"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

64 / 182
第63話

 家族三人で、リビングで寛ぎながらテレビを見る。

 正に、一家団欒といった光景。

 今から、母さんが出るドラマの初回放送があり、それを皆で見る事になった。

 まあ仮に他の人が誰も観なかったとしても、俺は観る。

 何故なら母さん……アイが出演するなら、俺には観ないという選択肢はないのだから。

 このドラマの撮影が終わって夕方に帰ってきてから、母さんは何やらずっとスマホと睨めっこしている状態だ。

 常人には決して出せないであろう超速フリックを披露しながら、誰かとずっとやり取りをしているらしい。

 その指捌き、俺じゃなかったら見逃しちゃうね。

 

 そしてこのドラマには、なんとあのカズヤ君も出るというのだ。

 カズヤ君はほぼ毎日テレビで見ている。

 CMで見る機会が非常に多いが、バラエティーにドラマとテレビを点ければ何かしらでお目にかかっていた。

 さらさらとした黒髪、柔和なイケメンフェイス。

 昔俺をロリコンだシスコンだとからかってきた悪ガキの面影は、全くなかった。

 彼は今や巷で大人気の国民的俳優となっており、それは我が家でも例外ではない。

 母さんも妹のルビーも、カズヤ君が出ている番組がやっていると、割とリビングから離れずに居る。

 ルビーは割合じっと見ている事は多いが、母さんはスマホを弄りながら見ている事が殆どなので、どちらかと言えばルビーの方がカズヤ君を気に入ってる感じだ。

 

 そうこうしている内に、いよいよ母さんが出演するドラマの初回放送が始まった。

 今回母さんの役柄は、ヒロインの友人らしく、結構出番が多い様なのでファンとしては期待しかない。

 それは俺より前でテレビを見ているルビーも同じ気持ちだろう。

 まあ妹からすればそれに加え、気に入ってるカズヤ君が主役だから、このドラマに関してはもしかしたら俺以上に期待しているのかもしれん。

 じっと画面を見つめ、こちらに後頭部しか見せない妹に対して、そんな感想を抱いた。

 

 ……それにしても、母さんの高校生姿、可愛すぎるッ!

 いや待て、母さんのって言うと何だか自分でも妙に変な感じになるから、ここはファンとしてアイと呼ぶしかない。

 アイの制服姿……これは見惚れずにはいられない。

 彼女が演じる役は、どちらかというとアイとは正反対の性格と言ってもいいのかもしれない。

 自分から前に出る事はなく、相手を伺ってからようやく動き始める様な、あまり目立つのが得意じゃないタイプのキャラクターに思えた。

 アイはいつも笑顔で明るく、とびきりの嘘でとびきりの愛を皆に与える、一番星だ。

 けど、こんなタイプのキャラクターでも違和感なく演じられてしまう彼女の才能に、舌を巻くしかなかった。

 いつの間にかスマホから顔を離した母さんが、俺らに向かって話しかけてきた。

 

「どう? ママの演技すごいでしょっ?」

 

 自信家かわいい。

 

「うんっ! ママ以外の人の演技と存在感がミジンコレベルに思えちゃうもんっ!」

 

 すかさずアイ好きの厄介なアイドルオタク女、ルビーが反応した。

 全く、巻き添えでミジンコレベルと評されたカズヤ君が不憫でならない。

 アイはそんな娘の言葉に、にやりと笑う。

 

「やっぱり溢れ出る才能がここでも光ってしまったかっ」

 

 こまったこまった、なんて笑顔で言っている彼女の声を聞き、笑ってしまう。

 これがアイであり、どこまでもアイらしい姿だった。

 それを眺めてから妹に「母さんが出てるドラマ観てなくていいのか?」なんて言えば、ハッとした様に顔をテレビに戻した。

 アイは笑顔で再びスマホに目を落としたので俺もテレビへと視線を戻せば、夕方の教室で三人が集まっているシーン。

 カズヤ君にアイ、そしてヒロイン役の女優。

 

