"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第49話

 ふと目が覚め、時間を確認するとまだ早朝だった。

 今日はドームライブだし、緊張しちゃってたのかな……?

 そんなまるで他人事の様に自分の状態を考え、眠気が覚めてしまったのでもう起きようと上体を起こす。

 起き上がって横を見れば、可愛い寝顔を晒している二人の我が子の姿。

 二人の寝顔を見ているだけで、何だか暖かい気持ちになる。

 今日のドームライブも頑張れそう、そう思ってしまう程に彼らを見ていると元気が湧いてきた。

 ……この子たちにはまだ、愛してるってちゃんと言えてない。

 自分の中で、これが本当の愛なのか、確証が持ててないから。

 いつかちゃんと、心から愛してるって言ってあげたい。

 ……最近は何となく愛について分かってきたから、もうちょっとだけ待っててね。

 心の中で呟き、そっと立ち上がった。

 

 私はアイドルであり、母親でもある。

 どちらも完璧を目指して、アイドルとして完璧に子どもたちを隠してファンを愛し、母親としてこの子たちを不自由を感じさせることなく育ててあげたい。

 アイドルとしての幸せも、母親としての幸せも、女としての幸せも全部手に入れる。

 だって私は、欲張りなんだから。

 そう考えつつ、リビングに出て小さくため息。

 ……女としての幸せ。

 この点だけは、叶えられていなかった。

 その幸せは、いつの頃からか忘れたけど、世界中でただ一人に向けられていた。

 その人はずっと私の事を見てくれて、施設に出所した母親が迎えに来ず捨てられたと、他の人間を全て拒絶した時も、彼だけは変わらず私の事を見て、一緒にいてくれた。

 彼は私の思いを優先してくれて、絶対に離れないでいてくれる。

 彼に対する気持ちが強くなるのは、私がアイドルになってから。

 

 私が彼にやらかしてしまったのは過去に二回。

 一回目は、B小町のデビューライブを誘った時。

 彼が「仕事をするから行けないかもしれない」って言った時、初めて自分でもよく分からないくらい色んな感情が込み上げてきて、全て彼にぶつけて、そして嫌ってしまった。

 今から考えれば、あまりにも幼稚だし、バカなことをしたって思う。

 考えてみれば、その時アイドルとして私だって働いてたんだし、彼を批判する権利なんて一切なかった。

 なんか遠くに行っちゃうみたいに感じて、とにかく嫌だったっていう理由だけ。

 

 ここで別の事を思い出した。

 そう言えば、デビューライブの事で思い出したけど、そこに来てた男の子は今、どうしてるのかな……?

 デビューライブの時、少なかったけどお客さんはみんな拍手や声援を送ってくれたのに、歌が終わったら一人だけ、すぐに帰った子がいた。

 後ろ姿だけだったけど、他のお客さんとは違う、私くらいの年の男の子だったと思う。

 違うライブでもそんな男の子は見当たらなかった。

 もしかしたらつまんなくて、帰っちゃったのかな?

 ファンになってくれなかったのかな?

 その子が帰る光景が忘れられず、いつもライブをする時に、頭の片隅にそんな思いがあった。

 ……もし、今日のドームライブを観に来てくれたら嬉しいなぁ。

 その子にも、私がアイドルとして成長したってとこを見せてあげたい。

 この、B小町の集大成であるドームライブで。

 

 なんだか考えが逸れちゃったので、元に戻す。

 二回目の失敗は、四年近く前。

 彼に電話で、一方的に酷い事を言ってしまった。

 普通に考えれば、やっぱり彼は悪くない。

 だって私が一方的に、彼に対してあれをやっちゃダメ、これをしちゃダメって押し付けたんだから。

 彼に強く当たった後、いっつも一人で反省する。

 なんで、あんなこと言っちゃったんだろって……。

 でも、無理だった。

 彼を目の前にすると、どうしても、私は欲張りなんかじゃなくわがままになってしまう。

 彼が本当の笑顔を浮かべるのは、私だけがいい。

 彼が頭を撫でるのは、私だけがいい。

 彼が好きになるのは、好きになられるのは私だけがいい。

 どんなに自分を律しよう、他の人と同じく嘘で塗り固めようと思っても、彼に対してだけは無理だった。

 どうしても私が私を制御できなくなる。

 

 一番のきっかけは、彼と子どもを作る行為をしたあの日。

 渋谷で彼が女の子から声をかけられてて、すごいショックだったっていうのもある。

 けれど、最大の理由はそこじゃない。

 彼の家に行って、睡眠薬を飲ませた。

 本当は、そんな行為をするつもりはなくて、彼が憶えてない状態でそういう行為をしたって、嘘をついてこっちに気を向けてもらいたかっただけ。

 だけど彼が寝て、彼のスマホに位置情報送信のアプリを入れて送信先を私に設定する。これも一つの目的。

 でもそれが終わって、彼に他の女と怪しいやりとりがないかチェックしていた時に、見てしまった。

 

 私じゃない女の子が映っている写真が、大量にあるのを。

 

 私の写真がないのは仕方ない、会ってなかったから。

 けど、この女の写真は何?

