"にわか"は言う「だから『推しの子』だって言ってんだろ!」   作:あるミカンの上にアルミ缶

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第6話

 辛うじて残っている意識と理性を総動員し、彼女の顎が触れる左手に力を入れる。

 何とか指が動いた。

 ぎこちないながらに、彼女に猫撫でを再開する。

 彼女の表情が僅かに変わり、笑みが深まった。もちろんそれも表の姿(愛ちゃん)である。

 だがその姿のどこかが完璧ではない気がした。

 

「子猫のアイの飼い主さんは、撫でるのがとっても上手ですにゃー」

 

 気持ちよさそうに目を瞑ったままのあいちゃんを見ていて、ようやく少しは慣れてきたのか体の強張りが解れてきた。

 どうやら彼女に対して、無意識に緊張していたらしい。

 緊張が解れてくれば、合わせて口も軽くなってくる。

 

「ほいほい、それじゃあずっと撫でてあげないといけないなー」

 

「そうにゃ。ずっと撫でてくれないといけないにゃー」

 

 雑談の様に軽快に会話のキャッチボールが続く。

 道の真ん中で立ち止まり、片や顎を撫でてはもう片方が猫の真似をしながら喋る。

 第三者から見ればこれほどシュールな光景はないだろう。

 けれどもそんな事は気にならなかった。

 

 だがまずは、とりあえず言わせてくれ。

 

 ……そろそろ左手が疲れてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 猫撫でを終了しあいちゃんを送っていると、もう家が近いから大丈夫との事で、道端で別れを告げた。

 猫撫で後に歩き始めてから「――ってこういうのがいいんだ、分かっちゃったぞー」なんて微かに聴こえてきて、これぞ星野アイだと再認識。

 

 特に話題にはしていないが、別れ際で一つ大きな収穫。

 ここら辺に施設は無かったはずなので、あいちゃんは現在母親と一緒に暮らしていると確定した。

 

 星野ママの姿がワンチャン見れればなんて考えてはいたが、無理強いは怪我の元だ。

 特に自分自身以外に対しては驚異の察知力を発揮する究極の嘘発見器(星野アイ)がいるなら尚の事。

 何気無しに「家まで送るよ」といって言外があると感づかれる可能性も十二分に考えられる。

 

 それに主人公格の美少女の母親は総じて美人なのは統計学的にも明らかだろうから、見てはみたいが心配はしていないという事もある。

 ましてや主人公格を容易に突き抜ける程天才的なアイドル様の母親だぞ? 心配するだけ寧ろ失礼だろう。

 

 そんでもってようやく我が家に到着と。辺りは既に夕闇に染まりかけていた。

 玄関のドアを引いて中に入る。

 目の前には俺の視線を横切る様に歩いている人がいた。

 そう時間はかからずに、その人も俺に気が付いた。

 

 

「おや、お帰りなさい。カズヤ君」

 

 

「ただいま、おばちゃん」

 

 若干の他人行儀感は致し方ない。

 何せここは俺の家といっても。

 

 

「もうすぐご飯の時間で他の子供たちも待ってるよ」

 

 孤児が集まる施設なんだから。

 

 

 

 

 晩御飯を食べたら就寝時間までは、殆どの子たちは集まって話をしたり、テレビが置いてある部屋で大分古い家庭用ゲーム機で遊んだりしている。

 若干年上の人たちは勉強だろうか、食堂に長居する事無く自室へと戻っていく。

 前世は施設育ちではなく他の施設では分からんが、ここではこういった生活を送っている。

 他の子たちとの交流の為に一緒に遊ぶ事はあるが、基本的に俺は後者派だ。

 年齢的には食堂等でそのまま遊んでいる子供たちとあまり変わらない。

 唯一の違いは精神年齢だった。

 

 自室に戻り、やるのは記憶の回想。

 この世界に転生してしまった今、にわかだろうが『推しの子』の知識を持っているアドバンテージは無くしたくない。

 メモっても良いが、原作の修正力というものがもしかしたらあるかもしれないという点で考えると、これらの知識を現物で残すのはあまり気が進まなかった。

 そんな訳で今日も今日とて回想タイム。とは言っても昨日から始めた新しい趣味ではあるが。

 昨日あいちゃんという存在に巡り合わなければ絶対に思い出す事はなかった。

 そういや去年まであいちゃんの噂は学校で一切聞かなかった。

 俺が知らなかっただけか?

 それとも昨日からあいちゃん覚醒? まあ流石にそれはないか。

 

 そして回想タイムで大きく頭を悩ませてるのが二つ。

 一つ目は勿論、俺的この作品のクライマックスである、あいちゃん刺殺事件。

 それをどう止めるのか。

 これに関してはずっと考えてはいるが、いい案は出てこない。

 あいちゃんと同じ事務所で芸能活動でもする。これは無理。

 あんな簡単に芸能界という魔窟で色々やらかしながらも結果順風満帆っぽく登っていくなんて、瞳に星を宿した民族にしか行えない荒業よ。

 鏡で自分の顔を見る限りイケメン寄りではありそうだが、芸能界に入ってしまえば良くて中の下いければいい方でしょって感じ。

 そんな訳であいちゃんと一緒に芸能界デビュー作戦は白紙撤回。

 

 次の作戦はあいちゃんが所属する事務所に就職。

 事件が起こるのは確かあいちゃんが二〇歳ころだったはず、ドームライブの日って覚えてたから少しあやふやだが……。

 けどこの作戦には一つ大きな問題が。いや実際は二つだが。

 小事は、上手く就職出来たとてあいちゃんと一緒にいられる訳では無いから、そもそもあいちゃん家が教えてもらえない可能性も十二分にあるという事。

 大事は、原作通りいくならばあいちゃんはアイドルになってから母親に会いたくないだろうから、俺があいちゃんの近くにいるのはまずいし……。

 そりゃ俺の嫁ですし? 俺が事務所就職しちゃったら奥さんとして比較的近場に住まないといけない訳ですし?

 

 もう一個、一応案は考えてはいるけど……どうすっかなあ。

 

 という感じで一つ目の問題に頭を抱えている状態。

 そんでもう一個。これについても一つ目と同じくらい考え、現在進行形で迷っている事柄。

 

 

 

 

 

 ――――吾郎せんせーと天童寺さりなの関係について。

 

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