『ねえっ、せっかくだからさ、大人になってもずっと仲良しでいようねって、ここで宣言しようよっ』

 

 ヒロイン役の女優が明るい声で告げる。

 他の二人を明るく、元気な輝きで導くその姿は、どことなくアイに似てるなと思った。

 

『……アイカが言うんなら、しょうがないから参加してあげる』

 

 ヒロインの言葉に、目線を逸らしながらも了承する、アイ扮するチヒロ。

 やはりアイとは似ても似つかない言動だが、やはり彼女の演技は何の違和感もなかった。

 

『ほらっ、ユウキ君もっ』

 

 主人公に向かって明るく話しかけるヒロイン。

 その姿に、やはりこっちの方がアイっぽいと思う。

 アイの演技は全く違和感が無いが、それでもヒロインの方がはまり役なんじゃないかと思わざるを得ない。

 何故アイがこの役にキャスティングされたんだ、と漠然と思った。

 まあ、普段のアイとは違う姿が見れてファンとしては嬉しい限りでもあるんだが。

 カズヤ君の演技は自然で、おかしいと感じる部分は無い。

 だけれどヒロインの演技、それ以上にアイの演技で比べると、些か見劣りする様に感じてしまうのは俺が彼女のファンだからだろうか。

 

『いや、だって確証ないし』

 

 ヒロインに対してだらだらと反論を告げる彼を見ながら、そんな事を思った。

 そんな彼に対して、ヒロインが言う。

 

『ないからこそっ、宣言するのっ』

 

 二人を映していた映像が切り替わり、ヒロインのみが画面を占有する。

 彼女は笑顔で、言い放った。

 

 

『宣言して思い続けてれば、絶対に仲良しのままなんだからっ』

 

 

 この女優が果たして、アイを意識して役作りをしたのかは分からない。

 けれど、ヒロインとして視聴者の視界を独占するこの姿を見て、納得した。

 このヒロインは何となくアイっぽいと思った、その理由。

 何もこのヒロインだから、アイに似てる訳じゃない。

 ヒロインというのは、作品の中で光を放つ存在。

 例えライバルがいても、結局は一番になる。

 端から勝ちが決まっている運命の申し子。

 

 ――アイが一番星(ヒロイン)だから、ヒロイン(一番星)がアイだと思ってしまう。

 

 ……ま、俺はその横にいるアイの役の方が輝いてる様に見えるけど。

 そう思ってしまうのはファンの負け惜しみなんだろうか。

 けれど、アイは我々のヒロイン(アイドル)

 その思考が原点にして頂点。

 何せ俺らは、アイの輝きに目を奪われて彼女しか見えなくなってしまった奴隷(ファン)なのだから。

 

『三人は大人になってもずっと仲良しでいます』

 

 意識を戻せば、三人が揃って宣言を述べているシーン。

 その映像を眺めながら、思い浮かんでしまった光景に想いを馳せる。

 三人は大人になってもずっと仲良し。

 思い浮かんだのは、立場や年齢は違えど、前世の光景。

 俺とカズヤ君と……さりなちゃん。

 最初は俺とさりなちゃんだけだった。

 そこに、突然カズヤ君が現れた。

 

 ――B小町のデビューライブってどんな感じだったの!?

 ――B小町のデビューライブはねー、大体一〇人くらいしか観客がいなかったんだよね。

 ――へー! それくらいしかいなかったんだ! みんな見る目ないねっ!

 

 病室の黄色いソファーに座り、仲良く話をしている二人。

 それを端でパイプ椅子に腰かけながら眺める俺。

 たった一度しかなかった光景だが、今でもはっきりと憶えている。

 さりなちゃんも俺も、カズヤ君とは会わない間も連絡を取り、更に仲良くなった。

 そしてさりなちゃん、彼女の最期の日もカズヤ君は来てくれた。

 彼が持ってきた五〇万したという指輪。

 当時は思わず高すぎだろと言おうと思ったが、やめた。

 あれは彼なりのさりなちゃんへの愛。

 彼女に、そして俺に遠慮したんだろう、金という分かりにくい形でさりなちゃんへ愛を伝えた。

 カズヤ君はあの頃から役者をしていたが、それでも子役。

 ギャラが高い訳でも無く、五〇万という金額は彼にとって絶対に安い金額じゃないはず。

 あの頃からやけに大人びた思考をしていたカズヤ君の事だ、お金の価値について分からないはずがない。

 そして、言い方が悪くなるが、仮に彼がさりなちゃんと出会ったタイミングで彼女へそれを渡しても、そうと経たずにさりなちゃんは亡くなり、本当に短い間しか使われない捨て銭となる。

