"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第42話

 彼女の言葉に、思考が停止する。

 ――お父さん。

 その言葉だけが、俺の脳内に幾度となく現れては消える。

 お父さん……つまり、父親。

 そして彼女はなんて言った。

 ――あの子たちの。確かにそう言った。

 じゃあ、あの子たちは?

 まごう事無き、目の前で笑顔を浮かべる少女、星野アイの子ども。

 つまり、あの子たちの母親は、彼女に他ならない。

 考えが纏まらない思考。

 だが、彼女に言葉を返そうと、口を開く。

 

 

「…………なるほどなあ」

 

 

 結論、思考放棄した。

 ……とりあえず、彼女に聞こう。

 唯一決めた思いが、それだった。

 

「……あのさ」

 

「んっ?」

 

 にこにこと笑顔で見つめてくるあい。

 その姿に、何だかすげー心苦しさを感じながらも、次の言葉を届ける。

 

「……俺、あいとそういう事した記憶、ないんだけど」

 

 顔色を伺う様に、恐る恐る訊ねる。

 そう、まず疑問に思うのはそこだった。

 彼女と子どもを作る様な行為をした経験が、記憶をどう掘り起こしても、一切出てこない。

 いや、寧ろ彼女とそれをしているならば、俺の人生の中で一番強烈に残っていないとおかしい。

 つまり、あいと身体の関係になった事がない、という事に他ならないんだ。

 俺の言葉に、彼女は表情を変えて、きょとんとする。

 

「……あっ、そっか」

 

 やがて思い出した様に声を上げた。

 

「あの時、カズマ寝てたもんね」

 

 再び彼女は笑みを作った。

 そしてここから、まるで答え合わせかの様に真実が告げられる。

 

「一年ちょっと前くらいに、私がここに来た時憶えてる?」

 

 そう言われたので記憶を掘り起こせば、徐々に記憶が蘇ってくる。

 あれは確か、彼女に呼び出されて渋谷で待っている時に人生初の逆ナンをされた日。

 そしてすげー気まずいままに、俺の家までつれて来られたんだったな。

 そこまで思い返して、彼女に頷く。

 

「そこでさ、カズマ途中で寝ちゃったでしょ?」

 

 彼女の言葉で、続きの記憶が蘇ってきた。

 確かにあの時、気まずさで精神力がやられて、珍しく彼女がいる途中で眠った気がする。

 

「あれ、カズマの飲み物に睡眠薬入れたからなんだよね」

 

 驚愕のカミングアウト。

 

「……えっ、睡眠薬? いつ?」

 

 再び思考が停止し、漠然とした言葉を彼女に返す。

 睡眠薬? 何で? いつ入れたの?

 そんな言葉が脳内を埋め尽くす。

 

「途中でカズマがトイレに行ったじゃん?」

 

 その時にね。そう言葉が続いた。

 そう言われれば、気まずさに耐えられなくてトイレに逃げた様な気もするが、朧気過ぎて詳しく思い出せない。

 だが、俺が偶然トイレに行った際に、睡眠薬を俺の飲み物に入れたというのは分かった。

 彼女は笑みを深めた。

 

「あれ、カズマがここに居づらくなる様にわざとしたんだよねー」

 

 再びのカミングアウトに、身体が震えた。

 わざと、俺が席を外したくなる様に仕向けてた……?

 つまり、それまでの気まずさは演技であったのか。

 驚愕の真実に、背筋が凍りついた。

 そんな俺を見てか、あいは「あっ」と声を上げる。

 

「でもっ、女の子にデレデレしてたカズマにイラっとしたのはホント」

 

 笑顔のまま続けた。

 

「二度目はないからね?」

 

「あ、はい」

 

 同じ笑顔のまま。

 けれど彼女の言葉に何故か、震えが止まらなかった。

 

「それで……カズマが寝てる時に、アイちゃんはカズマと一つになったのであったっ」

 

 大人気アイドルとそんな事できて幸せものめっ、なんてウインクしてくる。

 カミングアウトが終わり、室内に静寂が訪れた。

 あいは笑顔のままこちらを見つめ、俺はただただ言葉が出ない。

 俺は、あいに襲われていた。

 その事実がようやく、自分の思考に入ってくる。

 そして、同時に楽観的な自分の考えが、別の思考を強くした。

 もしも、もしも彼女の言葉が本当とするならば。

 

 ――すっげえ見たかったッ!

 

 その考えが脳内を埋め尽くす。

 だってこんな美少女が、自分に対して乱れる姿を見せるんだぜ? 絶対に見たいに決まってる! 何で睡眠薬なんだよッ、逃げられない様にするとか、そういうのだったら別に睡眠薬じゃなくて、まだ意識がある痺れ薬とかだって良かったじゃん!

 悔しさに脳内で叫びを上げる。

 だがそう思うのは結局、まだ現実味が無いから。

 俺があいと、そういう行為をして子どもが生まれたという実感がないから。

 故に聞く。

 

「……でも、あの子たちは何で金髪なの?」

 

 俺の言葉に彼女は「んー」と唸る。

 

「なんでだろっ?」

 

 明るく、そう言いのけた彼女を見て、小さくため息を吐いた。

 なんでだろって、結構気にする内容だろ普通。

 ……だけど。

 

「なんでだろーなー」

 

 俺が出来るのは、彼女の言葉に乗る事だけ。

 今までの彼女の言葉が、本当なのか嘘なのかは、俺には分からない。

 だから、肯定するか乗るしか出来ない。

 それが、にわかである俺が唯一出来る事。

 現実味は今のところ、全くない。

 けれど、一旦は肯定するしかないのだ。

 

「てか……何で今になって、それを俺に?」

 

 一旦肯定して、次に浮かんだ疑問を口にした。

 そう、彼女は何故今になって、俺に認知を求めてきたのか。

 隠してやったとしても、俺にこれを伝えるタイミングは、今までにもあったはず。

 例えば、妊娠している事が分かった時。

 双子を出産した時。

 俺に伝えるべきターニングポイントは絶対にあったはずだ。

 なのに何故、今なのか。

 そして、俺は識っていたので、自然とそのまま会話してしまったが、良く考えれば彼女から子どもの事を打ち明けてきた。

 普通ならばこの年齢で子どもが生まれ、それを、そういった行為をした記憶がない人に父親認知させるのは、非常に難しいはずだ。

 しかも子どもの目の色や髪の色が違うであったり、自分の子と認識出来る要素もない。

 そして彼女は別に、子どもたちの髪を染めたといった様な嘘もつかなかった。

 故に、普通ならこんなタイミングでカミングアウトをしてきた所で、認知されず拒絶されるのが関の山だろう。

 だからこそ、何故今、この事実を俺に言ってきたのかが、全く分からなかった。

 だが。

 そんな俺の心境とは裏腹に、彼女は笑顔浮かべる。

 

 

「だってカズマは、本当の私を分かってる人だから」

 

 

 その言葉と表情にただ、見惚れる事しか出来なかった。

 

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