい……ごめんなさい」

 

 謝罪の言葉を述べれば、すかさずスマホを操作しだした。

 画面をこちらに向けたまま、指をスワイプし拡大表示されている画像を切り替えていく。

 

「これも」

 

 俺が共演者の女子に笑いかけている画像。

 

「これもっ」

 

 また別の、俺が笑顔で女の子の頭を撫でている画像。

 

「これもッ!」女の子が俺に抱きついており、笑顔で見下ろしている画像。

 

 叫んだその表情は、明らかに俺への怒りに満ちていた。

 

「なんで笑ってるの?」

 

 不意の質問。

 

「……いや、収録だから」

 

「違うッ!」

 

 俺の言葉は彼女の声にかき消された。

 

「なんで本当に笑ってるのッ?」

 

 両の目から涙を流し、彼女はテーブルに崩れ落ちた。

 呆然と彼女を見やる事しか出来ない俺。

 頭に隠れて彼女の顔は見えないが、肩が何度も上下している光景に、まだ泣いている事が容易に想像ついた。

 だが未だに俺は、見ている事しか出来ない。

 彼女の嗚咽だけがしばらくの間、部屋に響き渡った。

 

 

 彼女の嗚咽が聴こえなくなった。

 部屋が静寂に包まれる。

 

「…………本当に笑わないで」

 

 テーブルに倒れたまま、不意に呟かれた言葉。

 顔は見えないので表情は伺えない。

 故に言葉の真意が分からない。

 

「……演技じゃない……本当の笑顔しないで」

 

 その言葉で、完全にではないが理解出来た。

 見せられた画像に映る俺。その笑顔は、確かに演じてない。

 楽しい現場だったから、何も考えず普通に笑っていた。

 だが、それを何故彼女に言われるかが分からない。

 

「……私以外に、本当に笑っちゃヤダ」

 

 独占欲。その言葉が浮かんだ。

 そしてそれに付随する感情が、脳裏に過る。

 本当の笑顔って無意識に出るから、これはかなり難易度の高い注文だ。

 ……だけど。

 

「分かったよ」

 

 俺は彼女に肯定する。

 彼女がそう言うのならば、俺はそうしよう。

 

「私以外頭撫でるのも禁止」

 

「うん」

 

 だが、何故こうなったのかが分からない。

 

「抱きつくのも、抱きつかせるのも禁止」

 

「あいよ」

 

 彼女(星野アイ)はいつから、

 

 

 

 

「好きになるのも、好きになられるのも禁止」

 

 

 

 

 ――俺に好意を抱いたんだろうか。

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