 けれども賢いはずの彼は一切の勿体ぶりも見せずに、さりなちゃんへとそれを渡した。

 

 故に、あれはカズヤ君からさりなちゃんへの愛。

 ――愛してますよ。どんな形であれね。

 彼が言っていた様に、そこに恋といった感情は恐らくなかったんだろう。

 カズヤ君はさりなちゃんに、俺と結婚しないってなったら結婚しようかと言っていた様だが、振られたらしい。

 さりなちゃんは俺の事を好きになっていたみたいだし、カズヤ君の事が嫌いとよく言っていた。

 それを承知した上で言っただろう彼のその言葉は、大人からすればよく子供が思い付くな、と感じてしまったものだ。

 どうすれば子供でそんな――先生以外にもさりなちゃんを見て愛してくれる人はいるんだよ、というメッセージを回りくどく言えるんだろうか。

 けれど、カズヤ君の存在は間違いなくさりなちゃんの生きる活力になっていた。

 嫌いとかダメダメな人とか口々で愚痴を言っていたが、携帯を持てなくなるその日まで、彼とのやり取りを欠かす事はほぼなかったんだから。

 さりなちゃんはさりなちゃんで聡明な部分はあったが、カズヤ君の方が一枚も二枚も上手。

 多分最後までさりなちゃんは、彼が言外に込めていた意味を理解は出来なかったのかもしれない。

 けれど、短くとも楽しかったあの日々は、俺にとっての宝物。

 だから、もしさりなちゃんが元気になって今も生きていたなら、カズヤ君と同じく二〇歳。

 三人で酒でも飲みながら、楽しく昔話で盛り上がれたんじゃないかと、ドラマのセリフを聞いて思ってしまった。

 ……まあ、俺も死んでしまったからさりなちゃんの事は言えないんだが。

 

 柄にもなく感傷に浸っていたが、テレビに意識を戻せば病院内の映像になっていた。

 そして、白衣を着た男性が歩く後ろ姿。

 展開的にはこれはカズヤ君なんだろう。

 今までの学生編は過去の話であると理解。

 歩いていた男性が立ち止まる。

 名前を呼ばれた彼は、カメラに向けて振り返った。

 羽織っている白衣の胸ポケットにネームプレートを掲げ、ワインレッドのスクラブをその中に着ている。

 細渕の眼鏡をかけ、その奥で幾分か冷めた目をしていた。

 予想通り、カズヤ君だった。

 けれど学生のシーンから年月が経った事を演じているのか、まるで別人の様な印象を持つ。

 そんな彼の姿に、やっぱりちゃんとした役者だなという感想を抱いた。

 

 

「――――んせ……?」

 

 

 不意に微かに耳に届いた音。

 何だ、と周りを見渡せどスマホと睨めっこを続けて超速フリックを披露し続ける母さんと、座った体勢から微動だにしない後頭部を見せ続ける妹。

 二人は何か声を出す様子もないので、結論気のせいかと判断。

 もしかしたら、珍しく感傷なんかに浸ってしまったせいかもしれない。

 テレビの中では、名前を呼ばれた主人公が、久しぶりにヒロインと再会したシーンが流れている。

 そしてそのままエンディングへと切り替わった。

 学生編でしか母さんが見れなくて残念だったが、それでも前世で医療関係にいたからかつい見入ってしまった。

 

 母さんもカズヤ君も出るし、また次回も楽しみだ。

 そんな感想を抱けた、ドラマの初回放送だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。