 見たところ背景は病室っぽい、という事は入院患者なのか。

 歳的にはその時の私よりも若め。

 画像をどんどん切り替えていけば、一枚の写真で指が止まった。

 胸の前でハートマークを作る、私がアイドルとしてよくやるポーズ。

 それを行っている女の子。

 その後ろのテレビに、私が映っていた。

 よく分からない感情が胸の中で這いずり回り、ヘドロの様に思考を包み込む。

 他の写真も、あること自体許せないけど、その一枚は絶対に認める訳にはいかなかった。

 その女の子がポーズを決めて、その後ろのテレビで私が小さく映っている。

 それはまるで、彼にとって主役はこの子で、私が脇役と言われている様に感じて仕方なかった。

 今となっては、正常な思考じゃなかったのは理解出来る。

 けど、当時はそんな考えしか出来なかった。

 だから、フリじゃなくて本番にした。

 彼との子どもが出来れば、彼は絶対に離れない。

 だって家族になるんだから。

 普通は家族になったら、他の女のとこになんかいかないよね?

 私のお母さんは心が弱くて、男がいないとダメな人だった。

 だから私のことを捨てて、どこかの男に逃げた。

 あの母から生まれた私も、心が弱いんだと思う。

 彼はそんな私を、どんな私を見ても変わらずに一番近くにいてくれた。

 けれど、彼は違う。

 彼は強い人。そして優しい人。

 どんなに無茶なお願いをしても、笑って受け入れてくれる。

 だからたまに、私の気持ちが暴走しちゃうこともあるけど……。

 でもそんな私はきっと、彼がいないとダメになってしまうだろう。

 これが本当は何の気持ちなのか、まだはっきりしない。

 けれど、彼とは一緒にいたいと強く思っていた。

 だから既成事実を作って、彼が他にいけないように外堀から埋めた。

 妊娠してるのが分かってすぐに伝えようとしたけど、やめた。

 そして、アイドルとして活動再開してから、彼に伝えた。

 

 だって、アイドルとしての幸せ、母親としての幸せ、女としての幸せ、その全てがやっと手に入るタイミングだったから。

 

 ホントはいきなり押しかけないで、連絡を取り合って話しやすい雰囲気を作ってから言うつもりだった。

 だけど病院にいる時に……彼の出ている番組を見て、怒りに任せたせいでスマホが壊れて連絡が取れなくなってしまった。

 そして、子どもたちの事を伝えて彼も自分の子たちを可愛いって言ってくれたけど――。

 

 

 また、私の心の弱さのせいで、彼を嫌ってしまった。

 

 

 再びため息がこぼれる。

 今日に至るまで、何度も謝ろうと、関係を戻そうと思った。

 彼なら絶対にいつでも、私を受け入れてくれる。

 そんな彼の優しさに甘えて。

 けど、出来なかった。

 彼に甘えてしまって、また酷い事を言ってしまったらと思うと怖くて連絡出来なかった。

 会いに行く勇気もなかった。

 ――カズマは今、なにしてるのかな?

 彼の事を考えたせいか、連絡は取れずとも彼に触れたくなった。

 スマホを点けて、彼の位置情報を教えてくれるアプリを開く。

 連絡する勇気がなくても、たまにこれで彼の位置情報を見る事で、彼に触れている感じがして嬉しかった。

 彼の現在地がマップ上に表示される。

 

「……えっ?」

 

 見間違いかと思い、何度も凝視する。

 何度見ても間違いない。

 心臓が高鳴り始めた。

 ……カズマがすぐ近くにいる。

 そう思うと、顔がやけに熱く感じてきた。

 彼の現在地は、うちのすぐ前だった。

 もしかして今日ライブだから、激励でもしに来てくれたのかな?

 彼にうちの住所を教えた記憶はない。そんな事は、頭には思い浮かばなかった。

 カズマの家に行く勇気は出ないけど、すぐ近くにいるなら彼の顔が見たい、彼の声が聴きたい。

 気付けば、帽子とサングラスをかけて、いつもの外出する格好になっていた。

 服は……オシャレな恰好したいけど、時間がもったいない。

 

「アイ……どこか出かけるの?」

 

 不意に聴こえた声。

 振り返れば、眠気まなこを擦りながら起床してきた可愛い息子、アクアの姿があった。

 その可愛らしさに思わず笑みが浮かぶ。

 

「アクア、ママちょっとお散歩してくるね?」

 

「……今日ライブなんだから、疲れないでよ?」

 

 四歳の子とは思えない真っ当な事を言われ「あはは……分かってるよっ」と返すしかない。

 ホントにうちの子は天才だ。

 アクアに手を振り、玄関を閉めて下に降りる。

 地上が近付く程に、胸の高鳴りが抑えられなくなってくる。

 もうすぐカズマに会える。

 そう思うだけで、とにかく嬉しくなった。

 なに話そっかなあ、久しぶり……はありきたりか、ならカッコよくなったはどうかな? うーん、なんかちょっと恥ずかしいかも。

 彼に会ったらどんな話題をしようか、考えるだけで次々と出てきて楽しい。

 ……あっ、なんだったら、せっかくだし子どもたちと顔合わせさせてもいいかもっ。

 父親がいて母親がいて、子どもがいる。

 そんなありきたりな光景。

 だが、望んだ光景がすぐ目の前にあるかもしれない。

 一階に降りて、気付けば足早になっていた。

 せっかくならカズマを驚かせてみよっかな?

 どんな反応するんだろう? 後ろからワッて声をかけたら、カズマも声を出して驚くのかな?

 新しいカズマの表情が見れるかも、そう思うと更に胸の鼓動が高鳴った。

 カズマはどこにいるのかなー。

 バレない様に建物に隠れて、道路を見た。

 

 

 けど、こんなカズマを、私は見たくなかった。

 

 

 

 

「お前をッ! お前を殺せば子供を作ってファンを裏切ったアイへの復讐になるんだッ!」

 

 

 そんな叫びを上げる男と、

 

 

 

 

 ――ナイフでお腹を刺される、カズマの姿なんて。

 

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