"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第4話

 完璧で究極のアイドルがこの世界から姿を消した。

 それは一瞬の事で、まるで幻の様。

 しかし少しずつ暖かくなってきている春風が頬に当たる感触で、否応なくこれが現実だと引き戻させる。

 

 星野アイは先ほどと変わらず笑顔を浮かべていた。

 確かに可愛い女の子である。

 確かに相も変わらずアイドル(噓吐き)様の様である。

 

 しかしこれは。

 俺の視界に映る可憐な少女はどうしても、嘘吐き(アイドル)にしか見えなかった。

 

 彼女の姿に対して、一転して正反対の印象を覚えた。

 他の人にはどう見えるのか分からないが、俺には全く違う顔に見える。

 可憐に無駄なく、寸分の狂いなく綺麗な笑顔。

 だがそれは、どうしてか怯えている様に感じた。

 具体的にどういった違いとしてそう思ったのか考えてみれば、自然と対比となる単語が浮かんでくる。

 

 それは"攻撃"と"防御"。

 

 今まで浮かべていた笑顔は攻撃であり、今浮かべている笑顔は防御だと考えると、妙に腑に落ちた。

 故に今の彼女を見ても決して一番星でも完璧でも究極でもなく、ましてやアイドルなんて輝いた存在だと思える訳がなく、ただ一人のか弱く儚いただの一般人(星野アイ)がそこにいるだけだった。

 

 原作の漫画もアニメも何も見ていないにわかのクソヤローではあるが、作品を自己解釈する上で少しばかり気になっていた事がある。

 星野アイが所属する事務所の佐藤社長だかが、『推しの子』の二次創作を見ているとほぼ全ての作品で彼女に向け怒鳴っているシーンがある。

 つまり原作でもそうなんだろう。

 星野アイは幼少期に虐待を受けていた。

 普通に考えれば暴力は勿論の事、自身に向けられる怒鳴り声だって、言わばトラウマとなるのが通例ではないだろうか?

 しかし彼女はその社長から受ける怒鳴り声に対して特段反応を示していない様に見受けられる。

 それは何故なのかが少しだけ気になっていた。

 

 だがたった今、このくそったれな俺によってその理由が分かったかもしれない。

 星野アイの嘘は何も彼女をより輝かせる為の武器だけでなく、もしかしたら自分を護る為の防具にもなっていたのではないか。

 怒られた時、怒鳴られた時の最適解を見つけモノにし、それを考えるまでもなく演じる。

 それが息を吸う様に出来てしまう人であり、他人に認知させない人だからこそ星野アイは星野アイたれた。

 もちろん怒鳴られても平気な人に信頼やらもあったのかもしれない。

 逆に彼女自身からここは怒らせると判断し、怒らせる様に行動していたのかもしれない。

 原作もアニメも、所謂正しい解を観ていない俺には、星野アイに対する正解となる印象は持ち得ない。

 

 外では愛される為の攻撃として嘘を使い、家では自分の身を護る為の嘘をつく。

 それが彼女の生存戦略であり、処世術なのではないか。

 魅せる笑顔(ウソ)と伺う笑顔(ウソ)。そりゃあ違う認識を持つ訳だ。

 

 虐待を受けていたりすると、虐待行為と同じ動作をすると記憶がフラッシュバックし、無意識に防衛本能が働くと聞いた事がある。

 故に、頭を撫でようと思って頭に向かって腕を上げても、彼女はそう受け取らない。

 それは単純に、頭を撫でられるよりもその動作から自分に暴力が振るわれるといった記憶が、彼女の中には存在しているから。

 もしかしたら一度も頭を撫でてもらった事が無いという可能性だってある。

 

 即ち彼女は頭を撫でようとした俺の動作から瞬時に防衛本能が働き、笑みのニュアンスを媚びや取り繕いといったものへと変えた。

 表面的には何ら差異は無いが、本質といった部分でその違いが俺の方で理解出来たのかもしれない。

 まるで内心を読める様なスキルは前世で無かったと思うが、これは転生特典として何かしら手に入れたんだろうか……? まあ、今はどうでもいいか。

 そもそもこの解釈自体間違っている可能性だってあるんだから。

 けれども自分の中で、今のところ他に解釈が存在しないならば、この解釈を自分なりの正として考えるしかない。

 

