"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第41話

 部屋にまた、静寂が訪れる。

 あいはテーブルに突っ伏したまま。

 

 好きになるのも、好きになられるのも禁止、か。

 

 それまでの内容を鑑みれば、枕詞には恐らく"私以外を"が入るんだろう。

 ただの友人同士だったろ? ただの都合の良いお気に入りだっただけだろ?

 何故、彼女はここまで俺に好意を抱いているんだ。

 彼女の反応は確かに独占欲だろう。

 だが、明確に"同性への嫉妬"が多分に含まれていた。

 それは決して、ただお気に入りを取られたっていう人の反応じゃない。

 好きな人だからこその嫉妬、彼女の状態は正にそれであった。

 

 そしてそうなると、また別の問題が生じてくる。

 彼女自身がそれを自覚しているのかどうか、という問題。

 俺からは聞けない。

 だって「俺の事好きなの?」って聞いて、万が一「いや別に」なんて返ってくる事があったら、恥ずかしすぎて死にたくなる。

 故に、可能なら彼女には言葉を誘導して自覚があるか、俺の考えが正しいか確認したい。

 

 次の問題は、あいと一緒に暮らしていける気がしないという事。

 一番星である彼女だけでなく、主人公格のあの双子も一緒だ。

 そんな人物たちと一緒に暮らしていくなんて、俺には荷が重すぎる。

 登場しない人が主人公たちと何食わぬ顔で一緒に暮らすなんて、原作の修正力が絶対に許さない。

 よって、皆の為にも俺はギリギリ許されそうな星野ママと一緒になる方がいい。

 双子が自分の実の子だったなら、腹を括って彼女らと一緒に暮らした。

 常に怯え、警戒する日々になるだろうが、それでも道義は果たす。

 だが、あの子ら金髪だし、父親は絶対に違う。

 俺、あいと同じく黒っぽい地毛だし。

 ならば、完全に他人として居候感覚で彼らと一緒にいる勇気はない。

 自分の事というより、あいや双子たちに何か影響が出て欲しくないという意味で、彼らとは一緒にいられない。

 

 そして、他には星野ママの件。

 あいの『好きになるのも、好きになられるのも禁止』条例に同意した場合、それで星野ママと会って好きになって結婚とかなったら、物理的に彼女から殺される可能性がある。

 まあ、同意しなくても相手が相手なのでバレたら中々酷い展開にはなりそうだ。

 好きになる、好きになられる。

 現時点だけでなく、地味に未来の感情も潰しにきてるのが、中々に鬼畜だった。

 

「……ねえ」

 

 不意にかけられた声。

 気付けば少し顔を上げて、こちらを見ていた。

 垂れた髪の間から光るハイライトが絶妙に不気味である。

 陰影のせいか、普段よりも暗い色の輝きに見えてしまう。

 

「どうなの?」

 

 その体勢のまま再度問われる。怖い。

 彼女が聞きたいのは間違いなく、かの不平等条約を締結するかどうか、という事だろう。

 俺はあい以外の女性に対して好きになっちゃいけないし、好きになられてもいけない。あいは変わらず皆を愛する。

 まあ、愛と好きは別物でもあるから、単純比較は出来んが。

 とりあえず彼女には答えよう。

 

 

「好きにならないし、好きになられない様にするよ」

 

 

 どうせいくら考えたって、彼女に肯定以外の返事は出来ないんだから。

 

「……誰以外?」

 

 この子、前より随分と用心深くなってない?

 

「……あい以外だよ」

 

「なんか間があった」

 

「緊張しただけ」

 

「ふーん」

 

 怖い「ふーん」がきたが、とりあえず峠は越えたんじゃないかと思う。

 というか、こんな風に言わせるとか、やっぱこの子自覚してるんじゃね?