 彼女は今、俺から暴力を受けないか不安で怯えている。

 変わらぬ笑みで俺を見つめる少女を見ながら、思った。

 

 

 

 ――どんなに完璧で究極のアイドル(嘘吐き)でも、例え最強で無敵の一番星(星野アイ)でも……巨大に燦燦と煌めく偽りの輝きのその中にある嘘じゃない気持ち(本心)は、これのすぐ近くなんじゃないかって思ってしまう。

 

 

 

 少女は願う。

 本当の愛を知りたいと。

 故に偽りの(アイ)を叫び続ける。いつかそれが嘘じゃなく本当のアイ()になると信じて。

 アイでは愛を知れないから、アイではなく愛になりたいと。

 嘘の愛を言い続ける事で、本当のアイが愛によって消えていく。

 いや、愛されないアイ(本当)の部分を無くし、愛される()に変えていくのだろう。

 やがて愛されないアイ(本当)が自分の中から完全に無くなれば、残るのは絶対に愛される()のみ。

 本当の"アイ"がいなくなれば、口に出す「愛してる」は嘘じゃなくなる。

 だって嘘なのか考える事がなければ、それは本心でしかないのだから。

 

 

 口に出す「愛してる」を本心にする為には、嘘をつき続けるしかない。

 故に、他人から見える"愛"が口にする「愛してる」を疑問に思う心のアイを消し、心から"愛"となる。

 やがて至るのだろう「嘘はとびきりの愛」という一つの真実に。

 

 

 それと確か主題歌は『アイドル』だったけ? 友達がカラオケで歌ってた。

 流れる歌詞を見ながら、思った事がある。

 その時は『推しの子』の事なんか知らなかったから、リズムに乗りながらボーっと歌詞を眺めてた。

 ……ここが"アイ"か、そんでここは"愛"なんだ。

 そんな事を考えながら聴いていると、後半に行くにつれて段々と"アイ"が少なくなり"愛"が多くなった様に感じたのは憶えてる。

 まあこれに関しては、それ以降歌詞を見たりしていなから正確では無いかもしれないけど。

 それにメロディーあって歌詞があって、全く関係無い可能性だって十分高いと思う。そもそも他の歌詞ほとんど憶えてねーし。

 

 けど、『推しの子』について調べれば調べる程、何となくあの歌が頭に残る様になった。

 

 

 そんな事よりまずは現実をどうにかせねば。

 今まで見てきていたこの子は"愛"、今ここで見せているこの子が"アイ"。

 将来、今ここにいる"アイ"を消させる訳にはいかない。

 彼女の本質を理解し続けるには魅せる表の姿()だけでなく、不安や悩みといった裏の姿(アイ)もずっといなければならない。

 そもそも俺の分析が合っているのか分からんから、これが正解であるのかは分からない。

 でもそれでいい。にわかに真実なんて分からんのだから。

 誰もが、彼女の"()"を見ればその人の中から彼女の(アイ)は存在しなくなる。

 

 表だけで裏が全く存在しないという人がいるのなら、それはもう人間ではなくただの機械(AI)だ。

 

 けど星野アイが求めるのは愛を理解したいという(人間)なんだろ?

 心があるから悩める。気持ちがあるから考えられる。

 愛とは英語でLOVE。決して機械と同義語ではない。

 関わってしまった以上、そんな彼女(AI)にならせたくない。

 

 ……ああ、これは正しく俺のエゴであり、ただの欲張り。

 だが君も欲張りなんだろ?

 

 

 だから"本物"になれない"にわか"である俺が、()奴隷(ファン)にも(アイ)家族(愛する人)にもなれない俺が。

 この俺(他推しの人間)くらいは、中途半端だからこそ彼女の"アイ"と"愛"をしっかりと見届けよう。

 

 

 

 

 ――――これがにわかなりの究極の"あい"ってね……なんも上手くねーや。

 

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