 けど、恥ずかしいとか以前に、今は怖くてこちらから何も聞けない。

 

「まっ、いいや」

 

 突如変わった声色に、意識を戻される。

 テーブルから勢い良く上体を起こし、彼女の指定席に座った。

 何だか分からんが、とりあえずホッとした。

 表情は先程までと打って変わり、笑顔に。

 やたらと上機嫌でスマホをいじっている。

 そして画面をこちらに向けてきた。

 

「可愛いでしょ、子どもたち」

 

 そこには仲良く隣り合って眠る双子の姿。

 そんな光景に、こちらも笑みが浮かぶ。

 先日見た、この子たちのオタ芸動画も思い出した。

 同意の言葉を返そうとすれば、何やら悩んだ表情のあい。

 

「本当の笑ってるっ……でも、子供たちだしっ……」

 

 えっ、実の子たちにも嫉妬してんの……?

 暫く唸った後、やがてため息を吐いた。

 

「……うん、しょうがない……しょうがないっ。子供たちには特別許すっ」

 

 多少ぎこちない笑顔でそう告げる。

 俺も大人げないが、この子も大概になりそうだな……。

 まあ見てる分には可愛いから良いんだけども。

 

「それでっ?」

 

 可愛いでしょ? 再び問いかけてきた内容に頷きを返す。

 

「ああ、かわい」

 

「あっ、待ってっ!」

 

 最後まで言わせてもらえずに、大声で遮られた。

 今度はどした?

 

「……先に言ってっ」

 

 スマホをテーブルに置き、佇まいを直す様に髪の毛を手櫛でとき、こちらに笑顔を向けた。

 ……先に何を言えと?

 一切のヒントが無く、ただただ混乱する。

 じれったいのか、笑顔が徐々になくなり、少しだけ怒り顔へ。

 

「…………先に、可愛いって言ってっ」

 

 その言葉に、思わず力が抜けそうになった。

 つまり彼女は、双子よりも先に、自分に可愛いと言って欲しいんだろう。

 どこまで親子で張り合う気なのか……。

 だが、いや待てよと考える。

 俺は今まで彼女に対して可愛いと言った事があるか?

 もしかしたら言ってるのかもしれないが、記憶にない。

 もし言ってないんだとすれば、彼女はそれを憶えていたのか。

 だがまあ、彼女に望まれりゃいくらでも言うよ。

 

「あいは可愛いよ」

 

 瞬間、彼女の頬が真っ赤に染まる。

 口をぱくぱくさせ、言葉を出そうとしているが、出てこない様子。

 目を瞑り、呼吸を落ち着かせている。

 ……これ、絶対感情の自覚してるよな?

 

「……もっかい言ってっ」

 

 上げられた声は、アンコールだった。

 

「あいは可愛い」

 

 またもや顔が赤くなった。

 なに、この可愛い生き物……。

 

「もっかいっ」余程気に入ったのか、再度のアンコール。

 

「もう終わりー」

 

「えーっ」

 

 ケチっ、そういって不貞腐れてしまった。

 せっかく手に入れた武器なんだ、大事に長く使いたいじゃないか。

 それに、まずは双子の子たちへの感想も言いたい。

 彼女のスマホを手に取り、改めてみる。

 

「うん、可愛いね」

 

 そう感想を述べれば、

 

「でしょっ?」

 

 豹変した様に目を輝かせて、笑顔で顔を近付けてきた。

 そして、上体を引いて腕組みしながらうんうん頷いている。

 

「やっぱ分かっちゃうかーカズマにはっ」

 

 やたらと嬉しそうな声色。

 確かに、我が子を褒められりゃ嬉しいか。

 そんな彼女を微笑ましく見つめつつ、思考は別の方へ。

 あいは俺の事を好きっぽい。

 けど、子供は普通に別の男性との子。

 何故俺をこんなに好きっぽくなっている? 双子にとって実の父、つまりあいの夫に関して、彼女はどんな感情を抱いているんだ?

 そして俺に抱く感情は明らかに、あいが夫に向けて抱くべき感情。

 ならば俺はそれをきちんと、彼女に教えて上げないといけない。

 俺に抱く感情は間違っている、幻想だと。

 そうすりゃ、それぞれが全て正常な感情の向きになるはず。

 

 その時、あいの言葉が聴こえた。

 

 

 

 

「だってカズマは――――この子たちの、お父さんだもんねっ」

 

 

 

 

 …………ファッ!?

 

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